多様なリスクに備えたオールハザード型BCP

日本は、世界でも自然災害が非常に多い国として有名です。
例えば地震では、世界全体に占めるマグネチュード6以上の地震の約2割が日本周辺で発生しております。自然災害による被害額も世界全体の約2割が日本です。

参考:水管理・国土保全局 2021河川データブック
参考:内閣府防災情報のページ 災害を受けやすい日本の国土

2019年12月には中国の武漢市で新型コロナウイルス感染症が発生し、その後全世界に蔓延しパンデミックとなりました。
このような、自然災害やパンデミックの影響で数多くの企業が倒産しました。新型コロナウイルス関連の倒産は全国で2022年3月11日時点で2,980件判明しています。

参考:帝国データバンク 新型コロナウイルス関連倒産

企業として従業員を守り、自然災害やパンデミックで事業復旧・継続するためにBCP(事業継続計画)の策定は非常に重要です。
しかし、自然災害やパンデミックといった個別の災害やリスクごとの対応をベースにする「従来型BCP」は現状では不十分。緊急事態全般への備え様々なリスクに耐えられる想定をした「オールハザード型BCP」の策定を進めましょう。

BCP(事業継続計画)とは

BCPとは、「Business Continuity Plan」の頭文字を取ったの言葉で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれています。

BCPの目的は自然災害やパンデミック、テロ攻撃といった緊急事態に陥った時に損害を最小限に抑えて、重要な事業を継続して早期復旧を図ることです。

 BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。

緊急事態は突然発生します。有効な手を打つことがきでなければ、特に中小企業は、経営基盤の脆弱なため、廃業に追い込まれるおそれがあります。また、事業を縮小し従業員を解雇しなければならない状況も考えられます†2。

緊急時に倒産や事業縮小を余儀なくされないためには、平常時からBCPを周到に準備しておき、緊急時に事業の継続・早期復旧を図ることが重要となります†3。こうした企業は、顧客の信用を維持し、市場関係者から高い評価を受けることとなり、株主にとって企業価値の維持・向上につながるのです。

参考:中小企業BCP策定運用指針〜緊急事態を生き抜くために〜

このようにBCPは事業継続・復旧の側面から顧客や市場関係者から信頼を獲得することにもつながり、企業価値の維持や向上にも繋がります。

企業におけるBCP(事業継続計画)の必要性

従来型BCPとオールハザード型BCPの違い

従来型BCPは、個別の災害やリスクごとの原因や脅威を設定した上でどのように対応するかという視点で策定されてきました。

しかしながら、実際にBCPを策定している企業においては、新型コロナウイルスの感染拡大などの影響で既存のBCPがうまく機能したと言える企業は多くないようです。

すべての緊急事態の事象を想定することは現実的ではない、とも言えるかもしれません。

そこで、2021年2月の経団連からの提言においても推奨されているのがオールハザード型BCPへの転換です。

「オールハザード」とは、あらゆるリスクに耐えうるものであり、オールハザード型BCPでは、災害やリスクの違いに左右されずに事業を着実に継続していくことを目的としています。

オールハザード型BCP

2021年版 ものづくり白書では、次のように掲げられています。

人命保護のための初動や社内体制の構築に加えて、とりわけ、人員・設備が一部機能不全になっ
たという「結果そのもの」に着目しつつ、係る状況下でも事業を継続するための「リソースベース」で
の想定を進めておくことが重要となる。

参考:1.レジリエンス ―サプライチェーンの強靭化―

つまり、従来型BCPでは自然災害などの発生原因に対してどのように対応するかという視点でしたが、オールハザード型BCPでは、緊急事態によって人員が不足した、設備が破損した、サプライヤー企業のサービスが停止したなど、企業活動にあたって必要なリソースがどうなるかに着目することが求められます。

この視点だと、想定していなかった緊急事態においても対応が可能となります。

オールハザード型BCP策定のための5つのステップ

ステップ1・2は従来型BCPの策定手法と同様です。
ステップ3で具体的な被害想定をおかず、経営資源が何らかの理由で被害を受け、使用不可となった場合を前提に考えるのがオールハザード型BCPの特徴です。

ステップ1:基本方針の策定

何を実現するためにBCPを策定するのか、対象とする事業の範囲や部署または企業をどこまでとするか、どの部署がBCP策定の推進役となるのかなど、目的、適用範囲、推進組織(プロジェクト編成)を明確化します。

ステップ2:中核事業、復旧優先事業の選定

事業停止の影響を多角的視点から分析し、緊急時でも継続させる業務や早期に復旧すべき重要業務の絞り込みます。
その上で「人、物、施設、情報、インフラなど」といった要素から、業務の継続に不可欠な経営資源を選び出します。

ステップ3:リスク分析

何らかの理由で経営資源が使用不可(停止)となった場合を想定し、その影響を把握します。
また、リスク別にみた経営資源の脆弱度の分析もこのステップで行いましょう。

ステップ4:事業継続戦略の決定

事業継続・早期復旧するために、経営資源の被害に応じて復旧や代替など多角的な視点で対応方針を決定します。
経営資源戦略、事業戦略についても考え方を整理します。

ステップ5:BCPの策定

対応方針を実現するための具体策を、事前に実施すべき対策とリスクが顕在化した後の行動・復旧計画などに落とし込み、BCPを策定していきます。
リスク顕在時の初動対応など、リスク別に整理した方がよい内容については、リスク別のチェックシートを作成すると良いでしょう。

BCP(事業継続計画)を1から策定することは労力・時間の面で負担が大きく、またコンサルティング会社等に依頼する場合はコストもかかります。効率的に策定するには手順に沿ってテンプレート等を上手に活用すると良いでしょう。

既に従来型BCPを策定している企業においては、一から作り直すのではなく、既存のBCPに「オールハザード型」の要素を付加する見直しが効率できでしょう。

みんなのBCPでは、BCPの基礎知識と策定の手順・方法をご紹介しております。

【はじめてのBCP】BCPとは?策定方法は?チェックリスト付きで解説します!

まとめ

企業活動にあたって必要なリソースがどうなるかに着目したオールハザード型BCPを策定すれば従来型BCPでは対応できていなかった「想定していない緊急事態」へ柔軟に対応することが可能になるでしょう。

「BCPを策定していない」、「BCPは策定したが緊急事態に機能していない」などBCP対策に課題を感じている担当者の方がいましたら、オールハザード型BCPの策定を検討すると良いでしょう。

最後に重要なポイントを一つお伝えします。

BCPは策定したら終わりではありません。緊急事態にBCPに沿った、活動を行うために、平常時から経営・現場一体となって有事のことを想定した取り組みを行うことが必要になります。経営と現場が平時からそれについて考え抜き、心と体の準備ができていてはじめて大きな成果を伴うものであるということを、認識しておくことが重要です。