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【被災地で銀行が果たす役割とは】震災で生き残った人の「次の一歩」を手助けする

あなたは、防災と聞いて、何を思い浮かべますか。

非常食や水などを蓄えておく備蓄や、建物の耐震化、もしくは命を守るために身を守る行動を想像する方が多いでしょう。しかし、被災直後に生き残ることだけを考えることが、防災ではありません

被災後、もしも家が倒壊していたら、あるいは会社の営業ができない状態だったら、これからどうやって生きていけばいいのか。被災した地域では、被災後の生活を考えていかなければなりません。そうした地域の復興において重要な役割を果たすのが、銀行です。

被災地において銀行はどんな役割を果たすべきなのか。今回は、銀行の防災のあり方や、他機関との協力体制の必要性、そして職員に対する教育方法について考えます。

銀行の防災のあり方

市民にとって、銀行は生活の拠り所。被災した後、生活を立て直すためには、お金が必要です。つまり震災後の地域の復興を支援することは、銀行の持つ大きな役割といえます。

そのためには、地域と銀行が一体となって防災に関する情報交換や協力を図ることや、防災訓練の実施など、日頃から防災意識を高めることが重要となります。

「施設・備品、他機関との協力体制、職員に対する教育」が鍵になる

被災地が少しでも早く復興に向けて始動するためには、まず銀行そのものが事業を継続することが必要不可欠となります。では、具体的に銀行ではどのような防災を行えばいいのでしょうか? 銀行が考えるべき防災には、大きく3つのポイントが挙げられます。

・被害を最小化するための「施設・備品」
・復興に必要な「他機関との協力体制」
・職員に対して防災意識を高めるための「教育の時期と項目」

ここでは、上記3つの項目について、全国各地の銀行の防災事例をもとに考えていきましょう。

■被害を最小化するための施設・備品
災害時の備品として、職員のいるオフィスに非常食や水、体を温めるための毛布、薬などを備えておくのはもちろん、お客さまの安全を守ることも重要となります。実際に銀行はどのような防災対策をしているのか、見てみましょう。

【七十七銀行】
●衛星携帯電話の設置
災害等発生時における本部・営業店・お取引先等との連絡体制の強化を図るため、固定電話や携帯電話などの通信が規制された場合においても通信が可能である衛星携帯電話を全営業店に設置しています。
●お客さま用ヘルメットの設置
災害等発生時に、お客さまの身の安全を確保するため、お客さま用ヘルメットを全営業店およびローンセンターのロビー等に設置しています。

【静岡銀行】
●非常事態対策室の設置
静岡県静岡市にあるしずぎん本部タワーには、「非常事態対策室」を設置しています。複数の通信手段や大型モニターを配備して、大規模災害やシステム障害といった不測の事態が発生した際に地域の皆さまをサポートできる体制を整えています。

【中京銀行】
●ライフジャケットの設置
地震発生時に海岸付近で想定される津波被害から、ご来店されるお客さまの生命と安全を守るためライフジャケットを配備しています。

●お子さま用防災ヘルメットを設置
お客さま用防災ヘルメットを配備しています。

●衛星電話の設置
震災時における固定電話・携帯電話の通信被災、輻輳による連絡不能状態に備え、通信手段確保のために、師崎支店と鳥羽支店にMCA無線、尾鷲支店に衛星電話を配備しています。

【肥後銀行】
●防災井戸の設置
この防災井戸は、熊本地震で発生した断水の状況を踏まえ、生活用水確保の重要性の観点から、熊本県内の 10 か所の営業店に設置。災害発生時には、行員の生活用水確保の場として活用するとともに、地域の給水拠点として住民の皆さまに開放いたします。

■他機関との協力体制
ここでは、銀行同士の繋がりや連携を結ぶことで、被災したときに市民への金融対応支援を円滑に行うことを目標とした銀行の事例を紹介します。
【大規模災害時の相互支援に関する協定書】
・武蔵野銀行
・埼玉りそな銀行
・埼玉縣信用金庫
・飯能信用金庫
・川口信用金庫
・青木信用金庫
6つの金融機関で連携。県内の主要な地域金融機関同士が連携することで、被災した金融機関に対する円滑な支援を行います。

【日常での連携】
① 災害対応に関する情報交換
② 相互支援の実効性向上を目的とした共同訓練の実施及び対応力強化
③ 連絡体制の整備、維持
締結日 平成28年2月1日(月)

