企業における地震対策が重要な理由とは?地震・災害対策や参考になる取り組み事例を解説

遠藤 香大(えんどう こうだい)
日本は世界でも有数の地震国です。現代の科学の力では、いつどのような規模の地震が発生するかを正確に予測することはできません。そのため、被害想定などをもとに、企業は事前に地震対策を万全にしておく必要があります。
本記事では、企業における地震対策が重要な理由や、実際に行われた地震対策の取り組み例などを紹介します。
目次
企業の地震対策が重要な理由
ここでは、企業の地震対策が重要である理由を紹介します。
頻発する地震に備える必要性がある
日本は、世界でも有数の地震大国です。日本及びその周辺だけで、世界で起こっている地震のほぼ1/10にあたる数の地震が発生しています。
2024年1月1日には、能登半島地震が発生しました。日本では、大きな被害をもたらす地震がたびたび発生しています。
さらに、今後も南海トラフ地震のような大地震が近い将来起こると予想されており、これまで以上に地震に対する危機意識を高く持つ必要があります。
従業員の安全を確保する
企業には従業員の安全を配慮する義務があります。これは労働契約法の第五条に記されています。記されている文言は以下のとおりです。
(労働者の安全への配慮)第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
出典:「労働契約法」第一章 第五条(労働者の安全への配慮)
もし、安全配慮義務を怠たり従業員に負傷者や死亡者がでた場合には、上記の法に違反していると判断されて、損害賠償を請求されるおそれがあります。実際に2011年東日本大震災でも従業員による複数の訴訟がありました。
そのため、災害時に従業員の安全を確保するための配慮を平時より実施しておく必要があります。
対策が十分に整っていない場合は、速やかに企業防災の体裁を整えましょう。また、対策する対象は従業員だけでなく、顧客、取引先、地域住民の安全確保も含みます。
事業の継続によって損失を最小限にする
災害時の被害を最小に抑えることと、たとえ被害・影響が出てしまったとしても、適切な対応で速やかに事業活動を復旧・継続させることが重要です。
そのために、BCPを徹底しておきましょう。BCPとはBusiness Continuity Planの略称、つまり事業継続計画のことです。
BCPに盛り込む内容には「緊急時の意思決定のルール作成」や「従業員や顧客の安否確認を迅速に行える体制づくり」などが挙げられます。
BCPの策定を行うことで緊急時の混乱を抑えられたり、従業員や顧客の安全確保がしやすくなったりします。また、金銭的損失の抑制も可能です。また、災害発生時でも事業継続が可能であることは、取引先や顧客からの信頼の獲得へもつながるでしょう。
社会貢献につながる
企業による地震対策は、企業自身を守るだけでなく、社会貢献にもつながります。
地域貢献の種類の一例として、以下の4つが挙げられます。
- 金銭・資金的支援:自治体や公共団体、自治会などの地域組織等への寄付(金銭)
- 物的支援:自治体や公共団体への寄付、自治会などの地域組織等への寄付(モノ)
- 人的支援:従業員等による地域活動(防災訓練、お祭り、清掃活動等)への参加
- コト支援:防災訓練の地域・学校等との共同実施、地域住民への避難場所提供
これらは、社会貢献だけではなく企業のイメージアップにもつながるでしょう。
安全確保のための対策
安全を確保するためには、一体どのような対策が必要なのでしょうか。ここでは災害発生に備え、事前に行える対策をご紹介します。
地震対策マニュアルの作成
地震発生時の被害を最小限に抑えるためには、被害想定や対策、発災時の対応などを具体的に示した地震対策マニュアルを作成しておきましょう。地震対策マニュアルを作成しておくことで、地震発生時の被害を抑えられるでしょう。
マニュアルの内容は、全従業員に周知しておくことが大切です。せっかく作ったのに内容が伝わっていなければ意味がありません。
また、マニュアルは作って終了ではなく、マニュアルを用いた訓練によってマニュアルを評価したり、社内体制や業務内容の変更に応じて定期的に見直しを行い、アップデートさせましょう。
防災訓練を定期的に実施
