災害がもたらす影響は、物理的な被害だけにとどまりません。被災者や支援者の心にも深い傷を残し、その後の生活や仕事に大きな影響を与えることがあります。あなたの会社では、従業員の心のケアにどれほど目を向けていますか?
この記事では、災害時の心のケア(メンタルヘルスケア)について、基礎知識や具体的な方法を解説します。事前の準備と適切な対応で、従業員の心を守りましょう。
目次
災害時の心のケアとは
災害時は身体だけではなく、精神面にもさまざまな影響が表れます。
精神的衝撃やそれに伴うメンタルヘルスの悪化が、個人で対応できる範囲を超えるときには、心のケアが必要です。
災害発生から精神面に影響が表れる過程は、災害からの期間によって超急性期、急性期、中期、復興、再建期に分けられ、それぞれの段階で適した対応が重要です。
災害で心に現れる症状
災害発生時は、普段の性格や立場に関係なく、精神面の不調がどのような人にも起こりえます。災害発生前までは好調だった人でも、災害が心に多大な影響を及ぼし、以下のような症状が出る可能性があることを知っておくことが重要です。
- 不安、恐怖
- 睡眠障害
- 知覚過敏
- 身体症状
不安やうつ状態が続くことで、動機や息切れ、震えなどの身体症状が表れることがあります。また、被災したストレスから糖尿病や高血圧などの持病が悪化し、それらが原因で身体の不調が表出することもあります。
- 喪失感、無力感、うつ症状
- サバイバーズ・ギルト
家族を失った人、凄惨な場面を目撃した人が感じる罪悪感のことを指します。この感情は、「なぜ自分だけが生き残ったのか」「他の人たちが亡くなったのに自分だけが助かったことは不公平だ」などの考えに基づいています。 - 怒り
- アルコール依存
- PTSD
強いトラウマになりうる状況のあと、その体験を頻繁にフラッシュバックしたり、悪夢を見たりして日常生活に支障をきたす症状です。
原因となる事態の発生後、数ヶ月~数年の長い期間が経ってからPTSD症状が強く表れる場合もあります。
(参考:倉林るみい氏, 2013『リスクマネジメントとしてのメンタルヘルス対策』日本産業精神保健学会)
知っておきたい:被災者心理の変化
災害に遭った人の心理面の変化には、いくつかの段階があります。
被災者に表れることが多いとされる心理変化の段階を、以下の表に示します。
被災者の心理変化 | 生じやすい心の課題 | |
---|---|---|
茫然自失期(発災後数日) | 被災の衝撃から感情の欠如、茫然自失の状態となる | 強い不安、緊張、不眠、拒食 |
ハネムーン期 (数日〜数週間) | 復興に向けて尽力する被災者が多く、外面的には元気になったように見える | 至福感、多幸症的、躁的言動 |
幻滅期 (1ヶ月〜数ヶ月) | 周囲から自分たちや災害のことが忘れられつつあると感じる | うつ、PTSD、アルコール依存、自殺意図など |
再建期 (数ヶ月以降) | 心理は正常化に向かうが、環境の変化による二次的ストレスに見舞われる場合もある | 復興から取り残された、精神的支えを失った人は、症状を抱え続けることがある |
ただしこの段階はあくまで一般的な傾向であり、精神の乱高下を繰り返したり、強いストレスを抱えた状態が続いたりする人もいます。
(参考:内閣府「自治体の災害時精神保健医療福祉活動マニュアル」)
被災した従業員に対して企業ができること
従業員が災害に遭い、精神に変調をきたした際に、従業員の心のケアをすることは企業の大きな役割です。
ここからは、従業員が被災した際に企業が取り組むべきことを、被災直後と被災から数日経過した後の2つの時期に分けて紹介します。
被災してすぐにするべきこと
現場で働く従業員が災害に遭ったことが判明したら、すぐに従業員の安否を確認します。
就業中の従業員のみならず、在宅や休み中の従業員についても、人的、物的被害の迅速な状況確認が大切です。被災直後は、電話がつながりにくいおそれがあり、メールの確認や返信が困難なケースも予想されます。
また、昨今の個人情報保護の動きに伴い、従業員の連絡先が分からないことも考えられます。連絡を担当する従業員自身が混乱していることもあるでしょう。非常時の安否確認を負担なくスムーズに行う仕組みを、平常時から整えておくことが大切です。
災害の影響が企業の建屋や施設そのものに及ぶ場合は、自社設備の被災状況も確認します。
加えて、電車や道路をはじめとする交通状況や二次災害などの情報を収集し、必要に応じて従業員に知らせることも重要です。
災害発生時に勤務中だったり、避難場所として会社を利用していたりする従業員がいれば、身の安全を確保し、必要に応じて寝場所や食料などを提供します。寝食の心配なく過ごせる場所があることは、被災者の心のケアに非常に有効です。
被災から数日以上経ってからするべきこと
