地震や水害などの災害が起きると、地方自治体によって避難所が開設されます。避難生活を送る場合には、それらの避難所で過ごす以外に、自宅にとどまる選択肢もあります。避難生活を自宅で送ることを意味する言葉が、在宅避難です。
この記事では、在宅避難のメリットとデメリット、判断方法、必要な備蓄品について解説します。在宅避難を正しく判断し、備蓄品を整えて、災害時に備えましょう。
目次
在宅避難とは
自然災害やテロなどに見舞われたときに避難生活を送る場所が、避難所です。地方自治体が用意する避難所は「地域防災拠点」「指定避難所」と呼ばれ、公民館や体育館などの公共施設が指定されます。
在宅避難とは、そのような避難所ではなく自宅で避難生活を送ることです。
以下で在宅避難のメリット、デメリットについて確認しましょう。
在宅避難をするメリット
在宅避難をするメリットとして、まずプライバシーを守れる点が挙げられます。
公民館や体育館などの公共スペースで大勢の人と避難生活を送る場合、個々に確保できる生活スペースが限られています。そのため、プライバシーを守ることが困難です。
一方、在宅避難ならプライバシーが確保されます。普段の暮らしに近い状態で生活でき、住み慣れた家で過ごせるため、心理的負担が軽減されるでしょう。
つぎに、感染症のリスクを軽減できることがメリットとして挙げられます。
手洗い用の水や消毒液などが不足しやすい状況で集団生活を送ると、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などに感染する可能性が高まります。在宅避難なら接触する人数は少なく、そのリスクは軽減されるでしょう。
在宅避難をするデメリット
在宅避難をするデメリットは、支援物資や情報を得ることが難しい点です。
食料や水、生活に必要な物資は、基本的に地方自治体から避難所に送られ、避難している方々に配布されます。
在宅避難をしている方は、それらの物資を避難所まで取りにいく必要があります。避難所は情報の拠点でもあるため、情報収集のためにも避難所に赴くことが大切です。
自宅がマンションであれば、エレベーターが停電で動かなくなるおそれがあります。そうした場合、外出の不便さについても考えておきましょう。自宅が古い建物であれば、倒壊する危険性があります。とくに、地震発生後は多くの場合、余震が続きます。そのため、あとで倒壊する例も少なくありません。在宅避難を続ける際は、自宅の状況を正確に把握し、安全が確認できなければ避難所へ避難しましょう。
在宅避難という選択には、メリットもデメリットもあります。それらを表にまとめました。よく比較し、状況に応じて判断することをおすすめします。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
在宅避難 | ・プライバシーが守られる・心理的負担の軽減・感染症リスクが低い | ・支援物資や情報を得るために、その都度外出しなくてはならない・自宅がマンションの場合、エレベーターが止まるおそれがある・自宅が古い建物の場合、倒壊の危険性がある |
避難所 | ・倒壊の可能性が低い・集団生活をするため安全を確保しやすい・自治体から生活のサポートを受けやすい・情報収集しやすい | ・プライバシーの確保が難しい・感染症リスクが高い・消灯時間や食事時間などのルールがある・犯罪に遭うリスクがある |
在宅避難か避難所を選ぶ判断基準とは
地方自治体が用意できる避難所は受け入れ人数に限りがあるため、地域の被災者を全員受け入れることは困難です。
だからといって、安易に在宅避難を選択することは危険をともないます。ここでは、在宅避難と避難所を選ぶための判断基準について解説します。
その土地は安全か
自宅のある場所が安全かどうかを第一に考えます。地震が発生したあとは、長期にわたる余震の可能性を考えることが重要です。地盤の弱い土地、土砂崩れや津波のおそれがある場所で避難生活を送ることは危険です。
水害の対策として、ハザードマップで川の氾濫や土砂災害のリスクを確認する必要もあります。
崖の上や下、海や河川のそば、避難経路が1つしかない立地に自宅があるならば、安全が確保できるまで自宅を離れて避難するほうがおすすめです。
災害のリスクが高い土地で在宅避難をすると、危険を感じてから別の場所に避難しようとしても間に合わないおそれがあります。リスクを十分に考慮して在宅避難を選択するか否かの判断をしましょう。
その建物は安全か
自宅の建物自体の安全性も重要な判断基準です。通常、避難所として使われるのは耐震性の高い堅固な建物ですが、在宅避難の場合は自宅の築年数や耐震性などをふまえ、倒壊の可能性が高くないかを確認しておくことが大切です。
地震だけでなく水害についても想定し、自宅が低い位置に建てられていないか、立地に関しても確認する必要があります。
できれば、平常時に家の耐久性・耐震性を把握しておくことがおすすめです。被災した際に、避難所へ移動したあとで、安全性が確認できれば自宅に戻る選択がしやすくなるでしょう。
在宅避難に必要な備蓄
ここでは、在宅避難に必要な備蓄について紹介します。
災害時の在宅避難に備えて、自宅に非常用備蓄品を用意しておきましょう。食料や水は少なくとも3日分、できれば1週間分程度備えておくことがおすすめです。
備蓄品はリスト化し、食料の賞味期限や物品の電池などが切れていないか管理しておくことも重要です。
非常用備蓄品
自宅に用意しておきたい非常用備蓄品の品目は、以下のとおりです。
- 飲料水(1人あたり1日3リットルが目安)
- 主食(アルファ化米・クラッカー・即席めん・レトルト食品・缶詰・乾パン・菓子など)
