空気が乾燥する、冬の季節。火災のリスクが高まっていますが、万が一の火災に備えて、自衛消防訓練*は実施されているでしょうか。
*自衛消防訓練とは、火災に備えた、避難や消火、応急救護などの自衛消防活動にかかる訓練のこと
火災予防は、日ごろからの意識づけが大切です。オフィスで災害が発生したとき、どう振る舞い、どう避難するか。緊急時でもしっかりと行動できるよう、自衛消防訓練は欠かせません。
そこで、今回は、渋谷消防署に協力していただき、東京消防庁が推奨する訓練内容をお伺いしました。
目次
まさか!?と驚く、コンセント・蛍光灯からの出火事例
一般的に火災というと、火元を想像されると思いますが、実は火以外の原因から火災が起こるリスクがあることをご存知ですか。
東京消防庁には、コンセントや蛍光灯からの出火など、オフィスにある身近なものが火災の原因となっているケースが数多く報告されています。そのふたつの事例をご紹介しましょう。
①コンセントからの出火事例
事務所ビルの5階事務室内に設けられた給湯コーナーから出火。原因は、給湯コーナーの床上、冷蔵庫の裏側でテーブルタップに差し込まれていたプラグのトラッキング現象*でした。
*トラッキング現象とは、両極間に付着した、ほこりや水分などの影響により、漏電し出火する現象のこと
勤務時間中に自動火災報知設備のベルが鳴ったため、建物管理会社の所長が気づき、現場に向かいました。事務所内は白煙が充満しており、火元を探すと給湯コーナーにあるパーテーションが燃えていることを発見。所長はすぐ、建物備え付けの粉末消火器を使用。初期消火に成功しました。
【傾向と対策】定期的に掃除することがトラッキング火災を防ぐ!
給湯器室や給湯コーナーなど、湿気が多い場所は、トラッキング火災を引き起こす可能性があります。また、今回の事例のように、冷蔵庫の裏側は人目につきにくく、テーブルタップにほこりが付着していても気づきにくいことがあるでしょう。トラッキング火災を防止するために、意識的に掃除をする習慣を身につけることが重要です。
②蛍光灯からの出火事例
複合用途ビルの4階事務所から出火。原因は事務所に設置されていた蛍光灯器具の安定器*が、経年使用により巻線コイルの絶縁被覆が劣化し、出火したものです。
*蛍光灯は放電によって発光する。安定器は、その放電を安定させるために使われる電気装置
事務所に入居する法人代表が、勤務中、室内の蛍光灯から異音が聞こえ、異状に気づきました。確認すると、床面に油のような液体が垂れており、蛍光灯が熱くなっていたので外してみると、煙が出ているのを発見。4階踊り場にあるブレーカーをOFFにした後、固定電話で119番通報をされました。
【傾向と対策】蛍光灯安定器の使用年数を確認することが火災予防につながる!
焼損した蛍光灯安定器は、20年以上前に設置されたものでした。蛍光灯自体はチラつきや点灯しなくなるなど、取り替え時期が明確ですが、「安定器は交換時期がわからない」「使えなくなるまで使用する」「そもそも安定器の存在を知らない」などの声があります。
一般的に電化製品の交換時期は10年とされているため、大掃除や蛍光灯の交換とあわせて、安定器の使用年数を確認することも、火災予防に重要です。
この2つの事例のように、タバコやコンロなどの「火」以外の原因で火災が発生する場合があるのです。
そのほかに報告された例として、「海外製のLED電球を取り付けたら、点灯したが、出火してしまった」というものがあります。おしゃれなオフィスなどでは海外製品の電球の使用検討をする場合があるかもしれませんが、既設の蛍光灯照明器具との組み合わせを間違えると、火災の恐れがあります。海外製品を使用する際は、十分にお気をつけください。不安な場合はメーカーなどに問い合わせることをおすすめします。
いざという時に「消火器の使い方がわからない…」と慌てないために自衛消防訓練をしよう
ここからは、東京消防庁のリーフレット「自衛消防訓練〜もしもの時に備えてやっていますか?〜」に沿って内容を紹介します。
まずは火が燃え広がってしまわないよう、火が小さなうちに消火するときに使用する、消火器と屋内消火栓の使い方について訓練しましょう。
初期消火
いざというときのために、消火器と屋内消火栓の使用方法を覚えましょう。
①火元の近くに運ぶ
②安全ピンを抜く
③ノズルを火元に向ける
④レバーを握り、放射
*時間がない場合は…
朝礼など、従業員が集まるタイミングで、消火器の場所や使い方を周知する取扱訓練を実施しよう!
