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災害拠点病院とは?災害時における役割やBCP策定の方法を紹介します

災害拠点病院とは?

災害時には、被災により傷病者が増加するため、病院に対する需要が爆発的に高まります。
しかし、病院も被災により機能不全に陥ってしまうケースがあり、多くの傷病者が適切な処置を受けられません。こういった状況下で頼れる存在となるのが、災害に備えて運営体制・施設を整備している「災害拠点病院」です。

今回は、災害拠点病院の役割や、災害拠点病院に求められるBCPの策定方法についてご説明します。

災害拠点病院とは?

災害拠点病院とは?
災害拠点病院は、「災害発生時に災害医療を行う病院」を支援する病院です。一般的な病院としての機能に加えて、飲食料の備蓄やヘリコプターの離着陸場を備えるなど、患者数が医療の供給を上回りやすい場面に対応できる能力を有します。

災害拠点病院は、各都道府県が指定することになっており、以下のような2つの機関に大別されます。

  • 基幹災害医療センター
  • 地域災害医療センター

原則として、基幹災害医療センターは各都道府県に1ヶ所以上、地域災害医療センターは二次医療圏に1ヶ所以上が整備されています。

医療圏は、都道府県が定める医療体制のエリア区分を示しており、二次医療圏は「手術・救急など一般的な保険医療を提供する区域」を指す言葉です。都道府県の規模に応じて病院数は異なり、多ければ1つの都道府県に数十の災害拠点病院が集まります。

参考:
災害医療センター「災害拠点病院とは
内閣府「平成30年版 防災白書|附属資料38 日赤病院・救急救命センター・災害拠点病院数
防災テック「災害拠点病院とは?その活動内容と指定要件について

災害時における災害拠点病院の役割

災害時における災害拠点病院の役割は、重症・重体に陥った患者の対応、医療救護チームの派遣や患者の広域搬送などが挙げられます。

また、非常事態に備えて、運営体制・施設は指定条件に沿った内容となっており、被災によって機能不全に陥らないよう運営されています。

災害拠点病院の指定要件(運営体制)

災害拠点病院は災害医療に対応するため、以下のような運営体制を求められます。

災害拠点病院の指定要件(運営体制)
24時間緊急対応し、被災時に被災地内の傷病者を受入・搬入できる体制を有する
災害時に受入拠点となり、傷病者の搬送や物資等の輸送を行える機能を有する
災害派遣医療チーム(DMAT)を保有しており、その派遣体制を有する
救急救命センター、または第二次救急医療機関である
被災後に診療機能を早期回復できるよう、BCP(業務継続計画)を整備している
BCP(業務継続計画)にもとづいて、被災を想定した研修・訓練を実施している
第二次救急医療機関や医師会、医療関係団体と定期的な訓練を実施している
ヘリコプター搬送の際には、同乗する医師を派遣できる体制が望ましい

出所:厚生労働省「災害拠点病院指定要件の一部改正及び医療機関の平時からの協定締結の必要性について」を抜粋・改編

なお、災害時の機能向上のため実施される議論により、災害拠点病院の指定要件はたびたび変更されてきました。そのため、運営体制に関する要件のほか、後述する施設や設備に関する要件も、適時チェックすることを推奨します。

災害拠点病院の指定要件(施設及び設備)

施設や設備に関する指定要件は、運営体制に比べて厳密かつ多数の条件が設けられています。

以下の表は要件の概略であるため、詳細は厚生労働省のサイト内検索を利用してご参照ください。

災害拠点病院の指定要件(施設及び設備)
災害拠点病院に求められる診療施設・設備を有する
診察機能のある施設が耐震構造となっている
自家発電機を保有し、3日分ほどの燃料を確保する
災害時における診察に求められる量の水を確保する
病院の敷地内にヘリコプターの離着陸場を設けている
災害派遣医療チーム(DMAT)を派遣する車両を所持している

出所:厚生労働省「災害拠点病院指定要件の一部改正及び医療機関の平時からの協定締結の必要性について」を抜粋・改編

BCP策定はどのように進めれば良いのか

BCP策定はどのように進めれば良いのか
災害時には、施設が損壊して停電や断水を起こし、院内の指揮命令系統が乱れやすくなります。運営体制の指定要件で挙げた「BCP(業務継続計画)」は、こういった状況下で病院が診療機能を維持できるよう策定するものです。

