企業にとって、社屋や店舗の被災は事業の継続に直結する重大なリスクです。
近年地震や洪水などの自然災害が増加するなか、災害復旧貸付制度は、迅速な事業再建のための重要な支援策となります。この記事では、災害復旧貸付制度の概要と申込方法、およびその他の災害時支援について解説します。
監修者:堀越 昌和(ほりこし まさかず)
福山平成大学 経営学部 教授
東北大学大学院経済学研究科博士課程後期修了 博士(経営学)。中小企業金融公庫(現.日本政策金融公庫)などを経て現職。
関西大学経済・政治研究所委嘱研究員ほか兼務。専門は、中小企業のリスクマネジメント。主に、BCPや事業承継、経営者の健康問題に関する調査研究に取り組んでいる。
著書に『中小企業の事業承継―規模の制約とその克服に向けた課題-』(文眞堂)などがある。
目次
災害復旧貸付とは
災害復旧貸付とは、災害で被害を被った中小企業・小規模事業者を対象とする貸付金制度です。
貸付を行う事業体は、日本政策金融公庫(国民生活事業または中小企業事業)・商工組合中央金庫で、それぞれに異なる制度が存在します。
対象となるのは、災害で直接的な被害を受けた、または取引先の被災で売上により間接的な被害を受けた事業者です。
貸付金の用途は、災害復旧のために必要な運転資金および設備資金に限定されます。たとえば被災した施設や店舗の建て替え、休業中の従業員の給料などが該当します。
災害復旧貸付の種類と違い
災害復旧貸付制度の種類と違いを解説します。事業体として日本政策金融公庫と商工組合中央金庫(商工中金)がありますが、金利、返済期間、融資限度額に関してそれぞれで異なります。
①日本政策金融公庫(国民生活事業)
日本政策金融公庫が個人や小規模事業者を対象に展開する融資サービスが「国民生活事業」です。
災害支援に関しては「災害貸付」という制度が設けられています。通常時の各融資制度に上乗せして、3000万円まで融資が受けられます。
返済期間は一般貸付・特別貸付でそれぞれ次のように定められています。
一般貸付 | 設備資金 | 10年以内(うち据置期間2年以内) |
運転資金 | ||
特別貸付 | 各融資制度に定められた返済・据置期間 |
②日本政策金融公庫(中小企業事業)
日本政策金融公庫が中小企業を対象に展開する融資サービスが「中小企業事業」です。
災害支援の融資に関しては「災害復旧貸付」という制度が設けられています。支店による直接貸付の場合、限度額1億5000万円まで上乗せして融資が受けられます。
返済期間は次のように定められています。
設備資金 | 15年以内(うち据置期間2年以内) |
運転資金 | 10年以内(うち据置期間2年以内) |
なお長期運転資金は、建て替えに伴い一時的に施設を賃借するための資金も含めることが可能です。
③商工中金
商工中金では「災害復旧資金」という制度が設けられていますが、商工組合に所属していなければ融資は受けられません。
限度額の規定はないため、日本政策金融公庫より多くの融資を受けたい場合に有効です。ただし審査が厳しい傾向があります。
返済期間は次のように定められています。
設備資金 | 20年以内(うち据置期間3年以内) |
運転資金 | 10年以内(うち据置期間3年以内) |
3つの貸付制度の比較
3つの貸付制度は併用できません。いずれかの制度を利用しましょう。
必要とする資金額が大きい場合、限度額を定めていない商工中金や、限度額の大きな日本政策金融公庫(中小企業事業)がおすすめです。限度額に満たない資金で十分であれば、無担保で融資が受けられる日本政策金融公庫(国民生活事業)の活用が最適な選択でしょう。
商工組合の会員、または商工中金と取引がある際は商工中金を利用するとスムーズです。
申込方法について
災害復旧貸付の申込方法について解説します。
書類の準備
災害復旧貸付の場合も、通常の融資の手続きと基本的には変わりません。被災証明書以外の提出書類は、通常の融資と同様です。
被害により書類を用意できない場合、ヒアリングで融資の審査が行われます。
日本政策金融公庫(国民生活事業)では、インターネットから申し込んだあと、面談による審査をします。事前に相談窓口で問い合わせることも可能です。
日本政策金融公庫(中小企業事業)や商工中金では、支店の窓口で相談と申込をしたあと、審査をします。
なお、いずれのケースも、支店に相談窓口が設けられるのは災害発生後です。
被災証明書の用意
被災時に融資を受ける場合は「被災証明書」が必要です。証明書により優遇が受けられるケースもあります。
被災証明書とは被害を受けた事実を証明するものです。自治体に申請すると取得でき、融資のほか保険の支払い請求にも使用できます。
罹災証明書は家屋の被害を証明する書類であり、用途が異なるので注意しましょう。
災害時に実施される支援
会社や店舗が被災した場合、企業はBCP(事業継続計画)をもとに、事業の復旧・再生にあたる必要があります。手続きを確認しましょう。
災害が発生した際には「災害救助法」および「激甚災害制度」により、さまざまな中小企業対策が実施されます。
特別相談窓口の設置
災害救助法の適用地域に、融資のための特別相談窓口が設置されます。
融資を行う事業体は次のとおりです。
- 日本政策金融公庫
- 商工組合中央金庫
- 信用保証協会
- 商工会議所
- 商工会連合会
- 中小企業団体中央会およびよろず支援拠点
- 全国商店街振興組合連合会
- 中小企業基盤整備機構
- 経済産業局
たとえば、日本政策金融公庫では2024年2月現在、以下のような災害等支援窓口があります。
