自然災害やパンデミックなど、企業を取り巻くリスクが多様化する現代において、オールハザード型BCPが注目を集めています。従来型のBCPとはどのような違いがあり、どのように策定を進めるべきなのでしょうか?
この記事では、BCP&BCMコンサルティングの代表であり、沖縄科学技術大学院大学や九州大学などでBCM(事業継続マネジメント)の策定や研修、リスク管理に携わってきた福岡 幸二氏が、オールハザード型BCPの概要から従来型BCPとの違い、そして具体的な策定ステップを解説します。オールハザード型BCPの導入を検討している方にとって、実践的な内容が満載ですので、ぜひ参考にしてください。
監修者:福岡 幸二(ふくおか こうじ)
BCP&BCMコンサルティング代表/元九州大学危機管理室 特任教授(博士)
神戸大学大学院海事科学研究科で博士号(海事科学)を取得。マンダリンオリエンタル東京、沖縄科学技術大学院大学、九州大学などで、地震や火災、津波などのリスクを含むBCM(事業継続マネジメント)の策定、研修、運用を指導してきた実績を持つ。
現在は、BCP&BCMコンサルティング代表として、大学や企業にカスタマイズされたBCM(事業継続マネジメント)およびSMS(安全管理システム)の構築を提供している。
国際海事機関(IMO)の分析官や事故調査官として国際的な活動も経験。著書に『Safer Seas: Systematic Accident Prevention』(2019年)があり、大学の実験室での事故防止策に関する論文をScientific Reports誌に発表するなど、危機管理と安全管理を専門とする実務家兼研究者である。
AI技術を活用した事故予測システムの開発にも取り組み、「事故のない安全な世界」の実現を目指している。
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目次
BCP(事業継続計画)とは
BCPとは、「Business Continuity Plan」の頭文字を取った言葉で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれています。
BCPの目的は自然災害やパンデミック、テロ攻撃といった緊急事態に陥った時に損害を最小限に抑えて、重要な事業を継続して早期復旧を図ることです。
BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。
従来型BCPとオールハザード型BCPの違い
従来型BCPは、個別の災害やリスクごとの原因や脅威を設定した上でどのように対応するかという視点で策定されてきました。
しかしながら、実際にBCPを策定している企業においては、新型コロナウイルスの感染拡大などの影響で既存のBCPがうまく機能したと言える企業は多くないようです。
すべての緊急事態の事象を想定することは現実的ではない、とも言えるかもしれません。
そこで、2021年2月の経団連からの提言においても推奨されているのがオールハザード型BCPへの転換です。
「オールハザード」とは、あらゆるリスクに耐えうるものであり、オールハザード型BCPでは、災害やリスクの違いに左右されずに事業を着実に継続していくことを目的としています。
オールハザード型BCP
2021年版 ものづくり白書では、次のように掲げられています。
人命保護のための初動や社内体制の構築に加えて、とりわけ、人員・設備が一部機能不全になったという「結果そのもの」に着目しつつ、係る状況下でも事業を継続するための「リソースベース」での想定を進めておくことが重要となる。
(引用:2021年版 ものづくり白書)
つまり、従来型BCPでは自然災害などの発生原因に対してどのように対応するかという視点でしたが、オールハザード型BCPでは、緊急事態によって人員が不足した、設備が破損した、サプライヤー企業のサービスが停止したなど、企業活動にあたって必要なリソースがどうなるかに着目することが求められます。
この視点だと、想定していなかった緊急事態においても対応が可能となります。
オールハザード型BCP策定のための5つのステップ
ステップ1・2は従来型BCPの策定手法と同様です。
ステップ3で具体的な被害想定をおかず、経営資源が何らかの理由で被害を受け、使用不可となった場合を前提に考えるのがオールハザード型BCPの特徴です。
新型コロナウイルス感染症で経験したパンデミック、大地震津波(震度6強又は7)、大水害のBCP策定に例えると、これら3事象の初動対応は異なります。しかし、初動対応後の復旧対応と工程はほぼ類似しています。経営資源(人、物、資金、IT、ライフラインなど)に大きな影響を受けるため、企業にとって最も重要な事業を中核事業又は非常時優先業務に選択し、これらの事業に限定された経営資源を効率的に配分して部分的復旧から完全な復旧までのプロセスに進むことになります。被害が甚大であるなど、企業にとって現地での復旧が困難な状況の際、代替施設での操業、分散拠点の活用、外部委託、場合によっては撤退、縮小など、経営資源が活用できないときの復旧戦略も含まれます。これらの復旧対応を策定するためには、通常のBCPを同様、事前に既存の経営資源について、ハザード調査、リスク分析、リスク対応などの作業を行う必要があります。