【POINT】
・消火器での初期消火は、吹き返しや燃焼物が飛び散ることがあります。火点に近づき過ぎず、適切な距離を保ちましょう。
①消火栓の中央にある起動ボタンを押す
②ホースを伸ばす
③開閉バルブを開き、放水する
【POINT】
・避難路を確保し「出火室内が燃え広がっている場合」や「天井などに火炎が達した場合」は、無理をせず避難を開始しましょう。
・「濡らした衣類などをかける」などではなく、適切な消火器具、消火設備を使用しましょう。
・煙には熱気や有毒な成分を含んでいるので注意しましょう。
避難誘導訓練
火災が起きた場合、オフィスには来訪者がいる場合があります。避難者へ適切な声かけができるよう、訓練しましょう。
放送を聞き、適切な避難方向を指示する訓練をする
*時間がない場合は…
退社時に避難訓練を実施しましょう!
避難の指示命令にはエレベーターを使用しないように伝えましょう。
【POINT】
・出火場所や、指示をする担当者を変更して、避難誘導の訓練をしましょう
・指示をする際、煙を吸わないよう、姿勢を低く、ハンカチやタオルを口元にあてさせることも重要です
・また、防火戸や防火シャッターが作動しても、閉じ込められるわけではありません。閉まりかけているシャッターを絶対に潜らないよう説明します
・煙で視界が利かない場合の想定として、低い姿勢をとり、床や壁に手を当てて、這うように避難をすることも伝えましょう
次に「通報・伝達」訓練について紹介します。
通報・伝達
模擬で119番通報し、火災状況の伝え方や非常ベルを押す、非常放送で社内に出火元を知らせるなど、知らせたい相手にはっきり要件を伝える訓練です。
この場合、以下のような伝達方法が考えられます。
①近くにいる人に火災を知らせる
②非常ベルを押す*
③内線電話で模擬119番通報をする(訓練で実際に119番通報をするときは、消防職員の立会いが必要です)
④非常放送で建物全体に状況を知らせる
*消防設備(自動火災報知設備、感知器、スプリンクラーなど)と連動している場合がありますので、自衛消防訓練で設備を使用する場合は、消防設備業者等の立会いを推奨します
それぞれの訓練において、どんなことを意識するべきか、POINTを確認しましょう。
【POINT】
・送り手と受け手を決めて訓練する
・119番通報、または非常放送の文例を用意する
・放送設備の使い方を確認し、覚えておく
応急救護
けがをしたときなどの対応力を身につける、応急救護の訓練です。
①止血のための三角巾の使い方を身につける
②けがをした部位に応じて、おぶったり、椅子に乗せたまま運んだりなど、けが人を搬送する適切な方法があるので、いろいろな搬送方法を身につける
③AED(自動体外式除細動器)の使い方を覚える
実践的なけが人を救護する方法を身につけるには、救命講習を受講することをおすすめします。救命講習については、最寄りの消防署に相談してみてください。
防火対象物*全体の収容人員が50人以上のオフィス(事務所)の場合は、管理権原者*が防火管理者を選任し、消防計画を作成して、防火対象物所在地にある消防署に届出しなければなりません。
*防火対象物とは、不特定多数の人に利用されるビル等の建造物
*管理権原者とは、正当な管理権を有するもので、建物の所有者、建物の賃借人のこと
そして、届出した消防計画に基づき、自衛消防訓練を定期的に実施することが消防法により義務付けられています。
防火管理者は、防火管理上必要な業務を適切に遂行できる地位にある者で、法令で定める講習を終了し、資格を有していることなどが必要です。詳しく知りたい方は、お近くの消防署にお問い合わせください。
まとめ
自衛消防訓練の内容を見てわかる通り、どれももしもの時の備えが必要なことばかりです。突然「消火器を持ってきて」と言われても、そもそもどこに消火器があるのか把握している従業員は少ないかもしれません。訓練していなければ現場は混乱し、重要な書類やデータの損失にとどまらず、従業員の命を危険にさらすことを招いてしまいかねないのです。
なお、今回、防火対象物全体の収容人員が50人以上のオフィスは自衛消防訓練が義務だとお伝えしましたが、もちろん上記以外のオフィスでも自衛消防訓練を行うよう努めなければなりません。従業員一人ひとりの命を守るためにも、日々の訓練が重要です。いざというときに適切な対応ができるよう、防火管理者、火元責任者などは、自衛消防訓練について従業員に指導し、災害に備えた自衛消防訓練を実施しましょう。
協力:渋谷消防署