近年は異常気象が多発しています。こと台風に関して言えば、2015年は毎月発生して、2014年から数えてなんと19か月連続で発生しているという事実があります。
さらに、爆弾低気圧などでゲリラ豪雨が局地的に水害をもたらす自然災害が頻発。2015年9月には関東・東北豪雨で鬼怒川が決壊。約7,000世帯で全壊、床上、床下浸水に見舞われました。一般家庭のみならず、事務所などの被害は企業にとって致命的になりかねません。
ここでは費用を最小限に抑え、かつ中小企業でも比較的容易に準備できる「水害対策」についてご紹介します。
水害が企業に与える影響
都市の下水機能が整えられた結果、下水の上流部で多量の降雨があると、下水下流に水量が集中します。そのため下流部において下水が氾濫することがあります。これは、現在の雨量、特にゲリラ豪雨による雨量が、下水管が設置された想定外の量となっていることに原因があります。会社が入居している建物が洪水に遭うと、どのような影響があるのでしょうか。
重要データの破損
事務所に関して特に気をつけておきたいのが、床にパソコン・サーバー等を置いている場合です。仮に10㎝だけ浸水が発生した場合でも、機器の中に水が侵入し故障してしまう恐れがあります。
それにより、電源が入らず、中のデータへのアクセスが不能になり、顧客、仕入先、受注状況がわからなくなってしまいます。また、自社のトラブルの状態を把握できず、連絡も滞ることにも繋がります。データのバックアップは最重要項目です。
自社だけでなく仕入先の機能停止
自社が直接水害に遭わなかったとしても、遠方の仕入先が水害に遭った場合、サプライチェーンに影響が生じ、仕入れができなくなってしまう恐れがあります。仕入れ先を1社だけに限定していると、顧客の注文に応じることができなくなるというリスクが増大します。極力、仕入れ先は分散しておくことが大切です。
機械設備の故障
電気系統が水をかぶると、応急の処置ではどうにもならなくなります。修理には半月から1カ月かかることもあり事業上、致命的になりかねません。機械の電源は、水難に遭いそうになったら、緊急停止、切断手順について予め対応を決めておく必要があります。
経営者、管理者不在による事業停滞
災害発生時に経営者が会社にいるとは限りません。交通マヒで外出先から帰社できない、あるいは出張で不在との場合、現場の状況に応じて判断する人間がいないと事業の混乱がさらに増します。社員の避難、機材の処置、顧客、仕入先などへの連絡、確認を始め、ある程度経営判断に関わる権限の移譲も普段から決めておくことが重要です。
対策は事前継続計画(BCP)の制定
水害にあっても、被害を最小に食い止めるために、企業としてBCPを制定しておくと、慌てず災害後の対応が可能となります。災害に強い企業となることで、従業員も安心して働け、取引先や銀行からの信用も高まります。
BCP制定を奨励する自治体によっては、銀行、信用組合から融資を受けやすくなる制度もあります。
もちろん、「水害を想定して建物を作りなおす」「排水できるようポンプを備える」などの対策もありますが、BCPはまず現状でも対策できる身の丈にあった内容から始めることができます。
事前対応
実は江戸時代から東京、江戸は水害対策が都市化への大きな課題でした。低湿地から農業に向く耕地とするため、さらに水害を少なくするため、徳川家康は東京湾に注いでいた利根川に水路を作り、霞ケ浦へと流れを変えました。こうして大都会、東京が発展する下地を築いたのです。
それでも、東京には北関東から流れる荒川、隅田川、神田川を始め、多くの川が流れています。集中豪雨が起こると水害発生のリスクがあります。東京都は事前対応として21区17市の「洪水ハザードマップ」をいます。事務所のある位置が水害に遭いやすいか必ず確認しましょう。洪水ハザードマップには、
・想定される浸水の深さの程度
・避難場所、避難経路等の災害対応情報
以上が、掲載されています。東京都に限らず、各自治体も発表しているところもあります。
「ハザードマップ」による水災被害の可能性の確認
例として、『東京都北区のハザードマップ』を見てみましょう。荒川が氾濫したケースを想定し、水が浸入する地域を色分けで説明しています。病院、避難所、援護施設等も地図で表記されており、事前に確認しておくと便利です。
浸水対策用品の準備
洪水が起きても、事務所内への水を防ぐために、土のう、止水板があります。ある程度の浸水を食い止めることが可能です。
損害保険への加入
水害によって機械、パソコン等の被害が考えられます。損害保険に加入していれば、被害にあっても慌てることがありません。
重要情報のバックアップ
サーバーは2階に設置するか、パソコンも床に置くのはやめて机の上など高い場所に設置します。そうしておけば、取引先情報、注文書、売買データなどの重要情報が守られます。
災害対応の資金確保
事業が中断すると、商品も生産できなくなり収入が見込めなくなります。新たな仕入れ先への代金支払いが前金になるなど資金不足に陥ることがあるため、災害対応のために資金をプールしておきましょう。
初期対応
さあ、豪雨被害が予測されてからは以下の対応をしましょう。地震に比べて時間的な余裕があるので、様々な対策ができます。
国土交通省の川の水位情報、自治体から情報を得る
洪水、堤防の決壊などを予測するには、リアルタイムで川の水位情報が出されます。それをパソコンなどでチェックしておきます。
避難情報の入手
いざ、氾濫などが起こった場合は、防災行政無線、広報車、自治会、消防団から広報されます。
浸水対策用品の設置
川、下水の氾濫が予想されたら、事前に事務所の出入り口に土のう、止水板を設置します。
重要書類、PCなどを移動
水にぬれたらまずい書類、PCは上層階か、1階でも高い場所に移動します。
従業員の安否確認、避難
従業員が災害に巻き込まれていないかを確認し、早期帰宅を進めるか、避難場所へ誘導します。
応急対応
災害に見舞われても、次の対応を実施することで被害を最小にとどめ、いち早く事業を継続することができます。
災害対策本部の設置
指令系統を明確にします。会社がこうむった被害状況を把握し、その対策を速やかに実行します。
顧客や協力会社への情報発信
自社、あるいは相手の会社の被害、復旧予測状況を伝え、相手にも対応を仰ぎます。
サプライチェーンの稼働状況の確認
対応可能な従業員、施設、在庫などが稼働できるかを確認。流通インフラなども確認し、いち早く事業継続を進める対策を実施します。
まとめ
「備えあれば憂いなし」とは、よく言ったものです。事前の準備があるかないかで、災害後の会社の経営状況を復活させるか、資金繰りの悪化から倒産をも招くか、が別れるのです。今できるBCPを取り決めでおくだけでも、安心できます。起きてから、では遅いのです。対策を立てるのは、まさに「今」です。