防災倉庫の中身とは?企業防災で備える内容を一覧で解説
遠藤 香大(えんどう こうだい)
防災倉庫とは、災害発生時に食料品・衛生用品などを確保するために使われる非常用保管倉庫です。日本は地震が多い国であり、国や県によって運営される防災倉庫のほか、地方自治体や企業、学校などでも防災倉庫の設置が推進されています。
規模の大きな災害では、通常どおりに物質を手に入れることは難しいでしょう。防災倉庫の中身が適切にそろえられていることが重要です。今回の記事では、防災倉庫の中身について解説します。
目次
防災倉庫の中身は何を入れるべき
災害発生後すぐに必要なものは初動対応の資材であり、初動対応後に必要なものは3日間待機用の備蓄です。
初動対応の資材は、防災組織本部の設置予定場所に準備しましょう。本部の場所を狭くしないように、3日間待機用の備蓄は異なる場所に置きます。
また、女性の被災者への支援を適切に行うためにも、女性視点のニーズを踏まえた中身を考えましょう。
初動対応の物資を以下に示します。
- 安全指導用:メガホン
- 救護用:救助工具・ヘルメット・担架・救急セット
- 応急物資用:発電機・投光器・ランタン、コード・水・食料・毛布・トイレ
- 情報用:ラジオ・ポータブル電源
防災倉庫の中身の例は以下のとおりです。
- 食料品や備蓄用の水
- 調理用資材
- その他生活必需品
- 衛生用品
- 救助活動に使用する工具
また、小学校の防災倉庫には以下の備蓄を蓄えます。
- 非常用備蓄食料
- 炊き出し用資機材
- 哺乳瓶、粉ミルク
- 非常用トイレセット
- 生活用品
- 発電機
- 救助用資機材
- 投光器
(参考:東村山市|小学校・中学校にある防災備蓄倉庫の中には何が入っていますか)
公園の防災倉庫には食料品、毛布、衛生用品などを用意しましょう。
(参考:伊丹市|伊丹市の防災公園)
マンションの防災倉庫の備蓄としては、以下がおすすめです。
- 防災3点セット(非常用飲料水生成システム、非常用マンホールトイレ、かまどスツール)
- 飲料水(長期間保存可のペットボトル)
- 食料品
- 簡易トイレ(高層マンションの場合は上階に住む方々に配布)
- 布担架・救急箱
- AED
- 非常用階段避難車
- アルミ組立式リヤカー
- インバータ発電機
- バルーン投光機
- 救急用工具セット(バール、大型ハンマー、ボトルカッター、ロープ、折込鋸、スコップ)
(参考:株式会社長谷工リフォーム)
初動対応の物資
初動対応とは、災害が発生してから最初に行う対応です。災害発生から72時間以上が経過すると、生存率は大きく低下します。そのため、救助には素早く適切な判断が重要です。
必要な道具がそろっていなかったり、初動対応が定められていなかったりすると初動対応が遅れて被害が拡大する恐れがあります。二次被害を減らすには、適切な初動対応物資と迅速な対応が欠かせません。
BCPと防災備蓄
BCPとは、従来の防災計画(災害時の対応)に事業を継続させるための計画を加えたものです。策定で緊急時の行動指針を示せます。
災害発生時にBCPに沿った行動をするには、物資の備蓄が必要です。各種BCPガイドラインは事業継続計画が中心の筋書きであり、防災備蓄は曖昧な場合が多いと言えます。意識して備蓄を確認しましょう。
災害時における行動・物資の整理
災害発生後にBCPが発動されると、企業は防災組織を立ち上げて、事前に決めた役割に沿って行動をします。
防災組織では、「安全指導班」「消防班」「救護班」「情報班」「応急物資班」「事業継続班」などの役割が分担されます。
初動対応の第一歩は行動班について考えることです。自分の会社が立ち上げる班と初動の行動によって備蓄が決まります。班ごとの必要な備蓄を把握しましょう。
災害発生後3日間待機用の備蓄
防災倉庫には、災害発生から3日間待機できる量の備蓄を用意します。ここからは、3日分の備蓄が必要とされる理由、3日間待機するときの備蓄量を解説します。
応急対策活動期の重要性
企業には、従業員・顧客の安全を第一に考える責任があります。
