新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークを導入する企業が増えました。感染拡大が落ち着きを見せている今日でも、通常の業務の中にテレワークを導入している企業は少なくありません。
その中で、テレワークは感染症対策だけでなく、BCP(事業継続計画)における対策としても有効であることが考えられます。今回は、テレワークがBCPに有効な理由とテレワークを導入するメリット、活用例をご紹介します。
兵庫県立大学 環境人間学部・大学院環境人間学研究科 教授
早稲田大学卒業、京都大学大学院修了 博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て現職。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など「安全・安心な社会環境を実現するための心理・行動、社会システム研究」を行っている。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)などがある。
目次
テレワークがBCP対策としても有効な理由
BCPとは、「Business Continuity Plan」の略で、日本語では事業継続計画と訳します。自然災害やテロ、感染症などの緊急事態において、被害を最小限にしたり、被害が出た場合にも迅速な復旧をして、事業を継続させることを目的とした計画です。テレワークがBCP対策としても有効である理由は以下の通りです。
- テレワークが普及し環境が整っているから
- リスクの分散になるから
それぞれの理由について詳しく解説します。
テレワークの普及による環境整備
テレワークは、コロナ禍で広く普及しました。そのため、多くの企業で既にテレワークのシステムのベースが整っており、テレワークへの移行も以前ほど困難ではなくなりました。
自然災害などの緊急事態時に通勤できなくなった場合も、テレワーク可能なものについては業務を続けることで、早期の事業復旧につながります。
リスク分散
そもそもテレワークを導入することによって、同時被災からのリスク分散ができるからという理由もあります。テレワークを導入することは、オフィスの被災に対する備えにもつながります。
自然災害が発生すると、オフィスの建物が損壊を受けたり、ライフラインが止まったり、公共交通機関が停止して通勤できなくなる危険性があります。危険な通勤を避けられたり、オフィスに出勤する人数を抑えることができるため、テレワークの導入はBCP対策とし有効です。
また災害時には、テレワークを導入すれば従業員が家族と過ごすことができるため、家族への安否確認が必要でなくなるため、安心して業務を継続できるでしょう。
BCP対策にテレワークを導入するメリット
BCP対策にテレワークを導入するメリットは、感染症予防と自然災害対策です。
除菌をしたり換気をしても、オフィスに人が集まると感染症拡大のリスクが高まります。テレワークを導入すれば、オフィスや通勤時の感染リスクを減らすことが可能です。
また、自然災害が発生した際もテレワークを導入していれば、自宅から業務ができるため、業務の早期復旧につながります。無理に通勤する必要がないので、従業員の安全も確保できます。
BCP対策にテレワークを導入するポイント・対策
BCP対策にテレワークを導入することには、感染症予防や自然災害発生時に早期に業務を再開できるといったメリットがあります。しかし、テレワークの導入にはいくつかの注意点があります。
ここからは、BCPにテレワークを導入する際のポイントや対策をご紹介します。
テレワークのセキュリティを確保する
テレワークを導入する際は、セキュリティ対策を行わなければなりません。対策を行わずにテレワークをすると、コンピューターウイルス感染や外部への情報漏洩といったリスクに繋がります。
業務専用PCを付与したり、セキュリティツールを導入したりなど、テレワーク時にはセキュリティ対策が必須です。
自然災害に強いテレワーク環境を構築する
テレワーク導入時には、自然災害に強いネットワーク環境を構築しましょう。
テレワークを導入していても、自然災害時に機能しなければBCPの意味がありません。
現在、BCPに有効なテレワークツールは多数あり、機能もさまざまです。テレワークに活用できる機能が搭載されたツールを活用すれば、自然災害発生時も問題なくテレワークを運用できます。使いやすさやセキュリティ対策はもちろん、ネットワーク対策も行っているツールを活用しましょう。
生産性向上
ここまで、BCPという観点からテレワークをご紹介してきましたが、テレワークは生産性向上やコスト削減、働き方改革など平時の業務においても様々なメリットがあります。緊急事態におけるBCP対策としてテレワークを導入するだけではなく、平常時から運用を行うことが大切です。
たとえば、平成17年度に社団法人日本テレワーク協会が行った在宅勤務実証実験によると、在宅勤務時の方が集中できる時間が圧倒的に長いことが判明しています。集中できる時間を長く保てれば、その分生産性が向上します。
BCP対策としてテレワークを実現するためのシステム
効果的にテレワークを実現するためにはどのような仕組みを導入すればよいのでしょうか。ここでは、効果的なテレワークを実現するための仕組み・ポイントについて紹介します。
①VPN
VPNでオフィスに社外から接続することが、テレワークに有効です。
VPNとは、「Virtual Private Network」の略称で、日本語では仮想専用機と言われることもあります。具体的には、インターネット上で利用者専用の仮想プライベートネットワークを構築し、セキュリティ上の安全性を保つ技術を指します。
これまで、インターネット上で安全を保つシステムにはSSL通信が使われていました。しかし、SSL通信には通信品質やなりすましといった問題点があり、近年では一定の通信品質を保ち、盗聴などのリスクが少ないVPNが導入されていることが多いです。
②クラウドPBX
クラウドPBXのひとつである「Arcstar Smart PBX」を導入している企業も存在します。
BXとは、Private Branch eXchangeの略で、複数の電話機を接続し、外線や内線のコントロールを行う構内交換機やそのシステムのことです。
