取締役における善管注意義務とは? 違反になり得る行為や事例を交えて解説

遠藤 香大(えんどう こうだい)
善管注意義務とは、一般的かつ客観的に見たとき要求されるであろう注意義務です。取締役は株主から経営を任されているため、企業に対する善管注意義務が課せられます。違反すると罰則の可能性もあるため、事前に善管注意義務への理解を深めておかなければいけません。
そこでこの記事では、善管注意義務の概要を紹介します。違反になり得る行為や事例も紹介しているので、あわせて参考にしてください。
目次
善管注意義務とは
善管注意義務とは「善良な管理者の注意義務」の略で、受託者が事務などの管理を行う場合、職業またはその地位にある人として通常要求される程度の注意義務を払うことです。
ここでは、善管注意義務をより具体的に解説します。
善管注意義務の意味
善管注意義務について、民法では受託者が善良な管理を行い、委託事務を処理するように義務付けています。つまり、取締役に関しては情報収集や調査など実施したうえで、企業にとって適切な判断を下すように義務付けているのです。
(受任者の注意義務)第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
(引用:民法 | e-Gov 法令検索)
さらに、会社法では忠実義務に関しても記されており、株式会社のために忠実な職務遂行が求められています。
(忠実義務)
第三百五十五条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。
(株式会社と役員等との関係)第三百三十条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
(引用:会社法 | e-Gov 法令検索)
そもそも取締役は会社と雇用関係を結んでいません。会社から調査や検討、情報収集、計画立案といった業務を委任されていて、良識と注意を払ってその職務を全うする必要があります。そのため、会社に対して善管注意義務が課せられており、会社を守る行動を行うべきだとされています。
善管注意義務よりも軽い「注意義務」との違い
善管注意義務と似た言葉に、注意義務があります。
注意義務とは、ある行為に対して要求される一定の注意義務です。たとえば、無報酬で物の保管を引き受けた場合の注意義務について、民法では以下のように記されています。
(無報酬の受寄者の注意義務)第六百五十九条 無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。
(引用:民法 | e-Gov 法令検索)
つまり、無報酬で管理を引き受けたものが不注意によって破損したとき、重大な過失がある場合のみ損害賠償の責任を負います。軽度の過失ではあれば損害賠償まで求められることはないため、善管注意義務よりも程度が軽いと判断できるでしょう。
善管注意義務の違反になり得る行為
取締役が善管注意義務違反と判断されるような行為は、主に以下の5つがあります。
- 経営に関する判断ミスをする
- 監督義務を放棄する
- 承認を得ないまま利益相反取引を行う
- 法令に違反する
- 第三者に重大な過失を生じさせる
それぞれについて解説します。
経営に関する判断ミスをする
取締役には善管注意義務によって会社を守る義務があるため、物事を的確に判断し、事業を継続させなければいけません。正常の判断のもと経営に悪影響をもたらした場合は罪に問われませんが、誰が見ても判断に誤りがあると評価される場合は善管注意義務違反に該当する恐れがあります。
つまり、取締役はいかなるときも的確な判断を下し、会社の存続につながる行動を示す必要があります。
とはいえ、常に善管注意義務の責任が発生すると、取締役にはリスクが大きすぎるでしょう。そのため、善管注意義務違反かどうかを調査する際は「然るべき調査を行ったか」「不合理な判断は下されていないか」なども注視します。したがって、取締役の判断によって会社に損害が生じても、直ちに善管注意義務違反の責任を負うわけではありません。
監督義務を放棄する
取締役には職務の一環として、ほかの取締役を監督する義務があります。監督義務とは、従業員が適切に業務を遂行しているかを確認する義務のことです。とくに業務執行権限を持つ代表取締役や業務執行取締役による業務執行の監督が重要であり、違反行為に気づいたときは必要な処置を行わなければいけません。
また、事業を継続させるためには取締役同士だけではなく、会社全体を監督する必要があります。監督義務に担当外はないため、隅々までしっかりとチェックしなければ善管注意義務違反に該当する恐れがあるでしょう。
承認を得ないまま利益相反取引を行う
利益相反取引の承認を怠った場合も、善管注意義務違反に該当する恐れがあります。利益相反取引とは、取締役が会社の利益を無視して自己もしくは第三者の利益を生む取引のことです。つまり、会社が損するにもかかわらず、自分の利益を優先する取引をすると善管注意義務違反として判断されます。
