【専門家監修】BCPの策定事例・ポイントは?|業種別に解説
福岡 幸二(ふくおか こうじ)
近年、自然災害や感染症など、予測不可能な緊急事態に備えるため、事業継続計画(BCP)の重要性がますます注目されています。しかし、業界によってBCP策定の内容や取り組むべきポイントは異なるため、「どのように策定すればよいのか」と悩む企業も多いのではないでしょうか。
この記事では、BCP&BCMコンサルティングの代表であり、マンダリンオリエンタル東京、沖縄科学技術大学院大学や九州大学などでBCM(事業継続マネジメント)の構築と運用、安全管理とリスク管理に携わってきた福岡 幸二氏が、業種別のBCP策定事例や具体的な対策例を解説します。自社に合ったBCPを効率よく策定するためのヒントになれば幸いです。
目次
業種問わず押さえておきたいBCPの基本対策
BCPの策定においては、業種や企業規模、対象とする災害が異なっても、多くの場合共通して考慮すべき事項があります。以下に、共通するBCP対策をカテゴリごとに整理した表をご紹介します。
初動対応 | ・人命を守る行動 ・従業員の安否確認の方法 ・通信手段の確保 ・避難場所の図示 |
従業員対応 | ・交通網が破壊されたときの参集手段と対象従業員 ・非就業時 ・休日の対応 ・出社 ・帰宅の基準 |
業務計画 | ・各部署での非常時優先業務表の作成 ・目標復旧時間を含む会社の災害復旧工程表の作成 |
指揮命令系統 | ・対策本部と各班の構成図 ・各班のメンバーと役割表(ライフラインを含む災害情報収集、顧客・取引業者対応を含む) ・主な対策本部メンバーや各班班長の代行順位 ・対策本部会議設置と解散基準 |
ライフラインと備蓄 | ・停電時の電源確保手段(非常用発電機、太陽光発電装置など) ・食糧 ・非常用物資の備蓄基準 ・備蓄品配給の手順 |
災害対応 | ・火災時の対応手順 ・被災状況調査 |
ITとデータ | ・ITシステムとデータの復旧手順 |
サプライチェーン | ・サプライチェーンの業務中断時の代替手段 ・現地での事業復旧が困難な際の代替施設での事業継続手順 ・同業他社 ・組合との災害時協力協定を活用したリソース共有 |
本社機能の移転 | ・本社ビルが建物安全調査で危険と判断された場合の本社機能移転手順 ・自治体との防災協定項目の実行手順 |
業種別|企業におけるBCPの策定例
BCPは業種によって具体策が異なるため、策定する際は同業種を参考にするのがおすすめです。今回は、以下の業種の例を解説します。
- 製造業
- サービス業
- 卸売業・小売業
- 情報通信業
- 建設業
- 医療・福祉業
- 輸送業・郵便業
- 金融業
製造業編
製造業は緊急時に製造ラインが停止すると、事業に甚大な被害をもたらす可能性が高いです。そのため、緊急事態が発生したときも製造ラインを止めない方法を模索しつつ、停止した際の代替案を用意する必要があります。また、製造業は原材料の調達や製品の出荷といった数多くの工程があり、それぞれに対処法が必須と言えるでしょう。
製造業における具体的なBCP対策は、主に以下のとおりです。
- 原材料や部品の調達方法の多様化
- 原材料や部品の在庫確保
- 製造ラインの複数確保
- 製品出荷ルートの多様化
- 製造ラインの遠隔操作
- 情報システムのバックアップ
- 取引先の複数確保
なお、製造業は作業中に緊急事態が発生すると、従業員の人命に大きな影響をもたします。そのため、従業員の安全確保を最優先しながらBCPを策定しましょう。
製造業のBCP策定事例
金属加工を手掛ける南光では、各工場で異なる製品を製造しているため、1つのBCPで全体を管理するのが難しいという課題がありました。そこで、管理本部と6つの工場ごとに個別のBCPを策定し、それぞれの中核事業に応じた対策を構築しました。
その結果、取引先からの信頼度が向上しただけでなく、定期的な避難訓練や勉強会の実施によって、従業員満足度も向上しました。これにより、受注の拡大にもつながっています。
(参考:株式会社南光)
サービス業
サービス業はホテルのスタッフや飲食店など、幅広い職種が該当します。職種によってBCPの細かな内容は異なるものの、お客さまの身の安全も確保しなければいけないのが特徴です。具体的なBCP策定の一例は、以下のとおりです。
- 従業員やお客さまの安全確保
- お客さまの誘導
- 各種データのバックアップ
- 近隣の宿泊施設のピックアップ
- 宿泊料金などの取り扱い
勤務時間中に不測の事態が起こった場合、従業員がお客さまを安全な場所まで誘導する必要があります。いつ不測の事態が発生してもいいように、日頃から誘導場所を確認しておくと安心です。なお、従業員やお客様が自宅に帰れないときを想定した準備を行っておくと、スムーズに安全を確保できます。
