「震度5強の地震が発生。工場が一部倒壊し、取引先も軽微な被害。」
もし、こういった緊急事態が発生したら……。BCPを発動するかしないか、自社の基準ははっきりと定まっているでしょうか?
社内で策定したBCPがどれほど練り上げられたものであっても、BCP発動基準があいまいなままだと、経営陣も決断のタイミングを逃しかねません。ましてや各従業員はどう行動すべきか拠り所がなく、非常事態下で途方にくれることになります。
このように大事な意味を持つBCP発動基準について、今回は解説します。どのような場面でBCPを発動するかという点を中心に、対応体制についてもご紹介します。
BCP発動タイミングの鍵は【2つの条件】
「BCPの発動」とは、地震や台風といった緊急事態に直面したとき、自社のBCPをベースとして事業継続及び事業への影響を最小化するための対策をスタートさせることです。
「どういう状況になったらBCPを発動するか」は、次の2つの条件を満たしているかどうかで見極めましょう。
■会社の中核事業のボトルネックが何らかの影響を受けたこと
■早く対応しなければ、目標復旧時間内に中核事業を復旧させることができないこと
発生する災害が地震か火災、もしくはパンデミックかによっても、とるべき対応は異なります。
BCP発動の場面では、的確な判断を下す経営者のリーダーシップが問われるのです。
BCP発動の判断材料は、災害とその規模、被災しているボトルネックの種類。簡単にいえば「災害と被災状況に関する情報」が、BCP発動にあたって大事な役割を果たします。
そこで、今回は日本人にとって身近で、近い将来の発生が予見されている、地震を例にボトルネックの発見方法について考えます。中小企業庁は地震にあたり、震度が6弱以上か5強以下かで対応内容を変更。震度5強以下の場合は原則として軽微な被害と推定されるため、震度6以上の場合を中心にご説明します。
【震度6弱以上の地震が起きたら】全力を注ぐべき4つの作業
震度6弱以上の地震は、揺れの後、まず人命(従業員、顧客、家族)、建物、周辺状況の安全確認をとったうえで、BCP発動を考慮して、各企業は下記の4つの作業に全力を挙げます。
➀重要書類の保護
重要書類を、事業所内の安全な場所に移動するか、事業所外へ持ち出します。重要書類が損傷した場合は、あらかじめ別の場所に保管していた書類のコピーで対応します。
②被災状況の確認
中核事業の継続・復旧を検討するため、事業所内外の被害状況を確認します。まず建物の危険性の有無をチェック。BCP発動以降の指示拠点となる災害対策本部の確保も必要です。
また、生産機械の損傷状況を調べ、通信機器(一般電話、携帯電話、FAX、インターネット等)や情報システム(パソコンやソフトウェア)が使えるかどうかを確認します。ここで求められるのは、多角的かつ迅速な情報収集です。
③周辺地域の状況把握
ラジオ、インターネット、テレビ、電話問合せなどを活用し、交通機関の混乱状況や、ライフラインの停止状況を調べます。災害全体の概要を知ることが目的です。
④取引先の状況把握
地震の場合は、自分達に大きな損害が生じていなくても、他の地域で大きな被害が発生し、取引先が被災している可能性があります。その場合、間接的な影響が予想されるため、他の地域の状況も確認しなければなりません。
以上4点の情報をふまえ、BCPを発動するかどうかリーダーが決定します。BCP発動の基準は発災後約4時間、長くても6時間以内が目安。BCP発動時点では、すべての情報が確認できなかったり、情報の精度が低かったりする可能性もあるでしょう。しかし、あらゆる情報を把握したうえで判断しようとすると、発動が大幅に遅れタイミングを失してしまう恐れも……。
必要なのは、「中核事業の被災度の類推」。さまざまな情報の断片や周辺の災害状況などから総合的に判断し洞察することが求められます。
だからこそ、BCP発動に際しては、「だれが」、「何を」、「どのように調べ」、「対策を判断し決断するか」の役割分担が重要です。事前にチェックリストなどで定めておくと、非常事態下での現場での割り振りに苦労することなく、致命的な情報の抜け落ちを防げるのです。
チーム体制を整える
BCP発動後は、事業継続方針に従い、役割分担して復旧対策などを進めます。具体的には次の4分野に分かれ、足並みをそろえつつ、策定されているBCPをふまえ作業をすすめていくことになります。
まず、社内チームは機能ごとに編成しましょう。リーダー、チームリーダー、そしてメンバーで編成。チームリーダーへの指揮命令はリーダー(社長等)が行い、チーム内の指揮命令はチームリーダーが行うという体制が望まれます。また、このようなトップダウンの体制を有効に機能させるためには、いわゆる「社長の右腕」のような従業員がサブリーダーになることがポイントです。
(1)復旧対応機能
事業継続という目的の下、必要な資源の代替調達や早期復旧を担います。
例えば、建物修理の依頼、中核事業に係るボトルネック資源や供給品の調達が挙げられます。通常ルートからの調達が困難な場合、代替ルート(業者や搬送方法)により調達する臨機応変さも要求されます。
(2)外部対応機能
顧客及び協力会社といった関係者と、取引調整・取引復元を協議する役割です。
取引調整とは、顧客に対して今後の納品等の計画を説明し了解を得ることです。必要に応じて、協力会社や他社での一時的な代替生産等を調整したりします。また取引復元とは、自社や協力会社の事業資源が復旧した時点で、代替生産を引き上げ、顧客に被災前の取引に復元してもらうことを意味します。
(3)財務管理機能
中核事業の復旧を財務面からサポートする役割を担います。当面の運転資金を確保したうえで、さらに事業復旧のための資金を確保します。
必要に応じて、地方自治体等の制度による緊急貸付を受けることもあります。また財務診断結果から、建物や生産機械の修理費用など、復旧に必要な費用を見積もったうえで、損害保険や共済の支払いを受けたり、証券等資産を売却したりすることもあります。
(4)後方支援機能
従業員と事業継続について情報共有を行うとともに、従業員に対して可能な限り生活支援を行います。食事や日用品、仮住居の提供などが挙げられます。
BCP発動フローのまとめ
緊急事態が発生した場合のBCPの発動手順は次のとおりです。
最初に初動対応(緊急事態の種類ごとに違いあり)に全力を挙げます。ここでの最優先項目は、身体・生命の安全確保と二次災害防止対応です。次にBCP発動を決断するための情報収集を行います。
そして、顧客など関係各所へ被災状況を連絡。中核事業の継続方針を立案し、その実施体制を確立します。そのうえで、中核事業継続方針に基づいてチームを組織し、顧客・協力会社向け対策、従業員・事業資源対策、財務対策を併行して進めましょう。また、地域貢献活動も実施します。
まとめ
大地震、火事、水害、集団感染……。実際にBCPを発動する場面は、人間がパニック状態に陥りがちな、切羽詰まった状況であることが予想されます。そんな中にあってBCP発動基準は、従業員にとってその後の行動基準ともなります。だからこそ、前もって、自社のBCP発動基準を揺るぎない明確なものにして、従業員全体が周知することは重要です。
きちんと発動させるために、BCPの内容を充実させることに関心が向けられがち。ですが、そもそも発動基準自体があいまいでは、いざというときに対応が遅れ、せっかくのBCPが単なる紙資料で終わりかねません。もう一度、自社のBCP発動基準がしっかりしているか、実用的であるかを見直してみてはいかがでしょうか。