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海外進出先が災害に見舞われても冷静に。海外リスクに対応したBCPのあり方

「より大きな市場を求めて」
「安価な人件費に期待して」
「技術力を試すために」

様々な目標を掲げて活躍・販路を海外へ広げる日本企業。
外務省による、「海外在留邦人数・進出日系企業数の調査結果(平成27年)」によると、平成26年10月1日時点で海外に進出している日系企業の総数(拠点数)は6万8,573拠点に上ります。

しかし、台風やハリケーンなどの気象災害のほか、地震や水害などの自然災害は海外であっても襲ってきます。それだけに留まらず、水不足や停電、感染症、テロ・暴動など、日本では考えにくい事態も生じます。

今回は、日本とは法制度も環境も異なる国・地域での災害・緊急事態に対しては、どんな備えが必要なのかを考えていきたいと思います。

インフラが未発達なために生じる不都合

インフラストラクチャー

発電・送電網が不安定な国・地域では、停電・電圧不足等の事態が生じます。停電発生時は、デスクトップPCの使用、携帯電話の充電などは当然不可能です。また、電圧不足は精密機器の動作不良も引き起こしてしまうでしょう。

停電対策としては、UPS(無停電電源装置)や、自家発電機の導入が必要です。また、電圧は高くても低くても機械に影響を及ぼします。電圧を安定させるため、変圧器も必要になるでしょう。

上下水道・水処理施設が未発達な国・地域では水不足にも悩まされます。上水に問題がある場合には、現地駐在員の生活に影響を与えます。場所によっては、ペットボトル・瓶詰めにされたミネラルウォーターでも汚染や細菌が混入していることもあります。摂取する際は煮沸したほうが良いでしょう。

製造業の場合には、工業用水を安定的に確保できるかが死活問題です。工業用水が不足している場合は、廃水濾過装置等を設置し、限りある資源を効率的に使用する施策が必要になるでしょう。半導体などの精密機械を生産する場合には、より高度な水処理が必要になります。

電力不足・水不足などは、短い期間でどうにかなるものではありません。インフラがどの程度整備されているかは、進出前に必ず確認するべき事柄です。

自然災害への対応

洪水
日本は地震大国であり、建築基準法等によって耐震基準が定められています。しかし、地震の多い国でも、日本と同様の対策がとられているとは限りません。現地で拠点を開設する際は、地震の有無・建物の安全性を確認することは必須です。

一方、台風・ハリケーンや大雨・火山活動など、ある程度予測が可能な災害へは、事前の情報収集の徹底で回避できるリスクもあります。

2013年のジャカルタで発生した洪水では、自動車組み立て工場などが被災。工場・施設への被害を復旧させても、素材・部品を調達するサプライチェーンに断絶・乱れが生じ、生産台数の落ち込みにつながりました。

平常時には、必要なものを、必要な時に、必要な分だけ調達する、「ジャスト・イン・タイム」という調達の手法で在庫を極力減らし、サプライヤーを一定の数に絞り込んでコストを抑えることが良しとされています。

「必要なものを、必要な時に、必要な分だけ購入する」という施策は競争力を上げるために必要でしょう。しかし、災害などのリスクを考えれば、優先度の高い重要な部品などは余剰な在庫を嫌わず、ある程度のストックを持たせる、サプライヤーを複数確保しておくのも重要です。

自然災害へのリスクを把握・対策を講じること、例えば、新たなサプライヤーの確保などは、「コスト」ではなく、ビジネスの幅を広げるきっかけと捉え、前向きに取り組むべきでしょう。

感染症対策

HAZMAT team walking towards chamber

2003年に中国を中心に流行したSARSコロナウィルス、2014年西アフリカエボラ出血熱、2015年に感染が拡大したMARSコロナウィルス、そして2015年現在、南米で被害が拡大しているジカ熱など、高い感染力で重篤な症状を発症させる様々な感染症が世界中で流行しています。

さらに、コレラ、マラリア、赤痢、狂犬病など、日本では聞かなくなった感染症も世界では依然として流行しています。

これら感染症への対策は、「予防」が第一といえます。進出先でどんな感染症が流行しているのか、世界保健機関(WHO)や、日本政府、進出先国家のホームページで確認しておきましょう。そして、駐在員・現地従業員から感染者を出さないために感染経路を把握し、予防に役立てることも大切な取り組みです。

感染症は主に、人・動物・虫を媒介にして拡大します。

SARSコロナウィルスや、インフルエンザといった、人から人へ感染するウィルスは、濃厚な接触を避ける、手洗い・うがいの徹底、マスクの着用などが効果的でしょう。

ジカ熱、西ナイル熱など、蚊を媒介して感染するウィルスは、防虫スプレーの塗布、施設内の水たまりを排除、殺虫剤散布などを通して感染を防ぎます。

一方、鳥インフルエンザ、狂犬病、エキノコックス症など、動物が感染源となる感染症の場合、むやみに動物に近づかない・近づけないようにすることが大切です。また、死骸を発見した場合は保健当局に通報し、指示を仰ぐようにしましょう。特に、犬に噛まれた場合には、直ちに医療機関を受診し、狂犬病暴露ワクチンを接種してください。

