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避難はしごの設置基準・注意点について分かりやすく解説

避難はしごの設置基準・注意点について分かりやすく解説

近年、災害が頻発していることをうけ、防災意識はますます高まっています。それに伴い、オフィスで避難器具を見直す機会も増えています。

代表的な避難器具として避難はしごが挙げられますが、その設置基準についてご存じでしょうか。

本記事では、法令で定められている避難はしごの設置基準や、設置にあたっての注意点について解説します。

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編集者:坂田健太(さかた けんた)

トヨクモ株式会社 マーケティング本部 プロモーショングループに所属。防災士。
2021年、トヨクモ株式会社に入社し、災害時の安否確認を自動化する『安否確認サービス2』の導入提案やサポートに従事。現在は、BCP関連のセミナー講師やトヨクモが運営するメディア『みんなのBCP』運営を通して、BCPの重要性や災害対策、企業防災を啓蒙する。

避難はしごとは

避難はしごは、火災や災害など非常時に階下へ避難するための避難器具で、マンションやオフィスビルなどでは設置されていることがほとんどです。

その理由は、建築基準法施行令 121条にあります。

一定の基準を超える大きさの建物には、2方向の避難経路を設けなければいけない(2方向避難)

(引用:建築基準法施行令 第121条

大型商業施設やホテルのような建物であれば、避難階段を2か所設置することで、避難経路を確保できるでしょう。しかしマンションやオフィスビルのような比較的小規模な建物では、階段を2か所設置するのは難しい場合があります。

そこで使われる避難器具が、スペースをとらない「避難はしご」です。避難はしごを設置することで、もう1方向の避難経路を確保できるため、マンションやオフィスビルでも規定を満たせます。

避難はしごの設置基準

マンションやオフィスビルに設置される避難はしごですが、どのような規模の建物にいくつ備え付けることが定められているのでしょうか。

避難はしごの設置基準について、詳しく説明します。

設置は法律による義務

避難はしご、避難用タラップ、滑り台などを含む避難器具は、建物ごとに設置基準が定められており、消防法施行令第25条第1項の第1〜5号に基準が書かれています。避難器具の設置に際して参照される項目は「建物の用途」「収容人員」「階数」の3つです。

たとえば「収容人員が30人までの2階建て共同住宅」の場合に該当するのは、消防法施行令第25条第1項の第2号です。消防法によって、この共同住宅の地階には「避難はしごまたは避難用タラップのうち1つ以上の避難器具」の設置が、2階以上には「避難はしご・滑り台・救助袋などのうち1つ以上の避難器具」の設置が義務づけられます。

設置基準は建物ごとに異なるため、設置を予定する建物がどの基準に該当するのか、あらかじめ確認するといいでしょう。

避難器具が設置できない防火対象物

建物それぞれに避難器具設置の基準が定められている一方、避難器具が設置できない例もあります。

たとえば消防法施行令第25条第1項第1号に該当する防火対象物には、同法別表第一の(六)項に含まれる病院や介護施設が含まれます。しかし、これらの建物では法令上、3階以上に避難はしごを設置できません。

こうした避難器具が設置できない事例には、特例を用いて対応するケースもあります。特例は自治体ごとに定められており、これについてはのちほど詳しく説明するので、そちらを参考にしてください。

