地震や台風などの自然災害が多い日本に住んでいる限り、私たちはいつどこで被災してもおかしくありません。災害に対する備えは重要ですが、一方で不幸にも被災してしまったあとの行動も同じく重要です。
この記事では被災後に役立つ『罹災証明書』について、詳しく解説します。
目次
罹災証明書とは
罹災証明書とは、災害による被害状況を証明するための書類です。
災害対策基本法第90条の2に定められている通り、被災者から申請があった際、市町村長が被害の状況を調査して罹災証明書を交付します。罹災証明書は、火災保険の請求や税金の減免手続き、また各種証書などを再交付してもらう際に必要な書類です。
発行手数料は無料であり、複数枚発行してもらうことも可能です。罹災証明書の代わりに『被害届出証明書(被災証明書)』を交付する市町村もあります。
災害により被災したあと罹災証明書の申請がいつから開始されるかについては、災害の規模によって異なります。被災したあとは、広報誌を見たり、役所に問い合わせるなどをして常にチェックしておきましょう。
罹災証明書と被災証明書の違いとは
罹災証明書と被災証明書は、目的も内容も異なる書類です。
それぞれの証明書について、事前にしっかりと理解しておきましょう。
罹災証明書
罹災証明書は住居に対する被害について、その程度を証明するものです。市町村長は、被災者からの申請があれば、その申請に基づいて現地調査を行わなくてはならないと定められています。調査の結果『全壊』や『半壊』などの区分に認定されるのです。
罹災証明書は、被害に遭った被災者が関係各所へ届出をしたり、証書の再交付を申請したりする際に必要です。その他、火災保険の請求や税の減免手続きなどの際にも利用されます。
被災証明書
被災証明書は災害によって、住居以外のものについて被害を受けた事実を証明するものです。一例として、次のようなものが挙げられます。
- 居住を伴わない建物
店舗や事務所、その他工場なども含まれます。 - 屋外の設置物
倉庫や塀などです。 - 自動車、家財
家財や所有する車などが被害を受けた場合、被災証明書で被害を証明できます。
罹災証明書と違い、被災証明書の発行に際しては現地調査は行われません。また『全壊』や『半壊』など、被害区分の認定もありません。
災害で被害を被った企業は、被災証明書を取得することで災害復旧貸付が受けられる場合があります。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
罹災証明書で認定される区分
罹災証明書では、被害の程度に応じた認定が行われます。一方で、すべての状況に対して必ず認定される訳ではなく、ときには『被害なし』と認定されるケースもあるため注意が必要です。
全壊
『全壊』は、住居の損壊が甚だしい状態をいいます。
たとえ補修を加えたとしても今後住むことは困難と判断されるため、既存の建物を解体して建て直すしか選択肢がありません。
『全壊』と判断される住宅の損害割合は、家屋全体の50%以上が目安とされています。
大規模半壊
『大規模半壊』は、一定以上の損壊が発生しており、大規模な補修をしなければ住めない状態をいいます。
『大規模半壊』と判断される住宅の損害割合は、家屋全体の40%以上から50%未満が目安とされています。
半壊
『半壊』は一定以上の損壊が発生している状態ですが、一般的な補修をすることで元通りに住める可能性のある状態をいいます。
『半壊』と判断される住宅の損害割合は、家屋全体の20%以上から40%未満が目安とされています。
一部損壊
『一部損壊』は住居の一部に損壊が発生しているが、その程度が軽微な状態をいいます。また、損壊の程度が『半壊』にまでは至らない状況が『一部損壊』です。損壊の程度は軽微であったとしても、ある程度の補修は必要となるケースがほとんどでしょう。
『一部損壊』と判断される住宅の損害割合は、家屋全体の20%未満が目安とされています。
床上浸水
『床上浸水』はその名の通り、住居の床より上に浸水した状態をいいます。床上浸水が発生した際には、水や土砂などにより、一時的に居住できない状態となることがあります。
建物の基礎に重大な劣化を及ぼすおそれがあり、ときには甚大な被害をもたらす危険性があります。
床下浸水
『床下浸水』は、床上浸水に至らない程度に浸水した状態をいいます。
床下浸水についても、床上浸水と同様に建物にさまざまな悪影響を与えます。湿気に伴うカビの発生や木材の腐食などが発生するおそれがあり、地盤沈下にも注意しなければなりません。
また、湿気やカビによる空気の悪化は、快適な生活環境にも悪影響を与えます。
罹災証明書の申請方法
被災後は復旧作業と並行して、さまざまな申請をしなければなりません。罹災証明書はとくに重要な申請のため、決して後回しにせず忘れずに申請するよう心がけましょう。
申請を後回しにしたり忘れたりした場合は、申請を受け付けてもらえなくなるおそれがあるため、とくに注意しましょう。
申請先は自治体か消防署
地震や津波、台風や大雨などの自然災害により、住居に被害が生じた場合は必ず申請しましょう。申請先は、市町村における自治体の担当部署です。また、火災による被害が発生した場合は所轄の消防署へ申請します。
申請期限は自治体により異なる
申請期限は全国共通ではなく、自治体によって異なるため、注意しましょう。近隣地域の情報を鵜呑みにせず、自らが居住する地域の情報を必ず確認することをおすすめします。