卸売業・小売業
卸売業・小売業はBCPの必要性を感じにくく、策定そのものをあと回しにしている企業が多い傾向があります。しかしスーパーやコンビニなどの地域に密着した事業形態は、緊急時に必要とされるケースが多く、BCPの策定は欠かせないと言えるでしょう。実際、ヱトーでは取引先やその先の外注先などが影響を受けることを考慮して、BCPの策定に取り組んでいます。
卸売業・小売業における具体的なBCP対策は、主に以下のとおりです。
- 従業員の安全確保
- 店舗や倉庫などの耐震化
- 物流倉庫を複数設置
- オンラインを活用した販売方法の導入
- 顧客管理のシステム化
卸売業・小売業は他の企業と提携していたり、多店舗展開したりするケースが多いため、あらゆる事態を想定したBCPの策定が必要です。
情報通信業
一般的に情報通信業はお客さまに直接サービスを提供する事業であることが多いため、リモートを導入しているところは少なくありません。そのため、出社していない従業員に対する安全確保や安否確認も必要です。災害だけではなく、サイバー攻撃への対策も必須と言えるでしょう。
情報通信業における具体的なBCP対策は、主に以下のとおりです。
- 従業員の安否確認方法の確立
- データのバックアップ方法の構築
- データの復旧方法の策定
- システム停止時の代用案
災害時の対応とサイバー攻撃時の対策は異なる場合が多いです。BCPを策定する場合は、起こり得るリスクに合わせた対策を検討しましょう。
情報通信業のBCP策定事例
名刺管理サービスを提供するSansanでは、サイバー攻撃や不正アクセスへのリスクに対応するため、定期的に内部監査を実施し、リスクの把握と分析を行っています。この取り組みにより、リスクの未然防止や早期発見が可能となっています。
また、同社では緊急事態時の判断基準や対応手順をまとめたガイドラインを各部署で作成しています。想定されるリスクを洗い出し、対応の優先順位や意思決定者を明確にすることで、迅速かつ的確な対応を可能にしています。
(参考:Sansan株式会社)
建設業
建設業は災害をはじめとする緊急時に工事が停止すると、損失が大きくなりやすいです。また、災害復旧に携わる可能性があることから、迅速な初動が可能となる体制を構築しておくのが望ましいでしょう。
建設業における具体的なBCP対策は、主に以下のとおりです。
- 工事現場や資材置き場の防災対策
- 柔軟な工期管理
- 協力会社の関係構築
- 従業員の安全教育
- 工事現場の車両・重機・資機材などの安全な場所への移動
建設業は業務中に緊急事態が発生すると、従業員の人命に関わります。そのため、従業員の人命を最優先にしながら、今後の対策を講じる必要があります。
また、建設業は季節雇用の従業員がいるケースもあります。そのため、緊急時にそのとき在籍している従業員すべての安否確認を行うのが難しいでしょう。建設業の上田組では、誰でも操作しやすいトヨクモの『安否確認サービス2』を導入し、全員に漏れなく安否確認ができる体制を整えています。掲示板機能を利用し、普段から熱中症警報や作業時の注意なども全員に連絡しており、従業員の安全を守ることにつながっています。
医療・福祉業
医療・福祉業は治療を受けている方や高齢者、障害者など手厚い支援が必要な方との関わりが深い業界です。そのため、災害をはじめとする緊急時であっても、いち早く支援できる体制を整えておく必要があります。初動が遅くなると人命にも関わることから、BCPの策定は必須といえるでしょう。
医療・福祉業における具体的なBCP対策は、主に以下のとおりです。
- 非常用電源の準備
- 従業員および利用者の安否確認
- 栄養剤をはじめとする備蓄の準備
- 備蓄倉庫の確保
- 近隣施設や地域との連携
緊急時前より治療を受けている方は、迅速に避難することが難しいケースも多いです。そのような事態に備えた避難方法の策定なども考慮しておくといいでしょう。
輸送業・郵便業
輸送業・郵便業は緊急事態の発生によって平常時に使用しているトラックが使用できなくなったり、道路をはじめとするインフラの被災によって輸送機能が低下したりする恐れがあります。そのため、物流を止めない対策を講じておく必要があります。
輸送業・郵便業における具体的なBCP対策は、主に以下のとおりです。
- 輸送車両の現在位置の把握
- 交通インフラの情報収集手段の確保
- 輸送ドライバーとの連絡手段の確保
- 他の物流事業者との関係構築
- 代替輸送手段の確保
- 代替輸送ルートの確保
