被害想定シナリオを作成し、事業影響分析(ビジネスインパクト診断)、ボトルネックの分析、初動対応計画の文章化ーーほかにもたくさんの作業を、企業のほとんどの部署を跨いで作成した事業継続計画(BCP、Business Continuity Plan)。これだけ大変なことをやり遂げたのですから、作成して満足してしまう方も多いのではないでしょうか。
でも、BCPは作っただけでは意味を持ちません。その内容を社内に周知し、学ばせながら訓練をして、実際に被害に遭ったときに実践できるように準備を進めておくことが重要です。「やっとの思いでBCPを作成した」だけで終わらせないために、BCPの社内共有の必要性について、考えてみましょう。
■目次■
1.社内でBCPを共有をする意義
2.BCPの効果的な教育・訓練方法
・⑴社員研修(新入社員教育など)
・⑵訓練
・⑶携帯カード
・⑷eラーニング
3.BCPの訓練方法(机上訓練や実地訓練など)
・⑴防災訓練
・⑵初動対応向けの訓練
・⑶安否確認訓練
・⑷机上訓練
4.まとめ
社内でBCPを共有をする意義
BCPを共有するメリットは主に3つあります。
1、実際に災害が発生した際に、計画通り従業員が行動できるようになる
2、計画したBCPに漏れや改善点がないかを確認できる
3、通常業務におけるリスク意識が向上する
社内を奔走し、苦労して作り上げたBCPだからこそ「完成した!」と保管用の棚にしまっておくだけではもったいない。BCPは不測の事態に直面したとき、すばやく復旧するための機動性と柔軟性を発揮するために存在するのです。
さらに、社内でBCPを共有する文書や研修、訓練などを行うと、必ず漏れや改善点など、更新すべき問題点が浮かび上がります。
そして、BCPを共有しておくことで、社員一人ひとりのリスクに対する意識が向上します。BCPの重要性と、日々の仕事に潜むリスクを知ることで、通常の業務中にも、きちんと品質管理や情報セキュリティに目を向けられるようになります。
このように、全員が共通の認識を持ってこそ事業の継続につながるのです。
BCPの効果的な教育・訓練方法
では、実際にどのような方法で経営陣や社員にBCPの内容を広めるべきか。代表的な方法をまとめてみました。
BCPの教育(テキストやセミナー、ワークショップなど)
企業が社員に行う教育や訓練と言えば、講師を呼んで研修を行ったり、外部のセミナーに参加することを想像するかもしれませんが、BCPは知識だけで成り立つものではありません。社員一人ひとりが実践的に関わることで、理解を深めることが必要になります。
1、社員研修(新入社員教育など)
社内で研修会を実施し、BCPのポイントを説明する機会を設けましょう。そこでは経営陣が「会社をあげてBCPを重要視している」といったメッセージを伝えることが、社員一人ひとりのBCPに対する意識を向上させるためには必要です。
・BCPを重要視している理由の共有
・BCPの取り組みを共有
・災害発生時の行動や役割の共有
2、訓練
実際に大地震やテロ事件が起こったという想定のもと、実践的な訓練による疑似体験の場を設けましょう。訓練については次項「BCPの訓練方法」で紹介します。
3、携帯カード
企業の規模や作成の方針によって、BCPは膨大な量になります。このとき、BCP策定に関わった防災担当者は内容をある程度把握する必要があるかもしれませんが、その他の一般社員はすべてを把握する必要はありません。むしろ、最低限知っておいてほしいことをきちんと理解してもらうことが重要となります。
たとえば、BCPについて最低限知ってほしいことを「携帯カード」にまとめて、全社員(経営陣など含める)に配布するやり方があります。
・BCPの方針の共有
・地震や津波、パンデミックが発生した際の直後に行うべき行動の共有
・連絡先、安否確認システムの操作方法の共有
4、eラーニング
eラーニングのメリットは「いつでもどこでも学習ができる」こと。全社員が自分のペースで学ぶことができるため、意欲的に捉えている人にとっては都合がいいのですが、興味を持っていない方にとっては関心が薄れがち。
そこで、期間を設けて学んでもらったり、eラーニングで学んだことを訓練できる機会を設けるなどするといいでしょう。また、eラーニングは受講履歴が残るため、まだ履修していない社員へ受講をうながすことができます。
・BCPの取り組みを共有
・災害発生時の行動や役割の共有
・いざというときにどこに逃げるべきかの共有
・地震や津波、パンデミックが発生した際の直後に行うべき行動の共有
・連絡先、安否確認システムの操作方法の共有
BCPの訓練方法(机上訓練や実地訓練など)
BCPの訓練は実にさまざまな種類があります。すべての訓練の目的は「緊急時に考え判断できるようになる」こと。ここでは、とっつきやすく、かつ習慣化できる訓練を紹介しましょう。
1、防災訓練
消火訓練や避難訓練、救助訓練などおなじみの訓練です。
