通勤災害の手続きを解説!必要書類も

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遠藤 香大(えんどう こうだい)

通勤災害は、会社へ通勤するすべての人に存在するリスクです。万が一に備えて、手続きまでの流れや書類などを確認しましょう。この記事では企業目線で、通勤災害に関する手続きや必要書類などを解説します。ぜひ参考にしてください。

通勤災害とは

通勤災害とは、労働者が通勤中に事故や事件に巻き込まれた際の労務災害です。労務災害には通勤災害のほか、業務災害があります。

ここでいう通勤とは、次の3つのパターンです。

  • 住まいと職場の行き来
  • いまいる勤務先から別の勤務先への移動
  • 単身赴任先の住まいと家族の住まいの行き来

通勤経路や方法によっては、通勤災害として認められないケースもあります。たとえば仕事帰りに食事へ行き、逆方向の駅に立ち寄ってから帰宅した際の事故は、通勤災害として認められません。

通勤災害が認められると、次のような保険給付が受けられます。

  • 医療給付:治療費を補償する
  • 休業給付:事故で仕事を休むにあたって、賃金の一部を補償する
  • 障害給付:万が一障害が残った場合に補償する
  • 遺族給付:残された遺族に対して補償する

通勤災害の発生により労働者から企業側に連絡があれば、企業側は速やかに手続きをしましょう。

企業が知っておくべき通勤災害が起きたときの手続きや書類

企業の担当者は、従業員から「通勤災害が起きた」と連絡を受けたら、まずは病院に対して手続きをします。次に書類を準備し、労働基準監督署に提出したり、被災者の書類提出をサポートしたりしましょう。

書類の提出にあたっては、従業員が労災指定病院で受診したかどうかが重要です。それぞれで書類の様式が異なるためです。

  • 労災指定病院:療養給付たる療養の給付請求書【様式第16号の3】
  • 労災指定病院以外:療養給付たる療養の費用請求書【様式第16号の5(1)】

ほかにも、薬局で処方された場合は、別の様式の書類が必要です。これらの書類は、労働基準監督署または厚生労働省の公式ホームページから入手できます。

病院で診察を受けるまでの流れ

通勤災害の手続きは、従業員から「通勤中に怪我をした」と連絡が入ったタイミングから始まります。流れを確認しましょう。

①病院で診療を受けるよう指示を行う

最初に、従業員の安否を確認します。本人から連絡が来ることもあれば、目撃者から連絡が入ることもあります。従業員が負傷しているときは、病院で診察を受けるように指示しましょう。

病院の受付で「業務災害である」と伝えるよう依頼します。

②病院先の情報、診察内容の確認

従業員や関係者から、治療を受けた病院名や住所を聞き取ります。

手続きの方法は、労災指定病院かそれ以外の病院かによって異なります。病院に連絡し、労災を取り扱っているか確認しましょう。

あわせて従業員が健康保険証を使ったかどうかも尋ねてください。健康保険を使用した場合、必要な手続きが増えます。

労災指定病院で診察を受けた場合

ここからは、従業員が労災指定病院を受診したケースの手続きを紹介します。

労災指定病院とは、労災保険法に基づく治療ができる医療機関です。厚生労働省のホームページに全国の労災指定病院が掲載されています。

③療養給付請求書の作成、病院へ提出

労災指定病院の場合、「療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)」を作成します。書類を用意している労災指定病院も存在します。

企業がこの書類を病院に提出し、病院から管轄の労働局に提出するという流れです。念のため、病院側に確認し、手続き漏れがないようにしましょう。

労災指定病院で受診すると、そうでないときと比べて手続きが簡略化されるのが特長です。普段から付近の労災指定病院を従業員に共有しておくと、万が一の際にもスムーズに対応できます。

労災指定外の病院で診察を受ける場合

従業員が、労災指定病院以外の病院で診察を受けるケースもあります。ここからは、労災指定病院以外で治療した場合の手続きを紹介します。

④療養給付請求書の作成

労災指定外の病院で受診した際は、まず、本人が治療費を全額支払います。書類を整えて労働基準監督署に申請すると、後から治療費が返還されます。

通勤災害では「療養給付たる療養の費用請求書(様式16号の5))」が必要です。

書類には、事業主だけでなく本人や家族による記載欄があります。本人や家族の記載が困難な場合は、会社の担当者が記載してください。

また、クリニックや受けた治療の種類によっては「療養給付たる療養の費用請求書(様式16号の5)」ではなく、他の書類を提出する必要がある場合もあります。たとえば、薬局では「様式第16号の5(2)」が必要です。

