企業経営において近年非常に注目が高まっている「健康経営」。激化する人材の争奪戦での競争力の向上、企業としてのブランディングなどを目的に、社員の健康の改善に対する具体的な取り組みをしている企業が増えています。
Googleでは明確な数値管理をもって従業員の“血糖値”の改善を試みるなど、全社的な取り組みとして力を入れています。ここではそんな「健康経営」について国内の事例を交えてご紹介します。
目次
「健康経営」とは
そもそも健康経営とは、従業員の健康管理を経営課題の一つとして扱い、従業員の健康維持が会社の生産性向上につながるとする経営手法です。1992年にアメリカで出版された「The Healthy Company」の著者である産業・組織心理学者のロバート・H・ローゼン氏によって提唱されました。
近年の傾向として企業の資金調達よりも人材確保のほうが難しくなりつつあることから、企業の従業員への健康配慮の重要性が今までになく高まっています。2015年に発表された経団連の206企業を対象とした調査によると、調査回答企業の98.5%が健康経営に取り組んでいると回答したそうです。
従業員個人のクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)の向上のみならず、企業競争力を高めるうえで極めて重要であるとして、経団連も2015年から健康経営の普及・啓発に力を入れ始めました。
参考:「健康経営」への取り組み状況(事例集・アンケート調査結果)
健康経営に取り組む目的
経団連の206企業を対象としたアンケートによると、健康経営に取り組む目的ベスト5は以下のとおりです。
2位「経営上のリスク管理」(153社・74.3%)
3位「従業員満足度の向上」(116社・56.3%)
4位「健保財政の健全化を通じた健康保険料の負担軽減」(64社・31.1%)
5位「企業価値・イメージの向上」(41社・19.9%)
健康経営施策の取組内容
具体的な取り組み内容については、「「専門職(産業医・産業保健スタッフなど)との連携体制を整備」(186社・90.3%)、「健保組合等の保健事業への協力」(166社・80.6%)と、産業保健の実務に携わる専門職や健康保険組合とのスムーズな連携体制の構築が上位を占めました。
その次に多かったのが、「健康保持・増進に資する情報を従業員へ提供」(157社・76.2%)、相談窓口の充実や社員食堂の刷新等の「就労環境の改善」(155社・75.2%)などの取り組みでした。さらに、「従業員の健康保持・増進に向けた課題把握・分析」(142社・68.9%)、「従業員の健康保持・増進にかかわる施策の評価指標の設定・効果検証」(127社・61.7%)と、課題把握・データ分析に関する取り組みが6割を超えました。
「健康経営」で得られるメリット
やはり健康経営の一番の目的は会社が従業員の健康改善・維持に積極的に関与することで、企業と従業員との間の信頼関係を強化し、従業員のより自律的な行動を引き出し、生産性を向上させることにあるようです。
また従業員の健康維持は医療費削減にも貢献します。平成26年度付けでの全国の健康保険組合の赤字額が合計で3,689億円に達するなど、企業の医療費の負担が深刻な状況になっているのも健康経営の促進につながった理由だと考えられています。
「企業ブランディング」、「優秀な人材の確保」のような外部的な効果も期待されますが、企業内の従業員のモチベーションアップがもたらす生産性の向上が何よりのメリットなようです。
健康経営の事例
Googleでは「血糖値」をKPIに設定
Googleは従業員の健康維持のために「血糖値」をKPI(重要業績評価指標)として導入しました。これは実はNASAの宇宙飛行士の労働効率性の研究から着想したアイデアなのです。「血糖値を一定状態にすること」が労働における集中力の継続性につながるとして、3時間に一度の食事を推奨するなどの政策を行っています。3、4時間ごとに食事をとることで血糖値を一定に保つことができるそうです。
花王では健康づくりに取り組む従業員にインセンティブを付与
花王では従業員の病気の予防により力を入れるため「花王健康マイレージ」を導入しました。一日一万歩歩いたり、禁煙を行ったり、健康イベントに参加するごとに健康マイルが貯まる仕組みになっています。そして貯まったマイルは健康グッズと交換できます。
現在、被保険者の45%近くがマイレージプログラムに参加しているとのことです。
ロート製薬では社内にヘッドスパを設置
ロート製薬は健康経営を専門とするチーフヘルスオフィサーの役職を新たに設け、全社員が参加する健康づくり政策「100日プロジェクト」を実施するなど、従業員の健康維持に余念がありません。そしてなんと社員向けにヘッドスパも設置したとのことです。一般利用も可能で、50分 5000円で本格的なヘッドスパが受けられるそうです。
まとめ
企業にとって社員の健康維持はコストから「投資」へと変わってきているようです。これまでは福利厚生として行われていた従業員の健康づくりは「人材育成」の重要な要素として捉えられ始めています。将来的に労働人口が少なくなっていく中、健康経営の重要性はこれからますます高くなっていくでしょう。