災害が起きたとき、組織はどう対応すべきなのでしょうか?
災害対策の必要性はわかっていても、なかなか実施に踏み切れていない組織も多いでしょう。対策できていないのは、災害を自分ごと化できていないためといえるかもしれません。
そこで、まずは災害対策の必要性が実感として持ててるように、災害を題材にした映画を観ることからはじめてみましょう。災害に対峙した組織の対応を描く、「災害と組織」をテーマにした映画を7本厳選してご紹介します。これらの映画はどれも、エンタテイメント映画として楽しめることはさることながら、防災意識を高めるうえでも大いに役立つはずです。
目次
災害時の組織の対応を描いた映画7選
1.太陽の蓋
『太陽の蓋』
東日本大震災時、福島原発事故における官邸の人間ドラマを描いた作品。震災直後、原発事故に関する情報は政府から公表されず、メディアで発表されることやインターネット上に出回ることなど、私たちは真偽が定かでない様々な情報に翻弄されていました。日本中の多くの人があの当時、不安を抱えて暮らしていたはずです。
あのとき、官邸では何が起きていたのか。官邸だけでなく、マスコミ、東京や福島の市民の姿を描きながら、その真実に迫っています。本作では、当時の菅内閣の政治家が全て実名で登場し、徹底してリアリティを追求しています。こうした内容で、同時期に公開されていた、福島原発事故をモチーフとした『シン・ゴジラ』との関連性を指摘する人も。
まだ記憶に新しい、福島原発事故という危機に対し、政府はどう対応したのかを描いた本作からは、多くの教訓や示唆を得ることができるはずです。(2016年公開、日本)
【出てくる組織】日本政府
【災害】東日本大震災、福島原発事故
【災害に対する組織の対応】実際の福島原発事故における政府の対応について、ある側面の真実が描かれる。「あの頃、何が起きたのか?」という疑問のひとつの回答になっている。まるで政治ドキュメンタリーを見ているような感覚になるはず。
映画『太陽の蓋』
現役政治家の実名が出てくるたけでも興味深かった映画をやっと!
3.11で官邸・福島原発で何が起きていたのか。
本当にこれが全て事実であるなら、一回は観るべき映画。
目の前で枝野さんが観てたので福耳拝んだ。 pic.twitter.com/pevlXGladL— maejima haruka (@maejimaeji) 2016年8月22日
「太陽の蓋」が凄すぎてシン・ゴジラ連続でみようとした自分を殴りたい。「太陽の蓋」観終わってから貧血起こしそうになった。未だに福島第一が原子力緊急事態宣言を解かれていないことを忘れていたわけではないが、意識しないとマズイ。 pic.twitter.com/o8tKgbpwik
— ぼつ (@boootsu) 2016年8月8日
2.シン・ゴジラ
『シン・ゴジラ』
2016年に公開され、大ヒット記録更新中の本作。「エヴァンゲリオン」シリーズの庵野秀明が総監督として指揮をとり、全く新しい「ゴジラ」に生まれ変わりました。本作では、ゴジラという未曾有の事態に対応する政治家と官僚を描いた、災害対策シミュレーション映画という側面があります。
本作は緻密な取材のもとに描かれたという政治家と官僚の描写が、極めてリアリティがあります。この政府の対応は、福島原発事故の際の政府の動きを強く想起させ、ただの娯楽映画に留まらない作品となっているのです。そのため、1本目で紹介している映画『太陽の蓋』とも関連性をもって観ることができるはずです。
『シン・ゴジラ』は、危機管理対応はどうあるべきなのかを否応にも考えさせられる傑作です。(2016年公開、日本)
【出てくる組織】日本政府。
【災害】ゴジラ。福島原発事故のメタファーとして描かれている。
【災害に対する組織の対応】ゴジラへの対策として、災害対策本部を立ち上げて危機対応に当たっていく。福島原発事故のときとは違い、極めて適切に危機対応を行う日本政府。自衛隊が出動するプロセス、崩壊した官邸の拠点を移し、機能を継続させるといった様子は災害対策の観点から興味深い。
