企業における噴火対策の必要性と具体的な方法
水害や地震への対策をきちんと行っている企業は少なくありませんが、適切な火山の噴火対策をしている企業は意外に多くありません。日本には数多くの活火山があるため、噴火が起きると企業活動にもさまざまな支障が生じてしまいます。そこで、ここでは企業における噴火対策の必要性や、対策のポイントなどについてご紹介します。まだ何も取り組んでいない企業のご担当者の方は、ぜひ目を通してみてください。
企業の噴火に対する対策(BCP)の必要性
日本には数多くの活火山があります。活火山とは、噴火する可能性が少しでもある火山のことで、日本では111の山が指定されています。これらの活火山は国内のあらゆるエリアに存在しており、しかも登山や行楽の地として人気のある場所も少なくありません。
代表的なものを挙げると、富士山や箱根山などが挙げられます。富士山は霊山として古くから信仰を集め、現在でも登山者が後を絶たない日本一高い人気の山ですが、これまでの歴史の中で幾度となく大噴火してきた経緯があります。江戸時代に大きな噴火が起こり、それ以降は静まり返っているものの、地下にはマグマを大量に溜め込んだままだといわれています。
1990年代以降では、雲仙岳が噴火し火砕流によって多くの人が命を落としました。また、2000年には三宅島が火砕流を伴う噴火を起こし、全島民が避難を余儀なくされました。2011年にも霧島山が爆発的な噴火を起こし、2014年には御嶽山の噴火によって火口付近で多大な犠牲者が出たのです。
このように、今まで数多くの火山が噴火し、時に甚大な人的被害を与えてきた経緯があります。日本は世界的に見ても火山の多い国であるため、決して楽観視できないのが現実です。また、巨大地震が起きたあとには噴火が誘発されるといわれており、実際これまでにそうした事例があります。
日本は地震も多く発生する国のため、今後大きな地震が発生しその影響で火山が噴火すると想定されます。噴火が起きると、飛来する噴石や火砕流、火山泥流などによる被害が起こりえます。また、火口付近だと火山ガスの被害や、火山灰の堆積によるインフラへの影響も考えられます。
企業においても、活火山の近くにオフィスや営業所、工場などの施設がある場合、噴石が飛来するなど建物がダメージを受ける可能性があります。火砕流に施設が飲み込まれる、火山灰の堆積によって交通網がマヒし、その結果商品の納品が遅れるといった被害も起こるでしょう。
日常の業務ができなくなって事業に大きな影を落としてしまうことが考えられ、しかも復旧するためのコストも発生します。また、従業員が噴火の被害に巻き込まれてケガをする、最悪命を落とすといった事態も起こりえるのです。会社組織はもちろん、取引先や消費者、従業員を守るためにも企業の噴火対策は必要です。
参考:
国土交通省気象庁「火山噴火予知連絡会による新たな活火山の選定について」
国土交通省気象庁「過去に発生した火山被害」
リスク対策.com「企業の対策①噴火に備えたBCPの考え方」
リスク対策.com「特集 噴火リスク 災害対策の盲点BCPを再検証せよ」
噴火が企業に与える影響の具体例
実際に火山が噴火したとき、企業にどのような危害があるのかを理解しておきましょう。噴火の規模によりますが、さまざまな影響で企業活動に甚大なダメージを与える恐れがあります。
アイスランド共和国にあるエイヤフィヤトラヨークトル火山が噴火したのは、2010年4月のことでした。このとき、噴煙とともに排出された多量の火山灰が西ヨーロッパのあらゆるエリアに飛散したのです。火山灰によって航空機のエンジンが停止するかもしれない、ということで欧州の約30か所の空港が一時的に閉鎖し、一週間で約10万便の航空機が運休しました。
その結果、あらゆる空輸が不可能になり、人の移動や物流もできなくなったのです。生産に必要な部品や材料を調達できないことから、多くの企業が操業を停止せざるを得なくなりました。この噴火による影響は西ヨーロッパだけでなく、日本にも影響を与えています。大手自動車メーカーが部品を調達できなくなり、約2,000台もの車両製造に影響したのです。
噴火が発生すると、直接的に被害がおよぶ範囲内で活動している企業は日常の業務ができなくなります。有珠山が噴火したときには、地域を代表する観光名所でもある洞爺湖温泉街も営業が全くできませんでした。しかも、温泉が目玉のため代替営業もできず、ひたすら噴火が収まるのを待つことしかできなかったのです。