通常であれば、罹災してから早くて2週間程度、長い場合は1カ月程度が申請期限であることがほとんどです。災害の規模や場合により、申請期限が半年とされているケースもあります。
もしも申請をしていないまま申請期限が過ぎると、復旧の過程で必要となる支援が受けられなくなるおそれがあるため、必ず申請期限を守って申請します。被災後は、できるだけ速やかに手続きするよう心がけましょう。
一方で、被災の状況は人それぞれです。やむを得ず、期限内に申請ができない人のため、自治体によっては緩和措置を設けているケースがあります。万が一、期限が過ぎていたとしても、諦めず念のため自治体に確認しましょう。
申請から交付までのスケジュール
ここからは、申請から交付までのスケジュールを説明します。
①自治体(もしくは消防署)に申請する
申請は居住者、または所有者が行います。第三者が居住者や所有者の代理人として申請するケースでは、委任状を準備しましょう。
一方で、次のケースでは委任状が不要な自治体もあります。次のケースに当てはまっていることを証明できるよう、戸籍謄本や住民票など被災者との関係を証明する書類を用意しましょう。
- 申請者が被災者と同一世帯
- 申請者が三親等以内の親族
- 申請者が法定代理人
②現地調査が行われる
申請者が自治体や消防署に申請したあと、調査員が現地を訪れて調査が行われます。
調査方法は内閣府が細かく定めているため、調査員によって違いが出ることはありません。一般的には『家屋建物の外観を目視』『傾きの計測』などが行われています。ただし、外観を目視しただけでは分からない被害があれば、被災者からの申し出により内部調査が行われる場合もあります。
③罹災証明書が発行される
調査員による現地調査のあと、内閣府が定めた『被害認定基準の運用指針』に従い市区町村の担当者が被害の程度を認定し、罹災証明書が発行されます。
罹災証明書発行までの目安としては、現地調査のあと約1週間程度です。一方で、災害の規模が大きい場合や、自治体自体が被災しているケースでは発行までに数ヶ月を要することも考えられます。
発行された罹災証明書には、被害の認定結果が記載されています。万が一、認定された結果に納得できない場合は、不服の申し立てが可能です。不服の申し立てがなされた場合、自治体によって再調査が行われることがあります。
④罹災証明書が発行されるまで
罹災証明書の発行を待つ間、被災者は支援の申込みや保険金の請求ができない点に注意しましょう。
とくに事情があり、罹災証明書の発行を急ぐ場合は、代わりに『罹災届出証明書』の発行を申請します。罹災届出証明書は、罹災証明書の発行を申請している事実について証明する書類です。各種支援の申込みや保険金の請求などは、この『罹災届出証明書』を提出すると受け付けてもらえる可能性があるのです。
『罹災届出証明書』は、申請したその日に無料で発行されます。罹災証明書の発行を申請する際に、同時に申請することをおすすめします。
罹災証明書があれば受けられる支援
罹災証明書があれば、さまざまな支援が受けられます。復旧のためには自治体や金融機関からの支援が欠かせないため、受けられる支援はしっかりと確認しておきましょう。
支援は次に記載する以外にも、さまざまなものがあります。必ず、自治体や金融機関に相談しましょう。
税金や国民健康保険料などの減免措置
罹災証明書があれば受けられる支援のひとつに、保険料や税金の減免措置があります。
主な減免措置として、被害を受けた家屋の固定資産税が挙げられます。また、国民健康保険料や医療費などについても減免される可能性があります。
減免措置の届出先は、所轄の税務署や市町村の担当部署です。事前に問い合わせて、届出先を把握しておきましょう。
被災者生活再建支援金の給付
被災した人が生活を再建するための支援金が給付されることがあります。支援元は、国や国が指定する基金です。最高で300万円の支援金が給付されるため、給付内容や対象となる条件をしっかりと確認しておきましょう。
支援金の金額は、被害の程度や世帯の人数などによって変動します。自らが対象となるかが不明な場合は、市町村の担当窓口へ早めに相談しましょう。
見舞金や支援物資の支給
多くの自治体では他にもさまざまな支援を行っています。見舞金や支援物資などの支給も、そのひとつです。居住している自治体でもそういった支援を行っている可能性があるため、担当部署に相談してみましょう。
見舞金の支援を行っている場合、その金額は自治体によって異なります。たとえば、住宅の全焼または全壊のケースでは50000円を支給し、半焼または半壊のケースでは30000円を支給するなどです。
災害援護資金の借受
災害援護資金の借受は、都道府県内で災害救助法が適用された市町村に居住していれば対象となります。災害援護資金は、負傷した人または住居や家財に対して被害を受けた人に市町村が貸付ける資金です。貸付金額は最高350万円と高額であり、無利息または年利3%程度で借りられます。
ただし貸付金額は、借受人が希望して決められるものではありません。世帯主の負傷状況や住宅被害の程度、また世帯人数や世帯所得により、貸付金額が算出されるのです。
まとめ
不運にも災害に巻き込まれて被災した際は、罹災証明書の申請を怠らないようにしましょう。罹災証明書の申請は、今後の生活や復旧にとってとても重要です。
被害に遭った場合には、身の安全や生活の確保が第一です。それらが確保できたら、次のステップとして一刻も早く罹災証明書の申請期限を把握して忘れずに申請しましょう。