監修者:木村 玲欧(きむら れお)
兵庫県立大学 環境人間学部・大学院環境人間学研究科 教授
早稲田大学卒業、京都大学大学院修了 博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て現職。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など「安全・安心な社会環境を実現するための心理・行動、社会システム研究」を行っている。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)などがある。
防災訓練レポートは、次回以降のよりよい訓練を行うための改善資料になったり、社外へ周知して災害対策の充実を知ってもらうことで社会的な信用度の向上にも役立ちます。ですが、どのように書くといいか分からない人も少なくありません。
今回は、防災訓練レポートの書き方を紹介します。目的やポイントもあわせて解説するため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
防災訓練レポートとは
防災訓練レポートとは、防災訓練の記録や参加者の感想などをまとめたものです。防災訓練の記録には、以下のような内容を記載します。
- 訓練の概要
- 訓練の実施体制
- 訓練の学習目標・達成目標
- 訓練実施の内容
- 振り返りの内容・訓練の評価
- 今後に向けての課題 など
どれも重要な項目ですが、防災訓練レポートを作成する上で、参加者にどのような学びがあったのかを評価してもらうことを忘れずに行いましょう。アンケートに回答してもらったり、レポートにまとめてもらったり、防災訓練の実施前や実施後にお願いをしましょう。
これらの参加者自身による評価は、防災訓練の目標が達成できたかどうかを判断するための貴重な資料になります。
なお、防災訓練レポートの書き方に、法律で定められた決まりはありません。そのため、防災訓練の主催者が必要だと思った内容を記録します。
防災訓練レポートを書く目的
防災訓練レポートを書く目的は、2つあります。
- 訓練を振り返り、さらによい訓練にするための改善資料にする
- 訓練を社外に周知し、企業の社会的な信用度の向上に寄与する
まずは、訓練を振り返ることによって、訓練を評価しましょ。防災訓練レポートで訓練実施の内容を振り返ると、問題点と改善点が見えてきます。訓練のシナリオに無理はなかったか、想定よりも時間が掛かった場面はなかったかをレポートを元に確認します。
たとえば火災避難を目的とした訓練で、2階のベランダから避難する時に、避難はしごの使い方で戸惑ったとしましょう。次回訓練では、避難はしごの使い方を学ぶ講習を別途設定したり、避難はしごの使い方だけのわかりやすい1枚もののマニュアルを作成したりするなどの対策がとれます。
つぎに、防災訓練の実施結果は、なるべく社外にも公表しましょう。日本は災害が多く、企業、地域、学校などが具体的にどのような訓練をしているのか、注目が集まっています。
ただし、注目は集まっているのですが、具体的に企業、地域、学校などがどのような対策をしているのかは外部の人には分かりにくいものです。そのため公表されている防災訓練レポートは、企業が平時から防災訓練をしており、企業が災害時にもしっかり対応ができ、緊急事態にも強い組織であることのPRにもなります。それが、企業の社会的信用度の向上にもつながります。。また、今回の防災訓練に参加できなかった人が防災訓練への関心を高めることにも役立ちます。
防災訓練レポートの書き方
ここでは、防災訓練レポートの書き方を紹介します。書き方に悩む人は、ぜひ参考にしてみてください。
防災訓練の種類を記す
防災訓練レポートには、どのような防災訓練をしたのかを記載しましょう。防災訓練には、以下のような種類があります。
- 地震避難
- 津波避難
- 火災避難
- 台風や大雨対策
- 噴火避難
- テロ対策
- 安否確認
- 救急救命
- 救助救出
- 災害対策本部立ち上げ・運営
- 情報伝達・安否確認
- 被害確認
- 防災資機材使用
- 宿泊等想定
- リモートワーク想定
- 事業復旧・継続など
