職場において労働者の安全を確保することは、安全配慮義務として企業に義務づけられています。今回は安全配慮義務について解説しますので、企業の労務管理担当者はぜひ参考にしてください。
目次
安全配慮義務違反時の罰則とは
安全配慮義務とは、労働契約法によって定められている義務のことです。具体的には、企業は労働者が安全に働けるよう危険箇所をあらかじめ整備しておく必要があります。
安全配慮義務に違反したとしてもとくに罰則があるわけではありませんが、企業が安全配慮を怠ったという旨で、労働者が損害賠償請求をする可能性はあります。
また労働安全配慮義務に罰則はありませんが、労働安全衛生法においては罰則規定があるため、注意が必要です。
企業が抱える安全配慮義務違反時のリスク
安全配慮義務に反して危険個所を放置したり、労働者を過度に働かせてしまったりすることで、労働者の心身に被害が出るおそれがあります。
ここからは、企業の管理不備で労働者に被害を与えてしまうと、どのようなリスクが発生するのかを解説します。
損害賠償
企業が安全配慮義務に違反したとしても、明確な罰則があるわけではありません。しかし、労働者から損害賠償の請求をされるというリスクはあります。
企業の安全配慮義務違反によって労働者が怪我や精神的疾病などの損害を負った場合、通院が必要となった労働者の通院交通費や治療費について、労災で補償されない部分を企業が負担しなければなりません。また、休業補償、逸失利益、慰謝料なども発生する可能性があり、注意が必要です。
企業イメージ低下
安全配慮義務に違反した際のリスクとして、企業の世間的イメージが低下することも挙げられます。
安全配慮義務を怠った事実が世間から認知されてしまうと、イメージの低下は避けられないでしょう。すると、顧客離れや売上低迷につながり、いずれ金銭的な損失が生じます。そして、一度ついてしまったマイナスイメージを回復させるには時間がかかるのです。
これらを避けるためにも、常日頃から労働者に被害が発生しないような環境を整えましょう。
行政からの勧告
安全配慮義務違反をした際、場合によっては行政から勧告がなされます。
安全配慮義務違反を起こしている企業は労働基準法に違反している可能性も高く、その場合は労働基準監督署から指導や勧告を受けるでしょう。さらに、指導に従わない場合や違反の内容が悪質な場合、社名を公表される可能性もあります。
社会的制裁を受けるリスクについて管理するという意味でも、職場における労働者の安全確保は大切と言えるでしょう。
安全配慮義務違反の基準
安全配慮義務に違反したかどうかの基準は2種類あります。
1つ目は「予見可能性」という基準です。ここでは、被害を事前に予測できたかどうかが問われます。
2つ目は「結果回避性」という基準です。ここでは、被害の回避策を十分にとっていたかどうかが問われます。
つまり、危険箇所を事前に発見した記録があるにも関わらず、危険を回避できるよう整備しておかなかった場合は、安全配慮義務に違反しているとみなされます。
安全配慮義務違反となる行為の例
企業が危険箇所を放置する、健康診断を実施しないなどして労働者が被害を負った場合は、安全配慮義務違反とみなされます。また、安全配慮義務においては労働者の心身における安全配慮が義務づけられているため、使用者である会社が長時間労働、各種ハラスメント、不適切な人員配置を行ったことにより労働者が精神的な病にかかってしまった場合も、安全配慮義務違反とみなされます。
企業は危険個所の整備だけでなく、労働者が精神的にも安全に働ける環境づくりをしましょう。
安全配慮義務を守るためのポイント
企業が安全配慮義務に違反したことで、労働者が心身の被害を受けたとき、義務を怠った企業はさまざまなリスクを負います。
安全配慮義務を果たし、労働者の安全を守るためには、職場にある危険を早期発見して最小化することが大切です。ストレスチェックを行うこと、職場の作業についてマニュアルを完備すること、労働者の休暇を適切に管理することなどで、労働者の安全と環境に配慮しましょう。
安全配慮義務の範囲
企業は職場の危険な要素を最小にできるよう整備し、労働者の安全を守ることが求められます。ただし、どの程度まで配慮すべきか判断しにくい場合があるため、人事労務管理担当者は安全配慮義務の範囲について把握しておく必要があります。
配慮する範囲
安全配慮義務の範囲について解説します。
1つ目は健康配慮義務です。労働者の健康診断を計画的に実施することや、労働時間を適切に管理することが挙げられます。労働者自身の健康状態を管理するための義務です。
2つ目は職場環境配慮義務です。職場施設に危険箇所が発生しないよう管理すること、職場における使用者から労働者へのハラスメントが発生しないよう対策を行うことが挙げられます。つまり、職場環境配慮義務は労働者を守るために行う義務であると言えます。
対象者
勤務時間や契約期間に関わらず、企業に直接雇用されている正社員、契約社員、パート・アルバイトなどの労働者が対象です。
派遣会社から派遣された労働者については、原則として派遣元の会社が安全配慮義務を負いますが、派遣先の企業が義務を負う場合もあります。下請会社の労働者や、フリーランス契約の労働者については、正社員と同様の仕事を行っている場合といった条件を満たしていれば、安全配慮義務の対象となる場合があります。
法律における安全配慮義務の根拠
安全配慮義務は労働契約法第5条によって規定されています。その目的は生命や身体の安全、心身の健康を保ち、労働者が安心して働けるような職場環境を作ることです。また、労働衛生安全法でも快適な職場環境の実現、労働者の安全と健康の確保について記載されています。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
(引用:労働安全衛生法 第5条)
自己保健義務との違い
自己保健義務とは、労働者自身で健康管理を行うように課せられた義務であり、労働者自身が負います。対して安全配慮義務は、労働者が安全な環境で働けるよう使用者側に課せられた義務のことです。
使用者である企業が職場の管理を行い、労働者を安全かつ健康に保つことが求められます。労働者については、自身が健康でいられるよう日々の体調管理を適切に行ったうえで、労働環境の問題があれば企業に改善提案をすることが大切です。
安全配慮義務を意識しよう
企業は、労働者が心身ともに安全、健康で働けるよう職場環境を整えなければなりません。これは安全配慮義務として法律で定められています。
また、職場の安全管理や環境を整えるにあたっては、緊急時に活用できる社員管理用のツールも必要になるでしょう。安否確認システムは緊急時の安否確認に有効ですので、ぜひ導入を検討してみてください。