(参考:療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書の一覧

⑤病院からの証明を受ける

医療費を健康保険で支払った場合、従業員は保険負担額を返還しなければなりませんが、代わりに労災保険を利用できます。

これには企業だけでなく担当医師の証明も必要です。病院や医師に依頼をし、証明を受けるようにしてください。

⑥書類に治療費の領収書を添付し、管轄の労働基準監督署へ提出

病院による証明を受けたら、必要書類に治療費の領収書やレシートを添付して、管轄の労働基準監督署に提出します。

本人もしくは家族が申請しますが、企業側が代わりに出すケースも珍しくありません。誰が提出するか、本人や家族と話して決めておきましょう。

通勤災害なのに健康保険を使用したときの対応

通勤災害をはじめとする労災保険では、健康保険は使用できません。健康保険で支払うと、労働安全衛生法により50万円以下の罰金を求められる可能性があります。

ただし、事故直後に混乱し、誤って健康保険を使ってしまったケースもあるでしょう。

ここからは、そのような場合の対応方法を紹介します。

労災保険への切り替えができる場合

受診した病院に事情を説明し、健康保険から労災保険へ切り替えられるかを確認しましょう。

もし、切り替えが可能であれば、これまでに支払った治療費が返金されます。必要な書類を準備し、病院の窓口に持参してください。

労災保険への切り替えができない場合

病院のシステムや方針によっては、労災保険への切り替えに対応できないところもあります。

できない場合はまず、健康保険の本部に通勤災害である旨を申し出ます。それから「負傷原因報告書」を提出しましょう。

この書類が受理され次第、医療費返納の納付書が送付されます。手続きの都合上、納付書が送付されるまでに2ヶ月〜3ヶ月かかる場合もあるため、注意してください。

納付書による医療費の返還は、最初に従業員が建て替えなければなりません。返納金の領収書と病院で支払った費用の領収書を、必要な書類とあわせて労働基準監督署にすれば、医療費は従業員に返還されます。

通勤災害が認定されないときの対応

通勤災害は、申請しても認定されない場合があります。そのようなケースの対応法を解説します。

認定基準を再度確認する

認定基準を満たしていることを確認しましょう。事故現場や状況が通勤とみなされなければ、業務災害に該当しているかどうかも調べましょう。

たとえば、会社の運営するシャトルバスにて事故に遭ったら、通勤ではなく業務のための移動と解釈され、業務災害に認定されます。

また寄り道は、通勤災害認定基準の判断に影響を与えます。通常、大幅な寄り道では通勤とみなされません。ただし、夜食を購入するために通勤ルートを少し外れた程度であれば、認められる可能性もあります。

企業側は、事故の状況をチェックし、本人からのヒアリングを行いましょう。場合によっては、弁護士や労働問題に詳しい専門家へ相談もすることもおすすめです。

審査請求を3か月以内に行う

認定されない理由に不満がある場合、審査を依頼できます。

審査請求は、結果を把握した日の翌日から3か月以内にする必要があります。スケジュールを確認し、手続きをしましょう。

審査請求用紙をダウンロードする

審査請求は書面または口頭で可能です。書類で請求をしたい際は、必要書類を準備します。

審査請求用紙がダウンロードできる場所は次の通りです。

  • 労働基準監督署
  • 労災補償課
  • e-Govのホームページ

労働保険審査官へ書類を提出する

ダウンロードした用紙に必要事項を記入したら、労働保険審査官へ書類を提出します。提出は郵送で行います。

審査をしてもなお認定されない場合、2か月以内であれば再審査請求が可能です。このときは書面でのみ請求が認められます。

再審査の結果も不服であれば、残された方法は訴訟です。訴訟をする際は、専門家への相談や依頼がおすすめです。

過去の裁判では、次のような判決が示されています。

  • 私的な理由による大幅な迂回は通勤中とは認められない
  • 労働組合の集会で通常より約2時間早く出勤していた場合は、通勤災害として認められる

労災として認められない限り、医療費は全額自己負担です。健康保険の利用については、健康保険側に問い合わせましょう。使用が可能であれば、負担額を3割に抑えられます。

通勤災害の手続きを知っておこう!

通勤災害の対応は、受診した病院の種類で変わります。日頃から、従業員に対して通勤災害への対応を説明しておくとスムーズです。

また、通勤時間中に自然災害が発生し、事故に巻き込まれるケースがあります。通勤中の地震で列車が脱線したり、歩道橋から転倒したりすると、通勤災害に認定される可能性は高いでしょう。

そのような時には、従業員の迅速な安否確認が重要です。自動で安否を確認できるツールもありますので、活用をおすすめします。トヨクモの『安否確認サービス2』は、スムーズに安否確認ができるシステムです。いざというときに備えて、導入を検討してください。

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