生命を守るには、迅速な救助が欠かせません。災害発生時における被救助者の生存率は発生から4日目以降激減するとされています。これを72時間の壁と呼び、災害が発生してから3日間は応急対策活動期として、救助活動が優先されます。
72時間の壁は、淡路大震災における非救助者の生存率のデータ(震災当日においては75%・2日目は24%・3日目は15%・4日目は5%)から提唱されました。また、人間が水を飲まずに過ごせる限界の時間も72時間です。
そのほか、東日本大震災における自衛隊の人命救助数の表を見ても、災害発生から72時間以上経過すると救助できた人数が大幅に減少しています。これらのことから、災害時に2時間の壁を乗り切ることは重要です。
(参考:国土交通省|阪神・淡路大震災に学ぶ)
(参考:防衛省|<解説>人命救助における初動(72時間以内)の重要性)
応急対策活動期には3日待機分の備蓄が必須
災害後、多くの人が帰宅しようと動くと、車道に人が溢れかえって救急車や消防車などが通れなくなる可能性があります。
災害発生後3日間は、救助や救出の妨げにならないために、従業員を帰宅させないようにしましょう。企業は、従業員を3日間待機させるうえでの対応が求められます。
条例では、企業が3日間分×人数分の備蓄をすることを努力義務として定めています。
飲料水は、1人当たり1日3リットル必要です。非常食は1人当たり1日3食を備蓄しておきましょう。そのほか、薬や毛布、簡易トイレなども必要想定量を備蓄します。救急セットやウェットティッシュ、生理用品なども備えましょう。
【状況別】防災倉庫設置のポイント
防災倉庫は自治体によって設置されていますが、それだけでは十分とは言い切れません。ここからは、自治体が設置する防災倉庫の現状や課題、課題解決のための対応を紹介します。
現状、自治体の防災倉庫では大地震に対応できない課題を抱えている
東京都は区市町村と連携して、都が21ヶ所、区市町村は2605ヶ所の防災倉庫を整備しています。倉庫内の物資を迅速に供給するための地域内輸送拠点も27ヶ所に設置しています。いざというときには都の職員が物資を搬出し、荷捌きを行うように定めています。
自治体における防災倉庫の課題としては、災害の被害が大きくなると物資供給の復旧に時間がかかり、備蓄食料が足りなくなることがあげられます。また、地震によって水道が停止した場合、給水拠点が遠い場所にも対応しなければなりません。そのほか、倉庫のスペースが限られていて、物資を無尽蔵に保管できないことも課題と言えるでしょう。
防災倉庫の備蓄不足を防ぐには、企業での独自の防災倉庫設置が求められます。
防災倉庫はオフィス内ではなく屋外設置が有効になる
災害時はライフラインの復旧に時間がかかるため、復旧までの間に防災拠点となる場所が必要です。大型地震の場合、電力の復旧には1週間、ガスや通信の復旧には2週間、水道は1カ月程度の時間を要する可能性があります。
備蓄はオフィスではなく、屋外に確保しましょう。防災倉庫を設置するときは、倉庫自体の耐久性も重要です。防災倉庫自体が被災するケースを考えて、浸水や防火対策を施しましょう。
高層ビルの場合通常よりも多めの備蓄を必要とする
高層ビルで大きな地震が起きたとき、エレベーターが使えなくなり、高層階に住民が取り残される現象が起こり得ます。
そのため、高層ビルの災害備蓄は、通常の建物よりも多い5日分から7日分が必要と言われています。ビルの管理組合の備蓄と、従業員や各テナントで用意する備蓄を合わせて、7日分の備蓄を用意しておくことが望ましいでしょう。
高層ビルにおける備蓄を、以下に示します。
- 食料品
- 医療品
- トイレットペーパー・ティッシュ
- 簡易トイレ
- 毛布・膝掛け
- 救急セット
- 緊急時用浄水装置
- 情報ツール(シート型ホワイトボード・ペン・トランシーバー)4フロアごとに1セット
必要な備蓄を備えた防災倉庫を
災害時は、初動対応が重要です。防災倉庫に必要なものを備蓄しておけば、緊急時に迅速な対応ができるでしょう。従業員の安全を守るためにも、必要な備蓄を備えた防災倉庫を設置してください。