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BCP策定に便利なテンプレ集3選と、管理手法であるBCMまでを徹底解説!

自然災害や事故など緊急事態が生じたときに、製品やサービスを供給し続けることである「事業継続」は、企業の命運を左右する重要問題です。だからこそ、事業継続を確実にするための事業継続計画(BCP)策定や、円滑な運用(BCM)は、近年の東日本大震災や新型インフルエンザ流行ともあいまって、社会的に大きな注目を集めています。

内閣府調査によれば「2019時点で大企業の約68%がBCP策定済み」と、関心が急激に高まっていることがわかります。

とはいえ当調査結果で、中堅企業でのBCP策定率はまだ34%強にとどまっているのが現状。そこでここでは、「そもそもBCPとは何か」という原点に立ち返った上で、BCPの必要性について、管理手法であるBCMの意義と合わせて解説します。そしてまだBCPを策定していない企業のために、役に立つテンプレートを3点ピックアップし、それぞれの特長を説明します。

BCPとは何か?

BCPとは、「Business Continuity Plan」の略で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれます。これは、企業が緊急事態に直面した場合に、損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするため、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。

これを一言で表現するならば、BCP(事業継続計画)とは、有事の際の行動計画を表した文書です。一般的に具体的対策としては、装置や設備、施設など代替手段の確保や、そのための人員確保などが挙げられますが、これらを実行可能とするために作成される文書がBCP(事業継続計画)です。

なおここで挙げる「緊急事態」にはさまざまな状況があります。最も分かりやすいのが自然災害であり、地震や台風、集中豪雨による水害、新型インフルエンザによるパンデミックなどが代表例です。
また停電、原子力事故、テロの発生といった外的リスクもBCPの対象となります。自社を狙った恐喝や営業妨害、自社に対するサイバー攻撃など、さらに重要な取引先や不可欠な部品を製造している仕入れ先の倒産なども考えられます。
その他、内的リスクも対象となります。一例として、食中毒、製品のリコール、異物混入などの問題が発生した場合、また従業員による個人情報の持ち出しや流出、コンプライアンス違反、粉飾決算など、組織に問題があるケースも含まれます。

なぜBCPは必要なのか?

事業継続計画(BCP)のイメージ図

上述した「緊急事態」は前ぶれなく、突如として企業を襲います。アクシデントによる損失の度合いが企業体力以上に膨れたとき、企業は事業継続不可能な事態に陥ります。最悪の状況を回避するためには、生産、営業、流通といった事業活動をいかに早く再開し、企業体力を損失が上回る前に収支のバランスを正常に戻すかが重要です。

このため企業は、短期的には「重要な事業活動に絞って」事業を復旧させ、長期的には「目標とする期間で災害発生前の水準に戻すべく」事業を再構築します。
これらを行う際に、どれが収益に深く関係する重要事業か、また、重要事業を復旧させるために必要な要素は何か、あらかじめ定義しておかないと、緊急時に順序を間違えたり、必要な措置を取らなかったりすることにより、体力の少ない災害直後の時期に重大な危機に陥ります。

緊急時の被害や操業停止期間を最小限にすることがBCP(事業継続計画)の役割です。
また、BCP(事業継続計画)の策定により、顧客の信用を維持し、市場関係者から高い評価を受けることとなり、企業価値の維持・向上につながるといったメリットもあります。

BCP策定例!テンプレート集3選

BCP(事業継続計画)には大きく分けると「自由に作る」か「ISO22301を取得する
という、二つの作り方がありますが、現在策定されているBCP(事業継続計画)の大多数は前者によるものです。

書籍やガイドラインを参考に自社のBCP担当者が自力で作成する方法、行政や各種団体が用意しているテンプレートを用いて作成する方法、専門家やコンサルタントに依頼する方法などがありますが、ここでは策定にあたっておすすめのテンプレートをご紹介します。

ここで挙げるテンプレートには、BCPで作成する文書(例:従業員連絡リスト、供給品目・供給業者情報など)のテンプレートに加え、BCP(事業継続計画)のガイドラインも付いており、他のテキストや書籍を参考書代わりにそろえる必要がないというメリットもあります。

中小企業庁 中小企業BCP策定運用指針

国内企業の99%を占める中小企業にBCP策定を促すことを目的として、中小企業庁が作成したテンプレートです。指針には、中小企業の特性や実状に基づいたBCPの策定方法が、わかりやすく説明されています。