話題の「シン・ゴジラ」見ましたよ〜。フィクションだけどリアルで面白い! 災害対策に防衛出動? 日米同盟と国連安保理決議、多国籍軍? 縦割り行政と決められない政治? 政府の危機管理能力の欠如?… https://t.co/gc0EO08kgQ
— 松沢しげふみ (@matsuzawaoffice) 2016年9月18日
9/18、讀賣新聞の一面と二面は御厨貴氏による「シン・ゴジラ」
怪獣という危機に於ける政府、官僚の対応や日米関係、日本の戦後や昨今での原発、災害との関連の他に怪獣との共存を強いられた「災後」を取り上げて論じている点が非常に興味深い pic.twitter.com/0dstvzwbrZ
— れぎおん (@Legion_1996) 2016年9月18日
3.日本沈没
日本が地殻変動によって沈没することが判明した中で、それに対応する政府や科学者たちのドラマを描いた作品。小松左京の小説が原作で、映画は1973年版と2006年版が存在します。本作は日本が沈没するという、一見荒唐無稽な設定に思えるSF作品ですが、作中で何度も発生する地震描写、災害時の対応など、優れた地震シミュレーション作品としても読むことができるのです。
メインとなっているのは、日本が沈没するという大災害に対して、「この国と、この国の国民をどうやって守るのか」というテーマです。政府や科学者といった、真実を知っている人々が日本を守るために取る行動は、今後、30年以内に発生するといわれている、南海トラフ地震や首都直下型地震への対応として見ることができるはずです。(1973年・2006年公開、日本)
【出てくる組織】日本政府
【災害】日本沈没とそれに伴う大地震、津波、噴火など
【災害に対する組織の対応】日本沈没に対して研究チームが奮闘する様子、日本が沈没するという未曾有の事態を信じずに対応を先送りにする政治家など、大災害に際したときに日本人という集団はどう反応するのかのシミュレーションとして観ることができる。
何度でもいうけどシンゴジラを見たら原作日本沈没も見るとよい。
D計画=巨大生物災害対策本部といってもカゴンジャない。
監督、多分小説と漫画を何回も読み直してそう。— まも(シン・ゴジラ VS 起重機船) (@Kojimamo) 2016年9月18日
4.プロジェクトV 史上最悪のダム災害
1960年代にイタリア北東部に建設されたバイオントダムで、実際に起こったダム災害を映画化した作品。
地滑りが起こる危険性があるとされていながらも建設が行われてしまったバイオントダムでは、実際に完成し貯水をしたのちに、危惧されていたとおり地滑りが頻発するようになってしまいました。しかし、それを軽視した結果、大規模な地滑りが起こり、ダムの水は溢れ出し、巨大な洪水となり付近の村、ロンガローネを直撃。2125人が死亡するという大惨事となったのです。これはいわば、最悪の人災といえます。
作中ではダム工事を敢行したのは巨額の金を投下しているがために、危険性がわかっていながらも、建設が続行されたことが原因として描かれています。この最悪の人災は、日本人としてはどうしても、福島原発事故の経緯を思い出さずにはいられません。利権が原因で生み出される人災は、大小の差はあれど、どんな組織でも起こりうることではないでしょうか。(2001年公開、イタリア/フランス)
【出てくる組織】電力会社を始めとするダム建設関係者
【災害】バイオントダム災害
【災害に対する組織の対応】危険性がわかっていながら、既に動き出したダムのプロジェクトを止められずに大災害を引き起こしてしまった電力会社を始めとするダム建設関係者たち。責任逃れする組織の怖さ、醜さは組織を考えさせられる。
昨日、イタリア映画祭で上映された短編「Girotondo」、津波?洪水?地震?と思って見てたんだけど、恐らくこのバイオントダムの地滑りなんだ。人災だったのか!