- 物流センターの代替施設の確保
輸送業・郵便業は輸送ドライバーが各自荷物を運んでいることから、緊急時に移動中の場合が多いです。そのため、どこに誰がいるかを瞬時に把握できる体制を整備しておき、ドライバーの安全を確保しましょう。
また、緊急時に稼働できる従業員の把握が、運送・郵便業では急務となります。たとえば、航空運輸の運搬業務に携わるインテックスでは、コロナ禍で感染により出勤できない従業員が多数出たことをきっかけに、早急にBCPを策定し、感染した従業員の安否をスムーズに確認できるシステムを導入しました。
平時からBCP策定や安否確認システムの導入をしておくことにより、緊急時に慌てず対応できるでしょう。
(参考:安否確認サービス2「株式会社インテックス様 活用事例」)
金融業編
金融業は資金や決済をはじめ、経済活動に欠かせない業界です。したがって、緊急事態の発生によって金融サービスが停止すると、多くの経済的混乱をもたらすことからBCPの策定が必須です。あらゆる緊急事態を想定したうえで、対策を考えておきましょう。
金融業における具体的なBCP対策は、主に以下のとおりです。
- 金融機関や各所にあるATMなどの防災対策
- オンラインサービスの充実
- 金融システムの強化
- 現金の確保
昨今の金融業界はオンラインサービスが充実しています。しかし、そこに注力しすぎるとITシステムが機能しなくなったときに経済的な混乱を起こしやすいです。ITシステムが使えないときの対処法も準備しておき、影響を最小限に抑えられる対策を考えておきましょう。サイバー攻撃への対策と、被害が発生した場合の対処法も重要です。
金融業のBCP策定事例
東京海上日動火災保険では、自動車保険や火災保険などを提供する損害保険会社として、災害時にも事業を継続できる体制を整えています。その一環として、東京本店に集中していた情報管理機能を分散化し、関西地区にバックアップ本部を立ち上げました。
これにより、万が一東京本店が被災した場合でも、関西のバックアップ本部を活用して迅速に事業を復旧できる仕組みを構築しています。この取り組みにより、東京海上日動火災保険は事業継続推進機構の「BCAOアワード」を受賞しています。
(参考:東京海上日動火災保険株式会社)
BCP策定にはトヨクモ『BCP策定支援サービス(ライト版)』の活用がおすすめ
BCP策定の第一歩として、従業員の安否確認フローを見直すことが非常に重要です。災害や緊急時において、従業員の安否を迅速に把握できる体制を整えておくことで、事業の早期復旧や取引先への対応がスムーズに進みます。
たとえば、「取引先にBCP対策をアピールしたい」「安否確認手段を統一したい」といったニーズがある場合、安否確認システムの導入を検討してみるのはいかがでしょうか。
長野県に本社を構える山崎建設では、建設業という業種柄、屋内で働く従業員と外で施工を行う現場作業員が混在しており、災害時の安否確認に手間がかかっていました。この課題を解決するため、同社はアナログで対応していた安否確認フローを見直し、トヨクモが提供する『安否確認サービス2』を導入しました。
安否確認サービス2を選んだ理由は、利用料金のコストパフォーマンスの良さと、従業員の家族も安否確認できる機能が備わっていた点です。また、緊急時の活用にとどまらず、車両点検の日程や設備改修状況のお知らせ、その他業務通達にも利用しており、平常時の業務効率化にもつながっています。
(参考:山﨑建設 株式会社|BCP策定のため、安否確認サービス2を導入 平常時にも積極活用し、業務効率化を図る )
山崎建設がBCP立案に活用したBCP策定マニュアルについては、こちらの記事で紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
BCPの策定事例を参考にしよう
BCP(事業継続計画)は、緊急時における事業の早期復旧を目指すために欠かせない取り組みです。BCPを策定しておくことで、迅速な初動対応が可能となり、企業の存続や信頼確保にも大きな影響を与えます。今回ご紹介した事例を参考にしながら、自社に合ったBCPをぜひ策定してみてください。
また、BCP策定の第一歩として、安否確認システムの導入を検討するのも有効な方法です。トヨクモの『安否確認サービス2』は、緊急時に従業員やその家族の安否を迅速に確認できるだけでなく、日常業務の効率化にも活用できます。コストパフォーマンスに優れ、直感的な操作性で簡単に導入できるため、BCPの強化を目指す企業に最適なサービスです。
災害時だけでなく、平常時にも役立つ『安否確認サービス2』を活用し、貴社のBCP対策を一歩前進させましょう。