会社における危機管理対策のうち、ステークホルダーやメディアへの対応として重視されるクライシスコミュニケーション。事業継続のためのBCP策定と同様に、会社を守るために必要不可欠な活動です。
本記事では、BCP(事業継続計画)の啓蒙や策定のサポートを行うトヨクモ株式会社の坂田が、クライシスコミュニケーションが求められる場面や対応の流れ、注意点などを網羅的に解説します。
緊急事態が発生した直後の慌ただしい状況のなかでも、社内外への適切なコミュニケーション対応が取れるように、本記事をご活用ください。
目次
クライシスコミュニケーションとは
クライシスコミュニケーションとは、危機管理対策における重要な活動の1つ。不祥事や災害などの緊急事態が発生した際に生じる、自社の被害を最小限に抑えることを目的に行うステークホルダーやメディアに対するコミュニケーション活動の名称です。
緊急事態が発生した際、クライシスコミュニケーションを適切に行わないと、会社の信用を回復できないレベルまで失ってしまうケースもあります。業界・規模に関係なく、クライシスコミュニケーションは必要不可欠。適切な対応がとれるよう概要を把握し、準備を整えておきましょう。
クライシスコミュニケーションが求められる4つのケース
クライシスコミュニケーションが求められる場面には、以下4つが挙げられます。
- 不祥事
- 事件
- 事故
- 災害
不祥事
近年では、芸能事務所の代表による所属タレントに対する性加害や、中古車販売・買取企業が引き起こした不正請求といった一連の騒動などの不祥事が大きく話題になりました。
企業による不祥事は、世間からの注目度も高く、クライシスコミュニケーションがとくに重要になります。
事件・事故
社内で事件や事故が発生した場合にも、クライシスコミュニケーションは必要です。
事件は、社内の人間による横領や暴力行為などが該当します。それに対し、事故は工場での火災や建築現場でのトラブルなど。具体例としては、2023年9月に東京八重洲のビル建設現場にて、鉄骨が落下したことで複数の死傷者が発生した件などが該当します。
災害
最後に災害。大きな地震や集中豪雨などによって、社内の人間や設備に被害が出た場合には、従業員や取引先といったステークホルダーに対して、被害状況や今後の対応について発信することが求められます。
【社内・社外】クライシスコミュニケーション実施の流れ
クライシスコミュニケーションは、社内の対応と社外への対応に分かれており、社内→社外の順序で実施します。
社内対応
社内に向けた対応は、以下の流れで行います。
- 1.危機の発生
- 2.上司もしくは事前に決められた部門への第一報
- 3.対策本部の事務局への連絡
- 4.対策本部メンバーの招集
- 5.対策本部会議で情報収集と対応協議
不祥事の発覚や事件・事故の発生などの緊急事態がきっかけとなり、対応がスタート。緊急事態の発生を確認した従業員は、すぐに上司もしくは関係部門(総務部など)へ第一報を入れます。
この第一報の時点で、事故状況や関係する人間が誰かなど把握している情報を全て伝達し、必要であれば警察や消防、弁護士へ連絡。
第一報を受けた従業員や部署は、緊急事態に対応する対策本部へ連絡。事前に決められている対策本部メンバーが集まり、発生した緊急事態に関する情報の収集と整理、今後の対応について具体的な協議を行い、必要があれば社内へ通知するという流れになります。
社外対応
次は社外への対応です。
まずは、対策本部でまとめた情報の発信先を決定。取引先の企業や、普段からやりとりをしているメディアなど、発信するべき相手を決めます。
情報発信を行うと、ほかの取引先や顧客からの問い合わせやメディアからの取材依頼が入るケースも少なくないため、あらかじめ準備するとよいでしょう。反響が大きく記者会見が必要と判断した場合は、それについても対応しましょう。
災害の場合は、対応の流れが異なることも。事業が停止する規模の大きな被害が出た場合は、上記で解説したような社外に向けた対応が必要になりますが、被害規模が小さく社外への影響がない場合は、従業員に対しての情報発信だけで完結するケースもあります。
クライシスコミュニケーションで意識すべき3つの要素
クライシスコミュニケーションでは、ガバナンス、ディスクロージャー、アカウンタビリティという3つの要素を三位一体として取り組んでいくことが重要です。
ガバナンス
ガバナンスは、とくに経営者が意識するべきポイントです。公正かつ透明性のある意思決定を意識しましょう。
企業によっては、経営者の独断で物事を決定してしまうこともありますが、クライシスコミュニケーションにおいては厳禁です。
経営者にとって、リーダーシップは重要な要素ですが、クライシスコミュニケーションの場においては、従業員の意見を聞くことが必須。どんな状況であっても、必ず対策本部で協議をしたうえで進める必要があります。
ディスクロージャー
ディスクロージャーは情報開示を意味する要素です。
