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病院のBCP策定をやさしく解説。被災者を受け入れられる施設づくりを

災害時、企業の多くは停止し、それを防ぐためにもBCPが策定されますが、病院はとくにその特性上、一刻も早い復旧が望まれます。そのため、病院のBCP策定は、その施設だけではなく街全体が復興の助けとなる意味を持ちます。

しかしながら、朝日新聞の調査によれば、2015年春の時点で被災時のBCPマニュアルを策定している災害拠点病院は全体の33%にとどまっていることが判明。実際にBCPを策定するまでのハードルの高さが浮かび上がりました。

その理由のひとつとして、医療現場は通常業務に加えて、予測不能な被災患者への対応が迫られるるため、一般企業のBCPとは異なる策定プロセスを経なければならないことが挙げられます。

そのハードルを少しでも下げるため、この記事では医療機関におけるBCPについて説明したうえで、一般病院と災害拠点病院、それぞれのBCP策定の流れを解説します。

病院におけるBCPの重要性。患者に対して人員・資源が圧倒的に不足する

大災害が発生したとき、被災地域の医療施設には、その施設が被災していたとしても、できる限り病院機能を維持して、患者を診療する役割が求められます。

したがって、病院のBCPは、早期での機能の立ち上げや回復、被災患者の継続的な診療が可能でなければなりません。しかし、そのときには医師や看護師が出勤できない事態や、ライフラインや設備の破損なども想定する必要があります。

これらに加えて、今までの震災の事例では指揮系統の乱れや通信手段断絶による情報不足、応援医療チームの派遣中止なども報告されています。

そのため、病院は普段よりも人員や資源が不足しているにもかかわらず、大量の被災患者を診療しなければならないという苦しい事態に陥ってしまうことが予測されます。実際、東日本大震災では多くの病院が一時休止・廃止に追い込まれました。

そこで、その反省を踏まえ、全日本病院協会は次のような教訓を掲げています。

・ 混乱期の自立・自律的活動から秩序のある組織的活動へ、“フェーズ”をふまえた計画が必要
・ 医療需要が激増するのに反し、医療資源は激減するなか、“総力戦”で対応すべき
・ 想定外に対応できる意思決定部署が必要
参照:http://www.ajha.or.jp/guide/15.html

ではここからはこのような病院ならではの課題を踏まえつつ、「災害拠点病院」「一般医療機関」に分けてBCP策定における流れを追っていきましょう。

「一般医療機関」に向けたBCP 8つのステップ

まずは、一般医療機関向けのBCPについて説明しましょう。一般医療機関とは、後述する災害拠点病院(災害時に、中心となって機能することを想定された病院)以外の施設のことを言います。

東京都福祉保健局が平成24年7月に発表した医療機関向けBCP策定ガイドラインによると、そのプロセスは8項目から成ります。

1.策定体制の構築
まず、病院長などの経営責任者がリーダーシップをとり、検討組織を設置します。非常時には一体となった協力体制が不可欠となるため、「総務部だけ」「医事部だけ」ではなく、各部門から幅広くメンバーを選定する必要があります。

2.現況の把握
現状、どの程度災害に対して備えがあるかを、指揮命令系統、人員確保、場所や資材、搬送手段、耐震化、ライフラインなど、様々な角度から検証します。

3.被害の想定
内閣府中央防災会議や自治体が検討している被害想定を踏まえ、フェーズごとに、被害状況(建物、設備、職員、電気、ガス、上水道)、傷病者数の想定を行います。

フェーズは、「発災直後(~6時間)」「超急性期(6時間~72時間)」「急性期(72時間~1週間程度)」「亜急性期(1週間~1カ月程度)」「慢性期(1カ月~3カ月程度)」「中長期(3カ月以降)」の6段階で整理します。