中小企業がBCP策定に投入できる時間と労力に応じ、「入門コース」(所要時間は、経営者1人で1~2時間程度)」「基本コース(略)」「中級コース(略)」「上級コース(所要時間は、経営者含め数人で延べ1週間程度)」の4パターンが用意されています。
帳票印刷のための「財務診断シート」に加え、アウトプットイメージとして各業種のサンプルも用意されており、このサイトのみでBCP策定作業が完結するよう、配慮されています。
また「従業員携帯カード」「避難計画シート」等の雛形もダウンロードできるようになっています。

特定非営利活動法人 事業継続推進機構

事業継続初級管理者試験や事業継続准主任管理者試験の実施団体である事業継続推進機構(BCAO)が作成しているテンプレートです。

簡略版と本格版、2パターンが用意されています。ガイドラインとテンプレートが一体化しており、ガイドラインを読み進めながら同時に並行してテンプレートを穴埋めして完成させていくことができるメリットがあります。

東京商工会議所

「本編」で東日本大震災での教訓、BCPの重要性などが事例豊富にわかりやすく解説されており、別添の「様式」がテンプレートとなっています。

東商ではBCP策定のセミナーやワークショップも開催しているため、活用してもよいでしょう。

※その他、下記資料もBCP作成にあたり役立ちます。
●各都道府県発行のガイドライン
各都道府県が発行しているガイドライン等が一覧形式で示されています。想定している災害など特性が顕著なサイトもあるため、企業の立地に応じて参照するとよいでしょう。
●業界・経済団体等が発行しているガイドライン
(社)不動産協会、日本証券業協会、(社)全国建設業協会など、業種ごとに加盟企業向けのガイドラインが示されています。
●省庁別リスク別ガイドライン
国土交通省からは突発的に被害が発生するリスク(地震、水害、テロなど)に関するガイドライン、厚生労働省からは新型インフルエンザを含む感染症、水不足、電力不足などに関するガイドラインといった、個別リスクに関するガイドラインが示されています。
●事業継続計画書(BCP)を1時間で作成しよう!
本サイト内の過去記事です。こちらも是非参考にしてみて下さい。

BCMとは何か?

せっかく策定したBCPも、「陳列するような立派な形式のBCP文書を作成したが、バインダに綴じこんでしまい、所在が分からない」、「文書作成にこだわりすぎ、テストや演習、訓練をしていない」などといったことがあると、いざというときにうまく機能しません。
机上で作られただけのBCPでは、実際に動こうとしても、必要な物がない、想定した手段・方法が機能しないなどのトラブルにより、なかなか計画通りにいかないものです。

そのような事態を防ぐためには、常日頃から、いざという時に必要となるモノや情報を管理しておき、決められた手段・方法が実際に機能するかどうか実際に行うなどの確認をし、メンテナンスが重要となってきます。

このように、有事の際に適切な行動を行えるようにするための管理のしくみを「事業継続マネジメント(Business Continuity Management)」略してBCMといいます。BCPはその具体的な手続きを記載した文書、いわば成果物です。

BCMの流れを一挙解説

BCMは一般的に下記のPDCAサイクルによって運用されています。

1、方針の策定

基本方針の策定

自社の経営方針や事業戦略に照らし合わせ、自社の事業継続に対する考え方を示す基本方針を策定する必要があります。あわせて、事業継続の目的やBCMで達成する目標を決定し、BCM の対象とする事業の種類や事業所の範囲なども明らかにする必要があります。

BCM においては、顧客及び自社、関連会社、派遣会社、協力会社などの役員・従業員の身体・生命の安全確保や、自社拠点における二次災害の発生の防止は、最優先とすべきとされています。

また、地域への貢献や共生についても、可能な範囲で重要な考慮事項として取り上げることも推奨されています。

BCM実施体制の構築

経営者はBCMの導入に当たり、分析・検討、BCP策定等を行うため、BCMの責任者及びBCM事務局のメンバーを指名し、関係部門全ての担当者によるプロジェクトチーム等を立ち上げるなど、全社的な体制を構築する必要があります。

BCPを策定した後も、この体制を解散させず、事前対策及び教育・訓練の実施、継続的な見直し・改善を推進するための運用体制に移行させ、BCMを維持していく必要があります。

2、分析・検討

事業影響度分析

企業・組織として優先的に継続または早期復旧を必要とする重要業務を慎重に選び、当該業務をいつまでに復旧させるかの目標復旧時間等を検討するとともに、それを実現するために必要な経営資源を特定する必要があります。

