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災害から企業の命を守る「ハザードマップ」の正しい活用法

西日本水害をはじめ予測できない大雨や地震が相次ぐこの頃、注目を集めているのがハザードマップ。

普通の地図とは異なり、自然災害が発生した際に予測される被害の大きさと、被害が及ぶ範囲や避難所の場所を地図に記したものです。

ハザードマップをうまく使いこなせば、企業のオフィスや倉庫の被災を軽減するためにあらかじめ対策を立てたり、災害時に従業員が安全に避難できるフローを確立したりすることができます。

今回は、ハザードマップに記載される情報や入手方法をはじめ、具体的な見方や活用方法を解説します。

<参考文献>
「防災・減災につなげるハザードマップの活かし方」(鈴木康弘/岩波書店)
朝日新聞「大水害 250万人広域避難」(2018年8月23日朝刊)

ハザードマップで確認できる災害と入手方法


まず、ハザードマップに記載されている情報はどのようなものか、確認してみましょう。

ハザードマップとは

地震、津波・高潮、浸水などの自然災害が発生した際に予測される、被害の大きさと被害が及ぶ範囲を地図化したものです。

現在、ハザードマップで確認できる災害には次の8種類があります。

洪水…河川が氾濫した時に想定される浸水域や深さ、避難場所などを表示
内水…下水道などの排水能力を超えた大雨の際に想定される浸水域や深さを表示
震度被害…地震時の、震度など揺れの大きさを表示
津波…津波が陸上に押し寄せた時の浸水域や深さを表示
火山…火山噴火により噴石、火砕流などの影響が及ぶ範囲を表示
土砂災害…土石流や地滑りの発生危険地域を表示
高潮…台風などで海水が堤防を越え、浸水が想定される地域と深さを表示
地盤被害…地震時に発生する液状化被害の可能性を表示

ハザードマップに記載されている情報は自治体によって異なります。たとえば、内陸の県で津波のハザードマップはありません。ハザードマップに記載されている災害は、その地域で発生する可能性が高いもの、ということになります。

ハザードマップには、避難場所なども示されているため、自宅や事業所から避難場所までのルートを前もって確認しておくことで、いざという時に安全な避難が可能となります。

ハザードマップの入手方法

ハザードマップは次の3つの方法で入手することができます。

各自治体の窓口
各自治体のHP
国土交通省のハザードマップポータルサイト

「ハザードマップポータルサイト」は、地震や洪水など災害の種類ごとに、自治体がネットで公表しているハザードマップを集約しているサイトです。

地図上で場所をクリックするだけでハザードマップにも簡単にたどりつけます。地名や郵便番号を入力するだけで検索することも可能です。

なお「以前もらったものがあるから」と油断するのは危険です!いつの間にかマップが更新されていた、ということもありえます。

実際、2018年8月22日にも都内低地帯5区のハザードマップが統合されたばかりです。自分の持っているハザードマップが最新の情報に基づいているか、定期的に確認するようにしましょう。

手に入れて一安心…ではない!ハザードマップの見方と使い方


2018年7月に生じた西日本水害において、岡山県倉敷市真備町では、災害が起こる前に行政がハザードマップを作成し、住民全員に配布していました。にもかかわらず、マップが活かされずに多数の死傷者を出すことになってしまったのです。

被災した住民の中には、「ハザードマップの存在自体知らなかった」と話す人もおり、行政と住民の間で情報の共有が不十分だったことが浮き彫りになりました。

ハザードマップは「作って終わり」「もらって終わり」では、非常時に機能しないことを示す代表的な事例です。では、ハザードマップを入手した後にどのようなことを確認すればよいのでしょうか。

ハザードマップの見方

1.オフィス、工場、倉庫など企業の関連施設が災害発生時にどのような被害を受ける可能性があるのか確認する。浸水時の深さ別や震度別といった具合に、想定される被害の大きさに応じ、地図が塗り分けられています。関連施設の位置する場所や周辺がどの程度の被害を受けるのか確認します。2.企業の関連施設から避難場所までの経路を確認する。