「Arcstar Smart PBX」は、クラウド上のIP電話サーバーがPBXを提供するものです。
導入される理由のひとつとして、スマートフォンを内線端末として利用できることが挙げられます。オフィスと同じように通話できたり、個人のスマートフォンを業務に使用できるため、端末コストの削減にもつながるのです。
③ファイル共有サービス
リモートワークでオフィスと同様に業務をこなすためには、ファイルの共有が欠かせません。ファイルの共有は自社で行うこともできますが、ファイル共有サービスを使うとより安全に管理できます。
ファイル共有サービスの代表とも言える「Box」は、業務システムとの連携のしやすさやセキュリティ性の高さで人気を集めています。
NTT.Comでは「Box over VPN」というサービスを提供しています。「Box over VPN」とは、VPN経由で安全で確実な接続を実現するサービスで、VPNを経由してファイル管理を行えるシステムは国内唯一のものです。
④Web会議システム
Web会議システムも、効果的なテレワークを実現する手段のひとつです。
Web会議とは、オンライン上で取引先や従業員と会議できるシステムのことです。パソコンとネットワーク環境があればどこからでもオンライン上で会議ができるため、感染症対策になります。また、自然災害発生によってオフィスが倒壊した場合でも、Web会議であれば自宅から会議を行うことができます。
ただし、Web会議をする際には、セキュリティ対策が必須です。公開前の情報や会社の情報が外部に漏れないように、しっかりとセキュリティ対策をした上でWeb会議を行いましょう。
④安否確認システム
安否確認システムとは、緊急事態時に従業員の安否を確認するツールです。登録されている連絡先に一斉に連絡を送ったり、返信の有無をリアルタイムで集計してくれるツールです。そのため、テレワークのような社員が分散している時にも安否をスムーズに確認することができます。
安否確認システムは多数ありますが、トヨクモの「安否確認サービス2」は、セキュリティ性が高く、安否確認の回答結果を自動集計してくれる便利なツールですので、興味があれば参考にしてください。
BCPで行う分散化・バックアップ
テレワーク以外にも、BCPにおける効果的な対策はあります。特に緊急事態を想定した分散化やバックアップは重要な対策です。例えば、以下のようなものが挙げられます。
- オフィスの分散化・サテライトオフィスの設置
- 情報システムのバックアップ
- 生産設備の代替
- 原材料の代替供給元
- 要員確保および代理人の事前指定
例えば、オフィスを分散化していれば、万が一オフィスで事業が継続できなくなった場合でも他のサテライトオフィスなどで業務を再開できます。
また、生産業では生産設備が破損すると業務がストップしてしまうため、代替設備を準備しておくことも効果的なBCP対策のひとつです。
テレワークの事例
テレワークの導入は、これまで解説してきたようにBCP対策の1つとして有効です。テレワーク導入によるBCP対策事例をご紹介します。
事例①ドコモ・システムズ
大手携帯サービスNTTドコモの基盤システムの開発や運用を行っているドコモ・システムズでは、働き方改革の取り組みの一環としてテレワークを導入しました。
テレワークの開始にあたり、どのデバイスからでもアクセスできる仮想デスクトップやビジネスチャットツール、オンライン会議を導入しました。現在では、テレワークの環境を整えたことで、全体の8割を超える社員がテレワークを利用しています。
事例②日本電気株式会社
大手電機メーカーの日本電気株式会社(NEC)では、約30年前から働き方改革の取り組み、その一環としてテレワークを導入しています。また東京オリンピック、パラリンピック開催に伴う「テレワーク・デイズ」への対応のため、開催の3年前からテレワークの整備を本格的に行いました。
日本電気株式会社は、テレワーク環境の整備のため、全従業員に緊急事態発生時の安否確認や情報共有を行うスマートフォンアプリを配布しています。これにより、緊急事態時にアプリを活用して各自でテレワーク実施の判断が行えるようになりました。
事例③TRIPORT株式会社
TRIPORT株式会社は、人事労務や助成金などに関する「お悩み解決サイト」を運営する会社です。平常時や緊急事態時に関わらず、インターネット環境があれば全従業員がどこでも業務ができる環境を整備しています。
そもそもTRIRORT株式会社は、テレワークが基本の会社です。自然災害発生時も特例としてテレワークで業務を行うという措置をしなくても、事業継続に支障が出ない状態を保っています。
事例④サンダーバード株式会社
サンダーバード株式会社は、デジタルコンテンツ制作や教育コンテンツ制作を行っている会社で、創業時からテレワークを導入しています。
サンダーバード株式会社では、自然災害発生時や二次被害が予想される場合に、テレワークを実施することを定めています。BCP対策としてテレワークを実施するために、紙媒体をすべてデータ化してクラウド上で管理しているため、インターネット環境があれば滞りなく業務を行うことが可能です。
BCP対策の一環としてテレワークの導入を検討しよう!
BCP対策には様々な種類がありますが、効果的な対策の1つにテレワークの導入があります。
テレワークを導入することで、オフィスで業務ができない場合でも自宅から業務ができたり、通勤時の危険を防げるなど多くのメリットがあります。一方で、テレワークを導入する際にはセキュリティの確保やテレワークシステムの導入も大切です。
万が一に備え、平時のうちから、テレワークが可能な業務については、テレワークの導入を進めましょう。また、従業員にBCPおよび、BCP対策としてテレワークがあることを平時から周知することも重要です。
兵庫県立大学 環境人間学部・大学院環境人間学研究科 教授
早稲田大学卒業、京都大学大学院修了 博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て現職。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など「安全・安心な社会環境を実現するための心理・行動、社会システム研究」を行っている。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)などがある。