企業にとって、資産や従業員を守るための防犯対策は不可欠です。今回の記事では、企業が巻き込まれうる犯罪、企業に防犯対策が必要な理由、企業が取り組むべき防犯対策について解説します。
監修者:堀越 昌和(ほりこし まさかず)
福山平成大学 経営学部 教授
東北大学大学院経済学研究科博士課程後期修了 博士(経営学)。中小企業金融公庫(現.日本政策金融公庫)などを経て現職。
関西大学経済・政治研究所委嘱研究員ほか兼務。専門は、中小企業のリスクマネジメント。主に、BCPや事業承継、経営者の健康問題に関する調査研究に取り組んでいる。
著書に『中小企業の事業承継―規模の制約とその克服に向けた課題-』(文眞堂)などがある。
目次
企業のオフィス(事業所・事務所)は狙われている
「企業のオフィスが犯罪の現場になる」と聞いても、想像できない人もいるでしょう。
しかし、オフィスを狙った犯罪はたくさん発生しています。以下、「令和 4 年の犯罪について」に記載されている、オフィスに関連する犯罪件数を紹介します。
- 空き巣:全体の29%
- 事務所荒らし:全体の8%
- 出店荒らし:全体の11.8%
- 倉庫荒らし:全体の9.3%
そして、空き巣だけで9000件を超えているのです。このため、企業は防犯対策をする必要性があります。
企業が巻き込まれる犯罪の種類
企業を狙った犯罪にはどのようなものがあるでしょうか。
ここからは、企業が注意しておきたい犯罪の種類を4つ解説します。リスクのある犯罪を認識し、防犯への意識を高めましょう。
窃盗、不法侵入
企業が巻き込まれる犯罪の多くは、窃盗や不法侵入です。
「監視カメラを設置しているので侵入されないだろう」「盗まれるようなものは置いていないから大丈夫だろう」と考える人もいるかもしれません。しかし監視カメラを設置していても窃盗や不法侵入のリスクから完全に守られるわけではありません。金庫や現金以外にも、オフィスにある重要なデータが狙われる可能性があるため、万全のセキュリティ対策が必要です。
放火、暴行、傷害
放火、暴行、傷害も散見されます。
放火による火災は、死傷者の出るケースもあります。
暴行や傷害は、社内と社外の両方で発生しやすい犯罪です。人の出入りが多い店舗では、とくに発生リスクが高まります。
暴行は従業員やお客様を直接危険にさらす犯罪です。日頃からトラブルが発生しないように努めましょう。
また、内部でいじめが横行していると、暴行につながる可能性があります。
情報漏洩、ハッキング
目に見える物品だけでなく、企業の保有する情報にも価値があります。そのため、近年は情報漏洩やハッキングも多く発生しています。
情報漏洩が発生すると、顧客にも被害が及ぶため危険です。
情報漏洩の原因はたいてい、従業員のミスです。メールの配信ミス、メモリの紛失、不十分な管理体制などが挙げられます。
また、社外からのサイバー攻撃や不正アクセスによって、情報が漏洩する可能性もあります。
機密情報は、セキュリティ体制を万全にし、管理してください。
ハラスメント、内部不正
企業の内部で起こる犯罪には、ハラスメントや内部不正もあります。
コンプライアンスの遵守はあらゆる企業に求められており、とくにハラスメントは許されません。ハラスメントは従業員の精神状態を悪化させます。安心して働ける環境作りが大切です。
ハラスメントを防止するには、コンプライアンスの周知やネットワークカメラの設置が有効です。
内部不正とは、従業員が起こす不正を指します。従業員により重要な情報が持ち出されると当然、企業の活動に大きな影響が生じます。防止には監視カメラを設置したり、研修会や勉強会を開催したりするのがおすすめです。
企業に防犯対策が必要な理由
企業はさまざまな資産を抱えており、犯罪によりこれらを失うことは大きな損害です。企業には従業員や顧客を守る責任があり、防犯対策は欠かせません。
ここからは、企業に防犯対策が求められる理由を紹介します。
資産を守るため
企業に防犯対策が必要な一つ目の理由は、資産を守るためです。
資産は企業活動に欠かせないものです。現金や有価証券などのほか、オフィスで使われる機材や備品も該当します。
情報の入ったPCやスマートフォンなどが盗み出されると、情報漏洩のリスクも生じるでしょう。機密情報の漏洩は、経済的損害のみならず、顧客からの信頼喪失をも招きます。大きな問題に発展しないために、情報に関するセキュリティにも気を配ってください。
従業員を守るため
企業は資産だけでなく、従業員も守らねばなりません。従業員を守れない企業は世間からの信頼を失うでしょう。
従業員を暴行や強盗の被害に遭わせないこと、放火やテロリズムの標的にさせないこと、会社内でトラブルを起こさないことが大切です。
また、自然災害が発生した際には、企業は従業員とその家族を支援する必要があります。従業員の心身を安全に保ち、長く安心して働ける環境作りに努めましょう。
情報や知的財産を守るため
近年、情報や知的財産の重要性が高まっています。情報は資産の一部であり、盗まれると企業活動に大きな影響が生じます。また、顧客の情報が流出した場合には、企業としての信頼を失うでしょう。
PCやメディアなどから情報を抜き取られる場合に限らず、端末を持ち出された場合にも同様のリスクが発生します。ネットワークのセキュリティと物理的なセキュリティの両面で、情報を守ってください。
