毎年、冬になると大雪によって交通機関がストップしたり、ある地域が陸の孤島になったりと雪害のニュースが報道されます。豪雪地帯に営業先や支社がある企業にとって、大雪による災害は他人事ではありません。また、普段は降雪量の少ない地域でも大雪対策をしておかないと、万が一災害に遭遇した際速やかに対応できず、企業のイメージを下げてしまう可能性もあります。そこで、この記事では日本の大雪災害の背景と大雪による災害の事例、そして災害対策の大切さについて取り上げます。
■目次■
日本の雪害の現状
近年、東日本大震災や熊本地震などの大地震が頻発したことで、地震対策をする企業は増えてきました。しかし、大雪に対する対策はあまり進められていません。そこで、まずは日本の雪害の状況について確認していきましょう。
国土交通省によると、大雪による災害が発生しやすい豪雪地帯(24道府県532市町村)が日本の国土の半分以上を占めており、約2,000万人が生活しています。そのため、豪雪地帯に支社や工場、取引先がある企業も数多く存在します。
大雪の被害が大々的に報道されたのは平成18年で、豪雪地帯の累計降雪量が5mを超え、雪害による死者が152人も出ました。同地域における翌年の累計降雪量は2.5mで、雪害による死者が12人だった事実と比較すると、大雪がいかに重大な自然災害かがわかります。その被害者の多くは除雪作業中に亡くなっていますが、除雪作業をしないからといって安心はできません。
平成24年には、豪雪地帯の積雪による交通機関の臨時通行止めが1,191回を記録しており、なかには電車内で長時間身動きがとれなかったケースも存在します。このような人口動態や雪害に関する数字を確認すると、毎年大雪で亡くなる人が後を絶たないのも不思議ではありません。
大雪への対策としては、内閣が『防災基本計画』を、また国土交通省が『豪雪地帯市町村における総合的な雪計画の手引き〜市町村雪対策計画策定マニュアル〜』を作成しています。それらのなかで、雪捨て場の確保や特定の地域が孤立しない安全な道路の整備、雪崩防止設備の普及、自衛隊による効果的な災害出動などさまざまな手立てを講じていますが、大雪による災害や交通機関の麻痺は毎年発生しています。交通機関の被害以外にも、福井県の商工会議所が平成30年2月の豪雪の被害を『豪雪の影響に関する調査』にまとめており、97.8%の企業が何らかの影響を受け、企業の経済活動に多大な被害を及ぼしたと報告しています。
参考:
内閣府 防災情報のページ 特集 大雪への備え~雪害では、どのような災害が起こるのか
国土交通省 国土政策局 豪雪地帯の現状と対応状況等について
国土交通省 都市・地域整備局 豪雪地帯市町村における総合的な雪計画の手引き
国土交通省 気象庁 日最深積雪一覧表
福井商工会議所 「豪雪の影響に関する調査(確定版)」結果要旨
内閣府 防災情報のページ 雪害等に関する計画等
大雪によって起こり得る被害
ここでは過去の事例から、企業が受ける被害について紹介します。
平成2年1月31日〜2月1日にかけて近畿地方を襲った大雪は最深積雪21cmを記録し、平成31年1月時点でもいまだに観測史上1位です。当時、奈良県では積雪によってビニールハウスが破壊されて農産物が出荷できなくなり、10億円近い被害が出ました。また、雪の重みで電線が切れた結果、天理市・奈良市・山添村など県内の約1万戸が停電するという事態に陥りました。
2つめの事例は、まだ記憶にも新しい平成26年の豪雪です。路面の凍結に起因する交通事故によって11都県で13人が亡くなり、雪に関係する負傷者が29都府県で1,498人発生。この豪雪の被害は継続的で、2月14日〜16日にかけて9県で死者26名、15都道県で重傷者118名、21都道県で軽傷者583名を出したと内閣府非常災害対策本部が発表しています。
個別の事例では、山梨県のコンビニエンスストアに勤務していた50代の女性が、帰宅途中に車が動かなくなったため徒歩で帰ろうとしたところ力尽きて凍死したと報じられました。ほかにも、車から出られなくなった男性が凍死するなど、県内で5名の死者が出ることに。群馬県では、建物の倒壊、車に避難した際の一酸化炭素中毒、除雪機の事故などで8名の死者が出ました。