業務ができないと、機会損失の額も大きくなります。客商売の場合だと、噴火しているあいだはお客様も足を運んでくれず、商売になりません。そもそも、危険があるため操業ができず、日々利益を逃し続けることになります。
直接的に自社が被災しなくても、火山灰によって交通網がマヒすると流通にも影響を与えます。製造業だと部品が届かない、完成した製品を出荷できないといった事態にも見舞われるでしょう。
参考:
リスク対策.com「企業の対策①噴火に備えたBCPの考え方」
リスク対策.com「特集 噴火リスク 災害対策の盲点BCPを再検証せよ」
リスクマネジメント最前線「火山噴火による降灰リスクにおけるBCP策定のポイント」京都大学「アイスランドにおける火山噴火と航空関係の大混乱」
北海道伊達市「有珠山噴火に備えて」
企業の噴火対策におけるポイント
企業の噴火対策は大きく2つに分けられます。ひとつは早期復旧対策、もうひとつは代替策です。どちらをとるべきなのかは、その噴火が起きた場所や噴火の規模、被害状況により異なります。また、現時点でのリソースや拠点配置などを考慮しながら対策を立てておく必要があります。
そのうえでまずやるべきなのは、ハザードマップのチェックです。活火山がある周辺の自治体では、災害時への備えとしてハザードマップを作成しています。過去の記録やリサーチ、科学的見地に基づいた研究により、危険なエリアを記しています。また、避難する際のルートや避難場所なども地図上に記載されています。
ハザードマップを事前にチェックしておくことで、さまざまなシミュレーションができ、いざ噴火が起きたときには企業として最善の方法を選択が可能になります。ハザードマップは自治体の公式ホームページで公開されているため、一度チェックしてみましょう。
富士山のような大きな山の場合だと、噴火の被害は周辺だけに留まらず広範囲におよぶ可能性があります。また海外で大型の噴火があった場合も火山灰が広範囲に飛散して堆積することが考えられるため、そうした事態への対策も企業には求められるでしょう。交通網やインフラがマヒしたとき、事業を継続するにあたり、どのような早期復旧策や代替策があるかを考えておく必要があります。
また、気象庁では近い将来噴火の可能性がある47の火山を24時間体制で監視し続けています。そのため、何か異変があったときには気象庁の公式ホームページで情報が公開されます。火山の噴火によって広範囲にわたり火山灰が降り注ぐことが予想されるときには、降灰予報も発表されます。活火山の周辺で事業を行っている企業は、日ごろから気象庁の公式ホームページを確認しましょう。
従業員の緊急連絡網についても作成しておく必要があります。緊急連絡網は社員のメールアドレスを総務などでまとめて把握しておき、緊急時の一斉送信や安否確認に利用します。これによって企業として従業員全員へ迅速に情報を伝達することができます。従業員やそのご家族の安否確認にも役立ちます。
また、行動マニュアルの作成によって、従業員への注意喚起もきちんと行わなくてはなりません。日ごろから噴火によって想定されるリスクや、噴火が起きた場合、従業員としてどのように行動するのかを伝えておく必要があります。行動マニュアルがないと、従業員が危険を冒してまで出勤して人的被害を拡大してしまう恐れも出てきます。また火山灰を吸い込むことのリスクや、噴火時に外出するときの服装などについても行動マニュアルに含めることができます。
噴火に備えるためには、自社がどのような被害を受ける可能性があるかを日ごろからシミュレーションしておくことが大切です。その上で、従業員の安全を守り施設・設備の被害が大きくなることを防ぐための対策を立てておく必要があります。災害が起きたあとに、スムーズに事業復旧できる体制や代替策を整えておくことは、企業活動を続けるうえで重要であるといえるでしょう。
参考:
リスク対策.com「企業の対策①噴火に備えたBCPの考え方」
リスク対策.com「特集 噴火リスク 災害対策の盲点BCPを再検証せよ」アスピック「安否確認システムの比較11選 導入メリットとBCP対策のポイント」国土交通省気象庁「地震・津波と火山の監視 火山の監視」
まとめ
火山の多い日本で事業を行う以上、どのような企業でも噴火の被害に遭う可能性があります。近くに火山がない場合でも、遠方からの火山灰による影響を受ける場合があることも覚えておきましょう。噴火への対策をしておくことで、従業員の安全を確保し、被害を受けたあとの事業復旧もスムーズになります。まだ何も火山噴火への対策をしていないのなら、さっそく今日からでも取り組んでみましょう。