社内の端末やメディアは、不正使用を避けるための対策を施します。使用や持ち出しに関してルールを定めておきましょう。
企業ができる防犯対策
犯罪を防ぐために、企業は何ができるのでしょうか。ここからは、企業が事前に取り組める防犯対策を6つ紹介します。
防犯カメラの導入
侵入、盗難、放火を防ぐには、防犯カメラの設置がおすすめです。
防犯カメラは発生した犯罪を記録するだけでなく、犯罪抑止効果もあります。犯人は自分の姿が撮影されることを嫌うため、防犯カメラの存在をアピールするだけでも防犯につながるでしょう。
また、防犯カメラはいじめやハラスメントなど、企業の内部で起こるトラブルを調査したり防止したりするのにも役立ちます。外部に向けた防犯カメラと、内部に向けた防犯カメラの両方を設置しておきましょう。
侵入検知センサーの導入
侵入や盗難を防ぐには、侵入検知センサーの導入が効果的です。侵入検知センサーは、赤外線やレーザーなどにより侵入を自動で検知し、警報を出すシステムです。
侵入検知センサーと防犯カメラをあわせて使用すると、高い防犯効果が期待できます。
夜間や定休日などオフィスに人がいない時間帯は、防犯カメラがあっても侵入されます。侵入探知センサーがあれば警報音や自動通報機能により、不審者の侵入を防げるでしょう。不法侵入や情報漏洩を防止できます。
施設警備と機械警備
施設警備と機械警備は、外部からの犯罪を防ぐために行います。
施設警備は、施設の出入管理、巡回業務、モニターによる監視などが挙げられます。施設警備の強化はセキュリティを向上させ、トラブル発生時にも迅速な対応ができるでしょう。警備員の存在を示すと、それだけで犯罪への抑止力になるのですり
機械警備は、人力で行う施設警備を機械で自動化したものです。侵入警報システムを導入したり、センサーを設置したりします。人手に頼ることなく警備できる点が特徴です。
ネットワークカメラの導入
いじめやハラスメントなど、内部で起こる犯罪やトラブルの抑止力としては、ネットワークカメラの導入をおすすめします。
ネットワークカメラとはインターネットに接続可能なデジタルビデオカメラです。コンピュータにIPアドレスが振られているため、IPカメラとも呼ばれます。
インターネットを介して遠隔操作でき、社外からリアルタイムで映像を確認できます。
ただし、導入する際は社員のプライバシーにも配慮しましょう。また、ネットワークカメラはインターネットに接続されています。したがってハッキングのリスクがあり、セキュリティ対策も必要です。
BCPの策定
BCPとは、緊急事態において事業を継続する、あるいは早期に復旧するための行動指針です。犯罪、テロ、事故などに備えてBCPを策定すると、万一の事態にも企業と従業員を守れるでしょう。
従業員や資産を危険から守ることはもちろん、いざ緊急事態が発生したときの初動対応を決めておくことも大切です。すべき行動が決まっていると、緊急事態においてもスムーズに対応できます。
従業員への教育
内部で起こる犯罪も見逃せません。内部で発生する犯罪やトラブルを防ぐには、従業員への教育が重要です。
内部からの情報漏洩を防止したいときは、情報セキュリティの研修がおすすめです。ハラスメントを防ぎたければ、コンプライアンス教育により、従業員のコンプライアンス意識を高めましょう。
一方で、セクハラやパワハラを受けている従業員が、素直に相談できる環境を整備することも大切です。
いずれにしても、従業員の納得や理解こそが防犯に効果的です。定期的に意識調査や研修を行い、犯罪やトラブルの発生を防ぎましょう。
セキュリティシステムの導入
情報漏洩、不正アクセス、サイバー攻撃などを防ぐには、セキュリティシステムの導入が必須です。社内ネットワークをシステムで監視し、不正アクセスをチェックしましょう。
企業内部で使用されるOSやウイルス対策ソフトの状況については、一元管理できる環境を整えると負担軽減につながります。ただし、クラッキングを完全に防ぐことは困難です。
また、古いブラウザやOSは安全性が低いため、常に最新のものにアップデートしてください。
正しい防犯対策で犯罪から企業を守ろう
企業のオフィスには犯罪やトラブルのリスクが数多くあります。窃盗、不法侵入、放火などの外部からもたらされる犯罪もあれば、情報漏洩やハラスメントなど内部で起こる犯罪やトラブルもあります。
また、情報を狙った犯罪も増加しているのです。
企業は資産や従業員を守る責任を持ち、日頃から防犯対策をする必要があります。犯罪やトラブルへの備えとしては、BCP(事業継続計画)の策定がおすすめです。これにより、社員が緊急時にもスムーズに行動し、被害を最小限に抑えることが可能になります。
BCPを策定しておくと優先して復旧したい事業を可視化でき、緊急事態における行動の指針となるため、スムーズな対応につながるのです。
監修者:堀越 昌和(ほりこし まさかず)
福山平成大学 経営学部 教授
東北大学大学院経済学研究科博士課程後期修了 博士(経営学)。中小企業金融公庫(現.日本政策金融公庫)などを経て現職。
関西大学経済・政治研究所委嘱研究員ほか兼務。専門は、中小企業のリスクマネジメント。主に、BCPや事業承継、経営者の健康問題に関する調査研究に取り組んでいる。
著書に『中小企業の事業承継―規模の制約とその克服に向けた課題-』(文眞堂)などがある。