災害多発国である日本において、災害発生時に災害拠点病院をはじめとする医療施設が、医療施設としての機能を維持しながら、迅速に負傷者等の対応にあたることが重要です。
このような課題があるなかで病院の安否確認システムの重要性が近年に高まっていて、BCP(事業継続計画)の策定・運用とともに安否確認システムを導入する病院も増えています。今回は、病院における安否確認システムの役割や災害時の活用法、平常時の役割などについて解説します。
監修者:木村 玲欧(きむら れお)
兵庫県立大学 環境人間学部・大学院環境人間学研究科 教授
早稲田大学卒業、京都大学大学院修了 博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て現職。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など「安全・安心な社会環境を実現するための心理・行動、社会システム研究」を行っている。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)などがある。
目次
安否確認システムとは
安否確認システムとは、災害時や緊急時に患者や職員の安否状を収集・集計・共有するためのシステムです。
このシステムがあることで、災害時に患者や職員の安否・被害状況の確認ができ、病院の現状を把握するとともに、速やかな機能復旧・機能維持に向けて対応をすることができます。
とくに職員に対して、出勤可能かの確認にも使えて、人員配置を考えることができるのも大きな特徴です。
病院における安否確認システムの役割
安否確認システムの役割は、大きく分けると2つです。
1つ目は、患者・職員の安否状況の確認。2つ目は、設備の安全確認や状況確認など、具体的な対応についての職員への指示です。これらの役割によって、災害時でも迅速に医療活動を開始できるようにします。
職員・患者の安否確認
災害時においては職員・患者の安否確認は最も大切です。
安否確認システムがあればすべての患者の部屋をまわって確認する必要がなく、素早く正確な確認が行えます。
また、巡回した職員が安否確認システムに登録することで、効率的な安否確認と情報共有を実現することができます。
人工呼吸器など特別な処置が必要な人や優先して治療が必要な患者に対する一種のトリアージとしても、このシステムを活用することができます。
医療サービスの提供
災害時は、多数の負傷者が発生します。医療機能の機能維持・機能回復は急務であり、そのためには職員の確保が重要です。
安否確認システムを利用すると、職員が出勤できるか、被害はないかなどの情報共有のツールとして機能します。
メールで安否確認をすると大規模災害時に通信障害やサーバーダウンなどで遅配が起きる危険性がありますが、安否確認システムであれば世界中のクラウドサーバーとつながっているものもあり、そうした状況でも連絡が取れます。
また、出勤可能人数や出勤までにかかる時間を、非常時に1人1人回答をもらって集計して確認することは手間と時間がかかります。安否確認システムの集計機能を使うと、その手間を減らせます。
職員への指示
災害時には混乱が起きやすく、職員への指示もうまく出せないケースも考えられます。また、事業の復旧・継続の対応について優先事項の判断や対処も困難です。こうしたなかでも安否確認システムを利用して指示や連絡を行うと、より迅速に対処できます。
なによりも担当者に直接伝えに行く手間を省き、情報の共有や指示ができることは大きな利点です。
設備や機器の安全確認
大きな災害においては、多くの設備や機器が故障したり、電気・水道などのライフラインが停止するといった事態も考えられます。。
安否確認システムは、設備や機器の故障についての写真を共有することも可能です。このような迅速な確認と情報共有によって、より迅速に医療システムの復旧にあたることができます。
BCPの実施
医療機関は、災害や感染症などの非常時においても事業の継続が求められます。BCP(業務継続計画)を作成し、訓練などで確認する必要があります。。
BCPとは、Business Continuity Planの略で、日本語では「事業継続計画」などと訳されます。自然災害やテロ、感染症などに対して、被害を最小に抑えるとともに、たとえ被害・影響が出てしまったとしても、適切な対応で速やかに事業活動を復旧・継続させることを目的とした計画です。
安否確認システムも、BCPにおける重要な対応である安否確認を促進させるシステムとして位置づけることができます。
病院におけるシステムの活用法
ここまで、安否確認システムの重要性を解説しました。ここからは、安否確認システムの具体的な機能や活用法について解説します。
地震自動配信機能
地震自動配信機能は、気象庁の地震速報と連携することで、地震発生時に職員に安否確認メッセージを送る機能です。地震の震度や地域などを事前に設定しておくことで、条件に当てはまる地震発生時に送られます。
また、メッセージの送付は自動で行われるため、管理者が被災をしたり対応ができなかったりしてもメッセージの送受信が可能です。災害時に起こる回線の混雑に影響を受けずにメッセージの受信が可能なクラウド型もあり、安定してメッセージの送受信が行えます。
気象自動配信機能
気象自動配信機能は、気象庁から出される注意報・警報・特別警報(地震を除く)を連携して、自動安否確認メッセージを送るものです。
警報が出される地域、基準になる警報や注意報の種類を設定しておくと、緊急時に安否確認メッセージが送られます。
また、電話回線の混雑があっても受信可能であり、緊急時に有用な機能です。
GPS連携機能
安否確認システムの機能には、携帯電話と連携して位置情報を送るGPS連携機能もあります。
GPS連携機能は、安否確認メッセージが贈られた際に職員の位置情報を要求します。巣職員が位置情報をメッセージと一緒に送信すると、管理者は職員の位置情報をGoogle Mapで確認することができます。