避難器具設置義務のある防火対象物

消防法施行令第25条は、避難器具設置義務のある建物を「同法別表第一にある防火対象物」と定めています。

以下は、「別表第一」に含まれる防火対象物をまとめたものです。

防火対象物の例
(一)イ:劇場、映画館、演芸場、観覧場ロ:公会堂、集会場
(二)イ:キャバレー、カフェ、ナイトクラブロ:遊技場、ダンスホールハ:風俗営業関連(※一部除外あり)ニ:カラオケ店その他類似するもの
(三)イ:料理店、待合室その他類似するものロ:飲食店
(四)マーケット、百貨店、物品販売業の店舗、展示場
(五)イ:旅館、ホテル、宿泊所その他類似するものロ:下宿、寄宿舎、共同住宅
(六)イ:病院、診療所または助産所ロ:老人短期入所施設、養護老人ホームなどハ:老人デイサービスセンター、保育所などニ:幼稚園または特別支援学校
(七)小、中、高等学校、大学その他類似するもの
(八)図書館、博物館、美術館その他類似するもの
(九)イ:公衆浴場(蒸気浴場・熱気浴場)その他ロ:上記の公衆浴場以外
(十)車両の停車場、航空機や船舶の発着場
(十一)神社、寺院、教会その他類似するもの
(十二)イ:工場、作業場ロ:映画スタジオ、テレビスタジオ
(十三)イ:自動車車庫、駐車場ロ:飛行機や回転翼航空機の格納庫
(十四)倉庫
(十五)各項に該当しない事業場(事務所)
(十六)イ:複合用途防火対象物のうち、1項から4項、5項・6項・9項のイに掲げる用途に供されているものロ:イ以外の複合用途防火対象物
(十六の二)地下街
(十六の三)準地下街
(十七)重要文化財、重要有形民俗文化財、その他類似するもの
(十八)延長50m以上のアーケード

収容人員からみた避難器具の設置基準

収容人員に応じて、避難器具の設置基準も変わります。

消防法施行令第25条第1項第1号、第2号、第5号に分類される建物は、収容人員100人以下の場合、避難器具1個の設置が義務づけられています。これ以降、収容人員が100人を超えるごとに、義務づけられる避難器具が1個ずつ増えるのです。

第3号に分類される建物は、収容人員200人以下の場合、避難器具1個の設置が義務づけられています。これ以降、収容人員が200人を超えるごとに、義務づけられる避難器具が1個ずつ増えるのです。

第4号に分類される建物は、収容人員300人以下の場合、避難器具1個の設置が義務づけられています。これ以降、収容人員が300人を超えるごとに、義務づけられる避難器具が1個ずつ増えるのです。

避難はしごを設置する階の条件

避難はしごは、建物のどの階にも設置できるわけではありません。避難はしごの設置可否は、設置する階数によって変わります。

地階と2階には、すべての防火対象物で避難はしごを設置することが可能です。用途や収容人員などに関わらず、すべての建物で設置できます。

3階から10階では、別表第一の(六)に含まれる防火対象物以外であれば設置が可能です。別表第一の(六)に含まれる病院・保育所などでは、この階層に避難はしごを設置することはできません。

これ以外の場合(11階以上の場合など)は、避難はしごの設置自体が不要です。

避難上有効なバルコニーの設置

建築基準法施工令第121条には、「避難上有効なバルコニー」という単語があります。避難上有効なバルコニーとは、2方向避難において直通階段の代わりとなり得る避難ルートのことです。避難階段が1つ設置されている場合、もう一方をこの「避難上有効なバルコニー」で補うことができるのです。

避難上有効なバルコニーの詳しい構造について、建築基準法に規定はありません。各自治体の特定行政庁(建築主事を置く地方公共団体、およびその長のこと)によって「避難上有効なバルコニー」が規定されている場合は、その規定が最優先です。また、日本建築行政会議が発行している「 建築物の防火避難規定の解説2016(第2版)」には、避難上有効なバルコニーと認められる目安が記載されています。

避難器具の設置が緩和されるケース

消防法施行規則第26条には、避難器具の設置が緩和されるケースが定められています。

  • 「防火対象物の主要構造部が耐火構造で、避難階段が2つ以上設置されている」という条件を満たすとき、収容人員を2倍にして読み替えることが可能です。条件を満たす収容人員100人以下の防火対象物であれば、これを「収容人員200人以下」と読み替え、避難器具の設置個数を減らせます。
  • 避難階段や特別避難階段が設置されている場合、避難器具の減免が認められます。避難階段の数によっては、避難器具の設置が完全に免除されることもありますが、屋内避難階に関しては条件を満たすものだけがカウントされるので注意してください。
  • 渡り廊下や屋上避難橋が設置されている場合、設置されている数を2倍した数だけ避難器具の設置を減免できます。こちらも避難階段と同様、条件を満たす場合にのみカウントされます。
  • 避難器具を設置しなくていい階も定められているので、こちらから詳細を確認してください。
  • 複合防火対象物に含まれる「小規模特定用途複合防火対象物」において、条件を満たす場合に設置が免除されます。
  • 「面積が1500㎡以上」「屋上広場に面する窓や出入口に、防火戸が設けられている」「屋上広場から避難階や地上に通ずる避難階段、特別避難階段、その他避難のための設備や器具が設けられている」という3つの条件を満たす屋上広場があれば、避難器具は設置しなくてもかまいません。