地震や火災などを想定した場合に有効で、実際に人が移動して対応するので、行動が伴っているという点でリアリティがあります。これを第一のBCPの訓練として、レパートリーを増やしていきましょう。
2、初動対応向けの訓練
初動対応計画とは、「人命保護最優先の活動計画」のこと。発災直後1時間の安全確保や応急救護、また社員の安否確認などを指します。発災直後にすぐに対応すべきことばかりで、スピードが求められます。以下の3つの訓練を推奨します。
3、安否確認訓練
災害発生後にまず実施すべき内容は「安否確認」。平常時、社員同士ではメールや電話で頻繁にコミュニケーションをとっています。したがって安否確認のやりとりは問題なくできると思われがちですが、実際に災害が発生した場合、普段使っている携帯やパソコンが十分に使える保証がないため、全社員を対象に実施しましょう。
安否確認訓練の内容は、どのような手段で安否確認を行うかによっても違ってきます。もし、安否確認システムを導入している企業であれば、全社員に地震発生のメールを送信しましょう。それから、役員・社員からの返信を待ちます。返信率が100%になるまで、訓練を継続します。「無事・けが」などの数やけが人の状態などを緊急対策本部(防災担当者)へ報告する訓練も忘れずに。
安否確認システムとは、災害時に企業が従業員の安否状況を確認するためのシステムのことです。基本の機能として、登録されている従業員のメールアドレスにメールを一斉送信し、受信した従業員が自分の安否情報を回答することで、安否確認を行うというものがあります。
引用:『安否確認システムとは?28サービスの比較からメリットまで徹底紹介!』より
安否確認システムを導入していない企業では、電話を用いて「一般社員→課長(リーダー)→部長(マネージャー)→緊急対策本部(防災担当者)」と、連絡網を作成し安否確認訓練を行いましょう。
この場合、一般社員→課長(リーダー)と下から上に安否確認をするのか、またその逆にするのかは、あらかじめ定めておく必要があります。電話がつながりにくい場合も想定して、携帯メールでの訓練も行っておくことをオススメします。
4、机上訓練
机上訓練とは、BCPで検証したいあるテーマをもとに災害発生のシナリオを作成。そのシナリオに対してどのように対処するか、参加者が一室に集まって、その名の通り机の上でシミュレーションする訓練のことです。図上演習とも呼びます。
引用:『BCP改善のために欠かせない「机上訓練」を成功させるには』より
机上訓練はグループ討論形式の演習です。シナリオの中で提示された状況や問題に取り組みます。BCPの漏れや改善点などを見つけるのにも適している訓練です。その他にも、BCPの手続きの確認など、BCPに対しての認識を深めるのにも適しています。
進行役は模範解答を提示せず、参加者が最適だと思う答えを出します。このときの「最適な答え」とは、正解か不正解かということではありません。その討論の中で、みんなが正しい判断だと思うような答えのことを指します。
机上訓練は以下の通りに進めていきましょう。
①計画・準備:シナリオと質問を考える
まずは机上訓練のテーマを考えましょう。たとえば「突然大地震が起きて、社内のすべての業務が中断したとき、防災担当チーム(BCP策定チーム)が最適な答えを判断できるか、目標時間内の仮復旧の目処が立つか」などです。大きなシナリオをひとつ考え、シナリオに付随する質問を数個考えるといいかもしれません。1回の机上訓練では最長3時間を見込むことが多いので、かかりそうな時間も考えながら準備を進めます。
テーマが決まったら、必要に応じて時系列の環境の変化を設定。たとえば、発災直後〜1時間でこうなる、1時間後〜4時間後にこうなる……というふうに考えていくと、それぞれの時間に起こることが見えてきます。
これらのシナリオと質問が決定したら、A4用紙に印刷して配布したり、カードに記載。これで、準備は終わりです。
②実施:訓練を進める
訓練は、1グループに3〜5人で進めることを推奨します。
1、進行役が訓練のテーマなどを説明します。
2、本題に入ります。
・具体的なシナリオを提示
・質問を提示
・個人で考える時間を設ける(5〜10分前後)
・グループで討論する(15〜30分前後)
・回答を集約し、グループごとに発表する
3、すべての手順をシナリオと質問のセットごとに反復します。
③評価
訓練終了後、参加者にアンケートを書いてもらうといいでしょう。ここで出た意見によって、現在のBCPの不足事項や、今後の検討事項などを洗い出すことができます。
まとめ
BCPは完成したときは最新でも、翌日から古い情報になっていきます。たとえば、BCPに書き込んでいた製造元の連絡先が変わっているかもしれないし、バックアップシステムのアップロードがあって、ログイン方法が変わっているかもしれません。
だからこそ、BCPを完成させるだけで満足せず、BCPの内容を広め、学び、教育や訓練を通してBCPそのものを更新していきましょう。