クライシスコミュニケーションにおいては、迅速な情報発信が求められますが、発信すべき情報とすべきではない情報を見誤ってはいけません。
また、メディアなどに対する発信をする時点で、情報収集や整理が完了していないことも考えられます。正確でない情報の発信は、会社の信頼度の低下につながります。
そのため、発信すべき情報を適切に見極め、聞かれても答えることができない不明確な内容については「なぜ答えられないのか」を説明できるように準備しておくことが求められます。
アカウンタビリティ
アカウンタビリティには、説明責任という意味合いがあり、クライシスコミュニケーションにおいてはメディア対応において重要な要素になります。
平常時のプレスリリースでは、要点だけを簡潔にまとめて発信することが一般的ですが、クライシスコミュニケーションにおいては、必要な情報を全て丁寧にまとめ、発信することが求められます。
発信された情報を受け取った側に、どういった心理変化が発生するかまで考慮して、クライシスコミュニケーションを行いましょう。
クライシスコミュニケーションを実施するために必要な準備
クライシスコミュニケーションの準備において、対策本部を決めておくことや、従業員に対してクライシスコミュニケーションの概要を共有しておくことは大前提になります。
そのうえで、以下3つの準備を徹底しましょう。
- 経営者の危機管理意識を高める
- 非常事態の対応を計画書に落とし込む
- 平常時にトレーニングを行う
クライシスコミュニケーションでは、経営者主導で対応を進めることが求められます。
先ほども触れたように経営者の独断は厳禁ですが、経営者が対策本部に参加することで対応が迅速化し、ステークホルダーに対してリーダーシップを見せることもできます。そのためにも、経営者がクライシスコミュニケーションの重要性を認識しておくことが重要です。
また、ここまでクライシスコミュニケーションの一連の流れについて解説してきましたが、具体的な対応については会社の状況にあわせて調整する必要があります。自社で緊急事態が起きた際、どういった流れで対応するのかについて、計画書に落とし込みましょう。
そして作成した計画書をもとに、平常時にトレーニングを実施することも推奨しています。これは、対応を決めただけでは、緊急事態が起きた時に計画通り実施するのは難しいためです。トレーニングのなかで修正点が見つかった場合は計画書をアップデートします。緊急事態が起きたあとの流れが明確になるように準備を行いましょう。
クライシスコミュニケーションにおける4つの注意点
クライシスコミュニケーションは、対応を間違えてしまうと逆効果になり、信頼低下につながるケースもあります。そうならないためにも、以下4つの注意点を把握しておきましょう。
注意点1. 第一報を軽視しない
まずは第一報の軽視です。「この程度のことなら問題にならないだろう」という個人の判断で会社側に報告をしなかった結果、大問題に発展してしまうことも考えられます。そうならないためにも、問題が発生した場合、個人で判断するのではなく、必ず上司や関係部署に報告することを従業員に周知しておきましょう。
注意点2. 初期対応はスピードが重要
初期対応の遅れにも注意しましょう。報告が遅かったり、情報収集に時間がかかったりすることで、結果的に情報発信が遅れてしまい、ステークホルダーの信頼低下につながります。緊急事態の発生から情報発信までの目安時間を事前に決めておき、トレーニング時にも意識するようにしましょう。
注意点3. 誤情報を発信してしまった場合は、迅速に訂正・謝罪する
続いて、間違った情報の発信に対する対応です。緊急時では対応のスピードが求められるため、間違った情報を発信してしまうことも考えられます。誤情報を発信しないようにすることも大切ですが、もし情報が誤っていたと発覚した場合はできるだけ迅速に訂正しましょう。記者会見などで訂正・謝罪するのも効果的です。
バレないだろうと対応を放置することは絶対にやめましょう。
注意点4. 失言に注意を払い、回答を用意する
最後に失言について。記者会見や取材の場で、回答者が失言をしてしまった事例が過去には複数あります。その失言によって、何倍も問題が大きくなってしまうこともあるため、事前準備を徹底的に行い、回答を用意しましょう。
クライシスコミュニケーションにおいて、従業員の安否確認は必須
事件や事故、災害といった緊急事態における従業員の安否確認は、クライシスコミュニケーションにおいても必要です。安否情報を把握し、対応するために、迅速かつ正確な情報収集が求められます、
『安否確認サービス2』では、システムが自動で従業員の安否確認から、回答集計まで行います。また、アンケート機能を活用した従業員に対する情報収集や、掲示板機能を活用した社内への情報発信も可能です。
安否確認サービス2を活用することで、クライシスコミュニケーションにおいて重要な、情報収集、対策協議、社内への情報発信を実施しやすくなります。適切なクライシスコミュニケーションをとるための1つのツールとして、安否確認サービス2をぜひご検討ください。