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EMIS(広域災害救急医療情報システム)とは?役割と運用の流れを解説

EMIS(広域災害救急医療情報システム)という言葉をご存知でしょうか?

大規模な自然災害が発生すると、病院には大勢の負傷者が搬送されるため、医療機関はリソースの確保が追い付かずにパンク状態になります。そのような災害時に1人でも多くの負傷者へ医療を提供するために開発されたのが、病院の被災状況・稼働状況を把握する機能を持ったEMIS(広域災害救急医療情報システム)です。

今回は、EMISで共有できる情報や主な機能、災害時の運用についてご説明します。

EMIS(広域災害救急医療情報システム)とは?

EMIS(広域災害救急医療情報システム)は、災害時における「適切な情報の収集・提供」を目的としたシステムです。医療機関の患者受け入れ可否の照会、病院の被災状況や稼働可能な職員の確認を可能としており、医療機関の混乱により患者対応ができない事態を回避するために機能します。

EMISは、1995年に発生した阪神淡路大震災後に開発され、これまで運用され続けてきました。バックアップセンターを東西に2つ設けることで、災害時に活用できるシステムとしての堅牢度を高めており、スマートフォンアプリ化や操作性改善など、現在も利便性向上のためのアップデートが行われています。

EMISで共有できる情報・主な機能

EMISで共有できる情報・機能は、一般市民向けと関係者向けによって分かれています。このうち、一般市民向けとして公表されている情報は以下の通りです。

各地域における災害・警戒情報
条件を指定した医療機関の検索
災害対策のマニュアル・対応事例
地震や火災時に活用できる災害の知識

たとえば、2020年2月時点で全国的に猛威を振るっている「新型コロナウイルス」の影響を反映し、EMISでは下記画像のように新型コロナウイルスによる患者搬送や警戒地域を共有しています。

状況都道府県発災/切替日時メッセージ支援先/支援要請先最終更新日時
警戒北海道2020/02/27 09:02:00新型コロナウイルス に係る対応(警戒)2020/02/27 09:02:42
福島県2020/01/30 10:41:00原子力災害による警戒(継続)2020/01/30 10:41:27
愛知県2020/02/19 11:04:00新型コロナウイルス に係る対応2020/02/19 11:04:30
訓練埼玉県2020/03/15 09:00:00令和元年第4回EMIS入力訓練2020/03/15  09:00:36

出所:EMIS(広域災害救急医療情報システム)

一方、関係者に対して公開されている情報・機能は、災害医療に特化した一般向けよりも拡充された内容となっています。

■災害医療情報の入力・検索・集計
■メーリングリスト・メールマガジンといった情報共有の機能
■被災自治体から厚生労働省への通報・問い合わせ
■DMAT(災害派遣医療チーム)の派遣・活動状況の確認

これらの機能を有し、東西に2つのバックアップセンターを設けることで、大規模な災害時の安定稼働を可能にしているのです。

参考:EMIS(広域災害救急医療情報システム)「広域災害救急医療情報システムバックアップセンター運用ガイドライン」

災害時におけるEMISの役割と運用の流れ

災害時におけるEMISの役割は、大きく2つに分けられます。一つは、関係者向けの機能を活用し、発災直後の時期(急性期)に必要となる情報共有を行って、被災地の患者をケガの状態に応じて適切な医療機関へ搬送する「広域搬送」。もう一つは、急性期の救護・医療活動の訓練を受けたDMATを、被災レベルに応じて各所に派遣する「支援(DMAT派遣)」です。


出所:EMIS(広域災害救急医療情報システム)「システム概要」

災害時の負傷者は、急性期に必要な医療を受けられるか否かにより、生存率が大きく変わるといわれています。その点で、EMISによる早期の情報共有と、情報に連動した広域搬送・DMAT派遣は、災害時の人命救助に大きく貢献しています。

2-1. 被災現場の支援に従事するDMATとは?

