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建設業の三大災害とは?原因や対策を徹底解説

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建設業の「三大災害」とは、建築業界で起きやすい3つの労働災害事故(労災事故)を表した言葉です。三大災害が発生する原因を分析すると、有効な対策や予防策を実施できます。今回は、建設業界の三大災害について、原因の分析や取るべき対策を解説します。

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監修者:木村 玲欧(きむら れお)

兵庫県立大学 環境人間学部・大学院環境人間学研究科 教授

早稲田大学卒業、京都大学大学院修了 博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て現職。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など「安全・安心な社会環境を実現するための心理・行動、社会システム研究」を行っている。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)などがある。

建設業の三大災害とは

建設業には、三大災害と言われているものがあります。それは建設機械やクレーンの転落や墜落、崩壊や倒壊の災害です。

建設業は重機の出入りする場所や高所での作業が多く、死亡災害の発生率を高めています。
それぞれの災害について詳しくご紹介します。

建設機械やクレーンの労働事故

建設現場には、ブルドーザーやトラクターなど大型の建設機械が出入りします。そのため、機械に接触したり巻き込まれたりする事故が多発しやすいのです。
とくにクレーン車に関連する事故が多く、重量物の落下や転倒などさまざまな例があります。

これらの事故を防ぐには、点検や安全確保の徹底ならびに作業員同士の意思疎通が欠かせません。

転落や墜落の労働事故

三大災害のなかでもっとも死亡率の高いものが、墜落や転落による事故です。死亡事故全体の3割〜4割を占めています。

具体的には、足場や屋根の上で足を滑らせる、手すりが外れて転落する、荷重超過で作業床の梁が折れるなどの事故が該当します。

建設現場は高所の作業が多く、転落や墜落に対して安全対策が必須です。安全帯の徹底で防げる事故も多いでしょう。

崩壊や倒壊の労働事故

建設現場では、崩落や倒壊による事故も発生します。

これらの事故は、自然災害に由来する場合と人為的な要因に由来する場合があります。とくに、地盤を掘ったり削ったりしている現場では、大雨や台風による崩落が起こりやすいといえるでしょう。一方で人為的な事故は、作業や資材の置き方などの不備により発生します。

天候が悪化した場合は速やかに作業を切り上げる、ミスや不備を予防する、周りの環境に合わせて安全を確保するなどの対策が必要です。

建設業界における死傷災害の推移・状況

厚生労働省が発表する建設業界における死傷災害の状況の推移によると、1968年から2020年の50年間で、死傷災害数は1/9に減少しています。

政府はさらに、2023年4月から始まった第14次労働災害防止計画(14次防)において、5カ年で死亡災害を5%以上減少、死傷災害は増加傾向に歯止めをかけ2027年度までに減少させるという目標をかかげています。

このような目標がかかげられるのは、死亡災害・死傷災害のさらなる減少が求められていることが背景にあります。

2021年に発生した死亡災害は、建設業界で288人と過去ワーストを記録しました。転落・墜落事故がとくに多く、改善策が求められています。

また、一人親方(労働者を雇用せずに自分自身と家族などだけで事業を行う事業主)の死亡災害も多く発生しています。一人親方の多くが下請け業者であり、重層下請けによる混在作業から生じる労働災害の防止が課題です。

三大災害が起こる原因

三大災害は、自然災害など予測不可能な要因で起こることもありますが、多くは人為的な要因で発生します。建設現場での三大災害は命にかかわる事故が多く、人員的な要因はとくに予防が大切です。

ここからは、三大災害を引き起こす人為的な要因を説明します。

ルールを守っていない

建設現場では、安全に作業を行うためのルールが定められています。

多くの事故は、こうしたルールを守らないことで発生します。たとえば、誘導の順番や作業の優先度が周知されていない、作業を勘違いしている、自分のやりやすいように作業手順を改変しているなどが挙げられるでしょう。

ルールが守られない理由には、ルールへの認識や周知徹底の甘さが考えられます。「ルールがなぜ設定されているのか」「どのような危険を想定しているのか」を現場の作業員が共有し理解することが大切です。

機械・設備に不備がある

建設現場では多くの機械や設備が使用されます。機械の定期点検が行われていない、設備や足場に不備があるなども事故の要因となります。

現場で使用される機械類には重機も含まれていて、整備不良、誤動作、誤操作が重大な事故に直結します。また、作業員の安全を確保するために重要な足場や手すりも、組立時の安全確認や固定に不備があると、事故につながります。

従業員の年齢が高い

建設業界では、人手不足にともない従業員の高齢化が深刻です。

作業員不足から、高齢にもかかわらず無理をして現場の作業に携わる人が少なくありません。高齢の従業員は、体力や注意力が低下しており、ミスや誤った判断による事故を起こしやすいでしょう。

