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M6.5とM7.3、二度の大地震が熊本を襲った。そのとき市役所はどう動いた?

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熊本地震は過去に例を見ない地震といわれています。2016年4月14日にマグニチュード6.5、4月16日にマグニチュード7.3と、大きな前震のあとに、さらに大きな本震が襲うという現象が起こったからです。この予測不能の災害に対して、自治体はどんな対応をとったのでしょうか?

熊本市役所で第1回目の地震の直後に、熊本市役所震災時の緊急対応を担う災害対策本部が設置。そして、地震発生から3時間半後に第1回を開催し、7月時点でも続く災害対策本部会議が開催されました。このとき災害対策本部が、どんな初動対応をとったのか、熊本市役所の各部署にお聞きしました。地震発生直後に、市民を守るために何をするべきなのかがわかるはずです。

地震発生と同時に災害対策本部を設置

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熊本市では、熊本地震発生と同時に、防災計画にもとづいて災害対策本部が設置されました。本部長を市長とする災害対策本部では、地震発生から3時間半後の4月15日深夜1時に、第1回災害対策本部会議を開催。この会議は6月3日までに50回開かれ、7月時点でも災害対応を決定する場として継続されています。

4月14日21時26分──前震発生、災害対策本部設置
4月15日1時──第1回災害対策本部会議開催
4月16日1時25分──本震発生

災害対策本部がまず行ったことは、被害状況の確認です。前震の翌日15日から被災者の被害状況、ライフラインの復旧状況、避難者のニーズの把握、といった確認業務を行っています。

熊本地震は前震と本震の2度、大きな地震に見舞われています。前震で最大震度7という地震に見舞われているため、多くの人がこれが前震だと思わなかったはずです。そのため、本震は「予想だにしない」被害だったのです。

1回目の地震のとき、夜だったこともあり職員は既に退庁していて、直後に仕事場に向かうことは難しい状況でした。被災している者もいましたので」と災害対策本部の職員は、そのときのことを振り返っています。

そうした状況だったため、各地に避難している市民の状況を確認することができず、最初は被害状況の確認が難しい状態が続きました。もともと市の防災計画で、震度6弱以上の地震が発生した場合は職員は集まるということが決まっているため、集まれる職員から徐々に集まり、災害対策本部を始動しました。

災害対策本部では、市長が本部長として指揮をとり、防災計画にもとづき、日々変化する被害状況に対して、災害対策本部会議で対応を決定していきました。この会議は地震直後は1日2度開かれていたほど、状況は常に変化していたのです。

では、災害対策本部がとった災害に対する対策を、いくつかの項目ごとに見ていきましょう。

インフラへの対策


まず、人が生きる上で欠かせないインフラへの対策はどうなのでしょうか。被害状況は水道が水源地等停止が96箇所、水道管の破裂による断水、電気が68600戸停電(4月16日6時時点)、ガスが105000戸供給停止(4月16日5時時点)、という状況。

これに対して、対策しなければならないことは、「ライフラインの確保」「公共交通の確保」「道路の安全確保」です。実現するためにとられた初動の対策は次のようなことでした。

・他自治体等による給水活動
・市電軌道の障害復旧
・道路の通行規制

この中でも、最も重要なライフラインである水の供給を維持することは必須です。断水している間は、給水車による給水活動は広く実施されました。これによって多くの命が助かったはずです。

その後、ライフラインは、水道は4月30日通水完了、電気は4月18日午後に復旧完了、ガスは4月30日に復旧完了しています。

避難所でとった対策


地震発生後、すぐに避難所に避難できるように、指定避難所に区の職員が出向き開設の作業に当たりました。こうして被災者はすぐに避難できるような仕組みになっています。

では、避難所での初期対応としてとらなければならないことは何でしょうか。それは、「物資の受入・配給」、「障害者・高齢者などの受入体制を整える」、「避難所の衛生管理」でした。これを達成するために、初動にとった対策は次のことです。

・自衛隊への派遣要請
・他の自治体からの職員派遣
・福祉避難所の開設
・医療チーム派遣、保健師巡回

避難所を運営するために、こうした対策がとられたのですが、いくつかの問題が発生しました。それが、避難所で実際に起こった集団食中毒や感染症エコノミークラス症候群の被害です。熊本市はどんな対策をとったのでしょうか。