防災訓練を行うことは、災害時に適切な行動をとるための重要な取り組みです。防災訓練をおろそかにすると、災害時に迅速な対応行動を取ることができない恐れがあります。
最悪、命を守れないなどの事態が起こります。そのためにも、防災訓練は定期的に実施しましょう。
一方で定期的に行う訓練内容が毎回同じだと、マンネリ化が懸念されます。企業内で行える防災訓練にも限界があるため、地元の消防署に防災機器を借りたり講演を依頼したりするとよいでしょう。可能であれば、地方自治体や地域住民と連携することもおすすめです。
また、後述するBCPをはじめ、災害時における企業としての対応の訓練も必要になります。
地域のハザードマップを確認
ハザードマップとは、自然災害が起きたときに、被害の大きさや被害が及ぶ範囲を地図に表したもののことです。ハザードマップをうまく活用することで、災害時の避難経路の確認や勤務地から自宅までの経路の、危険箇所の予測が行えます。
ハザードマップは各自治体の窓口やHP、または国土交通省のハザードマップポータルサイトから入手できます。ハザードマップは不定期に更新する可能性があるため、所持後も最新の情報に基づいているか定期的に確認しましょう。
防災用品の準備と管理
防災用品は、非常時に問題なく使えるよう日頃から管理しておきましょう。
具体的な備蓄量は企業規模や従業員数によって異なりますが、自治体が条例で定めているケースがあります。たとえば東京都では、残留帰宅困難者対策として、従業員1人当たり(3日分)飲料水9L・食料9日分・毛布一枚の備蓄を呼びかけています。
企業で備蓄しておくとよい防災用品は以下のリンクから確認可能です。
防災用品は準備すればすべて完了、というわけではありません。消費期限・使用期限切れなどに注意する必要があるため、定期的に中身をチェックしましょう。チェックリストを作成し、そこに期限を記入しておくと管理が容易になりおすすめです。
什器の落下・破損など物的な被害を防ぐ
東京消防庁の調査では、近年発生した震度6以上の地震で怪我した人の、約30%〜50%が家具類の店頭・落下によるものと判明しています。このことから、地震による什器類の落下や破損は、怪我につながることは明白です。
什器類の転倒・落下・移動を防ぐために、社屋の耐震対策や、転倒防止金具のようなアイテムを導入し、対策しましょう。什器類の転倒・落下・移動を防ぐことで、物理的な被害を防げるだけでなく、社内の危険箇所が減り、安全な避難経路を確保できます。
地震への危機意識(わがこと意識)を持ち続ける
危機意識の高さは、災害対応力の高さに直結します。そのため、危機意識を高く持ち続けることが重要です。
危機意識のような、ある物事について他人事と思わずに自分のこととして意識することを「わがこと意識」といいます。従業員に、災害に対するわがこと意識を持ち続けることができるような対策をとりましょう。
わがこと意識が薄いと、具体的な対策がおろそかになります。避難経路を忘れたり防災用品の使い方が分からなかったりなどの問題が生じ、災害時の適切な対応に影響する危険性があります。
また、内閣府が実施したアンケートによると、地震発生後に上昇した危機意識は、時間の経過とともに減少する傾向が読み取れます。災害は突然発生し、いつ起こるか分かりません。大切なことは、わがこと意識を持ち続けることです。
災害に対するわがこと意識を風化させないために、社内の防災活動の情報発信を行ったり、継続的な防災訓練や防災教育を行ったりして、防災を身近な存在(わがこと)にしておきましょう。
災害時に事業を継続させるための対策
災害時に早期に復旧して事業の継続を実現することは、企業自身の業績維持だけでなく、取引先や社会からの信頼獲得にもつながります。ここでは災害時に事業を継続させるための具体的な対策方法を紹介します。
BCP(事業継続計画)の策定
地震をはじめとする自然災害や事故などに見舞われたとき、どのように対応するか策定しておきましょう。事業を守れるだけでなく、取引先として選ばれやすくなったり企業競争力を高めたりすることにつながります。
実際に、令和3年度に実施された内閣府の調査では、BCPの策定が災害時に役に立ったと回答した企業が5割まで及んだことが分かっています。
参考:令和3年度企業の事業継続及び防災の取り組みに関する実態調査の概要② https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/gaiyou_210516.pdf
