ホテルや旅館などの宿泊施設は、一般企業とは異なり、従業員の他に宿泊客や業者など不特定多数の人が出入りします。
また、ホテルによってはテナントやレストランが複数入っているケースもあり、それらの従業員や利用客への対応まで想定した上での防災対策を考えておくことが必須です。
本記事では、災害が発生した際にホテル側が行うべき防災対策、安否確認方法などについて詳しく解説します。
目次
ホテル・旅館の防災の意義とすべきこと
ホテルや旅館の従業員は寮に入っていたり、近隣から通っていたりするケースが多いため、万が一災害が発生したとしても、状況が落ち着けば帰宅できます。
ところが、遠方から来ている宿泊客が地震や台風などで災害級の被害を受けてしまうと、現場は大きなパニックに陥る可能性が大いにあります。
そこで、ホテル側が日頃から防災対策を徹底し、いざという時に適切な対応や誘導を行うことができれば、初動の段階でその場を収めることができるでしょう。
「いつ起こるか分からないから」と放置することで、いざ災害が起こった際に適切な対応ができず、最悪の場合多くの被災者を生んでしまう可能性があります。
そうではなく「災害は必ず起こるもの」という意識のもと防災対策を徹底することが、旅行客を受け入れるホテルや旅館の義務だと考えましょう。
ホテルにおける防災対策
ホテルや旅館では、対お客様の安全確保が第一だと考えがちですが、その根本にあるものは従業員の安全です。
まずは従業員が無事でなければ、事業やサービスを継続することもできず、宿泊客の安全を守ることもできません。
対宿泊客、対従業員双方の安全確認、安否確認を行う必要があるということを念頭に置きましょう。
また現場では、なるべく早く被害の大きさを把握し、その規模から適切な防災対応を判断することが求められます。
そうして得た情報は、速やかに従業員間で共有し、必要に応じて迅速に宿泊客にアナウンスすることが、不要な混乱やトラブルを避けることにつながるのです。
従業員の防災意識を高める防災訓練の実施
有事の際、動じることなく適切な判断、対応をするためには、実践に即した防災訓練や避難訓練を定期的に行い、日頃から従業員の防災意識を高めておくことが重要です。
会社に義務付けられているからと仕方なく参加するのではなく、従業員一人ひとりが明確に意味を理解した上で訓練に参加することが、いざという時の一助につながります。
管理者は、全ての従業員に防災に対する正しい知識を広め、それぞれが責任を持って動けるような環境作りに努めましょう。
防火対象物に係る表示制度について消防本部に交付申請
宿泊施設における安全基準の一つとして、消防機関による審査を受け、防火・防災上一定の基準を満たしていると認められた場合のみ交付される「適マーク」があります。
施設側から申請し、無事に登録認定を受けられた場合は銀色、3年間継続して安全基準に達していると認められれば金色の適マークが交付されます。
お客様により安心して施設を利用してもらうためにも、認定を受けてフロントや入口など目に付きやすい場所に掲示しましょう。
ホテル・旅館の防災における3つのポイント
ホテルや旅館といった宿泊施設では、従業員、宿泊客、その他の避難者と対象となる人によって異なる防災対応が求められます。
対従業員への防災対応
災害が発生した際、できる限りホテルとしての機能を維持するためには、いかに普段から従業員の防災意識を高めておくことができるかという点にかかっています。
常に最適な判断、誘導ができるよう定期的に防災訓練や避難訓練を行い、管理者は従業員が必ず訓練に参加するよう促しましょう。
また防災対策に関するマニュアル作成や、帰宅支援用具・残留者用の備蓄品などを備えておくことも大切です。
実際に災害が発生したら、迅速に災害対策本部を設置し、代表者は情報収集に努めます。
従業員の安否確認、負傷者数、帰宅者と残留者の人数などを把握することで、対宿泊客、対避難者へのネクストアクションを決定することができるのです。
とはいえ、被災下において宿泊客や避難者を無視して従業員の安否確認に尽力するわけにはいきません。
そこで有効なのが、災害発生時、自動で従業員やその家族の安否を確認し、初動をサポートしてくれる安否確認システムです。
被災下では電話やメールで通信障害が発生し、連絡が取れないケースも往々にしてあります。
有事の際に迅速かつ冷静に適切な判断、対応を行うためにも、システムを導入し従業員の安否確認を自動化させることを検討してみましょう。
対宿泊客への防災対応
宿泊施設では、避難経路図の設置が義務付けられており、チェックインの際などに宿泊客に周知することで最低限の防災対策が可能です。
しかし、いざ災害が発生したら、否が応でも現場はパニックに陥るでしょう。
そんな時、まずは身の安全を確保するようアナウンスした上で、従業員は速やかに宿泊客を安全な場所まで避難誘導することが最大の目的です。
従業員間で確実に情報を共有しあい、1人ひとりが効率よく行動できなければ二次災害を引き起こす可能性もあります。
防災訓練では、部署や役職を超えてコミュニケーションが取れる関係性を構築することも意識しましょう。
状況が落ち着いたら、宿泊者リストと照らし合わせて負傷者や行方不明者の有無を確認します。
一方で、翌日以降の宿泊予約者から問い合わせの連絡が入る可能性もあるため、担当者を決めておくと落ち着いて電話対応ができます。
対避難者への防災対応
ホテルや旅館には多くの避難者が集まってくる可能性があり、その人たちにロビーを開放したり、場合によっては自治体などから避難所として指定されることもあるでしょう。
