地震や津波、台風、豪雨など自然災害の頻発や新型コロナウイルスのまん延などに伴って、緊急時の体制を整える企業が増えています。災害に備えて企業がすべきことのうち、最近注目されているのが「防災教育」です。
今回は、防災教育とはどのようなものか、企業が主体的に防災教育を行うべき理由、企業が行うべき防災教育の内容などについて解説します。
目次
防災教育とは
防災教育とは、災害が発生するメカニズムや、災害による被害、対策方法などについて基礎的な知識を学んで、災害から生き抜く力と身近な人を助けて地域に貢献できる力を持つ人材を育てることをいいます。
大規模な災害が発生した時、何よりも重要なのは「命を守る行動」を取ることです。防災教育をしっかりと学んでいれば、いざという時に適切な行動を取り、自分の命を守ることができます。しかし、防災教育を学んでいないと、適切な行動を取ることができず、最悪の場合、命を落とす恐れもあります。大切な命を守るために、防災教育は非常に重要です。
防災教育がもたらす効果
防災教育によって、災害や防災の知識を得て、災害時に能動的に対応できる人材に近づくことができますが、防災教育がもたらす効果はそれだけではありません。例えば、防災を通して命の大切さについて考えたり、地域の防災活動に参加することで地域へ関心が高まったりするという効果があります。また、家庭や学校、職場などで防災教育を行うことによって、家族や友人、職場の人とコミュニケーションを取る機会が増えるという効果も期待できます。
各場所で行うべき防災教育
防災教育が行われる場所には「家庭内」「学校」「自治体」「職場」などがあります。ここでは、各場所で行うべき防災教育の内容について説明します。
家庭内
家庭内では、家族間で防災について話し合い、実際に災害が起きたらどのように行動するか考えておくことが、防災教育につながります。
具体的には、以下のような備えや対策をしておくといいでしょう。
・家具の置き方の工夫
・防災マップやハザードマップの確認
・避難場所や避難ルートの確認
・連絡方法の確認
・非常用持ち出し袋、備蓄品の用意
学校
学校における防災教育は、災害から児童や生徒を守るため、安全教育の一環として行われています。ただ、防災教育という教科があるわけではなく、関連する教科などにおいて、災害や防災について考える時間が設けられています。例えば、社会の授業で消防署を見学したり、避難場所を確認してハザードマップを作ったり、理科の授業で自然災害の発生メカニズムを理解して、地域で災害が起こる可能性を考えたりなどの形です。
学校における防災教育は、発達の段階などに応じて行うこととされています。幼稚園や小学校では、緊急時に教職員や保護者の指示に従って安全に行動できるように、中学校や高校では、平時から災害に備え、緊急時には的確な判断に基づいて行動し、地域の防災活動などに参加し社会に貢献することを目指します。
自治体
自治体では、家庭や学校、職場などに向けて、さまざまな形で防災教育を提供しています。
具体的には、以下のような行事や取り組みが行われています。
・防災訓練
・防災に関する講演会、フォーラム、勉強会
・災害ボランティアや防災リーダーの養成講座
・防災教育用教材の作成
・防災用品の配布
職場
職場では、従業員が防災への意識を持ち、緊急時に適切に行動できるように、さまざまな防災教育が行われています。防災訓練、防災マニュアルやBCPの策定・周知をはじめ、防災に関する講演会やセミナー、防災関連のゲームやワークショップ、防災用品の配布など、それぞれの職場に合わせて実施されています。
防災教育は日頃から行うのが基本ですが、新入社員研修、管理職研修など研修時に組み入れると行いやすいでしょう。特に入社したばかりの新入社員は、会社の建物の構造はもちろん、避難経路や消防設備などについても十分に把握できていません。入社後早い段階で防災教育を実施することは、会社全体で防災に取り組むためにも重要です。
企業が主体的に防災教育を行うべき理由
企業が主体的に防災教育を行うべきなのはどうしてでしょうか。その理由としては、以下の3点が挙げられます。
・今後日本国内において大規模な災害の発生が予想されている
