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【企業備蓄】非常食の大量購入…食物アレルギーのことは考えてますか?

オフィスで被災した場合、社内で命綱となるのが企業備蓄。各企業の担当者は、自治体の条例に従い非常食を大量購入しておく必要がありますが、コスト削減との板挟みから「安さ」重視での食品選びとなりがちではないでしょうか。

しかし、ここで忘れてはいけないのは食物アレルギーの社員。アレルギー対応でない非常食を口にすると、ショック症状を起こし、死に至るおそれさえあります。

そもそも社員の命を助けるための企業備蓄で、被害を出してしまうのでは本末転倒。そこで今回は、首都圏の自治体の企業備蓄に関する条例を再確認したうえで、食物アレルギーに対応した非常食にはどのようなものがあるか、そして備蓄以外に企業が心がけることは何かをお伝えします。

オフィス被災に備えて企業備蓄は怠るべからず!

各自治体で企業備蓄を定める動きは高まっています。特に東京都は想定される帰宅困難者のため、全国に先駆け、3日分の飲料水計9リットルと毛布に加え、アルファ化米、クラッカー、乾パンなどを1人あたり9食分備蓄するよう、企業に呼びかけています。

しかし「中小企業の防災対策に関するアンケート」(東京商工会議所)によれば、帰宅困難者対策条例の認知度は62.9%で、過去3回の調査から大きな変動は見られません。また「全従業員分の3日分の備蓄」を行っている企業は約半数で、過去の調査と比べて状況は変わらず、食料品についての備蓄率は49.1%となっています。

表 東京都、千葉県、神奈川県の企業備蓄の基準

大人になっても怖い食物アレルギー。対応非常食はこちら

■アレルギー物質とは
現在、表示されているアレルギー物質には、必ず表示されるもの7品目と表示が勧められているもの20品目があります。特に必ず表示されるものは「特定原材料」と呼ばれます。

<義務品目>特定原材料7品目
乳・卵・小麦・そば・落花生・えび・かに
<推奨品目>特定原材料に準ずるもの20品目
あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ
もも、やまいも、りんご、ゼラチン、バナナ、ごま、カシューナッツ

ただし市販されている非常食は、アレルギー対応している食品ばかりではないことに注意が必要です。たとえば東京都の備蓄食材はアルファ化米(五目ご飯、白粥)とクラッカーですが、都の公表によれば、白粥以外には小麦、大豆、豚肉、鶏肉といったアレルギー食材が含まれています。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/seikatsu/hisaisha/bichiku.html
■成人の食物アレルギー症例
厚生労働省は「症状がさまざまなので、正確な患者数の統計はとりづらい」としていますが、公益財団法人日本アレルギー協会は、10年ほど前から成人の患者が急増し、20代では1%程度の人が症状をもっているとしたうえで、「成人患者の10人に1人は原因となる食べ物を口にすると、ショック症状などの重篤な症状を引き起こしている」と指摘します。
アレルギー症状で、最も多いのは、じんましんなどの皮膚症状です。呼吸器症状、粘膜症状、消化器症状などの症状も同時または別々に出現します。これらの症状が複数の臓器にわたり全身性に急速にあらわれるのがアナフィラキシーで、急激な血圧低下により意識を失い死につながることさえあります。

<参考>
アレルギーの症状
皮膚:じんましん、赤い発疹である紅斑、全体に赤くなる紅潮など
呼吸器:咳、ゼイゼイ・ヒューヒューといった喘鳴(ぜんめい)など
目や鼻:目のかゆみ、充血、目やに、目の周りの腫れ、鼻水、鼻づまり、くしゃみなど
消化管:口の違和感、口唇の腫れ、腹痛、下痢、嘔吐など
ショック:血圧が下がって意識が薄れる、脈拍は触れにくく、速くなる
神経:頭痛
腎臓:血尿、蛋白尿
など。

これらの危険性をふまえ、防災担当者は非常食を購入するに先立って、全社員にアレルギーの申告シートを記入させる必要があります。「アレルギーを起こす品目」「発症する症状」を正確に把握しましょう。
そのうえで、アレルギー持ちの従業員には、たとえば次に示す食物アレルギー対応非常食を用意しましょう。。

■食物アレルギー対応非常食
○アレルゲンフリーのクッキー
○リゾット
○アルファ化米

ただしアルファ化米については、メーカーによっては10種類以上のラインナップがあるものの、アレルギー対応は「白飯」や「わかめごはん」など数種類に限られているので、選ぶ際には注意が必要です。

オフィスの防災袋はいざという時の命綱。


企業での備蓄だけでは、大規模な災害による孤立や避難所生活をカバーできない可能性があります。
また指定避難所によって食物アレルギー対応しているかどうかは異なります。2014年に内閣府が行った調査によればアレルギー対応の食品を備蓄している避難所は406か所で全体の約61%でした。避難生活が長期にわたる場合に備え、企業が従業員各自に防災セットを用意させることも大切です。

「緊急避難セット」、「非常用品セット」といった商品名で多くの種類が販売されています。
これらの多くには、LEDライト、リバーシブルブランケット、マスク、手袋、救急セット、携帯トイレ、保存水が含まれており、これらについては当然、アレルギー体質の従業員も共通して利用できます。一方で、同梱されていることが多い乾パン、スーパーバランス(バー状ビスケット)、キャンディなどは手をつけることができない危険性があるため、各自で用意してもらう必要があります。

避難所では炊き出しなどで温かい食事を提供される可能性もありますが、アレルギーを持っていると誤食を防ぐため提供を受けられないケースも考えられます。一方、企業での備蓄は乾パンやアルファ米などあくまで「非常食」に限られます。防災セットの内容を確認したうえで、季節によっては、火や飲料水を使わずに調理できる温かい食料品を用意することも大切でしょう。

■持病を持つ社員への気配り
腎臓病で人工透析を受けていたり、糖尿病でインシュリン注射を行っていたりする社員がいれば、非常時の対応を考えておくようアドバイスするのも、防災担当者の心配りの1つです。

腎臓病を患う社員は、通院している透析医療機関への災害時連絡方法、施設の避難場所、災害時の薬と食事管理(熱量・水分・ 塩分・たんぱく・カリウムなど)、代替透析医療機関などを、事前に把握しておくことが大事です。かかりつけ医に確認をとるよう推奨しましょう。

また糖尿病患者の社員には、インシュリン自己注射セット、血糖自己測定器など非常時に必要となる治療器具について、かかりつけ医に相談しておくよう助言しましょう。

一方で、アレルギーや腎臓病、糖尿病など健康上の問題を、普段から周囲に知らせることは憚られるという本人の気持ちやプライバシーも考慮する必要があります。
個人用防災備蓄ボックス(下記URL)をデスク周辺に配置するといった気遣いも、今後の総務担当者に求められる配慮の1つでしょう。

まとめ

東日本大震災の際、自治体が備蓄していた非常食や避難所への支援物資が食物アレルギーに対応せず、アレルギーを持つ人が食料の確保に苦労したことは、当時の教訓として語り継がれています。勤務中に災害が発生した時を想定し、アレルギーや持病を抱える社員に対し企業としてどう手を差し伸べてあげられるかは、防災担当者の気配り次第です。緊急時にこそ、少数派の社員が一般社員に混じって不便や不利益を被らないよう、先回りして配慮を示したいものです。

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