国や自治体が実施している帰宅困難者対策について解説|企業の事前準備も

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遠藤 香大(えんどう こうだい)

近年、大規模な自然災害が頻発しており、帰宅困難者対策の重要性が高まっています。いざというときに困らないためにも、国や自治体でどのような対策が講じられているのか確認しておくことが重要です。

この記事では、国や各自治体、関西広域連携協議会の取り組み事例を紹介します。企業ですべき事前準備についても紹介しているため、帰宅困難者対策の参考にしてください。

国による帰宅困難者の受け入れ対策

内閣府は2011年に起こった東日本大震災の経験から、帰宅困難者ガイドラインを策定しています。このガイドラインでは「むやみに移動しない」ことが基本姿勢として推奨されています。

また、首都直下型地震を想定した帰宅困難者等対策協議会の設置が同時進行で進められました。仮に首都で大規模地震が発生すれば、帰宅困難者の数は膨大なものになります。

それぞれの機関が個別に対応するのでは間に合わないでしょう。国や自治体だけでなく、報道機関・民間業者などの連携を促し、役割分担の明確化を図っています。

(参考:「大規模地震発生に伴う帰宅困難者対策のガイドライン」|内閣府

各自治体による帰宅困難者の取り組み例

自治体によって、帰宅困難者の対策はさまざまです。ここでは、仙台市や東京都・愛知県などの例を挙げてそれぞれの取り組みについて解説します。

宮城県仙台市

仙台市では、東日本大震災の際、JR仙台駅や地下鉄ターミナル駅などが帰宅できない人で混雑し、最寄りの避難所に殺到するなどの混乱が生じました。そのような経験を踏まえ、現在は帰宅困難者対策に力を入れています。

仙台市の帰宅困難者の取り組み事例は、以下のとおりです。

  • 一時滞在場所の確保
  • 駅周辺帰宅困難者対策連絡協議会の設立
  • 駅周辺帰宅困難者対応指針の策定
  • 帰宅困難者対応訓練の実施

仙台市では、交通結節点周辺に一時滞在施設を確保し、災害時には帰宅困難者を受け入れる体制を整えています。また、駅周辺の事業者が連携して帰宅困難者を支援するための指針「仙台駅周辺帰宅困難者対応指針」を作成し、平常時からの準備を進めています。

さらに、2023年には災害時の行動ルールの検証と関係機関の協働による対応策の確認を行うことを目的に、帰宅困難者対応訓練が実施されました。今後も訓練は継続的に実施され、実効性の高い対策を進めていく予定とのことです。

(参考:帰宅困難者対策|仙台市

東京都

東京都における大規模地震の発生は、日本における最大規模の被害につながりかねません。そのため、東京都では首都直下地震を想定した帰宅困難者のガイドラインを設けています。

また、東京都帰宅困難者対策条例によって、東京都は事業者に対して以下の取り組みを努力義務として求めています。

  • 従業員や施設などの安全確保
  • 従業員の安否確認
  • 3日分の水・食料の備蓄
  • 災害時に安全な場所に留まることの周知

さらに、一斉帰宅抑制推進企業認定制度を設けて、条例に基づく取り組みを実施している企業の認定を行っています。また、東京都のうち、台東区と練馬区では区独自の取り組みをしているため、それぞれ紹介します。

(参考:「事業所における帰宅困難者対策ガイドライン」|東京都)
(参考:「東京都帰宅困難者対策条例」|東京都防災ホームページ)

東京都台東区

台東区では、区有施設のうち、9施設を一時滞在候補施設に、8施設を情報提供などを行う徒歩帰宅支援候補施設に指定し、帰宅困難者の受け入れ・支援を行っています。また、地域と行政で連携した対策が特徴です。

たとえば、上野駅周辺滞留者対策推進協議会では、関係施設や災害時の避難ルールなどを掲載した「台東区帰宅困難者防災ガイド」を発行し、上野地域に主要な施設で配布しています。

また、浅草地域では、地域と行政が一体となって帰宅困難者対応訓練を実施しています。訓練の内容は、以下のとおりです。

  • 帰宅困難者への情報提供及び誘導訓練
  • 帰宅困難者支援施設の開設・運営訓練
  • 外国人観光客向け情報提供訓練
  • 水上バスによる訓練
  • 防災体験コーナー[初期消火、煙体験、震度体験等]

(参考:帰宅困難者対策|台東区

東京都練馬区

練馬区では、7施設を帰宅支援ステーションとして指定し、一時休憩場所や飲料水、情報などを提供しています。さらに、都立施設8か所、民間施設11か所を一時滞在施設として指定し、帰宅困難者の受入体制を整備しています。

また、練馬区の取り組みの特徴として、民間一時滞在施設を対象とした備蓄品などの購入費用の補助金制度を設けていることが挙げられます。この制度は、帰宅困難者向けの備蓄品と、帰宅困難者向けのスマートフォンなどに充電するために必要な機器の購入費用を補助するものです。購入費用の6分の1を補助金として交付しています。 

(参考:帰宅困難者対策|練馬区

千葉県

千葉県は、2009年8月に市町村や交通事業者、大規模集客施設事業者、警察などと連携して「千葉県帰宅困難者・滞留者対策に関する基本的指針」を策定しました。同年9月には、「千葉県帰宅困難者等対策連絡協議会」を設立し、官民連携で具体的な対策を検討しています。