集団食中毒・感染症への対策


4月17日には2つの避難所で1名ずつ、ノロウイルス発症者が出て、6月7日までに合計12名の発症者が出るという集団感染が起こっています。ノロウイルスは吐瀉物や下痢などから感染するため、集団生活、とりわけ避難所では水が止まり、便の処理が難しい場合もあり、感染が拡大しやすいのです。

また、5月6日には避難所で34名の集団食中毒が発生。原因は仕出し業者の差し入れのおにぎりを暖かい状態のまま、常温でケースに入れて保管していたことで、黄色ブドウ球菌が繁殖したことにあると考えられています。

こうした集団感染や食中毒を発生させないために、熊本市は食べ物は消費期限を決めて食べるようにするという対策をとっています。夏場になってきたときは、クーラーボックスに保存するなどの対策、その他、薬用石鹸を避難所に配り、手を洗うことを徹底するという基本的な対策をとることで、食中毒や感染症が広まってしまうことを防いでいるのです。

エコノミークラス症候群への対策


また、報道でも繰り返しその危険性や実被害が伝えられていたように、エコノミークラス症候群の発症が多発しています。50名以上が入院の必要があるほどの重症に陥ったり、死亡者も出るほどの被害が出ているのです。

エコノミークラス症候群は、足を動かさないままで長時間過ごしたり、水分をあまり摂らないことで発症します。足の静脈に血の塊ができ、それが肺まで移動し、呼吸困難に陥り、死に至る可能性もあるのです。

車中泊で足を動かせない状態で寝泊まりしていたことや、避難所生活であっても、もともと足の悪い高齢者が、足場が整っておらず、歩くのを控えたりトイレを控えるために水分をあまり摂らないといったことで、発症することがあります。

市役所では4月19日の段階からエコノミークラス症候群対策として、避難所や車中泊者を巡回して、注意を喚起するという対策をとっていました。さらに、足を圧迫して血流を良くするストッキングを配布したり、避難所でボランティア団体が血流が良くなる体操を教えたりJMAT(日本医師会災害医療チーム)がエコー診断をして、エコノミークラス症候群に発症していないかチェックするなど、数々の対策が行われています。

生活・住宅に関わる対策


次に、生活・住宅についての対策を見てみましょう。とらなければならない対策として、「被災者の住まいの確保」「り災証明申請受付」「災害ごみの処理」「児童・生徒の安全確保」があげられます。これらを実現するために、どんな初動がとられれたのでしょうか。

・市営住宅の提供、民間賃貸住宅の借り上げ
・ボランティアセンターの設置
・総合相談窓口の開設
・災害ごみ収集
・学校の一時休校

以上のような対策がとられたのですが、仮設住宅の供給不足、災害ごみによる道路通行の支障、休校の長期化といった問題が発生しています。

また、車中泊・テント泊の避難者は、避難所以外にいるため、その状況把握を行い、生活再建に向けた支援を行っています。

り災証明書とは家の被害の程度を証明する書類です。市役所にり災証明書を求めて、家屋が損害を受けた市民が押し寄せてきたことで、り災証明書が交付されないという問題が発生しているのですが、これによって仮設住宅に入居することができないという事態が起こっています。理由は、仮設住宅はり災証明書による家屋の損壊状況が明らかにされなければ入居できないだからです。

実際にり災証明書の申込件数は81895件で、そのうち発行されたのが49956件。発行が間に合っていないことがわかります。また、仮設住宅の数も十分に足りていないという状況もありました。そのため、避難所生活を抜け出せないという実態があるのです。

これは熊本市だけでなく、それ以外の県にとっても課題として考えるべきことでしょう。

熊本地震に学び、然るべき初動対応を

大震災のとき、自治体は市民の命を守るために、どんな対策をとるのか──今回の熊本市役所の対策を見ることで、初動を知ることができたのではないでしょうか。自治体の災害対策を担う担当者の方はもちろん、企業の災害担当者にとっても、とるべき対策としては重なる部分があるはず。

また、対策が徹底されていなかったために起こった被害、例えば食中毒やエコノミークラス症候群などについては、教訓として学ぶことが大いにあるはずです。

他県の方にとっても、熊本地震は他人事ではありません。今回の事例を参考にして、来る大震災に備えましょう。

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