普段は便利な近道でも、実際に災害が起きると、塀や建物の倒壊に巻き込まれる危険性が高かったり、道路の渋滞で進路が阻まれたり、浸水や火災に巻き込まれやすくなったりすることがあります。状況に応じて柔軟に行動できるよう、安全な避難経路を2つ以上設定しておくことが望まれます。

また、従業員それぞれに自宅から勤務先までの経路も、ハザードマップで確認してもらうとよいでしょう。

東日本大震災の発生当日、最短の帰宅経路を求め混乱が生じましたが、災害の発生直後に不慣れな土地を歩くと火災などの二次災害に遭う危険もあります。「このルートなら安全」という目星をつけておくと、緊急時にも動揺せず帰路につくことができます。

ハザードマップの使い方


ハザードマップを読んで災害状況や避難経路を立てるだけでなく、実際にマップに従って足を運ぶことや、専門家の話を聞くことも大切になります。

マップを基に考えた避難経路を実際に歩いてみる

自分の足で避難ルートを検証しておくことによって、いざという時にも不安なく行動できます。避難ルートに障害になりそうなものはないか、大きな被害が起こると言われている場所の周辺にはどのようなものがあるのか、そういった事柄を確認してみましょう。

その際、地域コミュニティや自治体は、同じ目的を持つ心強い仲間となります。また企業の社員を広く巻き込むことも大切です。防災担当者として1人で考えこむのではなく、既存の「まち歩き」企画に参加して、自治体の住民たちと情報交換するのもいいですね。

また、ハザードマップの理解を深めるための防災ワークショップを自治体が行っている場合もあるので、そういった機会を活用してみてはいかがでしょうか。愛知県の「みずから守るプロジェクト」のように、勉強会やまち歩きで得た情報をまとめ、地域で独自のハザードマップを作成した例もあります。

出前講座に参加してみる

国土交通省や自治体が、ハザードマップの利用方法を学習できる『ハザードマップの利活用について』という講義を、企業対象にも用意しています。具体的な講義内容としては、次のような項目が代表例とされています。

ハザードマップの意義
ハザードマップの記載事項
ハザードマップの見方
避難所リストの見方
非常持ち出し品や家族との連絡⽅法などの確認

防災の専門家が講義を行います。本格的に企業防災について考えたい企業は受講を検討してみてはいかがでしょうか?

災害図上訓練(DIG)を通じたハザードマップの理解促進

災害図上訓練 DIG(Disaster Imagination Game)とは、参加者が小グループで地図を囲み、地域のリスクなどを地図に書き込みながら災害対応策を検討していく訓練です。こちらも自治体が主催しています。

DICのメリットには次のようなものが挙げられます。

少人数での作業であり、緊急時に必要な判断などの習得度が高い
地図を囲みながらみんなで議論し、地図に書き込んでいくことから、災害のイメージができやすい
参加者全員での協働作業であり、少人数で討議していくことから、避難のタイミング、避難行動等の情報を共有できる
グループ分けすることにより、グループごとの特徴が⾒られ、検討成果を共有して各グループの長所を活かせる

ハザードマップを作成・公表し、避難訓練などを実施した市町村は、洪水:77%,内水:56%津波:61%(平成26年度)となっています。企業で一から避難訓練を行うよりも負担が少ないので、ぜひ活用してみてください。

〈参考URL〉
防災対策にハザードマップを読み解こう!ハザードマップの活用方法とは
水害ハザードマップの公表・活用方法(国土交通省)
ハザードマップの活用・認知度向上に向けた取組(国土交通省)
災害から家族を守る ハザードマップ活用
地域における企業の防災連携

まとめ

ハザードマップは、ただ手元に置くだけでは意味がありません。企業の防災担当の方は真剣に地図を読み解くとともに、自分の目と足で確認作業を行う姿勢が求められます。

なお、これらの作業をすすめるうえで念頭におく必要があるのは、ハザードマップに記された安全度はあくまで予測だという点です。地図上では安全となっていても、実際の災害時には被害が生じる可能性を否定できません。

いつ災害が起きても冷静に対応できるように、万全の体制を整えておくことが大切です。

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