ステップ1:基本方針の策定
何を実現するためにBCPを策定するのか、対象とする事業の範囲や部署または企業をどこまでとするか、どの部署がBCP策定の推進役となるのかなど、目的、適用範囲、推進組織(プロジェクト編成)、対策本部と各班の体制、対策本部設置場所、対策本部メンバーや各班班長の代行順位、夜間・休日など非就業時の体制などを明確化します。
オールハザード型BCPの運用について簡潔に記述します。
つまり、
- 当該BCPは、経営資源に焦点を置いたBCPであり、各事象(パンデミック、大地震津波、大水害など)の初動対応は別途作成していること。
- 大地震津波発生時は、大地震津波の初動対応を対策本部及びその傘下の各対策班が各々割り当てられた役割を行うこと。
- 初動対応後の復旧対応は当該BCPに基づいて実行すること。
- また、当該BCPは、電気・ガス・水道などのライフラインが活用できるケースと、利用できないケースを掲載していることから、現地のライフライン運用状況に適したBCPを利用すること
などを明記します。
大地震津波・大水害はライフラインを破壊しますが、パンデミックは破壊しません。
ステップ2:中核事業、復旧優先事業の選定
事業停止の影響を多角的視点から分析し、緊急時でも継続させる業務や早期に復旧すべき重要業務の絞り込みをします。
中核事業の選定には、主観的手法を用いて、経営者がA事業が自社の生命線であることからA事業を中核事業に決定することもできます。
とはいえ、選定には客観的方法を用いることを勧めます。客観的なデータに基づく方法として、事業ごとに売上高、営業利益、利益率、競合他社の存在、サプライチェーンとの関連などを分析することによって、自社にとって最も重要であり、社会的に影響力のある事業を選択することができます。
中核事業は1つのみならず、複数選択することもできます。
中核事業の選定には、主観的手法を用いて、経営者がA事業が自社の生命線であることからA事業を中核事業に決定することもできます。
とはいえ、選定には客観的方法を用いることを勧めます。
客観的なデータに基づく方法として、事業ごとに以下の内容を分析することが挙げられます。
- 売上高
- 営業利益
- 利益率
- 競合他社の存在
- サプライチェーンとの関連
これらを分析することによって、自社にとって最も重要であり、社会的に影響力のある事業を選択することができます。
中核事業は1つのみならず、複数選択することもできます。
ステップ3:リスク分析
各々中核事業に対して、各事象の経営資源に対するハザード特定、リスク分析、リスク対応を行います。製品Aが中核事業に決定したとします。例えば、大地震発生時のハザード特定は、製品Aを製造する工場Aが、地震によってどのような影響を受けるかを客観的データを用いて算出します。リスク分析は、A工場の現在の耐震性などを考慮して行います。同分析で工場Aのリスクレベルが判明します。リスク分析の結果、課題が明確になり同ハザードに対してどのような対策(リスク対応)を講じるべきかが明らかになります。
すべての経営資源について、上記のプロセスを行うことで、既存の経営資源を用いれば中核事業をどの程度まで継続できるかなどが判明します。
上記は製造工場などの事業についての分析でしたが、企業の経営を支えるコーポレート部門についても同様に分析します。
各々中核事業に対して、各事象の経営資源に対するハザード特定、リスク分析、リスク対応を行います。
中核事業:製品A 事象:大地震発生時 の場合
- ハザード特定:製品Aを製造する工場Aが、地震によってどのような影響を受けるかを客観的データを用いて算出します。
- リスク分析:A工場の現在の耐震性などを考慮して行います。同分析で工場Aのリスクレベルが判明します。
- リスク対応:リスク分析の結果、課題が明確になり同ハザードに対してどのような対策(リスク対応)を講じるべきかが明らかになります。
すべての経営資源について、上記のプロセスを行うことで、既存の経営資源を用いれば中核事業をどの程度まで継続できるかなどが判明します。
上記は製造工場などの事業についての分析でしたが、企業の経営を支えるコーポレート部門についても同様に分析します。
ステップ4:事業継続戦略の決定
事業継続・早期復旧するために、経営資源の被害に応じて復旧や代替など多角的な視点で対応方針を決定します。経営資源戦略、事業戦略についても考え方を整理します。
ステップ3で行った分析の結果、現時点での目標復旧時間、不十分な経営資源がより明確になるとともに、現地での復旧の可否についてデータから明らかになります。復旧が困難・不可能である場合には、代替施設の利用、分散拠点の活用、本社機能移転、災害時協力協定を締結した他社での生産、外部委託、縮小や撤退などの経営戦略を検討します。
