事業継続計画(BCP)を策定された担当者の方へ。あなたが策定したそのBCP、どれだけ機能するでしょうか?
BCPはいざというときのためのものではありますが、まだ大きな災害を経験していない企業の場合、その「いざというとき」をどれだけ正確に想定できるでしょう。
もちろん、どれだけ分厚いBCPマニュアルであっても完璧に機能するということはないですが、それでも抜けや漏れを極力なくし、ある程度機能するBCPを策定しておかなければなりません。また、そのBCPの手続きを担当者に認識させることも必要です。
このように、BCPは「作って終わり」ではなく、訓練・演習によってブラッシュアップし、その成熟度を上げていくことが求められています。この記事では、数あるBCP訓練の中でも最も簡単にできる「机上訓練」の手順とポイントについて説明します。
目次
机上訓練をおこなう3つの目的
机上訓練とは、BCPで検証したいあるテーマをもとに災害発生のシナリオを作成。そのシナリオに対してどのように対処するか、参加者が一室に集まって、その名の通り机の上でシミュレーションする訓練のことです。図上演習とも呼びます。
ホワイトボードやBCPマニュアル、書類や地図など、簡単に用意できるものでできる訓練のため、初めてのBCP訓練としても適しています。
この机上訓練を実施する目的は大きく3つあります。
1.策定したBCPの確認及び改善
実際にシミュレーションをしていくなかで、BCPがどのように現場で機能するか確認。また、想定しきれていなかった抜けや漏れを訓練後のフィードバックで確認し、改善へとつなげていきます。
2.BCPの手続きの認識
災害時、BCPにしたがって担当者がどこにどのような連絡をすればいいのか、訓練を通して認識を深めます。この机上訓練での学びを実地訓練で生かせるとさらに効果が上がります。
3.災害への意識の醸成
時間をとって訓練をおこなうことで、訓練対象者の防災意識を醸成していきます。とくに机上訓練では、「1.策定したBCPの確認及び改善」を意識し、より精度の高い、成熟したBCPを目指していきましょう。
では、ここからは机上訓練の具体的な手順について説明していきます。
「計画・準備」「実施」「評価」——机上訓練の手順は3ステップ
机上訓練の手順は、「計画・準備」「実施」「評価」の3ステップに分けられます。
計画・準備
この段階では、テーマ・シナリオの設定や、当日に状況を説明するために配布する「状況付与票」の作成をおこないます。また、訓練会場を押さえたり参加者に事前説明をおこなうのもこの段階です。
テーマ設定では、対象とする危機(地震や洪水、感染症など)と、訓練を通して身につけてほしいこと(単なるコミュニケーションの確認や、BCPマニュアルに縛られない柔軟な対応など)を踏まえて決めます。このテーマが確立されていなければ、次のシナリオ設定がうまくいきません。
シナリオでは、テーマに沿って訓練対象者にどのような対応を期待するかという「骨子」をまず決め、そこから訓練対象者以外でシナリオ内に登場する人物(社内調達担当役員や、社外の取引先など)、災害発生の日時、自社の被害想定などを決めます。
テーマやシナリオが決定したら、訓練対象者の判断の目安となる状況付与票の準備です。災害時に社内や社外、世の中でどのようなできごとが起こるか(取引先への甚大な被害や自社の生産ラインの停止など)、シナリオをベースとして作成します。ただし、あまりに情報が多すぎると訓練対象者も限られた時間の中では処理できないため、テーマをもとに取捨選択をするようにしましょう。
また、上記で決めた訓練計画について、概要を訓練対象者に事前に説明するのも仕事のひとつです。訓練対象者の理解が深まり、当日、より効果の高い訓練にすることができます。
実施
十分に事前準備が整ったら、当日実施します。机上訓練は「ワークショップ型」と「ロールプレイング型」の2種類に分けられます。
「ワークショップ型」は、訓練対象者でチームを編成し、状況付与票によって一括で与えられた情報をもとに十分に討議をしてもらい、アクションを決定する訓練です。チーム内での決定事項は、ワークシートなどに記入し、発表してもらいます。
「ロールプレイング型」は、訓練対象者の役割を振り、随時出される状況付与票をもとに、各人の柔軟な対応を要求する訓練です。訓練対象者間での連絡や運営側への問い合わせは「連絡票」や電話を通じておこなうとするルールを定めることもできます。ただし、双方向型のコミュニケーションが発生するため、運営側には高いコミュニケーション能力が求められますし、ロールプレイ中の混乱を防ぐためにも、ルールやタイムスケジュールなどの周知の徹底も必須となります。
訓練のテーマや、訓練対象者の机上訓練への習熟度に合わせて、「ワークショップ型」と「ロールプレイング型」を選ぶようにしましょう。
評価
訓練終了後には、振り返って訓練全体を評価する機会を設けます。そこで出た意見によって、現在のBCPの不足事項や、今後の検討事項などを洗い出すことができます。もし外部から専門家を招くことができれば、さらに客観的かつ専門的な振り返りをおこなえるでしょう。
訓練対象者にはアンケートなどを利用して今回の訓練や自分の達成度について回答してもらい、次回以降の訓練に活かしましょう。
また、訓練中に見られた課題については、「ハード」「ソフト」「スキル」の3点に分けて分析。BCPの改善や訓練計画の修正など対策を講じ、次の訓練での検討事項に加えてください。
「机上訓練」各ステップでの重要ポイント
机上訓練はすでにご説明した通り、会議室と参加者さえ押さえられれば実行できる簡単なものですが、ただ、より有意義なものとするために気をつけなければならない点もあります。「計画・準備」「実施」「評価」の3点に分けて説明します。
計画・準備:シナリオは具体的に
机上訓練の訓練の軸となる「シナリオ」は、訓練対象者にリアリティを感じさせるために、徹底して「具体的に」被害想定をしましょう。ただし、この作業に必要以上に時間をかけすぎるのはNG。国や自治体が公表している「被害想定」「ハザードマップ」などの既存資料を最大限活用しましょう。
実施:誤解を生まないため、説明は入念に
とくに机上訓練を初めて実施する場合は、訓練対象者への説明が重要となります。まず机上訓練とはどういったものなのか理解してもらうために、運営側が具体的なやり取りを実演して、イメージしやすくしてもらいましょう。
また、机上訓練での行動が会社での評価につながると勘違いすると、意見を言えなくなったり、逆にパフォーマンスに走ったりする社員が出るかもしれません。机上訓練が、BCPの機能を確認したり、改善するためにおこなうことを周知するようにしてください。
随時、質疑応答を挟んでもよいでしょう。
評価:ふとした“気づき”を大事にする
机上訓練において、評価——振り返りは最も重要です。次回以降の訓練、そしてBCPの改善に最大限生かすためには、訓練中に現れた「課題」だけでなく、「不明点」「疑問点」など、小さな“気づき”も大事にしましょう。
「報告の手続きが煩雑な気がする」「状況付与に少し違和感を覚えた」など、実際に訓練をした人間にしかわからない“気づき”をできるだけ吸い上げられるよう、努めてください。
訓練は、防災担当者の安全意識が最も高まる
この机上訓練で最も学ぶ機会が多いのは、実は訓練対象者ではなく、運営する側の防災担当者です。訓練の準備段階でも、現在のBCPの様々な課題が見えてきますし、実施段階、評価段階で従業員の意見を取り入れ、さらに考察を深められることでしょう。
机上訓練を単に従業員の安全意識の向上のためと捉えず、自分の防災担当としての安全意識も向上させるためと考えて意欲的に取り組みましょう。
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