このような訓練については概要や写真に加えて、具体的にどのようなシナリオだったのかを明記しておくと分かりやすいし、他社の防災訓練の参考になるレポートになります。
たとえば、宿直室からの火事を想定した訓練、震度7の地震でエレベーターが止まり、社長が閉じ込められたことを想定した訓練などといった形で記載しましょう。
また、どのような訓練を行ったのかを明確にすることで、次回の訓練内容を決める際の参考にできます。
防災訓練のスケジュールを記載する
訓練の日付や実施の時間など、どのようなスケジュールで訓練を実施したのかを記します。訓練のスケジュールの記録は、既存の災害対応マニュアルやBCP(事業継続計画)を再検討したり、次回防災訓練をする運営者の役に立ちます。
たとえば、想定時間が1時間のところを2時間掛かったとします。時間が掛かった原因を見直し、マニュアルの改訂や次回訓練での改善効果の確認につなげることで、実際の災害対応がスムーズになるでしょう。
また、会社や行政では担当者が異動になったり、学校でも担当教員の異動、地域でも自治会役員の交代などがあり、多くの防災訓練において、毎年運営者が変わります。そのため毎年の防災訓練の時期や時間を記録しておくと、次回の運営者の参考になるのです。
防災訓練の参加者について書く
防災訓練レポートには、どの様な立場の人たちが訓練に参加したのかを記します。
参加者の属性や数は訓練の内容をイメージしやすいだけでなく、次回の訓練において、同じ参加者にするのか、参加者をより拡大したり、参加者を変えたりした方がよいのか判断材料にもなります。
たとえば以下のように、属性だけでなく人数も記載するといいでしょう。
- 幹部(社長以下)○名
- ○○部○○係 ○人
- 取引先企業 ○人
- 地域住民 ○人
- 顧客(社員が顧客役) ○人 など
防災訓練の実施場所を明確にする
訓練を実施した場所も、防災訓練レポートに記載しましょう。なぜその場所で訓練をしたのかをあわせて記載しておくと、読者の防災訓練への理解を高める効果が期待できます。
一例を挙げると、津波対策の防災訓練を地域で最も高さがある高台まで避難支援をしながら避難をしたという内容だったとしましょう。防災訓練に参加できなかった人も、津波の際はその高台を目指したらいいと分かります。
また、別の地域の人も、高台を目指すような避難訓練が有効なのだということを理解することができます。
防災訓練の内容を書く
防災訓練の内容は、多少時間をかけてでも明確に記載しておきましょう。
写真やイラスト、図表などを多用してもわかりやすくなります。内容を詳しく記載することで、次回の訓練に活かせます。また不参加だった人に参加者の体験を共有することで、防災意識を高めることができるのです。
とくに使用した資機材の使い方なども記載しておくと、次回以降の訓練に役立ちます。
防災訓練の振り返り・課題を書く
防災訓練の振り返りや課題は、必ず記載しましょう。これらの点が明確であれば、今後の訓練で活かせます。たとえば施設でお客様の避難誘導が上手くいかなかったときには、声掛けの内容やタイミング、人員配置を見直す、施設の地図に避難場所を分かりやすく記載するなどの対策をとった上で、次回以降の訓練でそれを検証することができます。
単に振り返りや課題を記載するだけでなく、前回の振り返りや課題を踏まえて改善した内容が、今回の訓練でどうだったか記すこともおすすめです。改善をすることの重要性と、自社がそのような改善をもとによりよい災害対応を目指していることについて、社内・社外へとPRすることにもつながります。
防災訓練の参加者からの感想を記載する
防災訓練の参加者の感想も、個人情報に配慮しながら、できる限り記載しましょう。参加者の感想は、そもそも訓練の目的が達成できたのかを評価する材料になりますし、運営側が気づかなかった問題に気づくきっかけにもなるのです。さらに不参加だった人の関心を集めて、防災訓練への関心を高める効果が期待できます。
参加者にアンケートをとったり、レポートを依頼したりして、参加者の感想を集めましょう。これらの感想から出てきた課題が、防災訓練の改善につながります。
防災訓練レポートを書くときのポイント