当分析は、現時点で企業が保有する経営資源や社会経済状況、地球環境に基づくものであり、レジリエントな企業を目標とするため、データで明らかになった問題点の解決手法を記述し、ロードマップを用いて経営資源の強化に努める必要があります。
ステップ3で行った分析の結果、現時点での目標復旧時間、不十分な経営資源がより明確になるとともに、現地での復旧の可否についてデータから明らかになります。復旧が困難・不可能である場合には、以下の経営戦略を検討します。
- 代替施設の利用
- 分散拠点の活用
- 本社機能移転
- 災害時協力協定を締結した他社での生産
- 外部委託
- 縮小や撤退 など
当分析は、現時点で企業が保有する経営資源や社会経済状況、地球環境に基づくものであり、レジリエントな企業を目標とするため、データで明らかになった問題点の解決手法を記述し、ロードマップを用いて経営資源の強化に努める必要があります。
ステップ5:BCPの策定
対応方針を実現するための具体策を、事前に実施すべき対策とリスクが顕在化した後の行動・復旧計画などに落とし込み、BCPを策定していきます。
リスク顕在時の初動対応など、リスク別に整理した方がよい内容については、リスク別のチェックシートを作成すると良いでしょう。
BCP策定の際に注意するべきこと
BCP策定が初めてで、設備がごく小規模な企業の場合、埋めていくだけで完成するBCPマニュアルを活用するのも効果的な方法のひとつです。簡易的なテンプレートを使用することで、基本的なBCPの枠組みを理解しながら進めることができるため、少ない負担で策定が進められます。
詳細については、こちらの記事をご覧ください。
一方で、設備が大規模・多数にわたる企業や、長期的なBCP運用を見据えている企業では、社員のみのプロジェクトで策定を進めようとすると、時間と労力が大きくかかることがあります。計画の精度や迅速な策定を考慮すると、実績ある専門家やコンサルタントの支援を活用することが望ましいです。
トヨクモの「BCP策定支援サービス(ライト版)」は、BCPコンサルタントの支援を受けながら最短1ヵ月でBCPを策定できるため、「業務が忙しく時間が取れない」「策定方法がよくわからない」といった課題を抱える企業にも適しています。通常、BCPコンサルティングの費用は数十〜数百万円が一般的ですが、トヨクモの「BCP策定支援サービス(ライト版)」では、最短1カ月150,000円(税別)というリーズナブルな価格でサービスをご提供しています。費用を抑えつつ効果的なBCP策定を実現したい企業の皆様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
まとめ
企業活動に必要なリソースの変動に注目した「オールハザード型BCP」を策定することで、従来型BCPでは対応が難しい「想定外の緊急事態」にも柔軟に対応できる可能性が広がります。既存のBCPを強化したい、あるいは幅広いリスクに対応したいと考えている企業の方にとって、オールハザード型BCPの導入は有効な選択肢となるでしょう。
ただし、オールハザード型に限らず、本格的なBCP策定には専門的な知識と経験が必要であり、社員のみで策定を進めるのは困難な場合もあります。トヨクモの「BCP策定支援サービス(ライト版)」では、経験豊富なBCPコンサルタントのサポートを受けながら、効果的なBCPを短期間で策定できます。
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監修者:福岡 幸二(ふくおか こうじ)
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神戸大学大学院海事科学研究科で博士号(海事科学)を取得。マンダリンオリエンタル東京、沖縄科学技術大学院大学、九州大学などで、地震や火災、津波などのリスクを含むBCM(事業継続マネジメント)の策定、研修、運用を指導してきた実績を持つ。
現在は、BCP&BCMコンサルティング代表として、大学や企業にカスタマイズされたBCM(事業継続マネジメント)およびSMS(安全管理システム)の構築を提供している。
国際海事機関(IMO)の分析官や事故調査官として国際的な活動も経験。著書に『Safer Seas: Systematic Accident Prevention』(2019年)があり、大学の実験室での事故防止策に関する論文をScientific Reports誌に発表するなど、危機管理と安全管理を専門とする実務家兼研究者である。
AI技術を活用した事故予測システムの開発にも取り組み、「事故のない安全な世界」の実現を目指している。
編集者:遠藤香大(えんどう こうだい)
トヨクモ株式会社 マーケティング本部に所属。2024年、トヨクモ株式会社に入社。『kintone連携サービス』のサポート業務を経て、現在はトヨクモが運営するメディア『みんなのBCP』運営メンバーとして編集・校正業務に携わる。海外での資源開発による災害・健康リスクや、企業のレピュテーションリスクに関する研究経験がある。本メディアでは労働安全衛生法の記事を中心に、BCPに関するさまざまな分野を担当。