BCP策定に困った際は、書籍やガイドラインなどを参考にしたり、行政や各種団体が用意しているテンプレートを活用するのが効果的です。ただ策定すればよいのではなく、実現可能な具体策を決めて、訓練などで定期的に見直しを図るようにしましょう。
バックアップからデータを復旧できる体制の構築
企業にとってデータは大切な情報資産です。災害でデータを消失した場合、企業経営にもたらすダメージは計り知れません。
大切な情報資産を守るために、データは前もって二重三重にバックアップしたり、遠隔のデータセンターやクラウドに定期的にバックアップする仕組みを構築しておくなど、対策を事前に行っておきましょう。
大切なことは、すぐに復旧できる体制を作っておくことです。
テレワークに対応可能な業務環境の整備
平時からICTを活用し、テレワークに対応できるようにしておくことも災害時に事業を継続させるための対策として効果的です。
災害時には公共交通機関や道路が機能不全になり、従業員の出社が困難になる場合があります。しかし、平時からテレワークでの勤務可能な環境を整えておくことで、被災していない従業員が自宅で業務を継続でき、事業の継続が可能になります。
もちろん、オフィスの被害が大きく、社内で仕事ができない場合にも役立つでしょう。
安否確認サービスの導入
災害時は、従業員の安否確認が重要になります。出社できる人員を把握することで、事業継続のための人員確保や人員配置につなげられるためです。しかし、災害直後は電話やインターネットが通信障害・通信制限などで、つながりにくいおそれがあります。そうなると迅速な安否確認が困難になるでしょう。
そういった場合に役に立つのが安否確認サービスです。安否確認サービスは災害情報と連動し、自動で全従業員に一斉送信します。
また、返信を集約したり、返信がなかった従業員については定期的に送信し続けたりする機能もあります。
担当者の手間をとらず迅速で確実に従業員の安否確認を行えるため、事業継続について早急な対応が可能になるでしょう。
導入を検討している場合は、30日間の無料お試しなどのキャンペーンを行っているシステムもありますので、検討してみてください。
災害時に事業を継続させるための対策
ここでは、実際にこれまでにあった企業の地震対策の取り組み事例を紹介します。
紹介する事例は内閣府の「企業の災害対応における事例集」に詳細が記載されていますので、ぜひ参考にしてください。
食品・水産加工業者の事業継続活動
宮城県石巻市で食品・水産加工を行っていた老舗企業では、2011年の東日本大震災の被災をきっかけに防災・事業継続両面での強化活動をスタートさせました。
事業継続のための取り組みでは、サプライチェーンへの企業連携を行い役割や指揮命令を分けるなど、速やかに意思決定できる体制を整備し、初期衝動を明確化しました。
一方、防災面では先代から受け継いでいる人命第一優先の考えをもとに、災害を想定した演習訓練や建物の耐震化を行い、安全を配慮した上で最善を尽くすための取り組みを強化しました。
防災・事業継続の取り組みを通じたことで「時代の変化を先読みでき、事前対策を講じられる会社」へとシフトしました。さらに、今ではこの取り組みが起点となり、SDGsやカーポンニュートラル、健康経営などの取り組みへとステップアップしています。
電気設備業者の防災対策
熊本県を中心に電気電力設備の新設や保守を行う総合電気設備業者は、2016年の熊本地震をきっかけに、ライフラインを守る垣根であるヒト・モノに主眼を置いた防災対策の強化を掲げています。
具体策として、安否確認システムの導入や新社屋の防災対策強化、防災訓練を頻繁に実施するなどの取り組みを行いました。
安全への取り組み強化を行ったことで、災害時の事業継続力や、企業や地域からの信頼獲得につながっています。その結果、九州地方でライフラインを守る企業として高い地位を確立することに成功しています。
地震対策の取り組みの手始めにBCP策定を検討しよう
日本で事業をする限り、地震災害への対策は必要不可欠です。BCP(事業継続計画)を策定することで、被害をなるべく抑えたり、出てしまった被害に対しても適切に対応したりすることで早期の復旧・事業継続を図ることができます。
防災対策が万全であるか、改めて確認を行ってみてはいかがでしょうか。