職場に向かえる人数や被害地域にいる職員の状況を正確に確認できるため、迅速に医療体制を整えられます。
手動配信機能
手動配信機能は、安否確認メッセージを手動で配信する機能です。前述の自動配信機能とは違い、管理者が手動でメッセージを作成して職員と連絡をとることで情報を共有します。
手動配信機能はメッセージ内容を自由に作成できるため、緊急時以外にも職員同士や患者との情報共有のツールとしても利用できます。
また、アンケート機能などもあり、宛先も絞って配信できるため、幅広い用途で利用できる機能です。
掲示板機能
安否確認システムには、情報共有のための機能に掲示板機能もあります。職員間で、災害時の被害や情報を投稿できる機能です。
文字だけでなく写真を投稿できることが、掲示板の大きなメリットです。手動配信機能は管理者を挟む必要があるのに対し、掲示板機能は職員間で情報共有ができるため、状況によってはより素早い対応ができます。
設備の故障報告などは、掲示板機能で写真付きで投稿することができます。
情報共有の効率化
安否確認メッセージを活用すれば、情報共有の効率化が期待できます。
メッセージの既読と未読を確認できるため、よくある「連絡が届いてなかった」問題も、未読なら再度案内を流すなどの対策で解決できます。
また、口頭の説明だけで認識にずれが生じることを防ぐため、安否確認システムを活用することもできます。
シフト変更の連絡
規模が大きい施設の場合、ひとりひとりに確認をとることは手間がかかる上に聞き取り内容に間違いが起きやすいため、アンケート機能の活用が効率的です。
病院や施設の多くで、安否確認システムの機能を使ってシフトの決定や変更をしています。事前にメッセージ内容や配信日時を決めて配信すれば、回答内容はシステムで集計するため、非常に効率的なシフト作成が可能です。
病院に導入できる安否確認システムの選び方
市販されている安否確認システムにはさまざまな種類と機能があります。では、安否確認システムを選ぶポイントはどこなのでしょう。
ここからは、システムの選び方について詳しく解説します。
災害が起こった時の稼働実績
安否確認システムは、災害時や緊急事態発生時に稼働します。これまでの災害時や新型コロナ感染症流行期に稼働したか、そのときにシステムに大きな異常がなかったかなどの稼働実績は、安否確認システム選びの大きなポイントのひとつです。
ほかの病院や施設で導入されたか、稼働状況がどのようなものかを調べることも大切です。
病院業務で活用できる機能、操作性のシンプルさ
安否確認システムは非常時だけでなく、平常時から活用できます。メッセージ機能やアンケート機能を定常業務に利用することで、作業効率を大きく上げられます。
また、操作性も重要なポイントです。ITに強くない人も少なくないため、導入しやすいか、手軽に利用できるかという部分も大切です。
無料お試しがあるか
職員の多くが安否確認システムを利用したことがなかったり、あいまいな知識しかなかったりと、いきなりの導入は不安があります。
システムを選ぶ際に無料お試しがあるかもポイントになります。無料お試しで使ってみれば、「使いやすいか、自分たちの職場に適しているか」を判断できます。
合わないと判断できれば導入を中止でき、費用をかけずに手軽に試せる点も無料お試しのメリットです。
病院に導入できる安否確認システム例
ここからは病院で導入されている安否確認システムについて、これまで解説してきたことを踏まえて実際の事例を見ます。
安否確認サービス2
「安否確認サービス2」の特長は、費用の安さと機能がそろっている点です。
ハードウェアの整備など初期費用は一切かかりません。月額料金も最も人気のプランで月額8800円(50ユーザーまで利用の金額)です。機能はメッセージ機能や掲示板、LINEをはじめとした各種連携が1通り備わっています。
また、ガラケーでも利用できるシステムであり、スマホをもっていない高齢の方が多い病院や施設ではありがたい特長と言えるでしょう。
オクレンジャー
「オクレンジャー」の強みは、災害時に強いことです。
サーバーを国内だけでなく、海外のセンターにも2カ所設置しており、大規模災害時でも安定したサービスの提供が行えます。
また、災害時のメール遅延の影響を受けないアプリもあるため、緊急時のメッセージ受信も確実にできます。緊急時には通常とは別の通知音で知らせてくれるため、冷静になってから反応できるでしょう。
ANPIC
「ANPIC」のセールスポイントは、低価格です。
最安値月額5130円という価格で利用でき、災害時でもLINE連携やアプリなど複数の方法でメッセージを受信できます。
初期導入費用は別にかかりますが、登録代行や説明などの導入時のサポート体制は万全で、不安なく導入できます。
病院や医療現場における安否確認システムを導入し、迅速な医療体制の復旧計画を立てよう!
病院や医療現場での安否確認システムは、その重要性が徐々に認識されはじめてきました。
災害時・緊急事態発生時の安否確認をシステムに割り振ることで、職員はそれ以外の対応に集中することができ、医療体制の迅速な復旧・維持につながります。
ここまでに挙げたシステムなどを比較の上、ぜひ検討してみてください。
監修者:木村 玲欧(きむら れお)
兵庫県立大学 環境人間学部・大学院環境人間学研究科 教授
早稲田大学卒業、京都大学大学院修了 博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て現職。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など「安全・安心な社会環境を実現するための心理・行動、社会システム研究」を行っている。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)などがある。