地球温暖化に伴い、日本では1時間に50mmを超える雨が降る回数が増えています。この数十年、大きな被害がなかったところでも、豪雨による水害が発生する危険性が高まっているのです。そんな中、企業でも水害対策が重要視されています。
そこで今回は企業がとるべき水害対策について、水害対策の必要性や水害対策に特化した備品を紹介します。
監修者:木村 玲欧(きむら れお)
兵庫県立大学 環境人間学部・大学院環境人間学研究科 教授
早稲田大学卒業、京都大学大学院修了 博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て現職。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など「安全・安心な社会環境を実現するための心理・行動、社会システム研究」を行っている。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)などがある。
目次
避難所と避難場所の違い
まずは避難所と避難場所の違いについて理解しましょう。これらの用語や定義については、自治体によって異なることがあるため、ぜひ一度、ご自身が関係する自治体の「避難所」「避難場所」に関する情報を確認してください。
一般的に、避難場所(指定緊急避難場所とも呼ばれます)は、災害の危険が迫る中で一時的に逃げる場所です。一方、避難所(指定避難所とも呼ばれます)は、災害によって自宅等で過ごすことが難しい人たちが一時的に生活をする場所です。
避難場所は、公園や学校の校庭など屋根のないオープンスペースであることが多く、長期滞在が想定されておらず、寝泊りをするには難しい環境だと言えるでしょう。
一方で、避難所には学校や公民館、公共施設などが多く、被災地域に暮らしていた人が生活を送ることが前提で用意されているため、一定時期にわたって寝泊まりをすることが可能です。
洪水や津波などの危険が迫る中で、まずは安全な避難場所に待避して、その後自宅に戻ることが難しいような場合には避難所で滞在するという避難行動が考えられます。
避難所は一時的に生活する場所
避難所とは、一時的に自宅の代わりに生活拠点とできる場所です。
自宅が被災して使用できない場合、または交通手段がなく物理的に帰宅できない場合などは、避難所を利用して一時的に生活することになります。
公民館や学校の体育館など、安全性を確認できた公共施設が主に避難所として用いられます。
被災者が自宅に戻ったり、新たな居住先を見つけるまでの間、生活を保障するための重要な施設です。
避難場所は一時的に逃げる場所
避難場所は、災害の発生直後に命を守るために緊急で逃げ込む場所です。地震や津波/洪水/火災など、発生した災害の特徴に応じて設定されます。
例えば地震の場合は、周囲での崩落や落下事故の発生リスクが少ない学校のグラウンドなどが避難場所として指定されます。
一方で、洪水や津波の場合は、水に覆われるおそれのない高台を避難場所とされることも多々あります。
避難場所には生活のための設備が不十分であるため、長期の避難生活が見込まれる場合には避難所への移動することになります。
避難所と避難場所はマークが異なる
避難所と避難場所を表すマークもそれぞれ異なります。JIS(日本工業規格)で制定されている「災害種別避難誘導標識システム」にて、避難所と避難場所のマークが明記されています。緊急時でも冷静に見分けをつけるために、以下の相違点を把握しましょう。
避難所のマークは建物に逃げ込む人
避難所のマークには、建物に走り込む人のデザインが採用されています。
防災関連のマークは緊急時に多くの人の目に触れます。そのため、言語や年齢を問わず誰もが理解できるデザインを採り入れていることが特徴です。
前述したように、避難所は一時的に生活の拠点として利用する場所です。人が逃げて入る建物のイメージで、屋内に走り込む人のデザインが描かれています。
また、この避難所のデザインは災害の種類を問わない共通のマークです。そのため、災害発生時にはもっとも目にする回数が多いマークと言えます。
避難場所のマークは楕円形に逃げ込む人
避難場所のマークは、楕円形の空間に逃げ込む人のデザインです。
避難所が生活拠点として機能することに対して、避難場所は緊急時に素早く安全を確保するべく逃げ込む拠点です。そのため、広い空間をイメージした楕円形の上に逃げ込む人のデザインが使われています。
また、避難場所のマークでは、災害の種類に応じた異なるマークが用いられます。
高潮や津波が発生した際には高台へ逃げ込む必要があるため、背後の波から逃げながら高台を目指す人のイラストが採用されています。
いつ、どこに、どのように避難するべきか
続いて、避難所と避難場所に、いつ/どこに/どのように避難すべきかについて解説します。タイミング、場所、方法の各ポイントをおさえることが重要です。
避難するべきタイミング(いつ)
市町村から発令される警戒レベルは、1〜5の5段階で構成されています。
とくに警戒レベル4は「避難指示」を意味するため、この時点で対象となっている地域の住民は全員、避難などの安否確認行動をとる必要があります。
また、警戒レベルが4に達していない場合でも、住居や現在地に危険を感じた際には自己判断で避難を開始することも重要です。
