引き渡し訓練とは、学校や幼稚園で行われる避難訓練の一種です。
非常事態が発生したという想定で、登校している児童生徒を迎えに来た保護者に引き渡す訓練ですが、単に引き渡して終わりとするのではなく、児童生徒と家庭、学校や幼稚園、保育園が防災について理解を深める機会でもあります。
目次
引き渡し訓練とは
引き渡し訓練は、幼稚園や保育園、学校などで行われる避難訓練の一種です。確実に子どもの安全を確保し保護者に引き渡せるよう詳細を検討したり、保護者に対して避難時の注意点やなすべきことを伝える機会でもあります。
避難訓練との違いは、保護者が参加する点です。引き渡し訓練は、自然災害が発生したときの心構えや意識を児童と保護者双方に伝えるよい機会なのです。
引き渡し訓練の具体的な内容は各施設ごとに異なります。児童生徒を校庭あるいは園庭に避難させた後に保護者への引き渡しが行われる場合もあれば、教室に待機している児童を保護者が迎えに行き、氏名確認ののちに引き渡す場合もあります。
引き渡し訓練のねらい
引き渡し訓練には、防災への意識向上や保護者と施設との連携強化、防災情報の共有などのねらいがあります。訓練の目的やポイントを把握した上で訓練に参加することで、非常時でも落ち着いて適切な対処をすることが可能になるのです。
以下で引き渡し訓練のねらいについて詳しく解説します。
自然災害への意識向上
引き渡し訓練だけでなく、防災訓練の主なねらいは防災への意識を向上させることです。
通常の避難訓練だけでなく、保護者が参加する引き渡し訓練を実施することで、職員は自然災害へ対応する手法などについて詳細に検討し、防災意識を向上させます。
また、保護者に対しても自然災害が発生したらという想像を促し、家庭で防災を考えるきっかけになるでしょう。
児童生徒に関わる防災は、大人の高い意識と詳細な事前準備で成し遂げられます。引き渡し訓練は児童生徒の生命を守るという点で重要な意義を持つのです。
災害時の連携強化
引き渡し訓練は、自然災害が発生したときの職員と保護者との連携強化に役立ちます。
自然災害時に子どもたちを安全に保護者のもとへ送れるようにするためには、職員だけでなく保護者の協力も不可欠です。引き渡し訓練は両者の連携を確認する機会といえます。
職員は、保護者に学校や保育園、幼稚園の状況をどのように伝えるか、そして保護者の状況をどのように把握するのかについて対策を行い、両社が確実に連携する方法を検証し、実際に訓練で確認します。
危険の共有
危険に関する情報を共有することは、引き渡し訓練を行う狙いのひとつです。
実際に自然災害が発生すると、普段通っている自宅から学校までの地域にもさまざまな危険が発生します。引き渡し訓練は、地域で災害が発生した場合にどのような危険が生じるかを考慮した上で実施されます。
職員は施設周辺に生じうるリスクについて保護者に伝え、保護者はその想定のもとで迎えにいく経路や連れて帰る経路を判断するのです。水害時に氾濫の危険性がある川や、火災が発生した場合に避けるべき建物密集地など、安全に避難するための情報を共有することで児童生徒の安全は確保されます。
引き渡し場所・方法の確認
引き渡し訓練では、引き渡し場所・方法の確認を行うことも目的のひとつです。
施設によっては、引き渡し訓練時に保護者のお迎えを徒歩に限定しているケースがあります。その理由として、自然災害発生時の交通の混乱や麻痺、渋滞の発生などを想定し、自宅から施設までの徒歩経路を保護者に把握してもらうねらいがあるからです。その上で、災害発生時の引き渡しの場所や方法について、実地で保護者に確認してもらうのです。
引き渡し訓練の流れ
引き渡し訓練は、実際にどのような流れで実施されるのでしょうか。施設ごとに多様な引き渡し訓練が実施されていますが、公表されている実施手順やマニュアルからポイントを把握できます。
保護者の視点から、引き渡し訓練の流れや注意点、どのように行動するべきかについて解説します。
自然災害発生時
自然災害発生時にはまず、保護者が自分の身を守ります。危険が一旦去ったと判断したら、状況と自宅の様子を確認し、さらに家族の安否確認を行います。自宅が避難を要する状況であれば、先に避難を行いましょう。
職員は、周辺の被害状況や交通機関の状況を精査した上で、保護者へ児童生徒の引き渡しを行うかを検討します。
引き渡しが行われる場合は施設から事前に決められた手段で「引き取りに来てほしい」と連絡があるので、保護者は連絡を受けるまで待機します。