・企業には従業員を守る法的責任がある
・災害時においても可能な限り事業を継続させるため
今後日本国内において大規模な災害の発生が予想されている
日本は災害大国であり、地震、津波、豪雨、噴火などさまざまな災害のリスクがあります。なかでも今後発生する確率が高いと予測されているのが、首都直下地震、南海トラフ地震、などの大規模な地震です。これらの地震が実際に発生した場合、東日本大震災と同等かそれ以上の甚大な被害が生じる可能性があるといわれています。このような大規模な災害に備えて、企業においても主体的に防災教育を行う必要があります。
企業には従業員の守る法的責任がある
企業には、従業員の安全を守る「安全配慮義務」が課せられていて、平常時だけでなく災害など緊急時にも従業員の安全に配慮しなければなりません。つまり、企業には従業員を守る法的責任があり、そのためにも防災教育を行うことは望ましいといえます。
災害時においても可能な限り事業を継続させるため
大規模な災害が発生すると、製品やサービスの提供がストップしてしまう可能性があります。その状態が長期化すると、自社の事業はもちろん取引先、さらには顧客にも影響が及びます。企業には、災害時においても可能な限り事業を継続する責任があります。防災教育は、企業の災害への備えの一つとして非常に重要です。
企業が行うべき防災教育の内容
企業が行うべき防災教育の中でも特に重視したいのが、防災マニュアルの策定と周知、防災訓練、BCPの策定と周知です。どのようなことを行うべきなのか、それぞれの内容について解説します。
防災マニュアルの策定と周知
防災マニュアルは、防災に対する行動指針、平常時の備えや対策、災害発生時の役割分担や対応方法、緊急連絡先などを定めた文書です。自社の体制や業務などに合わせて防災マニュアルを策定したら、その内容を社内に周知しましょう。災害時にどのように動くべきか従業員がきちんと理解できていれば、慌てずに適切な行動を取ることができます。また、防災マニュアルをもとに防災訓練を行うことも重要です。訓練後は振り返りを行い、改善すべき点は見直し、PDCAを回しながら運用し続けましょう。
防災訓練
企業における防災訓練には、避難訓練、初期消火訓練、応急救護訓練、救助訓練などがあります。避難訓練は地震などを想定して避難場所まで移動し、避難の手順やルートを確認する訓練、初期消火訓練は消火器の使用方法など火災発生時の初期対応を学ぶ訓練です。応急救護訓練は人工呼吸の方法やAED(自動体外式除細動器)の使い方などを学ぶ訓練、救助訓練は負傷者の救助や搬送などを行う訓練です。
これらに加えて近年増えているのが、帰宅訓練です。帰宅訓練とは、大規模な災害時に公共交通機関が止まって帰宅困難者が多数発生することを想定し、会社から自宅まで歩いて帰宅する訓練です。どのルートを歩くのか、どの程度の時間がかかるのか、どのくらい歩くことができるのかなどを確認し、有事の際に備えます。
BCPの策定と周知
「BCP」は、災害発生などの緊急時に損害を最小限に抑えながら事業を継続できるように、行動指針や役割分担、対応方法などをまとめた計画のことです。Business Continuity Planの略で、「事業継続計画」とも呼ばれています。
BCPの策定は、介護施設・事業所では2024年4月から義務化されますが、一般企業には義務付けられていません。しかし、自然災害の頻発などによってその必要性は高まっていて、策定する企業は増加傾向にあります。
BCPを策定した上で従業員に周知し、適切に運用できれば、緊急事態が起きても事業を早期に復旧、継続することができますが、適切に運用できなければ、事業を継続できない恐れがあります。つまり、BCPは企業が安定的に経営を続けていくために鍵となる計画なのです。BCPを策定し、従業員に周知した上で、緊急時に計画に沿って行動できるよう備えておくことが重要です。
自社に合った防災教育を行い災害への備えを
防災教育は、単に防災について知識を得るだけではなく、自分の命や自社の事業を守るために欠かせないものです。自社に合った防災教育を行い、緊急時の体制を強化して、災害に備えましょう。