交通の面では、神奈川県でも成田空港行きの電車と高速道路がすべてストップし、2日間完全にアクセスできなくなりました。また、電車の運転見合わせも各地で相次ぎ、ワイドビューしなの24号は雪のため藪原駅で運転を休止。200名の乗客が、電車内で2日間過ごしました。山梨県でも列車の運行が停止し、1,800人もが車内に取り残されました。
平成26年豪雪の被害は甚大でしたが、それ以上に注目すべきは被害地域の広さです。豪雪地帯だけでなく、首都圏でも雪害による被害が発生したのです。豪雪地域に関わりのある企業だけでなく、雪害対策が進んでいない都市部の企業も大雪に備えた自衛が必要だという教訓になりました。
企業は大雪にどのような対策ができるか
企業が大雪の安全対策を考える場合、まずは気象庁の情報にいち早く応じる姿勢が大切です。気象庁はかなり早い段階から大雪の危険性を発表しているので、企業の役員や管理者はその情報をもと速やかに判断し、従業員の早期帰宅を促したり、出社を見送らせたりするなどの措置を講じることが肝要です。
従業員の危険を鑑みて出社を見送らせる場合は、会社への電話を管理者や役員に転送できるようにしておくと安心です。時間を変更できない会議のなどのために、どこにいてもやりとりができるスカイプなどの使用を事前に取り決めておくのも効果的です。在宅で仕事ができる制度の導入も検討しましょう。
また、ライフラインがストップした場合に備えて、ほかの災害時の対策と同様に水や食料を備蓄し、スコップや手押し車などの除雪用具も完備するといいでしょう。停電によって暖房が使えないケースも想定して使い捨てカイロや毛布などの防寒グッズも用意しておくと、会社に泊まることになった際に役立ちます。
とくに車移動の多い営業職の従業員に対してや配送業の会社では、大雪によって車が立ち往生した際に起こりがちな一酸化炭素中毒の危険について周知しておきましょう。一酸化炭素には臭いがありません。そのため、気づかないうちに中毒を起こして死亡してしまうおそれがあります。実際に、大雪の日に車中で身動きがとれなくなり暖をとろうとエンジンをかけたものの、車のマフラーが雪で覆われていることに気がつかず一酸化炭素が車内に充満してしまって中毒死に至ったケースが報告されています。
「車のなかで暖をとらざるを得ない場合は、換気のために窓を少し開けてから暖房をつけ、断続的に車を降りてマフラーが雪で覆われないようにマフラー付近の除雪をする」というマニュアルを作成し、従業員に配布することも一酸化炭素中毒対策につながります。
こうした事前の対策を行っておくことで、災害時も事業を継続することができます。これをBCP対策と呼び、多くの企業が取り組んでいます。BCP対策は大雪だけでなく、地震、津波、大雨などの災害にも活用できるため、一度対策を講じておくといざというとき慌てずにすみます。たとえば、本社が東京にある企業が地震の少ない沖縄にサーバールームを設置したり、自社から離れた場所で従業員を採用して災害時の事業継続を試みる企業があります。安否確認サービスやデータのバックアップなどはどの企業でも共通して重要な対策ですが、企業によって事業形態が違うため、パッケージ化されたBCP対策を導入しても効果があるとは限りません。そのため、最終的には自社の特性に応じたBCP対策を推進していきましょう。
参考:
損保ジャパン日光興亜リスクマネジメント 雪害対策の基本
JAF クルマ何でも質問箱 雪で埋まった場合の一酸化炭素中毒の危険性とは?
節約社長編集部 今年も大雪 業務効率化に役立つ雪対策5選
まとめ
近年は異常気象が叫ばれており、昔なら降らなかった地域で大雪となることも珍しくなくなってきました。とくに雪に慣れていない地域は、大雪による被害が大きくなりやすい傾向があります。そこで重要になってくるのが、大雪だけでなくどんな災害に遭遇しても事業を継続できるBCP対策の推進です。まずはBCP対策の第一歩として、どの企業でも必須となる安否確認サービスの導入からはじめてみてはいかがでしょうか。