DMAT(災害派遣医療チーム)は、災害発生から48時間以内に活動できる機動力を有した、医師・看護師などの医療従事者から構成される医療チームです。

阪神淡路大震災の際、災害急性期と呼ばれる被災後の初期段階において医療体制が十分でなかったことから、助けられたはずの命が多く失われました。その事実を重く受け止め、厚生労働省が発足した医療チームがDMATです。

DMATは登録制で、平時はDMAT隊員もDMAT指定医療機関にて通常取りの医療活動を行っており、出動要請があった場合に被災地へ赴いて救助・医療活動を行います。

参考:DMAT事務局「DMATとは」

EMIS運用における今後の課題

自然災害の多い日本において、EMISは被災地の情報収集・提供という重要な役割を持ったシステムではあるものの、現状では運用に関していくつかの課題が残されています。事実、昨今の災害時においては本来EMISが担うはずの役割を人間が手作業で行う場面も見られ、EMISが最大限活用されているとはいえない状況がありました。

この章では、EMIS運用における今後の課題、および考案されている対応策についてご説明します。

3-1. 操作性に難のあるシステムの改善が急務

EMISはたび重なる改良を加えられてはいるものの、前時代的なデザイン・インターフェースであり、視認性・操作性が低いのは否めません。また、そのことから広く伝えられるべき有益な情報が埋もれてしまう問題も指摘されており、厚生労働省が公表する「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)を活用した情報収集体制の強化について」の資料内でも、同問題が改善事項として挙げられました。

また、過去の災害事例においては、停電や断水が起こったことで本来の役割である「情報収集・提供」ができず、電話や職員の現地訪問によって全数調査を行う事態を招いたこともあります。

こうしてEMISを活用できない状況は、以下の事柄が要因となり発生しました。

EMISに未登録の病院があったこと
病院が被災状況を自ら入力しなかったこと
病院の貯水槽・自家発電機の有無を把握できていなかったこと
停電により、EMISの利用に必要な固定回線・パソコンが使えなかったこと

3-2. 時代にあわせた利便性の追求

しかし、そうした問題点を解決するため、すでに具体的な対応策が挙がっています。

病院や診療所の登録を義務化
入力を促す「プッシュ型」のシステムを開発
e-ラーニング(インターネットを使った学習)を通じた研修の開発
平時から入力する基礎情報として貯水槽・自家発電の有無などの項目を追加
操作の練習を可能とするトレーニングモードの実装
停電時・オフライン環境下でも利用できるシステムの開発

また、停電時・オフライン時に固定回線やパソコンが機能不全になり、システムが利用できなくなることのないよう、スマートフォンアプリの開発も進められています。

参考:厚生労働省「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)の歴史と進歩、そして課題」

過去の災害時におけるEMISの活用状況

平成28年に発生した熊本地震、平成30年度に発生した豪雨・台風・北海道地震時のいずれにおいても、EMISは本来の能力を発揮できていないのが実情です。

平成28年に発生した熊本地震のあと、関係者によって行われた「第2回 救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」では、情報を自らEMISへ入力した医療機関が全体の2割程度にとどまったことが報告されました。また、熊本地震の際にEMISへ情報を入力したのは代行機関がほとんどであり、各院が情報共有に努めることで達成される「円滑な広域搬送」を実現するには多くの課題が残されました。

さらに、平成30年度に続けて発生した豪雨や台風、北海道地震でも、インフラへのダメージが大きかったために、前章で挙げた多くの課題が浮き彫りとなりました。これらの過去事例を受け、EMISは今、より有用なシステムへ発展させるべく各所で改善が講じられている段階です。

参考:GemMed「災害医療の充実に向け、DMAT事務局体制の強化・EMISの改善を―救急・災害医療提供体制検討会」

まとめ

今回ご説明したように、EMISは災害時における情報収集・提供という役割を担っており、被災地の負傷者を適切な医療機関へ搬送する際に欠かせない存在です。

現状では複数の課題を抱えているのも事実ですが、多くの人命を失う結果となった阪神淡路大震災の時のような事態を避けるためにも、今後より大きな期待が寄せられるシステムだといえるでしょう。

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