ここからは、防災訓練レポートの書き方のポイントを紹介します。防災訓練レポートの書き方に悩んだ際の参考にしてみてください。
訓練の写真や動画を掲載する
防災訓練レポートは、文字だけでなく写真を載せるといいでしょう。写真があればあとから訓練の内容が振り返りやすく、参加していない人も内容が把握しやすくなります。
とくに参加者が訓練している様子の写真は、読み手の共感を集められます。また、webサイトなどに掲載する場合には、動画を掲載することも効果的です。
参加者や関係者には、防災訓練の写真や動画を撮影し、レポートやHPに掲載する可能性があると説明し、承諾を得ておきましょう。消火器を使っている様子や応急手当の訓練をしている写真などを活用して、分かりやすいレポートにします。
図表を活用する
防災訓練レポートに、図表を活用することもおすすめです。統計データや具体的な数字があると見やすく、説得力があるレポートになります。
たとえば、会社で行う安否確認の訓練の場合、全員の安否が確認できたかどうかを図表にすることで、あとから振り返りやすくなります。
このとき安否確認システムを使うと、集計結果が簡単に把握できてレポートに活用できます。図表の作成を手間に感じる担当者は、防災訓練の際から効果的にツールを活用するといいでしょう。
安否確認訓練の際、トヨクモの「安否確認サービス2」を使うと、回答や集計結果を簡単に確認できる機能があります。
実際の安否確認だけでなく、防災訓練をスムーズに進めることもできるので参考にしてみてください。
簡潔に記載する
は、読み手が途中で断念する恐れがあります。とくに社外に向けて防災訓練のアピールをしたいときには、写真や図を多用しましょう。
顧客や地域住民に情報を発信する際は、一般の方や高齢者にも理解しやすい内容を意識します。
次のポイントを意識してみてください。
- 専門用語は避ける
- 英語や省略語はなるべく避ける
- 難しい言葉は意味を分かりやすく説明する
- 注目してほしいポイントを太字にする
- 過去の災害事例を紹介して避難訓練の大切さをアピールする
社内向けのレポートであっても、訓練内容、参加者の感想、今後の課題など、内容ごとに分けて書くと読みやすいレポートになります。
フォーマットを作っておく
防災訓練のレポートは、わかりやすく使いやすいフォーマットを作成しておきましょう。毎年の防災訓練の様子を比較しやすく、振り返りが簡単になります。
どのようなフォーマットがいいか分からないときは、たとえば、自治体のホームページに掲載されている消防訓練関係の訓練実施結果報告書を参考にしてみてください。訓練実施結果報告書には、以下のような内容が掲載されています。
- 報告書を作成した年月日
- 報告者
- 場所
- 建物の名称
- 責任者
- 訓練を実施した日時
- どのような内容の訓練か
- 参加した人数
- 訓練のシナリオ
内容をアレンジしたり、追記したりして、自分達にあったフォーマットにするといいでしょう。フォーマットは一度作成して終わりではなく毎年見直し、よりよい内容にします。
(参照:自衛消防訓練実施結果記録書|東京消防署)
防災訓練レポートの書き方を押さえておこう!
これまで述べてきたように防災訓練レポートは、次回以降のよりよい訓練を行うための改善資料になったり、社外へ周知して災害対策の充実を知ってもらうことで社会的な信用度の向上にも役立ちます。
訓練の内容について写真や図表を使いながら、わかりやすい記述を目指しましょう。さらに、参加者の感想を掲載することで、訓練の評価をするだけではなく、次回以降の改善の提案にもつながります。
監修者:木村 玲欧(きむら れお)
兵庫県立大学 環境人間学部・大学院環境人間学研究科 教授
早稲田大学卒業、京都大学大学院修了 博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て現職。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など「安全・安心な社会環境を実現するための心理・行動、社会システム研究」を行っている。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)などがある。