影響度を評価する観点

・利益、売上、マーケットシェアへの影響
・資金繰りへの影響
・顧客の事業継続の可否など顧客への影響、さらに、顧客との取引維持の可能性への影響
・従業員の雇用・福祉への影響
・法令・条例や契約、サービスレベルアグリーメント(SLA)等に違反した場合の影響
・自社の社会的な信用への影響
・社会的・地域的な影響(社会機能維持など)

リスク分析・評価

リスクの分析・評価は、事業影響度分析で選定した重要業務に対して、次のようなステップで行います。

・発生事象の洗い出し
事業中断を引き起こす可能性がある事象をできるだけ洗い出します。

・リスクマッピング
発生の可能性及び影響度について定量的・定性的に評価し、優先的に対応すべき発生事象の種類を特定し、順位付けをします。

・対応の対象とする発生事象によるリスクの詳細分析
優先的に対応する事象により生じるリスクについて、自社の各経営資源や調達先、インフラ、ライフライン、顧客等にもたらす被害等を想定します。

3、戦略・対策の検討と決定

事業継続戦略における検討の視点は、重要な事業に必要な各重要業務の目標復旧時間・目標復旧レベルの達成を目指すものであるから、これら重要業務に不可欠な要素、特にボトルネックとなる要素をいかに確保するかを検討することになります。

その方向性として、第一に、想定される被害からどのように防御・軽減・復旧するか、そして、第二には、もし利用・入手できなくなった場合にどのように代わりを確保するか、の二つの観点が主なものとなります。

また、今後のBCMの見直し、継続的改善の実施を念頭に、分析から戦略・対策の決定に至った根拠、経過の資料、選択理由等は、記録として保持しておきます。

検討の観点

企業・組織が検討すべき事業継続戦略を検討する観点は、以下が特に重要となります。
① 重要製品・サービスの供給継続・早期復旧
② 企業・組織の中枢機能の確保

さらに、次の観点も重要となります。
③ 情報及び情報システムの維持
④ 資金確保
⑤ 法規制等への対応
⑥ 行政・社会インフラ事業者の取組との整合性の確保

BCM によって達成すべき目的は、重要事業である重要な製品・サービス供給の継続または早期復旧になります。この目的をどのように達成するか、以下の観点で検討します。

業務拠点に関する戦略・対策

・拠点(本社、支店、工場等)の建物や設備の被害抑止・軽減
・拠点の自社内での多重化・分散化
・他社との提携など

調達・供給の観点での戦略・対策

・適正在庫の見直しや在庫場所の分散化による供給継続
・調達先の複数化や代替調達先の確保など

要員確保の観点での戦略・対策

・重要業務継続に不可欠な要員に対する代替要員の事前育成・確保
・応者受け入れ体制・手順の構築など

緊急時には、平常時の業務では求められない全体的な情報収集や分析、迅速な意思決定と指示、情報発信等の業務に関する必要性が相当高まることが想定されます。
その中で、企業・組織の本社などの重要拠点が大きな被害を受けた場合、中枢機能が停止する可能性がありますが、それは企業・組織にとって事業継続上の重大な制約要因となるため、これを防ぐ戦略・対策が必要となります。

地域との共生と貢献

緊急時における企業・組織の対応として、自社の事業継続の観点からも、地域との連携が必要となります。
重要な顧客や従業員の多くは地域の人々である場合も多く、また、復旧には、資材や機械の搬入や工事の騒音・振動など、周辺地域の理解・協力を得なければ実施できない事柄も多いためです。

まず、地元地域社会を大切にする意識を持ち、地域との共生に配慮することが重要です。

4、計画の策定

前項でご紹介したBCP(事業継続計画)のテンプレ集や、「事業継続計画書(BCP)を1時間で作成しよう!」などを活用して、具体的な計画を策定します。

BCPだけでなく、BCM の点検、経営者による見直し、継続的改善等を確実に行っていくため、「見直し・改善の実施計画」を策定し、体制、スケジュール、手順を定め、それに基づき見直し、改善、着実に実施していくことも必要です。

定期的に実施すべき点検や見直しもあれば、必要に応じて随時行うべき見直しもあります。

計画の文書化

必要に応じて部門や拠点別、役割別にも計画書として文書に落とし込むことが重要です。また、実際の作業を円滑にするために、マニュアル、チェックリスト等も必要に応じて作成します。

一方で、文書は継続的に最新の内容として維持していかなければならないものです。また、実際の被害が想定と異なる場合、BCPの内容を柔軟に応用する必要性を考慮すれば、文書の重要性はその緻密さにあるのではなく、対応者の行動を有効にサポートすることにあります。いずれにせよ、文書化自体が目的とならないよう、十分に注意する必要があります。

