2018年6月18日の大阪北部地震は、平日の朝7時58分という通勤時間帯に生じました。
出勤途中だった会社員の多くが、出社すべきか自宅に引き返すべきかと迷い、結果的に長時間かけて出社する例が多く見られました。企業の安否確認や災害対策本部の立ち上げに時間がかかり、従業員への指示が遅れたことが原因です。
一方で、BCPや災害対策マニュアルに基づき帰宅や自宅勤務を指示する、といった冷静な対応をとった企業もありました。
災害などの非常時に企業の明暗を分けるのは、BCPの策定や安否確認サービスの導入など、平時にどれほど災害を意識した準備を行なっていたかどうか、だと言えるでしょう。
今回は、災害時に迅速な対応を取るために企業が普段行うべきことをご紹介いたします。
事業再開の要は社員の安否確認
2018年6月18日に発生した大阪北部地震では、社員との情報共有や安否確認が速やかにできた企業と、できなかった企業がありました。それぞれ、具体的な事例を見てみましょう。
田辺三菱製薬(株)は、帰宅困難者が多数発生した東日本大震災を機にBCPを策定していました。18日の地震の際には、大阪市中央区にある本社勤務の社員を含む全従業員に対し、出勤が難しい場合には自宅待機、出社済みの社員には電車の運行再開後に速やかに帰宅するように指示しました。「安全な帰宅が最優先」(幹部)との判断によるものでした。
兵庫県伊丹市のフェルトメーカーのフジコーは、BCPの策定を検討していましたが、震災前は「細かく決めない方が動きやすい」(担当者)と方針を定めていました。しかし、今回の震災の際に安否を確認できない社員が出たことから、連絡方法を含め具体的な計画を策定する方向性に変更したといいます。
また、総合素材メーカーのシキボウ(株)のように、計画を策定していたものの、今回のような通勤時の震災は想定外だったとする企業も現れました。
企業の対応は、BCPが策定済みだったかどうか、策定されていたとしても実際の災害時の安否確認方法に穴がなかったかによって、異なるものとなったことがわかります。
災害時に企業の身を守るBCPとは
帝国データバンクの調査によれば、2016年6月時点でBCP策定済みの企業は全体の15.5%にとどまっています。従業員の少ない企業ほど策定が遅れているのが特徴で、「従業員5人以下」と「1000人超」では10倍以上の開きが見られます。
策定の遅れの理由としてはノウハウ不足や時間、コストの負担が指摘されますが、BCPを策定するメリットは次のように多岐にわたります。
1.各社員が自分の取るべき行動を理解できる
社員1人ひとりが非常時に何をすべきかという役割を自覚するようになります。また、企業を守る経営者の姿勢を示すことで、従業員として信頼感や安心感が生まれます。
2.すみやかに営業を再開できる
BCPを策定する中で自社の業務フローが明らかになり、あらかじめ緊急時の行動計画を練ることができます。また、想定していなかった緊急事態が起こったとしても、自社のリスクを前もって把握していれば、臨機応変な対処が可能になります。
3.取引先からの信頼獲得につながる
BCPを策定して万全の準備を整えている大企業にとって、サプライヤーである中小企業の事業継続能力に不安があれば、それだけで自社のBCPの実効性が弱まり、リスクが高まります。逆に言えば、中小企業がBCPを策定することは、取引先からの信頼度の向上や競争力の強化につながります。
4.企業の社会的責任を果たし信用を増すことができる
従業員や顧客を守る経営者の姿勢を示すことで、顧客の安全確保、二次災害の防止、地域貢献など、企業の社会的な責任を果たし、ひいては企業に対する社会からの信用アップにつながります。
BCPと安否確認サービスを見直してみよう
リスク対策.comが実施した大阪北部地震に関するアンケートによれば、BCPが機能しなかった最大要因とされたのが「関係部門との情報共有の遅れ」でした。次いで「社員の防災意識の低さ」、3位が「そもそも今回の地震はBCPの発動対象ではない」、4位が「災害対策本部の設置の遅れ」、5位が「社員の安否確認の遅れ」となりました。
既にBCPを策定し、災害時の連絡手段を定めている企業であっても、今回の地震をきっかけにもう一度BCPや安否確認サービスを見直す必要性がうかがわれます。「形だけの企業防災」を脱するために、下記の見直しポイントをおさえましょう。
BCPの見直しポイント
リスクシナリオと復旧業務の優先順位の見直し
BCPというと地震を連想しがちですが、集中豪雨や新型インフルエンザ、取引先企業の被災によるサプライチェーンの停止など、事業中断の原因は多様化しています。リスクシナリオのパターンを改めて整理し、自社に必要な対応を検討することが重要です。
そのうえで、復旧する業務の優先順位の見直しを行います。施設・設備、従業員、情報システム、どれが不足するのかはリスクシナリオごとに異なります。限られたリソースを最も有効に配分できるように工夫しましょう。
訓練の積み重ね
BCPで決定した非常時の対応は、従業員へ周知徹底させることが大切です。避難や安否確認の訓練はもちろんのこと、その後の業務やサービスの再開、情報システムの復旧などの各行動においても、訓練を繰り返し実施し、手順を覚えることが重要です。トップが自ら参加する姿勢も必要です。
BCPを社内に浸透させるため、使いやすさの工夫
BCP関連の文書はボリュームが多く、なすべき対応が瞬間的に分からなかったという結果になりがちです。正式な文書とは別に、従業員が災害時にとるべき行動をすぐに理解できるよう、図解マニュアルを作成するといった工夫が必要となります。現場の社員向けに、緊急時の行動方針をカードサイズにまとめたものを携帯させることも有効です。
災害時の組織体制の再確認
従業員の安否確認、被災状況の確認、オフィスから避難する際の救助・救出・救急、行政機関、関係会社等の連絡など、非常時に企業が行うべき対応は多岐にわたります。誰がどんな作業にあたるのか定期的な見直しを行うことも重要です。
参考:BCPが機能しなかった要因トップ5
BCP 策定、企業の 15.5%にとどまる
中小企業庁「BCP(事業継続計画)とは」
シンプルBCP研究所「BCPのメリット・デメリット」
地震・災害マニュアルの作成方法
BCPの見直しにおけるポイント
安否確認サービスの見直しポイント
複数管理者による安否確認機能の必要性
複数の拠点を持つ企業には必須の機能です。子会社や各事業部に担当者を配置することで、緊急時にも子会社や部ごとに集計した安否状況を確認することができます。サービスによっては管理者数や組織階層数に制限がないものもあるので活用してみましょう。
管理者の負担軽減につながる自動送信・集計機能
非日常的な場面で利用するサービスだからこそ、なるべく送信や集計の手間は省きたいもの。安否確認の同時一斉メール配信機能、自動集計機能、再送信機能など、管理者の負担を軽減する機能を重視しましょう。
従業員の家族の安否確認機能の追加
家族の安全が確認できない従業員は、帰宅を望む傾向が強いことが、東日本大震災の経験で明らかになっています。従業員が無理な帰宅を試みて二次災害に巻き込まれないためにも、家族の安否確認ができることは重要なのです。
メッセージ機能
事業の復旧プロセスを検討するメンバー間で話し合いができる機能です。また、話し合いで決めた方針を、一斉送信によって全従業員に周知することができます。
【まとめ】
多くの労働者の通勤中に発生した大阪北部地震は、BCPや安否確認システムの見直しがどれほど大切かを企業に痛感させる災害だったといえます。
この機会に、BCPの策定と見直し、そして安否確認システムについて改めて検討してみてはいかがでしょう。