また、被災時には連携体制が取れていない場合にも、柔軟な対応をすることで市民の生活を手助けした銀行があります。東日本大震災のときの、東邦銀行の事例です。

東日本大震災では、通帳や印鑑、運転免許証など、身分証明書のない人に1人10万円まで払い戻しに応じた銀行がありました。福島県相馬市にある、東邦銀行相馬市店です。

濁流に家が飲まれた人。東京電力福島第1原発事故から、着の身着のまま逃げた人。いろんな方が、最後の砦として、銀行へ足を運んだのでしょう。

通信回線も電話も通らない状況の中、オンラインで預金名簿が確認できないため、残高がわからない。そんな中、対応した支店長の安藤利之さんは、目の前にいる被災者と向き合い、本人だと判断し現金10万円を手渡します。目の前にいる被災者を支えたい、という一心での行動でした。結局、370件、預金残高以上の2百数十万円の過払いがあったようですが、のちに全額戻ってきます

さらに混乱が増す中、県外に避難した方から、別の銀行に「東邦銀行の現金を払い出したい」という要望が。その声に応えるべく、同行の頭取 北村清士氏は、「他校が支払った現金は東邦銀行が立て替える」「不正引き出しのリスクは全て東邦銀行が負う」と他行のトップに連絡を入れます。

その申し出に39もの銀行が応じることとなり、日本金融界で初めての「代理払戻制度」が発足されることとなったのです。

リスクを最も嫌うとされる銀行が、身分が証明できずとも、被災者に10万を手渡す。さらに他県へ避難したお客さまからの払い戻しの要望があれば、すぐさま別の銀行と連携をとり、払い戻しを可能とする制度を発足しました。

このように非常事態が起きたとき、悩めるお客さまは大勢くることが予想されます。そのとき銀行は、どのような判断をするべきなのか。事前に話し合い、決めておくことが、より素早い対応にもつながるはずです。

■教育の時期と項目
銀行は、被災した地域の中で復興を支援することが役割になります。そのためには、銀行には高い防災意識が求められます。防災意識を向上させるために、新入職員が入社する時期や、人事異動など、人が入れ替わったタイミングで防災訓練を行うなど、継続的な防災教育の活動が大切です。

まずは、防災訓練の実行方法について考えましょう。防災訓練の実行方法には、安否確認時の訓練や、机上訓練(図上演習)、避難訓練、消防訓練などありますが、どれも実行するだけではなく、アンケートの実施と見直しが不可欠になります。

【防災訓練の計画、実行、見直しのサイクル】
①計画を立てる
どんな訓練が必要なのか? 何を周知したいのか、内容と実施時期について検討する
②教育、訓練の実施
計画に基づき、防災訓練などを実施する
③教育結果の評価
職員にアンケートを行い、防災訓練によって何が身についたのか、実際に役に立ちそうかなど評価を受ける
④教育方法の見直しをする
アンケートで出た結果をもとに、課題を踏まえて、訓練方法を見直し、次回に生かす

通常の訓練以外にも、下記のみなと銀行のように、職員向けに防災マニュアルを発行することも教育として有効です。

【みなと銀行】
●家庭用防災マニュアルの発行
みなと銀行では、家庭でできる防災対策等を解説した冊子「家庭用 防災マニュアル」を発行し、当行グループ役職員に配布。地震や豪雨等の自然災害への対策や、日頃からできる備えを、役職員の家族を含めて習得・啓発することを目的としています。

同行では、地震等の災害発生時の行動指針として以下の2点を定めています。

(1)お客さま及び役職員の安全確保を最優先すること
(2)銀行の公共性に鑑み、お客さまのために可能な限り営業を行うこと

これらを達成するためには、普段からの備えが重要との考えから、「家族で防災対策を日頃から話し合っておくことの大切さ」や「いざという時どのような行動をとるべきか」といった内容を分かりやすくまとめている冊子です。

また、福井銀行では、ATMと窓口を設置している移動店舗車「ふくぎんKuruza(クルーザー)」を設置し、訓練をしているようです。

【福井銀行】
●「ふくぎんKuruza(クルーザー)」による払出訓練
福井県との間で締結した「災害時等における相互協力に関する協定書」に基づき、移動店舗車「ふくぎんKuruza(クルーザー)」を設置。地域の訓練に参加されている方を対象とした模擬券による払出訓練を実施しました。

このように、災害発生時にできる行動を考えることで、職員のみならず、地域の方にも安心を与えることができます。

まとめ

いつ起きるかわからない災害。銀行は、被災直後を生き延びた人に、その後の生活を助けることができる機関のひとつです。銀行の総務担当者の方は、有事を常に想像し、最大限に地域に還元できる方法を考えることが重要です。それは、銀行にしかできない役割だからです。

東邦銀行相馬市店の例など、柔軟な判断を求められたとき、あなたの銀行ではどんな対処をとれるのか。今一度、防災のことについて考えてみませんか。

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