そもそも取締役が自社や第三者、そのほかの取締役と取引を行う際は、株主総会や取締役会などを通して承認を得る必要があります。言い換えれば利益相反取引であっても、株主総会や取締役会などで承認を得られれば、その取引は行っていいのです。
しかし、承認を得ないまま利益相反取引を行うと会社は損害が生じることにつながるため、善管注意義務を違反したことになります。
法令に違反する
取締役が職務を遂行するにあたり、法令などに違反すれば善管注意義務違反にも該当します。たとえば、会社の売上のためとはいえ、法令違反を行えば会社を守ることにはつながりません。法令などを遵守したうえで、会社を守るべきだからです。
取締役の判断によって自社やそのほかの従業員が法令などの違反行為を行うことも善管注意義務違反に該当します。
第三者に重大な過失を生じさせる
取締役は会社やそのほかの取締役だけではなく、第三者に重大な過失を生じさせた場合も善管注意義務違反に該当します。たとえば財務諸表を故意に改ざんすれば、善管注意義務違反と判断されるでしょう。
倒産によって取引先に間接的な損害が生じた場合も、善管注意義務違反と判断される可能性があります。仮に破産管財人の申し立てによる役員責任査定において、取締役が善管注意義務を果たしていないと判断された場合、損害賠償義務を果たさなければいけません。
善管注意義務を違反した場合の罰則
取締役が善管注意義務に違反すると、会社に対して損害賠償を支払います。これは任務懈怠責任と呼ばれ、会社法に任務を怠った場合は会社に生じた損害額を賠償するようにと明記されています。
(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(引用:会社法 | e-Gov 法令検索)
さらに、善管注意義務を違反した場合は、契約解除となるケースもあるでしょう。会社が「委任関係を結べない」を判断した場合は株主総会が開かれ、そこで決議されると解任となります。
(解任)
第三百三十九条 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
(引用:会社法 | e-Gov 法令検索)
善管注意義務違反に関する事例
ここからは、善管注意義務違反に関する事例を紹介します。
匿名組合契約における善管注意義務違反に関する事例
こちらは、匿名組合契約における善管注意義務違反に関する事例です。匿名組合契約とは投資者が営業者に出資し、すべての経営を営業者に任せ、その資金によって得られた利益を投資者に分配する契約です。
今回の事例では、投資者であるXが営業者Y1社に出資し、その一環としてA社という株式会社を立ち上げています。A社の設立資金の8割をY1社が出資したため、Y1社は主要出資者になっています。また、Y1社の代表取締役であるY2とその弟であるY3は、ともにY1社の経営に深くかかわっており、Y3はA社の代表取締役に就任していました。
A社は設立後、Y2とY3からB社の株式を取得していますが、この資金はY1社が匿名組合契約を通じ得たものです。
ここで争点となったのは、Y1社が行った一連の行為が、Xの利益を損なう可能性があったにもかかわらず、Xの承諾を得ずに行われたことです。つまり、Y1社とXとの間で利益相反関係が生じる可能性があります。
原審ではXの承諾がなかったことを審理せずに「善管注意義務違反はない」としていましたが、今回の裁判ではこの判決は誤りであり、Xの承諾の有無を確認せずに善管注意義務が果たされていると結論づけることはできないとしました。
善管注意義務を守るために取締役がすべき4つのこと
善管注意義務を守るために取締役は、以下の3つに注力する必要があります。
- 経営に関する判断は慎重に行う
- 取締役間の監視を強化する
- 適宜専門家の意見を取り入れる
- リスク管理を徹底する
それぞれについて解説します。
1.経営に関する判断は慎重に行う
取締役は「法令違反にならないか」「利害関係の有無は確認したか」など、経営に関する事柄はあらゆる角度から慎重に判断する必要があります。
会社に損害が生じたからといって、すべてが善管注意義務違反に該当するわけではありません。しかし、判断を下すまでの過程が曖昧だと、善管注意義務違反と指摘される可能性は高まるでしょう。したがって、物事を客観的に判断し、企業にとって最善と思える判断を下すことで善管注意義務を遵守できます。
2.取締役間の監視を強化する
取締役会には「取締役会設置会社の業務執行の決定」や「取締役の職務の執行の監督」、「代表取締役の選定及び解職」の3つの義務が課せられています。つまり、取締役間の監視は、取締役会に課せられた義務の一つです。
(取締役会の権限等)
第三百六十二条 取締役会は、すべての取締役で組織する。