避難する状況が長引いたり、帰宅困難者がいたりする場合は、食事や飲み物、空いた客室を提供することもあります。
ライフラインが復旧するまでは、地域のよりどころとなることもあるため、被災者を快く受け入れられる体制づくりをしておくことが大切です。
ホテルにおける災害別の対策方法
災害が発生した時に備えて館内放送設備や非常灯、車椅子などを常備することに加え、災害別の対応策を講じておくことも宿泊施設の大事な使命といえます。
以下に、地震と火災が起きた際のそれぞれの対策方法について紹介します。
地震
地震が発生した場合は、揺れが収まるまでは避難せず、その場で安全を確保するのが第一です。
地震への備え・事前対策
できる限り家具を固定することで、設備の落下や家具の転倒を防止できます。
また、万が一転倒した時にドアを防いでしまうことのないよう、配置にも注意しましょう。
地震発生直後の対応
地震を感知した、あるいは緊急地震速報が鳴り始めたら、姿勢を低くして身近にある机やカウンターなど身を守れる場所に避難するようアナウンスします。
近くにヘルメットなどがある場合、スタッフはまず着用してから誘導、救助に向かいましょう。
地震沈静後の対応
規模の大きな地震の場合、本震の後に余震が続く恐れがありますが、いったん最も大きな揺れが収まり危険を脱したら初動対応に移ります。
従業員同士で連携し合いながら、宿泊客をロビーや宴会場など広い部屋に集め、負傷者や行方不明者がいないか確認します。
中には、パニックになる人や帰宅を希望する人が現れる可能性がありますが、正確に情報を把握するためにも、まずは施設内に留まるよう促すことが原則です。
安否・安全確認を実施
初動対応を終えて現場が落ち着いたら、今後の流れについてアナウンスを行います。
担当者以外は、人や建物の被災状況、倒壊や火災など二次災害の恐れがないかなど、それぞれの持ち場を確認しに行きましょう。
普段から初動対応責任者を決めておき、有事の際はその人の指示に従って動くのが基本であり、責任者は持ち場から離れないようにすることが推奨されています。
そうなると、少しでも動ける人材を確保するには、他スタッフの迅速な安否確認が欠かせません。
そこで注目を集めているのが安否確認システムです。
安否確認システムとは、災害が発生した際、従業員やその家族の安否を確認する通知が自動一斉送信され、瞬時に状況把握ができるシステムで、未曾有の災害が増加する中、導入する宿泊施設が増えています。
その中の1つ、トヨクモの「安否確認サービス2」は難しい操作が一切なく、LINEと連携できる、スマホユーザー以外も利用できる、集計結果がひと目で分かるなど多くのメリットがありながら、他社に比べて非常に安価に利用できるのが魅力です。
こうしたシステムを導入し、安否確認を自動化することを選択肢の1つとして考えてみることをおすすめします。
火災
さまざまな災害を比較し、初動対応が最も重要視されているのが火災です。
最初の判断を間違うことで被害が大きく広がる可能性が高く、最悪の場合は死者を出してしまうリスクも否定できません。
そのため、より一人ひとりの従業員が常に防災意識を高く持つことが求められます。
火災への備え・事前対策
建物自体が消防法や建築基準法の安全基準を満たしていることが前提ですが、まず火災を避けるためには、普段から火元となりやすい場所に、燃えやすいものを置かないことが大切です。
また、電源プラグやコンセントにたまったホコリが原因となって大規模な火災を引き起こす可能性もあります。
掃除をして常に清潔を保つと同時に、プラグやコンセントに傷みや不具合がないかも確認しておきましょう。
一方で宿泊施設の場合、宿泊客の寝タバコなどが火災原因になるケースが後を絶ちませんが、スプリンクラーや消火器など防災機器を設置しておくことで、被害を最小限に抑えられる可能性が高くなります。
火災報知器についても定期的に整備点検し、いざという時に不具合が起きないよう備えておきましょう。
火災発生直後
ホテルや旅館内で火災が発生したら、はじめに行うことは通報と初期消火です。
どんな小さな火種であっても必ず119番に通報し、消防隊員の指示に従いましょう。
一方、初動対応の担当者以外は、宿泊客の誘導を行います。
まずは出火元を確認し、施設内で火災が発生したこと、出火元、避難場所について施設全館にアナウンスします。
廊下に出てきた宿泊客を、順番に安全な場所まで誘導し、その場で待機させましょう。
ここで言う「安全な場所」とは、建物の構造によって異なり、非耐火建築物の場合は地上、耐火建築物の場合は特別避難階段や竪穴区画の階段室、屋上やベランダなどを指します。
火災消火後
避難誘導と消火活動を終えたら、宿泊者の点呼を取り、負傷者や行方不明者の有無を確認します。
火災の規模が大きい場合やなかなか鎮火しない場合、長時間にわたり現場がパニックに陥る可能性があるため、従業員同士で連携を取りながら、消火活動と確認作業を並行して行うこともあります。
日頃のちょっとした工夫が迅速な初動対応につながる
災害が発生した時のためにホテルが準備しておくべきこと、また災害発生時にすべき対応などについて解説しました。
災害発生時、利用者や避難者に不安を与えず、スムーズな対応を行うためには、普段から防災対策を徹底しておくことが何より重要です。
一方、定期的に防災訓練を実施していたにも関わらず、いざ災害が発生した際に現場がパニックに陥り、訓練通り動くことができなかったというケースは多くあります。
そうした状況を避けるためにも、日頃から防災に対する意識付けを積極的に行う、避難経路の周知を徹底する、被災情報の収集に安否確認システムを活用するなどといった工夫をしておくと安心です。