引き渡し
自宅から引き渡しに向かう場合は、引き渡しに向かっていることや現時点で確認できていることなどを書き残した上で出発しましょう。他の家族に状況を知らせることも重要です。
施設に着いたら、担任が保護者を確認し、保護者は子どもと自分の名前を伝えた上で引き取ります。非常時は混乱が予想され、担任がスムーズに対応できないケースも考えられます。知っているはずだと思わずに、正確に申告してください。
引き渡しが終わったら、職員の指示にしたがって自宅あるいは避難所に戻ります。職員から危険な状況にある経路が伝えられる場合もあるので、必ず指示にしたがいましょう。
事業者側で押さえるべき事前対策
学校・保育園・幼稚園にも引き渡し訓練の際、事前に押さえておくべきポイントがあります。以下で詳細に解説します。
より安全な避難先の確認
被災時は、普段の経路が危険に晒されている可能性があります。様々な自然災害を想定し、自宅に向かうべきか避難所に向かうべきかの選択も含め、保護者に提示できるよう経路を確認しておきましょう。
東日本大震災では、子どもを引き渡されたのち、避難途中の家族が津波の犠牲になったケースがありました。場合によっては、避難先として学校にとどまるという選択肢もあり得るのです。
こうした情報を保護者に提示し、また職員も判断できるように安全な避難経路や待機場所を確認しておきましょう。
避難経路のチェック
保護者と児童生徒の避難経路をチェックすることも必要です。
避難経路の道中に、安全を確保できる公園や施設がある場合があります。逆に自動販売機やブロック塀など、地震発生時に倒壊して怪我をする危険があるポイントもあります。
こうした避難経路の情報について保護者と共有し、訓練実施の際に保護者が児童生徒に教えられるように、できるだけ詳細なチェックを行いましょう。
児童生徒だけの下校時に地震が発生した場合など、さまざまなリスクへの備えができます。
防災グッズの点検
施設には、児童生徒数に応じた防災グッズの備蓄が必要です。高台にあったり、大きな施設であれば、周辺住民の避難場所に指定されている場合があるので、それに見合った量の備蓄が必要になります。
非常食や備蓄水の賞味期限、懐中電灯などの電池切れの有無、防災頭巾や靴のサイズなどを定期的に確認しておきましょう。
なお、防災グッズについては引き渡し訓練の過程で保護者や児童生徒に実際に見てもらい、家庭で同様の備えを促す機会にできます。
非常食の確認と試食
防災時の非常食と備蓄水は、最低限3日分を備えるべきと言われています。非常食に、子どもがアレルギーを発症する物質が含まれていないか、逆に重いアレルギー症状を持つ児童生徒に対応可能な非常食があるかについても、施設は確認をしておくべきです。
主たる非常食に含まれるアレルギー物質を想定し、それらにアレルギーがある人に提供できるよう、非常食を2系統用意するなどの対策が望まれます。
さらに、ミルクや離乳食の準備も必要です。
引き渡し訓練の際、非常食を試食するのもよいでしょう。一度非常食を食べておくと、災害時に児童生徒が食べてくれない、といった事態を防ぐことにつながります。
連絡方法の確認
引き渡しを行うためには、施設と保護者間で連絡が取れることが前提です。しかし、被災時には電話がつながりにくくなったり、停電で使えないという事態が想定されます。
非常時でも確実に連絡が取れて、かつ保護者に一斉に連絡できる安否確認サービスを導入する施設が増えています。
安否確認サービスの多くは掲示板や情報共有の機能があるため、施設と保護者の連携に有効です。
訓練の振り返り
訓練を行ったら、振り返りを行い、訓練計画の改善を行いましょう。
保護者に提示した避難ルートは適切だったか、実際に歩いた保護者や児童生徒から情報を収集し、安全情報を蓄積します。また、保護者への連絡が滞りなくできたか、避難の準備が素早く行えたか、職員が与えられた役割を果たせたかなど、訓練の内容を検証し課題点を洗い出すことがポイントです。
振り返りの内容はレポートとして残し、次回の訓練計画策定に反映させます。
自然災害発生時の避難について考えておこう
自然災害発生時の避難は、施設、保護者のどちらにとっても重要な課題です。引き渡し訓練という機会を通じ、双方が被災時の対処や備え、安全の確保などの観点を持って考えられるように訓練計画を作成し、災害対策を充実させる一助としましょう。