さらに、SNSで流れる可能性のある誤った情報に惑わされないことも大切です。
政府広報オンラインからは、避難のガイドラインも出ているため、下記も参考にしてください。
参考:政府広報オンライン「「警戒レベル4」で危険な場所から全員避難!5段階の「警戒レベル」を確認しましょう」
自宅が危険なときは避難所(どこに)
自宅での滞在が危険な場合は、安全が確認できるまで避難所や避難場所で過ごしましょう。
災害によって二次災害が発生することもあります。
自宅内に無理に滞在していると、飛散したガラスや転倒した家具などで負傷するリスクのほか、建物の倒壊や火事、同じ災害に再度見舞われるリスクも存在します。危険だと感じたときには、迷わず避難所/避難場所へ移動しましょう。
避難所/避難場所の設置・運営は市町村が行う自治事務です。
災害対策基本法や「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」を通じて、各市町村には避難所の整備が求められています。
火災や津波などは避難場所(どこに)
避難について緊急性の高い災害が発生した場合は、避難場所に向かいましょう。とくに火災や津波、洪水は被害が広がるまでのスピードが速く、屋内で逃げ遅れると命にかかわる事態を招きます。そのため、避難場所に駆け込むことが重要です。
また、避難場所として学校や公園などの公共施設を使う場合が多い一方で、階数があって津波や洪水がやってこない商業施設やマンションなど民間施設を利用することもあります。
最寄りの避難場所にすぐ向かうために、場所を事前に確認しておきましょう。
どのように避難をするべきか(どのように)
続いて、避難の方法について解説します。
避難先の場所を把握していても、周辺道路の状況次第ではもっとも近いルートが使えない可能性もあるでしょう。そのため、自宅やオフィスから避難場所への経路は3つ想定しておくことがおすすめです。
また、地域のハザードマップを参考にしてもっとも安全なルートを事前に考えておくことも重要です。ただし、マップ上では安全に見えても道端に瓦礫やガラスが散乱している可能性もあるため、避難の際には底が厚くて頑丈な靴を履いた上で、被害状況を確認しながら避難をしましょう。
内部リンク
避難所の種類
ここからは、市町村が指定する2種類の避難所について解説します。さまざまな人が利用する「指定避難所」と、高齢者や障害者のなかで自力での生活が難しい人のための「福祉避難所」です。
目的の違いを理解しながら、避難時の参考にしてください。なお、先にも述べたように、自治体によって呼び方が違う場合もあるために、自分が関係する自治体でどのように呼ばれているのか、一度、確認をしてください。
指定避難所
市町村によって指定された「指定避難所」は、災害の発生で避難を余儀なくされ、自宅に戻れない状況の人々を一時的に滞在させるための場所です。
災害対策基本法第49条の7では、各市町村が適切な公共施設や民間施設を指定避難所として指定する義務が明示されています。
各市町村が指定しているため地元の避難所のみ利用できるのではなく、他の地区が指定した避難所の利用も可能です。
▲出典:災害対策基本法
福祉避難所
福祉避難所は、自力での生活が困難な人とその家族を受け入れる形態の避難所です。主に高齢者や障害者、乳幼児などが対象であり、これらの人々は災害時に特別な配慮が必要な「要配慮者」として扱われます。
福祉避難所については災害対策基本法施行令第20条の6第5号にて、指定避難所と同様の策定義務が記されています。
とくに災害の発生時に、要配慮者が困っていることを相談し、助言や支援を受けられることができるのが福祉避難所の特徴です。
なお、災害の状況によっては、福祉避難所が立ち上がらない場合もありますので注意が必要です。
避難場所の種類
前述の避難所に続き、避難場所の種類も2つ紹介します。災害から身を守る「指定緊急避難場所」と、指定緊急避難場所が遠い場合に、その前段階として一時的に避難をする場所である「一時避難場所」です。
こちらも自治体によって呼び方が違う場合もあったり、そもそも一時避難場所を設定していない自治体も多くあるために、自分が関係する自治体ではどうなっているのか、一度、確認をしてください。
指定緊急避難場所
災害の発生または発生するおそれがある際に、緊急で逃げ込む避難場所として用いられる施設が指定緊急避難場所です。津波や洪水、崖崩れや土石流などその場に留まることが危険である災害ごとに、安全性の高い施設がそれぞれ指定されます。
なお、災害対策基本法施行令第20条の3では指定緊急避難場所の基準が明記されています。
洪水や津波の場合は想定の水位よりも高い位置に屋上があることや、地震の場合は危険な建物が避難場所周辺にないことが基準です。
一時避難場所
一時避難場所は災害の発生後真っ先に向かう一時的な簡易の避難施設で、一時集合場所とも呼ばれます。災害発生後に素早く逃げ込める点を重視するため、地域の公園や広場などが指定されるのが一般的です。
また、一時避難場所は、先に述べた指定緊急避難場所などの大規模な避難場所へ移動する際の中継地点の役割も果たします。
各地区の一時避難場所に逃げ込んだ人々が、今度は集団になって指定緊急避難場所へ避難を続けるという流れが一般的です。
会社で被災した場合の避難場所は?