- 生活用水(手洗いほか、飲む以外にも水が必要)
- カセットコンロ用ボンベ(6本以上)
- 使い捨てスプーンや箸
- 食品包装用のラップ
- 衛生用品(トイレットペーパー・ウェットティッシュ・生理用品など)
- 救急箱や常備薬
- 簡易トイレや防臭のゴミ袋(防臭ならトイレとして使いやすい)
- 乾電池(使用推奨期限を過ぎても使えますが、念のため確認しましょう)
- 懐中電灯
- モバイルバッテリー
- 使い捨てカイロ
備蓄品を用意するときは、普段の生活で少し多めに買って備える「日常備蓄」と、普段から備蓄してある非常食を食べては買い足す「ローリングストック(循環型備蓄)」を組み合わせることがおすすめです。
そうすることで、避難生活が長引いたとしても、平常時に近い食事ができます。
非常用持ち出し品
非常時に持ち出すものをリスト化して準備しましょう。非常用リュックにまとめて、すぐに持ち出せる場所に置いておくことがおすすめです。
- 貴重品(現金・預金通帳・カード類・印鑑など)
- 非常食(クラッカー・乾パンなど)
- 飲料水(持ち運びできる量)
- 応急医療品(常備薬・ばんそうこう・消毒液など)
- 衣類(下着類・タオル・雨具・軍手など)
- 懐中電灯(1人1つ・予備の乾電池も多めに)
- 充電式携帯ラジオ(スマートフォンの充電に対応しているもタイプが便利です)
- モバイルバッテリー
- 衛生用品(ティッシュペーパー・ウェットティッシュ・生理用品・紙おむつなど)
在宅避難に向けた備え
ここでは、在宅避難に向けて備えておきたい点について紹介します。
災害が起きる前、平常時のうちに、以下の内容について準備しておきましょう。
室内の安全確保
自宅が安全でなければ、避難生活を送ることは困難です。まず建物の耐震性を確認し、つぎに室内の安全が確保できるような対策を取りましょう。
地震で倒れたり落下したりするおそれがあるタンス、本棚やテレビなどは固定しておくことがおすすめです。とくに、寝ている間はもっとも無防備であり、そこに大きな家具が倒れてくると命にかかわります。寝室の安全性は真っ先に確保しておきましょう。
そのほか、倒れてドアをふさいでしまうような家具があるなら、固定したり別の場所に移動させたりすることをおすすめします。
キッチンも、安全性の十分な確保が重要です。冷蔵庫や大きめの調理器具は固定し、在宅避難の際にも使えるキッチンを作りましょう。
カーテンに防炎製品を使用すると、火事の広がりを防ぎ安全性が高まります。
停電・断水対策
災害時には、電気や水道の供給は止まる可能性が高くなります。停電に備えて乾電池は多めにストックしておきましょう。スマートフォンやタブレット、モバイルバッテリーなどの充電式の機器は、日頃から充電しておくよう心掛けることが重要です。
コンパクトなソーラー発電機を持っていると、停電が長期に及んだときに役立ちます。
暑さや寒さへの対策も怠らないようにしましょう。夏は熱中症対策の水や塩分補給飴など、冬場は使い捨てカイロや毛布があれば、厳しい環境を乗り越えるために役立ちます。
水道水は日頃から汲み置きしておくと、生活用水が確保できます。地域に災害時の水を確保する給水拠点や災害時協力井戸がある場合は、地方自治体の公式サイトで自宅からの経路を確認しておくことがおすすめです。
参考:東京都水道局「災害時に水を配る場所~災害時給水ステーション~」
参考:京都市情報館「京都市内の災害時協力井戸マップ」
トイレへの対策
避難生活で多くの人が困ることは、トイレの問題です。排泄を減らそうと食事や水分の補給を我慢していると、健康を害する可能性があります。トイレへの対策は必ずしておきましょう。
トイレの排水管に問題ないことが確認できた場合は、断水されていないなら、トイレを使用したあとに流せます。
ただし、災害時には断水の可能性があります。断水に備えて浴槽に水を貯めておくことがおすすめです。この水をくんでトイレを流すために使えます。
トイレが破損して使用できないときや水がない場合は、水を使わない簡易トイレや携帯トイレで対応します。1人あたり1日5回使用すると考えて、1週間分を目安に家族の人数分の携帯トイレを備蓄しましょう。
トイレットペーパーは不足しやすいため、多めに買っておくことがおすすめです。ウェットティッシュや生理用品、紙おむつやおしりふきも備蓄しておくと、本来の使用用途以外に役立つ可能性があります。
また、新聞紙やごみ袋を使って簡易トイレを作る方法について、前もって調べておくことも重要です。
参考:川崎市男女共同参画センター「これで安心トイレ対策編」
避難経路の確認
在宅避難をしていても、状況によっては自宅から離れて避難する必要に迫られることがあります。その際の避難経路や危険な場所について、早めに確認しておきましょう。
自宅からの避難経路が限られているなら、危険な状態になる前に避難することをおすすめします。
在宅避難の最中も、自宅から外へと避難する際にも、近所の人との協力体制を作ることが重要です。平常時から町内会や自治会などの訓練に参加し、地域とのかかわりを持つよう意識しましょう。
在宅避難について考えてみよう
災害時、地域ごとに開設される避難所は規模に限りがあります。在宅避難を選択することは避難所の混雑緩和に役立つだけでなく、避難生活を送る中でのストレス緩和や感染症のリスク軽減などのメリットもあります。
在宅避難ができるように日頃から非常用備蓄品を用意し、自宅の安全対策をするとともに、断水や停電への対策をしておきましょう。
災害が起きた場合の安否確認には、安否確認システムの導入がおすすめです。こちらの動画をぜひご覧ください。