バイオントダム – Wikipedia http://t.co/Qhz4VGqa6X
— KuriKuri (@KuriCla) 2015年5月5日
5.ハドソン川の奇跡
『ハドソン川の奇跡』
ニューヨーク発シャーロット経由シアトル行きのUSエアウェイズ1549便が、ニューヨークのハドソン川に不時着した「USエアウェイズ1549便不時着水事故」を映画化した作品。クリント・イーストウッド監督の最新作です。機長の英断により、多くの乗客の命を救ったことから「ハドソン川の奇跡」と呼ばれていますが、機長はその後、容疑者とされてしまう、ということを中心に描かれています。
注目したいのは、不測の事態が起きたときの緊急対応についてです。乗客の命が助かったのは、緊急時のオペレーションが確立していたという側面があります。こうしたオペレーションが行われるシーンから、災害時に取るべき最良の行動が見えてくるはずです。(2016年公開、アメリカ)
【出てくる組織】航空機の機長・スタッフ
【災害】USエアウェイズ1549便不時着水事故
【災害に対する組織の対応】航空機のエンジントラブルが発生。墜落を回避するために、ハドソン川への水面着陸を行なうという機長の英断、そして乗客を救うために適切に対応する添乗員たち、航空機を誘導する管制官といった、スタッフたちの行動は緊急事態への対応として様々な示唆を与えてくれる。
ハドソン川の奇跡。緊急事態発生を通報した1549便に対し、ラガーディア空港の離発着を直ちに中止させて緊急着陸の受け入れ体制を整えたり、引き返しが無理となるや最寄りのティーダボロ空港に通報してレーダー誘導を試みたりと、パトリックという航空管制官の尽力も素晴らしかった。
— ゆた (@yuta_twi) 2016年9月5日
6.タワーリング・インフェルノ
高層ビル火災を題材にした、パニック映画の傑作といわれている本作。パニック映画なので、災害に果敢に立ち向かう人間ドラマが見応えのある作品です。しかし、この大火災の原因が、組織の誤ちによって引き起こされた人災であるという側面には注目すべき点です。その原因とは、高層ビルの手抜き工事。予算を抑えるために、電気系統の配線を設計図よりも細いものを使ったことで出火したのです。
こうした、目先の利益のために安全性を軽視する構図は、実際の手抜き建設の問題などでよく目にすることです。安全性を軽視するなどの組織の誤ちは、取り返しのつかない事態を引き起こしかねないということを、多くの企業は肝に銘じておくべきでしょう。(1974年公開、アメリカ)
【出てくる組織】建設業者
【災害】ビル火災
【災害に対する組織の対応】ビル火災発生の原因となった、ビルの手抜き工事。これを担った建設業者は、安全性よりも利潤を追求することを優先したために行った不正で、バイオントダムと同じく、組織の誤ちが及ぼす最悪の帰結を観ることができる。
wowowで「タワーリング・インフェルノ」を見た。子供の頃に見てかなり強烈な印象がある映画。
カネ目当ての手抜き工事が発端でビル火災が起きる、火災発生当時の危機感が欠如しており対応が鈍いという、どこかで聞いたことがあるような話。
「ベンゼン豊洲インフェルノ」でカンヌを狙ってみそ。— 社会保険労務士 社労士太郎 (@taxtaro) 2016年9月18日
7.ミスト
突如として深い霧に包まれ、様々な怪奇現象が起こるようになり、その中で徐々に秩序を失っていく人々を描いた作品。霧から逃れたスーパーマーケットに避難した人々が得体の知れない「霧の中にいるなにか」に恐怖し、徐々に秩序を失っていくさまは、災害時の避難所を想起させます。
大災害が起きた場合、秩序を保つことは容易ではありません。事実、東日本大震災では災害の乗じた強盗や性犯罪、避難所内のトラブルなどが発生しています。災害が生む恐怖心が人間の心にどんな影響を及ぼすのか、それを知ることができる映画といえます。(2007年公開、アメリカ)
【出てくる組織】避難所の人々
【災害】得体の知れない“霧”
【災害に対する組織の対応】緊急事態を逃れるために避難した人々が、避難が長期化するにつれてどう変化していくのかを体感できる。組織を維持しているものが、実は非常に脆いということがわかるはず。
災害映画を観て防災意識を高めよう
「災害と組織」をテーマに選んだ7作の映画をご紹介しました。どの作品もエンタテイメント作品として楽しめるだけでなく、災害時の組織の対応に関する具体的な事例として見ることができるのです。どの作品も引き込まれるものばかりなので、観終えたあとは防災への意識が芽生えているはず。組織の責任者や防災担当者の方は、ぜひ一度、ご覧になってみてはいかがでしょうか。