2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一 取締役会設置会社の業務執行の決定
二 取締役の職務の執行の監督
三 代表取締役の選定及び解職
(引用:会社法 | e-Gov 法令検索)
つまり、従業員ばかりに目を配るのではなく、取締役間の監視も強化すべきです。たとえ自分が善管注意義務を遵守していても、ほかの取締役が違反行為を行えば監督義務違反と判断されるからです。
そのため定期的に報告会を開いたり、業務報告をし合ったりといった情報共有が必要でしょう。お互いを監視し合うことで善管注意義務違反に該当するような動きがあったときに、いち早く対応できます。また、社内全体のコンプライアンス意識を高めておけば。違法行為が行われにくい職場環境を構築できます。
3.適宜専門家の意見を取り入れる
取締役は適宜、専門家の意見を取り入れましょう。たとえば、法律に関する疑問や不安がある場合は、専門家である弁護士に意見をうかがうことで法令を遵守した対応が可能となります。
取締役といっても、あらゆる知識を豊富に持っているわけではありません。専門知識が必要となる場面では、その分野のプロに意見をうかがうことが重要です。とくに、経営に関する事柄は善管注意義務違反に該当するため、しっかりと確認したうえで判断を下していきましょう。
4.リスク管理を徹底する
リスク管理を徹底することも重要なポイントです。企業は自然災害やテロ攻撃、サイバー攻撃などのリスクを抱えながら事業を展開しており、これらのリスクをできる限り排除しなければいけません。また、企業の力だけでは防げないリスクに関しては、直面したときの損害を抑えられるような備えが必須です。
企業におけるリスク管理を行っていないと直面したときに冷静な判断が下せずに、企業に損害を与えるかもしれません。そのため、いついかなるときも企業を守る行動をするには、徹底したリスク管理は必須と言えるでしょう。
善管注意義務を果たすにはトヨクモの『安否確認サービス2』の活用を!
企業におけるリスク管理は平常時だけではなく、地震や豪雨などの自然災害時にも欠かせません。自然災害はいつ発生するか予測できないうえ、どれほどの被害をもたらすかわからないからです。そのため、あらかじめ自然災害への備えを徹底して行い、いつ発生しても迅速な対応を行えるように心掛けておくことが重要と言えるでしょう。
自然災害の備えにおすすめなのが、トヨクモの『安否確認サービス』です。気象庁の情報と連動して従業員の安否確認を自動で行えるシステムで、専用アプリなどの複数の手段で従業員に安否確認通知を送れます。従業員から得られた回答結果も自動で集計・分析してくれるため、安否確認にかかる手間を大幅に削減できるでしょう。
なお、安否確認サービス2にはあらゆる魅力があるものの、とくにおすすめしたいのが以下の2つです。
- 災害時のリスク管理に活かせる
- 迅速な初動が可能となる
それぞれについて解説します。
災害時のリスク管理に活かせる
トヨクモの『安否確認サービス2』は、災害時のリスク管理にも役立ちます。
災害時は何が起こるか予想できないなか、被害を最小限に抑えながら状況に応じた判断を下さなければいけません。つまり、どのようなリスクに直面しても迅速な行動が必須となります。
安否確認サービス2では、メッセージ機能や掲示板機能を活用すると従業員と迅速な情報共有や議論を行えます。また、大規模災害が発生した起きた場合も安定した稼働が見込めるため、どのような状況下であっても従業員とのスムーズなやり取りができます。災害時のリスクをうまくコントロールしながら、事業の復旧を目指せるでしょう。
迅速な初動が可能となる
トヨクモの『安否確認サービス2』を活用すると、災害時の迅速な初動が可能です。
従業員の安否確認情報を一元管理・収集できるため、迅速に状況把握でき、次の行動を起こしやすいからです。たとえば安否情報を確認する際「誰が出勤できるのか」「誰が緊急対応できるのか」などを把握できます。つまり、今後の行動を起こす際に必要な人員を素早く計算できます。
つまり、安否確認サービス2によって被害状況を把握できると、適切な人員を配置しながら今後のプランを立てられるでしょう。その結果、迅速な初動が可能となり、企業への損害を最小限に抑えられます。
善管注意義務を遵守しよう!
善管注意義務とは、一般的・客観的に見た場合に要求される注意を払う義務のことです。
取締役には会社を守る義務があり、その義務を果たさなければ損害賠償を請求されます。そのため、善管注意義務を防ぐ仕組み作りが必須と言えるでしょう。
災害時への備えには、トヨクモの『安否確認サービス2』の活用がおすすめです。従業員の安否確認や状況把握を迅速に行えるため、迅速な初動が可能となります。その結果、企業への損害を抑えながら事業の早期復旧も目指せるでしょう。
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