政情不安

政情不安

デモや政変、テロ・武装勢力による襲撃も、国や地域によっては現実的な脅威です。

実際に日本人や日本企業が被害にあった事例としては、2012年中国での反日デモ、同じく2012年インドでの日系自動車工場暴動事件、2013年のアルジェリア人質事件などがあります。

2012年中国での反日デモでは、多くの日系企業が破壊・略奪などの被害を受けました。

民衆がデモなどを行う場合、ニュースやSNSなどで必ず話題になります。そうした情報を収集し、デモの影響を受けるかもしれないと判断した場合には、PCや機密情報のデータ、資料などを安全な場所へ移動させておく準備が必要です。また、現地行政・警察などへの通報・連絡手段などもあらかじめ確認しておく必要があるでしょう。

また、インドにおける日系自動車会社工場暴動事件では、カースト間の対立が大規模な暴動・施設への放火に繋がったとされています。

複雑な民族・宗教構成の国では、何気ないコミュニケーションや人事異動でも、「多数派への迎合」や、「少数派を贔屓している」などと、意図せず危険な摩擦を生んでしまうこともあります。

これらの事例から学べるのは、現地の文化・価値観を理解し、コミュニケーションを深める「現地化」の重要性です。

身近な事例を挙げれば、現地の従業員とコミュニケーションを深めるために食事を共にする際や、拠点の中にレストランを設ける際も、宗教によっては食べられるもの・食べられないものが定められている場合もありますので、注意が必要です。

日本企業ともなじみの深いインドネシアでは、キリスト教徒、イスラム教徒、そしてヒンドゥー教徒が暮らしていますし、

イスラム教では口にして良いもの・悪いものが厳格に定められており、原則として、「ハラル」という認証がない食材・料理を口にすることはありません。

ヒンドゥー教は牛を聖なる存在として扱っているため、牛肉を食べることはありません。また、カーストによって食事のルールが異なることも特徴で、高いカーストの人ほど魚を含む肉食を避ける傾向があるそうです。

同様にユダヤ教にも食事の戒律があり、「コーシャー」という認証のない食べ物・レストランでの食事を避けます。

暴動につながる不満や対立を高めないために、日頃から現地の価値観に沿って丁寧なコミュニケーションをとり、労務管理も丁寧に行う必要があります。それには、現地で適切なマネージャー、幹部を採用するのも重要です。

一つ一つは細かく、「大きなビジネスチャンス」につながるものではなく、「大規模災害」への備えにもならないかもしれません。しかし、価値観や宗教などは扱いを間違えると、ブランドイメージの失墜のみならず、暴動に発展しかねない「危機」に直結していることを認識しておく必要があるでしょう。

万が一現地で暴動・動乱が発生した場合、デモ隊・暴徒の集結地点や、ターゲットになっている場所を避け、不必要な外出は避けるべきです。一人でタクシーに乗るなどの行動も危険でしょう。

特に、反日デモが発生している場合は、家・職場から出たら日本語で会話をしない、バス・地下鉄などでスマートフォンに集中しすぎない、「日本経済新聞」を広げて読まないなど、神経質なまでの注意が必要です。

駐在員たちによって囁かれる「O.K.Y.」とは? 海外駐在員のメンタルヘルスケアも重要

海外進出先におけるBCPは、災害やデモによって施設・商品が物理的な被害を受ける想定だけに留まりません。現地に赴任している駐在員がメンタル面での不調に見舞われるのも大きなリスクです。

日本人駐在員の中で囁かれている言葉が、「O.K.Y.(=お前が ここに来て やってみろよ)」
本社と現地での板挟みになっている状況が見て取れます。

本社からは、様々な指示・問い合わせなどがあるほか、「現地化を進めてほしい」、「現地従業員とコミュニケーションを深めてほしい」などの要望が出されます。一方の現場では言語・文化・商習慣・法制度の相違により、「日本と同じようにはいかない」というストレスが加わります。

ひどい場合には、うつ病、適応障害などを発症し、任期を残して止むを得ず帰国する場合もあるそうです。

「日本にいた時はタフで元気な人」でも、赴任先でメンタル不調に陥る場合もあるそうです。駐在員は進出先ビジネスが成功するか否かを決める重要な存在なだけに、慎重な人選が求められます。

そして、実際に赴任した駐在員へのビジネス上の支援はもちろんのこと、産業医やカウンセラーなどとも協力して、ストレスへの対処法など、メンタル面でのケアも重要です。

リスクの把握が、「現地化」につながる

ここまで、海外進出先で襲われる様々なリスクを見てきました。
思わぬリスクに見舞われないためにも、進出する前に現地の情報を徹底的に収集することが大切です。

インフラがどの程度整備されているのか、どんな災害が多いのか、政情・治安面での不安や感染症リスクなど、あらゆる情報の収集が求められます。

実際に進出してからは、現地の従業員・スタッフ、そして地域の人々と適切な手法でコミュニケーションをとり、「現地に根付く」ことを目指すべきでしょう。そして、本社は進出先・駐在員のステータスを把握し、必要な支援を切れ目なく行うことが求められます。

海外進出先におけるリスク対策は、現地の風土・気候・価値観・商習慣などを把握し、「現地化」を進めてビジネスチャンスを生む可能性もあります。

リスク対策を「コスト」と捉えず、積極的に取り組むことが、「海外進出」を成功させる一つの要素になるでしょう。

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