被災から時間が経っても、従業員のケアのために企業が果たす役割にはさまざまなものがあります。ここからは、被災後の従業員を守るために企業が取り組むべきことを紹介します。
正しく情報を開示する
災害発生時は真偽の分からないさまざまな情報が飛び交い、情報の取捨選択に精神を擦り減らしてしまう人も多くいます。
従業員の混乱を避けるためには、企業が災害に関連する正確な情報を集め、従業員に開示し、関連部署で適切に共有することが大切です。
経営者あるいは上層部は、可能な限り早めに、企業存続や雇用継続の意思表示と、従業員へのケアと情報開示の指示をしましょう。正しい情報を企業が発信することで、無用な不安が生じたり、風評の流布を防いだりする効果があります。
休息を与える
災害発生時は、普段体験したことのない状況を経験することで心身に影響が出ます。
従業員に怪我が無かったり、心身の状態が安定して見えたとしても、一度仕事から離れて休息させる時間を確保しましょう。
1週間~4週間程度の休暇を確保し、精神状態によってはカウンセリングをすすめることも大切です。
また、職場に復帰したあとも、言動に違和感があったり、行動の変化などに気を配る必要があります。時間が経ってから被災によるストレスが表れることもあるため、しばらくの間は、従業員の様子を観察し、必要に応じて声かけや休息などの配慮をすることが大切です。
相談を必要とする従業員のために、社内ホットラインを設置することもよいでしょう。
メンタルチェック
定期的なメンタルチェックを導入することも効果的です。従業員へのアンケートを定期的に実施し、現在の心の状態について回答を得ることで、管理者が従業員のメンタル状況を把握しやすくなります。
安否確認システムは、災害発生時に従業員の安否を迅速に確認できるツールですが、通知の設問をカスタマイズしたり、通知を自動で送信・集計する機能を備えた製品もあります。この機能を活用すれば、従業員のメンタル状況を確認するためのアンケートとしても利用可能です。
被災した従業員の家族にケア
従業員の怪我や死亡などで従業員の家族の生活・精神面に影響が出た場合、企業の対応は重要です。
一般的に、被災者の家族は現場到着時に大きなショックを受け、その後葬儀や保険の手続きなどで忙しくなると、しばらく精神面が麻痺した状態が続くことがあります。
手続きが終わると悲しみやパニックがぶり返すこともあるため、時間が経ってもケアを必要とするケースがあります。
状況に応じてカウンセラーを紹介したり、経済面や就職の支援などをしたりするとよいでしょう。
外部の医療機関・相談機関に相談する
災害時は、企業が医療機関や相談機関への窓口の役割を果たすことがあります。
普段から近くの医療機関と連携できるよう合っておき、行動計画を立てておくとよいでしょう。
このときの連携は、企業と医療機関双方の協力があって成り立ちます。業務上の配慮に関して、医療機関側から適宜必要な指示を受け対応しましょう。
注意:支援者の心のケアにも配慮しよう
被災者や被災地に対して適切な支援を行うためには、支援者の精神面を整えることも重要です。企業は被災者のケアをしようとするあまり、支援者の心のケアがおろそかにならないようにしましょう。
混乱した被災現場では強いストレスのかかりやすい状態が続き、支援者も被災者と同様に、心身に変調をきたしやすくなります。家族と支援について事前に話し合い、災害及びそれによって生じるストレスについて正しい知識を仕入れておくことが必要です。
自分の能力を超えた支援まで引き受けることは避け、必要に応じて専門家への橋渡しをするようにしましょう。
相談窓口
- 自然災害又は大規模な事故等による災害被災者のための心と健康の相談ダイヤル
0120-200-826
- 日本産業精神保健学会
03-5298-4363
- 北海道立精神保健福祉センター
011-864-7121
- 東京都立精神保健福祉センター
03-3842-0948
- 大阪府こころの健康総合センター
06-6691-2811
- 広島県立総合精神保健福祉センター
082-884-1051
- 福岡県精神保健福祉センター
092-582-7500
- 沖縄県立総合精神保健福祉センター
098-886-5920
(参考:独立行政法人労働者健康福祉機構「職場における災害時の心のケアマニュアル」)
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事前準備と適切な対応で、従業員の心を守ろう
災害時における従業員の心のケアには、企業の対応が必要不可欠です。すべての従業員の状況を確認し、安全を確保するために、迅速な安否確認が可能な体制を整えておくことをおすすめします。
また、会社に避難した際に、必要な備蓄が備わっていることが、従業員の心のケアにつながります。発生後の適切な対応も重要であるため、平時から緊急時に対応できるよう確認や訓練を実施しましょう。もしものときに相談できる窓口について知っておくことも重要です。