病院によりますが、地震の発生を勤務職員数の少ない夜間に想定することで、より厳しい状況下でのBCPを策定することができます。

4)通常業務の整理
部門ごとに平時に実施している業務を列挙し、各業務内容とその実施のために必要な資源を整理します。これは、災害時に優先して取り組む業務を浮かび上がらせるためです。

5)災害時応急対策業務などの整理
(通常業務の部門ではなく)災害時に組織される部門ごとに、災害時応急対策業務を列挙し、各業務内容とその実施のために必要な資源について整理します。

6)優先業務の設定
各部門で検討した通常業務および災害応急対策業務等を統合。関連業務の並び変えを行い、優先する業務を設定します。業務の選定にあたっては、その病院の役割(救急指定病院など)、日頃提供している医療サービス(外科、産科、人工透析など)も勘案しましょう。

7)行動計画の文書化
優先業務について目標復旧時間・実施レベルの設定を行い、病院全体で調整したうえで、文書化します。

8)最終的なBCPとしてとりまとめ。

以上のような8ステップで病院のBCP策定を実施しましょう。

「災害拠点病院」に向けたBCP 特に注意すべき3つのポイント

次に、災害拠点病院向けのBCPについて説明します。災害拠点病院とは、平時は入院や外来患者の診療などのサービスを提供する一方で、近隣で災害が発生した場合には災害医療を実施する病院のことを指します。災害時の医療救護活動で中心的な役割を担う病院として、位置付けられているのです。

災害拠点病院と認められるための条件は東京都災害拠点病院設置運営要綱で見ることができますが、具体的には24時間対応できることや200床以上の病床や災害派遣医療チーム(DMAT)、ヘリコプターの離発着場を有することなどが条件です。

災害拠点病院の災害時における役割は非常に大きいです。実際、東日本大震災においては、宮城県の災害拠点病院のひとつ、石巻赤十字病院には最大で1日1251人(平時の20倍)が搬送されました。

東京都福祉保健局が示している具体的なBCP策定の流れは一般医療機関とほぼ同じですが、災害時に中心となり機能することが求められるため、以下のようなポイントを押さえなくてはなりません。

1.近隣医療機関と連携しての役割分担

ほかの医療機関と連携して軽傷者はそちらに搬送するなど取り決めておくことで、災害拠点病院への搬送患者数を抑制することができます。このように、負傷者を分類して治療・搬送の順位を決めることをトリアージと言います。

2.非常時の組織体制の計画

災害時には、その病院の災害対策本部の本部長(病院長など)が不在である場合も十分に考えられます。そのため権限の委譲や、代行順位を決めておくとよいでしょう。また、大量に搬送される傷病者に対応するためには、できる限り多くの職員を集める必要があるため、安否確認システムの運用もしておくべきです。

3.災害時の業務に優先順位をつける

災害時、求められる業務に優先順位を事前につけておくことで、早期に対応力を回復できます。その順位をつけるためには、病院全体での議論が必要とされます。ただし、災害応急対応業務は体制や物資に状況とバランスを取りつつ検討しなければなりません。

「ノウハウがない」とは言っていられない

内閣府の調査によると、平成25年時点で、災害医療拠点以外の病院(一般医療機関)では、「BCPとは何か知らなかった」という回答が28%を占めました。この事実からは、医療現場ではまだまだBCPが浸透していないことが読み取れます。

さらに、BCPを策定しない理由については「スキル・ノウハウがない」という回答が約半数を占めました。

たしかに病院でのBCP策定は、被災患者という予期できない要素があることもあり、一般事業所以上に難しいです。また、想定するシナリオを限定して完全な対応を考えると、緊急時に患者対応が硬直化する危険性も大きいと言えます。

ですが、いつ訪れるかわからない災害に対し、人命を預かる医療機関が手をこまねいているわけにはいきません。重要なのは、緊急時に職員が一丸となって対処する姿勢であり、そのためにも現場のスタッフが医療機関としての理念を一にして協働でBCP策定に関わることが求められます。

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