この章では、BCPの具体的な策定手順の一例をご説明します。

①想定される災害から自院の役割を再認識

BCPの策定は、以下のような目的のもとに行います。

  • 避難・二次被害の防止など初動対応の検討
  • 災害拠点病院として優先すべき業務の選定
  • 現時点での課題を洗い出して対策を考案

これを最終目的として、まずは被害想定から自院の役割を再認識しなければなりません。そのため、BCP策定の第一段階では、地理的条件や過去の被災事例から「近隣で想定される災害」についてのイメージを固めます。

国土交通省・各自治体が公開しているハザードマップをもとにして、被害が予想される範囲と規模を確認。過去事例から、災害が起こった際の被害状況について理解を深めていきます。

この確認自体が直接の対策になるわけではないものの、後述する組織整備やマニュアル作成時に、より現実的な意見を盛り込むうえで欠かせません。

なお、過去事例の把握にあたっては、内閣府が公開する「防災情報のページ」から、各災害の被害や傷病者の人数が記載された資料を閲覧できます。

②院内の組織・システム整備

災害時は、災害の種類や規模にあわせて臨機応変に対応しなければなりません。災害レベルに応じた患者の対応順序、予定手術のスケジュール調整など、平時の状況とは異なる体制へスムーズに移行できるよう、大枠となるマニュアルの作成が求められます。

また、ソフト面となる組織体制の構築以外にも、ハード面である施設の減災対策やインフラ整備についての考慮が必要です。一例としては、書類・設備の散乱防止措置、無停電電源装置の導入が挙げられます。

③被災時の対応に関するマニュアル作成

BCP策定で最も重要なことは、一連の取り決めをマニュアル化し、組織全体にBCPを齟齬なく伝えることにあります。一部の人員のみが、自院のBCPを正しく理解していたところで、災害時の混乱状態のなかでは効果を発揮できません。

当然、院内の誰もが分かる内容でなければならないのです。そのためには、作成者が単独で完成させてしまうのではなく、マニュアルを共有する人員と双方向にコミュニケーションを取りつつ、作成を進める必要があります。

また、マニュアルの閲覧だけでは各員に定着しないため、BCPを意識した研修・訓練のなかで被災時における対応のトレーニングを実施することが重要です。

④定期的なBCP策定の再チェック

日本は災害が多く、たびたび各所で被災事例が発生します。たとえ、自院から離れた地域であっても、その被災事例を自院に当てはめて組織全体で共有することで、マニュアルの改善や体制のあり方についての意識向上が期待できます。

また、減災対策にもちいる道具も多様化しつつあるため、これらをBCPの再チェックにあわせて更新することで、施設の防災レベルを高められるでしょう。

平成30年時点で約3割の災害拠点病院がBCP策定なし

平成30年時点で約3割の災害拠点病院がBCP策定なし
厚生労働省が公開した資料によれば、平成30年時点では「BCP策定をしていない災害拠点病院」は調査対象の3割近くにのぼると明らかになりました。
約3割の災害拠点病院がBCP策定なし
出所:厚生労働省「病院の業務継続計画(BCP)策定状況調査の結果

その後、BCP策定が必須となる令和元年4月には、未回答・未策定の病院の大部分がBCP策定を実施したものの、災害拠点病院の指定を返上(予定)する病院も一部見受けられました。

また、急ピッチでBCP策定を進めたことから、内容に改善の余地が残っている可能性も否めません。厚生労働省は、引き続き各院がBCP策定を進めるよう取り組むとしています。

まとめ

災害拠点病院は、災害時に多くの傷病者が頼る存在となります。事業継続が困難になれば被害は甚大なものとなり、多くの人命が失われかねません。

地方では少子高齢化が急速に進み、平時でも患者を大勢抱える傾向にあるため、非常事態を想定した優先順位・組織体制の考案は一層重要となります。災害拠点病院は、定期的にBCPを見直しつつ、時流や地域特性に応じた改訂を続ける姿勢が求められるでしょう。