条例による避難器具の設置基準

消防法第17条第2項では避難器具の設置について、気候風土を考慮した基準の設定を認めています。そのため避難器具の設置基準については、自治体の条例によって異なる場合もあります。

よく見られる例としては、消防法施行規則で避難器具設置が緩和される条件を満たしていても、条例に基づいて設置を義務づけられるケースです。また、避難器具に求められる要件が自治体で異なる場合もあります。

各自治体の条例をあらかじめ確認してください。

避難はしごの種類

避難はしごには、以下のようにさまざまな種類があります。

1. 固定はしご

建物の壁に固定されているはしごです。固定はしごの多くが伸縮式であり、通常は短くされています。

固定されているため非常時に持ち運ぶ手間がなく、すぐに使用できます。

2. 立てかけはしご

必要であれば収納場所から取り出し、立てかけて使うはしごです。普段は収納されているため、スペースを省けます。

3. 吊り下げはしご

上階から吊り下げて使用する、非金属製のはしごです。箱に収納されているため、設置も省スペースで済みます。

4. ハッチ用はしご

マンションのベランダなどに設置される、床(ハッチ)の内部に収納されるはしごです。ハッチを開けることで階下へと逃げる道が確保されます。はしごも備わっているため、すぐ使用可能です。

避難はしご以外の避難器具

消防法施行令第25条第2項に規定されている「避難器具」には、避難はしご以外にも以下の器具が含まれています。

  • 滑り棒
  • 避難ロープ
  • 避難用タラップ
  • 滑り台
  • 緩降機
  • 避難橋
  • 救助袋

また消防法施行令第25条第2項の2には、これらの器具を「避難時でも近づくことが可能な、安全な場所に設置すること」が、3には「避難器具は速やかに使用できる状態にしておくこと」が、それぞれ定められているため注意してください。

避難はしごの使い方

避難はしごにはさまざまな種類がありますが、ここではマンションのベランダで見られる「ハッチ用はしご」について、その使い方を解説します。

1. 蓋を開ける

床にあるハッチの蓋を開けます。

このとき、チャイルドロックとしてチェーンが繋がれていることがあるので注意しましょう。ロックを取り外し、次の工程に移ります。

2. 蓋を固定する

蓋を完全に開くと、ヒンジを固定できるようになります。はしごや避難口が閉じてしまうと危険ですので、ヒンジが固定されるまで蓋を完全に開ききりましょう。

3. はしごを降ろす

ストッパーを外すことで、階下へはしごが降りていきます。

ストッパーは手と足のどちらでも外せます。階下に人がいないかを確認してから降ろしましょう。

避難はしご設置の注意点

避難はしごは、非常時以外の使用は想定されていません。興味本位でハッチを開きストッパーが外れてしまうと、思わぬ事故につながるおそれがあります。非常時以外は使用しないようにしましょう。

また、避難はしごを設置する際は、設置部周辺にはしごの展開を阻害するものがないか確認しましょう。例として、マンションではよく避難ハッチの真下に物干し竿が飛び出ています。そのために避難はしごが展開できないと、非常時に避難できない原因となってしまいます。はしごを設置する箇所の上や下には、ものを置かないようにしましょう。

避難はしご設置基準を確認しよう

避難はしごの設置基準は主に消防法で定められているため、建物の用途や収容人員などをあらかじめ確認しておきましょう。また義務づけられる設置数や免除の有無などについては、自治体の条例も参照する必要があります。

これらを踏まえ、自社における避難はしごの設置状況や操作方法を確認し、非常時にスムーズな避難ができる状態を整えましょう。

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編集者:坂田健太(さかた けんた)

トヨクモ株式会社 マーケティング本部 プロモーショングループに所属。防災士。
2021年、トヨクモ株式会社に入社し、災害時の安否確認を自動化する『安否確認サービス2』の導入提案やサポートに従事。現在は、BCP関連のセミナー講師やトヨクモが運営するメディア『みんなのBCP』運営を通して、BCPの重要性や災害対策、企業防災を啓蒙する。