災害は、在宅中ではなく会社での勤務中や通勤途中に発生する可能性もあります。ここでは、会社で被災した場合の避難について説明します。
帰宅困難者を受け入れていない避難所がある
会社で被災した場合には、安全が確認されるまでは会社に留まるのが最善策です。無理をして帰宅しようとすると、特に、電車が止まっていたり、道路が渋滞している時には、帰宅途上でそれ以上進むことができず、帰宅困難者になる可能性があるためです。
難しいのが、通勤途上で被災をして、会社にも自宅にも行けずに帰宅困難者となった場合です。近くの避難所などでしばらく滞在をしようと思うのですが、避難所はあくまでも地域住民の滞在場所とする観点から、会社にいて帰宅できない人(帰宅困難者)を受け入れていない避難所が存在するのです。
その場合は、情報収集をしながら、帰宅困難者を受け入れてくれる避難所を探すことになります。
帰宅困難者向けの拠点を用意する自治体もある
一方で、帰宅困難者向けの一時的な避難拠点を用意する自治体も存在します。
災害支援ステーションがその代表例で、帰宅困難者を対象に食料やトイレなどの生活インフラを提供する設備が整えられています。
また、公共施設だけではなく、コンビニやガソリンスタンドなど民間の店舗も、災害支援ステーションとして水や食料を配布してくれたり、トイレを使わせてくれたりすることもあります。とくに電車などで通勤する人は、会社での避難訓練や防災イベントの際には、勤務先や駅の周辺にどのような施設や拠点があるのかを調べておきましょう。
会社での防災マニュアルを作っておくと安心
万が一の事態があった際のため、会社での防災マニュアルを作っておくと災害時でも落ち着いて行動ができます。災害時には避難や安否確認、さまざまな災害対応など、いくつもの行動を適切に行う必要があります。その際、防災マニュアルに代表される行動指針があれば、冷静な対応が可能です。
具体的な内容としては、避難経路と集合場所の詳細のほか、出勤可否の判断基準はマニュアルに載せておきましょう。
また社内にスペースがあれば、自分用の水や食料、歩きやすいスニーカーなどを備えておくようになど、備えについてもマニュアルに載せておきましょう。
作成したマニュアルは社内で共有し、従業員が災害に備えられる体制を作れることが理想的です。
避難所と避難場所の違いを正しく理解して冷静に行動しよう!
今回は、避難所と避難場所それぞれの定義や違いを解説しました。一般的に、避難場所は、災害の危険が迫る中で一時的に逃げる場所です。しかし、避難所は、災害によって自宅等で過ごすことが難しい人たちが一時的に生活をする場所です。
災害時には自身の置かれている状況を踏まえ、適切な避難行動を取ることが重要です。
また、会社内や通勤途上で被災した場合は、帰宅困難者になる可能性があります。
基本的には社内にいた場合には安全が確保されるまでは社内に留まることが有効です。通勤途上の場合などは、帰宅困難者を受け入れてくれる避難所を探したり、災害支援ステーションを利用しながら帰宅もしくは出社を目指してください。
監修者:木村 玲欧(きむら れお)
兵庫県立大学 環境人間学部・大学院環境人間学研究科 教授
早稲田大学卒業、京都大学大学院修了 博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て現職。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など「安全・安心な社会環境を実現するための心理・行動、社会システム研究」を行っている。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)などがある。