企業側は、従業員の年齢に合わせて休憩時間をこまめに設けるなど、休息できる環境作りが求められます。

管理が不十分である

現場の管理不足も事故を引き起こす原因です。資材や機材だけでなく、従業員の体調、作業量のバランス、安全性への配慮も管理に含まれます。

人手を確保できないまま作業を強行したり、作業員の体調管理や安全対策を行わなかったりすると、三大災害の発生リスクは高まります。

管理者は現場の管理をしっかりと行い、従業員の体調や作業量に気を配りましょう。人為的なミスを抑制することが重要です。

三大災害の対策チェックシート

三大災害を防ぐためにはどのような施策を行えばいいでしょうか。
事業者は、厚生労働省が発信している「緊急対策 『STOP!“建設3大災害”』」を確認することをおすすめします。

直近で発生した事故の種類や状況が記載されており、建設用重機作業用、高所作業用、掘削作業用、足場組立等作業用の点検項目を含めたチェックリストが掲載されています。このチェックリストを遵守できるよう作業現場の管理運営体制を整えれば、事故防止に大きな効果があるでしょう。

三大災害の対策ポイント

建設業界には、労働安全衛生法の趣旨をふまえた災害対策が求められます。

関係法上の最低基準を満たすのではなく、従業員にとって快適な職場環境を追求し、改善しましょう。加えて、労働災害計画を把握し、安全衛生管理体制を確保できるような部署の設置が重要です。
具体的な安全衛生対策の作成も欠かせません。安全対策や危険物対策など現場で必要な対策を作成して、順次改善すると災害対策は確実に進捗します。

最後に、三大災害を防ぐために事業者が行う対策4例をご紹介します。いずれも、建設現場での事故を防ぎ、より大きな災害を防ぐうえで不可欠な施策です。

安全対策を徹底・周知する

安全対策を徹底して周知しましょう。

建築現場では、設備や機材の点検に加え、高所作業での安全帯の着用や建設機材の運用ルールの明確化といった施策が多くあります。こうした対策を徹底して実行、点検、周知することで事故を防げます。
安全対策は、現場の作業員に守らせるだけでなく「なぜそのルールがあるか」「どういったリスクを防ぐのか」といった背景から丁寧に説明し、作業員に共有してもらえるように周知することが重要です。

万が一の事態に備える

万が一の事態に備えた防止策は、安全対策として有効です。
たとえば、転落や落下などは滅多に起こらないため、これらの対策は、作業が切迫している場合におろそかになりやすいでしょう。

しかし、高所作業でのハーネスの着用、手すりの設置、ヘルメットの装着などは命を守るために必要です。建設業労働災害防止規程にも定められています。

人員を確保しスケジュールに余裕を持つ

ミスを誘発する要因として、作業員に負荷がかかり注意力や安全配慮が低下することが挙げられます。

過密なスケジュールや過度な負荷は事故の要因です。事業者は、余力のある人員を確保し、スケジュール管理を徹底しましょう。また、人数を確保するだけでなく、各工程における人員の配置を適正化したり、作業員の体調管理を徹底したりすると効果はより高まります。

作業時のリスクを見つけ出し改善・周知する

建設現場には労災事故につながる多くのリスクがあります。作業現場におけるリスクを見つけ、事前に改善や対策を行うことで事故を防げるでしょう。

作業現場や工程を見直し、リスクを発見、分析して、脅威度や優先度を定めます。対策は優先度の高い順に行い、改善に時間のかかるリスクは作業員と情報を周知・共有し、発生を抑制します。

リスクマネジメントの基本でもあり、リスクの洗い出しと評価、改善は三大災害の抑制に効果を発揮する対応策です。

管理を徹底して三大災害の発生を防ごう

今回は、建設現場の三大災害について解説しました。労災事故には予防方法が存在します。起こりうる災害を予測し、対策を徹底することで三大災害を防ぎ、死亡災害・死傷災害を減らしましょう。

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監修者:木村 玲欧(きむら れお)

兵庫県立大学 環境人間学部・大学院環境人間学研究科 教授

早稲田大学卒業、京都大学大学院修了 博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て現職。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など「安全・安心な社会環境を実現するための心理・行動、社会システム研究」を行っている。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)などがある。

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編集者:坂田健太(さかた けんた)

トヨクモ株式会社 マーケティング本部 プロモーショングループに所属。防災士。
2021年、トヨクモ株式会社に入社し、災害時の安否確認を自動化する『安否確認サービス2』の導入提案やサポートに従事。現在は、BCP関連のセミナー講師やトヨクモが運営するメディア『みんなのBCP』運営を通して、BCPの重要性や災害対策、企業防災を啓蒙する。