- ダイハツ工業サプライチェーン関連中小企業支援対策
- 令和6年能登半島地震による災害
- 令和5年台風第13号に伴う災害
- ウクライナ情勢・原油価格上昇等
商工中金では、貸付期間、資金使途、財務内容により貸付利率が異なります。そのほか別途、短期資金の取扱いもしているので、適切な制度の活用が重要です。
セーフティネット保証4号の適用
セーフティネット保証4号は信用保証協会が設けている融資保証制度です。
突発的な災害で売上が減少している事業者に対し、一般保証とは別枠の限度額で、融資額の100%を保証します。適用地域において、1年間以上継続して事業を行っていることが条件です。
頻発している自然災害に加えて、新型コロナウイルス感染症による消費の停滞もあり、特別相談窓口への相談は著しく増加しています。そのため、2024年2月現在、新型コロナウイルス感染症に係る指定期間が延長され、返済条件緩和策が実施されています。
既往債務の返済条件緩和等の対応
債務のある事業者にとって、突発的な災害は新たな債務(二重債務)を招き、資金繰りがますます困難になるでしょう。このような事業者を救済するため、災害救助法の適用地域にある日本政策金融公庫や商工組合中央金庫および信用保証協会に対して、返済条件緩和の対応が要請されます。
返済条件緩和策には次のようなものがあります。
- 返済猶予等の既往債務の条件変更
- 貸出手続きの迅速化
- 担保徴求の弾力化
このほか、たとえば独立行政法人福祉医療機構の実施する福祉医療貸付事業においても、返済猶予をはじめとする優遇措置が実施されています。
「災害時貸付」の適用
災害時貸付(傷病災害時貸付)とは、適用地域で被災した小規模企業共済契約者に対し、中小企業基盤整備機構が実施する融資制度です。
この制度は原則として即日に低利で融資を行うもので、事業者が事業を安定化させ、早期に復旧を行うための支援と位置付けられます。
借入資格要件の概要は次のとおりです。
- 疾病・負傷の場合:5日以上入院したことの証明を受けている
- 災害救助法の適用災害または準ずる災害として中小機構が認める災害の場合:市町村の商工会・商工会議所・中小企業団体中央会・そのほか相当の団体から資格要件について証明を受けている
- 一般災害の場合:市町村・消防署等から罹災証明を受けている
中小企業信用保険の特例措置
災害救助法よりも甚大な災害に適用される「激甚災害制度」があります。この制度は、政令により「激甚災害」と指定された災害への支援に適用されます。地方財政の負担を緩和する、または被災者に対して特別な助成をするものです。
中小企業信用保険の特例措置は、この激甚災害制度に基づく制度です。事業の再建に必要な資金を借り入れる場合、一般保証とは別枠で信用保証を利用でき、借入債務額の100%が保証されます。
中小企業信用保険の特例措置に関する補償限度額を以下に示します。
一般保証限度額 | 一般保証限度額 | |
---|---|---|
普通保険 | 2億円 | 2億円 |
無担保保険 | 8000万円 | 8000万円 |
小口保険 | 2000万円 | 2000万円 |
なお、災害関係補償限度額は一般保証限度額に対して別枠となるため、通常は合算されます。たとえば普通保険では4億円です。
災害復旧貸付の金利引下げ
災害復旧貸付の金利引下げも激甚災害制度を根拠にしたものです。日本政策金融公庫は「罹災証明書」を受けた中小企業者に対し、災害復旧貸付について金利の引下げを実施します。罹災証明書(罹災証明書)は家屋の被害を証明する書類です。
たとえば2024年1月、激甚災害に指定された「令和6年能登半島地震による災害」では、次のような金利引下げが実施されています。
1 | 資金使途 | 運転資金または設備資金 | |
2 | 貸付限度額 | 中小企業事業 | 別枠で1.5億円 |
国民生活事業 | 各貸付制度の限度額に上乗せ3千万円 | ||
3 | 貸付金利・基準利率 | 中小企業事業 | 1.20% |
国民生活事業 | 1.20% | ||
4 | 貸付期間5年以内の基準利率 | 金利引下げ:貸付額のうち1千万円を上限として、貸付金利から0.9%を引下げ(貸付後3年間) |
災害からの復旧に役立つ制度を知っておこう
地震や洪水などの突発的な災害は、事業継続にとって大きなリスクであり、日頃から備えをしておくことが重要です。もし被災した場合も、事業活動を早期に復旧させるために、資金に関する制度を知っておきましょう。
災害復旧貸付については、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫(商工中金)が相談窓口を開設し、必要な支援を手助けしています。ほかにも各種事業体が窓口を設け、融資を実施します。また、返済条件の緩和や金利引下げといった措置も利用可能です。
事業継続計画(BCP)の一環として、災害支援策や保険を活用し、資金繰りの対策を考慮しておくことが重要です。事業の復旧に役立つ制度を理解し、災害時に迅速な対応が取れるように備えておきましょう。
監修者:堀越 昌和(ほりこし まさかず)
福山平成大学 経営学部 教授
東北大学大学院経済学研究科博士課程後期修了 博士(経営学)。中小企業金融公庫(現.日本政策金融公庫)などを経て現職。
関西大学経済・政治研究所委嘱研究員ほか兼務。専門は、中小企業のリスクマネジメント。主に、BCPや事業承継、経営者の健康問題に関する調査研究に取り組んでいる。
著書に『中小企業の事業承継―規模の制約とその克服に向けた課題-』(文眞堂)などがある。