さらに、緊急時に使用するBCP、マニュアル等は、対応者に配布し、常に活用できるよう適切に管理させることが重要となります。

5、事前対策及び教育・訓練の実施

事前対策の実施

策定した事前対策の実施計画に基づいて、担当部署及び担当者は、それぞれの事前対策を確実に実施します。また、各部局が実施する事前対策は、その部局の管理者が進捗を管理するとともに、BCM事務局としても進捗を確実に管理します。

尚、BCP等の策定が終了し、分析・検討に当たってきた事務局やプロジェクトチームの作業は一段落することになりますが、この体制については、単に解散するとノウハウの散逸をまねくことが多いことから、全社的な体制として発展的に維持し、事前対策及び教育・訓練の実施以降における体制とすることが強く求められています。

教育・訓練の実施

教育・訓練には、講義、対応の内容確認・習得、意思決定、実際に体を動かす等、対象や目的に合わせて様々な教育・訓練を行うことが重要です。策定した教育・訓練の実施計画に基づいて、定期的(年次等)に行うほか、体制変更、人事異動、採用等により要員に大幅な変更があったとき、さらに、BCP の見直し・改善を実施したときに行います。
いずれの教育・訓練方法についても、その有効性を評価するため、目標を明確に定め、その達成度を評価する方法をあらかじめ決めておくことが必要となります。

6、見直し・改善

点検・評価

BCM 担当者は、BCMの有効性低下やBCPの陳腐化を防ぐため、BCPを含むBCMの内容や実施状況等について、定期的( 1 回以上)に点検を行う必要があります。
また、経営者は、BCMの見直しを、自社の事業戦略や次年度予算を検討する機会と連動して、定期的(年に 1 回以上)に行う必要があります。
加えて、自社事業、内部または外部環境に大きな変化があったときにも見直しを行うべきであり、さらに、自社がBCPを発動した場合も、その反省を踏まえてBCM の見直しを実施すべきです。

BCPが機能するか

企業・組織は、策定したBCPによって重要業務が目標復旧時間や目標復旧レベルを本当に達成できるかを確認する必要があります。まず、達成の前提として実施が決まっていた事前対策の進捗を確認し、その効果が発揮されるかを確認(試験)することが重要となります。

BCMの観点

BCMが進んでいる企業・組織においては、監査の活用も有効です。以下の事項などについて、適切性・有効性等の観点から検証するため、年1回以上定期的に行うことが考えられます。

・事前対策、訓練、点検等がスケジュール通り実施されているか
・予算は適切に執行されているか
・事業継続戦略・対策は有効か、費用対効果は妥当か
・教育・訓練は目標を達成しているか
・業界基準やベストプラクティス等と比較して重大なギャップはないか

自社の事業継続能力が向上している

継続的改善

その後の BCM の進捗状況、点検の結果、訓練の結果などから明らかになった BCM の弱点、問題点、課題、現状の対策では未対応である残存リスク等を整理し、その中から経営者と議論し判断を仰ぐべき内容を選定します。

一方で、経営者は、率先して、BCM 事務局に対して BCM の見直しの要点をあらかじめ指示することも考えられます。特に、自社事業、経営環境、利害関係者からの要求の変化などには経営者としても十分留意し、これらと BCM が適合しているかについて見直していく必要があります。

まとめ

東京商工会議所が平成27年に実施した調査によれば、BCPを策定していない理由は「ノウハウ・スキルがない」が約6割と最多でした。たしかにBCPを一から作成することは労力・時間の面でも、また外部に依頼する場合はコストの面でも負担が大きいもの。しかしご紹介したテンプレートに沿って欄を埋めていけば、短時間で要領よくまとめあげることが可能です。

まずは策定を行い、策定したものを、PCDAサイクルに沿って地道にメンテナンスするBCMの考え方が、緊急事態に迅速に対応するために不可欠と言えるでしょう。

その他、「社内調整や意思決定が進まない」という声もよく聞かれるところ。総務部門など、社内業務に詳しく全社に顔の利く社員を担当者に起用することで、各部署とのコミュニケーションが活発化し全社的な協力関係が生まれることが期待されます。

緊急事態に迅速に対応できるためには、地道な努力が不可欠。ご紹介したサイトには様々な課題解決の事例が取り上げられているのでこれらも参考にしつつ、有事への備えを万全としたいものです。

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