千葉県帰宅困難者等対策連絡協議会の主な取り組みは、以下のとおりです。

  • 一斉広報の実施
  • 「駅周辺帰宅困難者等対策協議会設置のためのガイドライン」の策定

協議会参加団体は、9月の防災の日や東日本大震災が発生した3月に、各団体の媒体を通じて、むやみな移動の自粛や安否確認手段などの周知を呼びかける一斉広報を実施しています。

また、大量の帰宅困難者等の発生が予想される駅ごとに「駅周辺帰宅困難者等対策協議会(仮称)」を設置するためのガイドラインを策定しました。これにより、各駅周辺の地域事情に応じた実行性の高い対策を行うことを目指しています。

(参考:帰宅困難者対策~STOP!一斉帰宅~|千葉県

(参考:「駅周辺帰宅困難者等対策協議会設置のためのガイドライン」|千葉県

愛知県

愛知県では、過去にも繰り返し大きな地震が発生しており、早い段階から対策に取り組んでいました。

現在では危険性を指摘されている南海トラフにおける大地震を前提にして、詳細なシミュレーションのもと対策が立てられています。この地震が起きた場合、最大で90万人前後の帰宅困難者が発生する想定です。

また名古屋市周辺では県境を跨いで通勤・通学している人が多いため、広域での取り組みを重要視しています。

(参考:「愛知県帰宅困難者対策実施要領」|愛知県

京都府京都市

大規模地震等の災害発生時、京都市では約37万もの人が帰宅困難者になると想定されています。京都市は、寺社や宿泊施設などと協力し、帰宅困難者の安全確保などの支援に取り組んでいます。

また、災害時の情報収集に役立つ「京都市帰宅支援サイト」を運営・提供していることも、京都市の取り組みの特徴です。平時は交通機関の運行情報や観光情報などが掲載されていますが、災害時には帰宅困難者を円滑に避難先へ誘導するための経路案内の情報が提供されます。

(参考:帰宅困難者対策について|京都市防災ポータルサイト

大阪府

大阪府でも、南海トラフでの大規模地震や上町断層帯による大地震を危惧した対策が立てられています。南海トラフ地震地震で146万人、上町断層帯での地震では142万人の帰宅困難者数が発生する想定です。

また、大阪府では大規模地震の際に津波の被害も懸念されます。津波の襲来が予測されるケースでは、帰宅困難者の一斉帰宅抑制よりも避難を優先させることも提示されています。基本的には国のガイドラインを適用している一方で、独自の対策を講じている点がポイントです。

(参考:「事業所における「一斉帰宅の抑制」対策ガイドライン|大阪府

関西広域連携協議会の帰宅困難者の取り組み

関西広域連合では、構成団体や事業者などの関係機関と連携し、帰宅困難者への対策を進めています。啓発リーフレット「自分でできる帰宅困難者対策」を作成し、災害時の一斉帰宅抑制、時間帯別行動パターンのルール化、安否確認・情報収集手段の確保、災害時帰宅支援ステーションの活用などを呼びかけています。

また、徒歩帰宅者が円滑に帰宅するために、出発地と目的地を入力するだけで徒歩帰宅ルートや沿道の災害時帰宅支援ステーションなどを確認できる「関西広域連合 帰宅困難者NAVI」を作成しました。マップ上で公衆トイレや一時避難場所、帰宅支援ステーションの場所を確認することが可能です。

(参考:帰宅困難者対策について|関西広域連合

従業員が帰宅困難となった場合に備えた企業の事前準備

就業時に災害が発生し、従業員が帰宅困難となる可能性があります。そのような場合に備えて、企業も帰宅困難者の対策を講じておくことが重要です。

企業がとるべき対策は、以下のとおりです。

  • 帰宅困難者対応マニュアルづくり
  • 食料等備蓄と施設内安全対策
  • 女性用トイレや更衣室の用意など、性差を意識した対応
  • 定期的な防災訓練の実施

被災時に従業員をむやみに帰宅させようとすると、二次災害につながる恐れがあります。そのような事態を防ぐために、施設内で3日程度は従業員を安全に留めておけるよう、事前に準備をしておきましょう。

災害時の備えとして安否確認システムの導入が有効

安否確認システムを導入することも災害時の有効な備えになります。安否確認システムを活用することにより、社内外を問わず、休暇中の従業員も含めて速やかに安否の確認が可能です。

また、以下のメリットもあります。

  • 一斉自動送信できる
  • 自動で安否の集計ができる
  • 家族の安否確認にも対応している

迅速な安否確認は早期の業務回復へとつながります。BCPの観点においても、安否確認システムは効率的なシステムと言えます。

帰宅困難者が出た場合には、企業ができる最善の準備をしよう!

この記事では、各自治体が実施している帰宅困難者対策を紹介しました。災害時に落ち着いて行動できるように、お住まいの自治体でどのような対策が講じられているのか確認しておくとよいでしょう。

また、国や自治体だけではなく、企業にも帰宅困難者対策は求められています。従業員をむやみに帰宅させようとすると、二次災害につながる恐れがあるため、施設に従業員を留めておけるように用意することが重要です。

なお、従業員だけでなくその家族の安否がわかれば、従業員も落ち着いて待機しやすくなります。安否確認システムを選ぶ際は、家族の安否も確認できるものを選ぶことがおすすめです。

トヨクモが提供する『安否確認サービス2は、家族限定の専用掲示板「家族メッセージ」を利用できる安否確認システムです。家族以外は閲覧できないため、プライバシーを守りながら、家族間で連絡できます。

従業員が家族の安否を確認できる体制を整えたい場合には、ぜひ安否確認サービス2のご利用をご検討ください。

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