突然ですが、「ビジネスインパクト分析」という言葉を、あなたはご存知ですか?
これは、災害など不測の事態によって業務やシステムが停止した場合に、会社の事業に与える影響度を評価することを指します。BIA(Business Impact Analysis)とも呼ばれ、事業継続計画を立てるうえで必ず実行しなくてはならないステップと言われます。
ただ、このビジネスインパクト分析においては複数の要素を検討しなければならず手間もかかるため、「時間の無駄」だと考える担当者もいることでしょう。
そこで今回は、ビジネスインパクト分析を実施する目的や、ビジネスインパクト分析をBCPに生かす方法までご紹介します。
目次
ビジネスインパクト分析をおこなうための、3つの目的
まず、ビジネスインパクト分析によって以下の3つの目的を達成します。
1.業務と、それに関連するリソースの洗い出し
災害時、業務が停止となったときに自社が存続するためにどの業務が必要不可欠であり、その業務に対して、どのようなリソース(「原材料」「社員」「物流」「取引先」「システム」など)が必要となるか洗い出します。
災害時に「システム」が被害を受けたらどの業務が停止してしまうのか、半数の社員しか出勤できない状況でどの業務を継続できるのか、などを検証します。
2.復旧業務の優先順位を付ける
自社の業務について、複数の基準でそれぞれ点数をつけて、災害時に復旧する業務の優先順位を決めます。災害時には複数ある業務のうち、優先順位が高いもの(最も影響の大きいもの)より対応することとなります。
優先順位付けの基準として「顧客(ユーザー)への影響度」や「取引先への影響度」、「自社の社会的信用への影響度」などを考慮します。
3.「最大許容停止時間」と「目標復旧時間」を算出する
災害後に製品・サービスの提供が再開できない場合に組織が存続できなくなるまでの「最大許容停止時間」と、その最大許容時間内で復旧を目指す「目標復旧時間」を設定します。
のちほど説明しますが、この“時間”の設定がビジネスインパクト分析をBCPに効果的に生かすためにもっとも重要となります。
ビジネスインパクト分析において考えるべき2つの切り口「基準」「時間軸」
では、以上の目的を踏まえて、ここからはビジネスインパクト分析にあたって考える、「評価軸(基準)」と「時間軸(最大許容停止時間と目標復旧時間)」という、ふたつの切り口について見ていきましょう。
「評価軸(基準)」
ビジネスインパクトではそれぞれの業務を複数の基準で評価して、総合的な影響度が高いものから優先して対策を考えていきます。この基準は大きく3つの視点で分けられます。
まずは「ステークホルダー(利害関係者)に与える影響」。顧客や株主、委託先への影響や従業員への影響のように、会社に関わる組織や人間が業務停止によってどのような影響を受けるのか考えます。
次に、「事実上の影響」。金銭的な影響や法律上の影響、そして会社運営上の影響のように、外部ではなく、そもそも会社としてどのような影響を受けるのかという視点です。
最後に、「企業ブランド・社会的責任に与える影響」です。業務が停止することにより会社の評判が悪化しないか、社会全体に影響を与えないか、ということを検討します。大企業や競合が少ない企業ほど、社会への影響は大きくなります。
「時間軸(最大許容停止時間と目標復旧時間)」
すでに述べたように、ビジネスインパクト分析では「最大許容停止時間」と「目標復旧時間」という時間軸の中で分析を進めます。
最大許容停止時間は、MTPD(Maximum Tolerable Period of Disruption)とも呼び、重要業務が停止して事業が中断した際に、会社として最大限待つことのできる時間のことです。会社にとって、どの業務が重要なのか、導きだすために使われます(最大許容停止時間が短いほど、会社にとっての重要度は高い)。
この最大許容停止時間には、ステークホルダー(利害関係者)に与える影響が大きく関係します。「自社の業務停止を顧客がどれだけ待てるのか」という視点が重要です。
目標復旧時間は、RTO(Recovery Time Objective)とも呼び、停止した事業をいつまでに復旧するか目安を表すために設定されます。
この目標復旧時間は事業の性質によって設定する時間が異なりますが、やはり、ステークホルダーに与える影響を考慮することが欠かせません。顧客との間で引いた納期遅延のペナルティや、信頼関係を失うまでの期間、インフラ系企業の場合は、社会への影響度も考える必要があります。
この「評価基準」「時間軸」を検討して、ビジネスインパクト分析を進めていきましょう。
ビジネスインパクト分析をBCPに生かすために重要となるのは、“時間”という視点
ただしこのビジネスインパクト分析、BCPを立てるうえで「時間の無駄」と考えられることもあります。
確かに、「ビジネスインパクト分析は複数の要素について検討するために時間や手間がかかりすぎる」「あえて分析をしなくても、重要な業務は認識できている」と考えるBCP担当者もいることでしょう。
しかし、それはその担当者がビジネスインパクト分析を有効に実施できていないだけ。ビジネスインパクト分析を生かしたBCP策定のカギは、“時間軸”の利用にあります。
BCPを策定するときには通常、被災シナリオをまず想定しますが、その被害想定を業務停止時間を利用して表すようにしましょう。ビジネスインパクト分析で設定した目標復旧時間との差を検証することができます。
たとえば、ビジネスインパクト分析でシステム停止の目標復旧時間を「24時間」と定めたとしましょう。もしこの企業がBCP策定において、「大規模な地震によってシステムが48時間にわたって停止」という被害を想定している場合、そこには明らかにギャップが発生しています。
ビジネスインパクト分析:「24時間以内にシステムを復旧しなければならない」
BCP:「48時間システムが停止した場合でも、BCPにしたがえば対応できる」
ここでギャップが生まれているということは、そもそもBCPにおける被害想定が間違っていたということになり、再度見直しが必要だとわかります。
また、BCP策定前にビジネスインパクト分析をおこなっていれば、そこで設定した目標復旧時間にしたがって、より正確なBCPを立てることができます。
このように、BCPでの被害想定を時間軸で設定すれば、ビジネスインパクト分析を活用できるのです。
「ビジネス」視点でBCPを見直そう
ビジネスインパクト分析の最大の利点は、起こりうる災害を「リスク」ではなく「ビジネス」視点で強く捉えられることです。
「災害が起きたら、こう対処しなければならない」ではなく「災害が起きて、ビジネスを維持するには、こう対処しなければならない」をビジネスインパクト分析を通して意識できます。
ぜひこの記事を参考に、BCPだけでなくビジネスインパクト分析もおこなってみてください。