自然災害や事故などの緊急事態が生じたとき、企業が生き残れるかどうかは事業の継続にかかっています。そのことから、BCP(事業継続計画、Business Continuity Plan)の重要性を認識している総務の方も多いことでしょう。
しかし、いざ社内でBCP策定の取り組みをしようと思っても、まずは何から行えばいいのか悩まれる方も多いはず。
そこで、BCPを策定するときにまず大切なBCP推進体制の整え方と、基本方針の考え方について詳しくご紹介します。基本方針は会社として事業継続に対する方向性や考え方を表すものです。しっかりと理解し、万全の体制でBCP策定に取り組みましょう。
【BCP基礎講座①】BCP推進体制を整える
まずは、BCPを策定するためのメンバーを選出しましょう。実は、総務や防災の担当者のみでBCPを策定してもあまり効果は期待できません。なぜなら、事故や自然災害などの有事の場合には、社内における各事業の担当者が、それぞれの役割に応じて有機的に行動しなければならないからです。
BCPプロジェクトを成功させる上で重要なのは、経営層がBCP策定に強い意欲を示し、強力な推進体制が組織されていること。継続的な情報収集を行うために、各部署から横断的なメンバーで構成しましょう。BCPは企業の経営に直結する重要な取り組みなので、プロジェクト・リーダーには企業経営層の役職者がついたほうが、より良いのではないでしょうか。
【BCP基礎講座②】基本方針を立てる
メンバーが揃ったら、まずはBCPの「基本方針」を定めましょう。基本方針とは、会社としての事業継続に対する方向性や考え方のことです。
次の2つのポイントについて整理した情報を元に基本方針を定めます。
①自社以外の利害関係者とどのような関係性を持つかを示す
BCPの策定は、供給責任や社会的責任など有事における自社の存在意義を示すことでもあります。防災は従業員の生命や会社の資産の保全が第一の目的ですが、BCPの場合、安全の観点に加えて、事業中断による自社経営の影響を極小化する目線も必要になります。
それだけではなく、「自社以外の利益関係者に悪影響を及ぼさないために」「利害関係者との協力関係を維持するには」といった他社目線も取り入れるのが望ましいとしています。
②自社の事業継続に対する態勢についての考え方を示す
BCPの取り組みは文書を作って終わりではありません。継続的に事業継続に取り組むという姿勢を保つことが重要です。定期的にBCPに関連する文書を見直しましょう。
このように、まずは自社の経営方針や事業戦略に照らし合わせて、社内外の利害関係者(取引先、株主、従業員等)や、社会一般からの自社の事業への要求・要請を整理することから始めます。
整理する際は「何のために BCP を策定するのか?」、「BCP を策定・運用することにどのような意味合いがあるのか?」をきちんと議論し、検討していきましょう。
そして整理した情報を元に、具体的に基本方針を決めていきます。
はじめてBCPを策定する中小企業の支援に向けて、中小企業庁が公開している「中小企業BCP策定運用指針」では、基本方針を考える上で大切な4つの要点を挙げています。中小企業の方はぜひ参考にしてみてください。
◯企業同士で助け合う
中小企業の間では、日常的に業務を分担したり、情報交換したりと助け合いの中で事業を行っています。緊急時のときは、同業者組合や取引企業同士、被害の少ない企業が困っている企業を助ける。そのことが結局は自社の事業継続にもつながります。
◯緊急時であっても商取引上のモラルを守る
商取引を行う上で、「協力会社への発注を維持する」「取引業者へきちんと支払いをする」「便乗値上げはしない」など、守るべきモラルがあります。災害が起きても、こうしたモラルが原則的に守られないと、企業の信用が失墜します。工場や店舗が直っても事業の復旧は望めません。
◯地域を大切にする
中小企業では、顧客や、経営者、従業員も地域住民の一人であることが多いでしょう。企業の事業継続とともに、企業の能力を活かして、被災者の救出や商品の提供等の地域貢献活動が望まれます。
◯公的支援制度を活用する
日本では中小企業向けに、公的金融機関による緊急時融資制度や特別相談窓口の開設などの各種支援制度が充実しています。
【参考】基本方針を公開している企業事例
最後に、どんな企業がどういった基本方針を考えているのか確認してみましょう。基本方針を公開している企業をいくつかご紹介します。
●川崎重工株式会社
基本方針については、箇条書きで4点紹介されています。
・従業員と家族の健康、生命を守る
・社会的責任を果たすため継続しなければならない業務の遂行
・当社グループの事業活動の正常化
・地域社会への責任と貢献
BCPは経営戦略そのものという、川崎重工株式会社。BCPは、阪神・淡路大震災、新型インフルエンザ、東日本大震災から得た学びをもとに見直しを実施。また、定期的に訓練も実施し、その結果を踏まえた刷新も行っています。
特に、鉄道車両や発電設備、航空機などを取り扱う川崎重工株式会社では、インフラ産業を担う企業として、社会的責任を果たすという方針を強く持っています。
●伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
この会社は、文章で基本方針を表しています。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社の事業継続計画のページでは、継続すべき重要なサービスを表明するとともに、地域との協調・連携についても書かれています。
「基本方針」を決定し、ホームページで公開すれば、企業がリスクに対する体制がしっかり整備されている企業であるアピールをすることもできます。
まとめ
基本方針とは、「災害や事故などの有事の際に、企業がどんな心構えを持っているか」に過ぎません。より強固な対策をとるために、具体的なリスクへの対応策や計画について、さらに詳細に詰める必要があります。
とはいえ、物事を始めるときは、最初の一歩を踏み出すことが大切です。基本方針を考えることは、BCP策定におけるゴールを設定することでもあります。まずはチームの体制を整えて、会社として事業継続に対する方向性や考え方をどうするか、しっかり話し合って決めましょう。
参考記事:
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