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もしかして、コンプライアンス違反?知的財産権の行使の落とし穴

知的財産権というと、偽ブランドや産地偽装を思い浮かべたり、五輪オリンピックのエンブレム問題を連想したり、抱くイメージは人それぞれ。企業にとっては、知的財産は文字通り「財産」であり、大きな成長の芽でもあります。

その反面、メーカーが苦労して製品を開発し、本格的な販売に乗り出そうとしたところで、他社から特許権侵害の警告書が送られてきて、販売を泣く泣く中止することもよくあるケース。こういった知的財産権の「落とし穴」にはまってしまうと打撃は大きく、中小企業にとっては命取りにさえなりかねません。

「あれ? これってもしかしてコンプライアンス違反?」と思ったら参照できるよう、コンプライアンス違反の事例と共に知的財産権についてわかりやすく説明します。

知的財産権とは「アイデアを守る権利」のこと

知的財産権とは、「アイデアを守る権利」のことです。自社で生み出した発明品やデザイン案のほか、事業活動の情報なども知的財産権で守られています。

知的財産権は、守ってくれる幅が広いぶん、担当者が知らないうちに知的財産権を違反してしまい、法令違反(コンプライアンス違反)となってしまう場合も少なくありません。そうならないよう、まずは知的財産権のふたつの大枠(創作意欲を促進、信用の維持)から、理解を深めていきましょう。

【事例で学ぶ】知的財産権のコンプライアンス違反をわかりやすく解説します


知的財産権は項目が多く、始めて学ぶ人には難解な話に聞こえるかもしれません。ですが、ひとつずつ順番に読み解くことで、どこからコンプライアンス違反となってしまうか理解することができます。

ここでは、実際に起こってしまった企業のコンプライアンス違反事例を見ながら、知的財産権の全容を把握しましょう。

以下の表は知的財産権の種類を表した表です。

“知的財産権には、特許権や著作権などの創作意欲の促進を目的とした「知的創造物についての権利」と、商標権や商号などの使用者の信用維持を目的とした「営業上の標識についての権利」に大別されます。” —特許庁より


(出典:特許庁

【トラブル事例①】新製品の発売で、特許権&意匠権侵害!?


ここでは、新製品を販売するときに気をつけたい、特許権と意匠権のトラブル事例についてご紹介します。

A社は斬新なアイディアを思いつき新製品を販売していましたが、他社Bが類似の機能と外観を有する商品を安く販売しはじめたため、売上が激減しました。しかし、A社は特許の出願をせず、意匠登録もしていなかったため、B社にクレームをつけても、「違法なことは一切していない」とはねつけられました。

このケースの場合、A社は、特許出願による技術保護も、意匠出願による商品のデザイン保護も怠っていました。言い換えれば「知的財産権が無防備なままの状態」で新製品を販売していたことになります。これにつけこんで、B社が類似品を製造販売しても、A社は法的にクレームをつけることはできません。

●特許権(特許庁)
私たちの社会では、次々と新しいものが開発され、世の中に出回っています。この開発を通して発生した、目に見えないアイデアや発明を財産として守ってくれるのが「特許権」という知的財産権です。

特許権を取得することで、発明者は一定期間・一定条件のもと、発明を独占的に保護することができます。それにより、自分の発明が盗まれる心配なく、世の中に公開することができるでしょう。

特許権でアイデアが保護されていないと、発明者は自分の発明を秘密にしておこうと、あまり表に出せず、有効活用ができないことがあるかもしれません。また、研究内容などを公表しないことで、他の人も同じものを発明しようとして、無駄な投資をしてしまう可能性もあるでしょう。

そういったことが起きないように、一定期間の間、一点の条件のもと、発明者のアイデアに独占の権利を与えて保護する。それが、特許権です。

●意匠権(特許庁)
意匠権とは、物品の美しい外観や、より良い使い心地を探求するためのものです。魅力のあるデザインになると真似されやすくなってしまうのですが、意匠権はデザインを財産として守ってくれます。

【トラブル事例②】新聞紙をそのままコピーで著作権侵害!?


自社製品に関する情報が記事に掲載されたとき、その記事をそのままコピーしてクライアントに見せていませんか? 実は著作権の侵害として訴えられてしまう可能性があります。

自社製品が他社製品と比較して優れているとの記事が新聞に掲載されたA社の営業担当者は、その記事をコピーしてクライアントに提示したり、自社の宣伝広告のビラの中に取りこんだりしました。そのビラを見た競争会社が新聞社に抗議をしたため、新聞社から注意を受けました。

新聞社の了解を得ないでこれらの行為をすると、著作権(複製権、著作者人格権など)の侵害になる場合があります。新聞記事は、著作物の塊と考えて対処したほうが無難です。

●著作権(文化庁)
書物、言語、音楽、絵画、建築、図形、映画、コンピュータプログラムなど、自分の考えや気持ちを作品として表現したものを「著作物」、著作物を創作した人を「著作者」、そして著作者に対して法律によって与えられる権利のことを「著作権」といいます。著作物の正しい利用を促し、保護することで文化が発展することを目的としています。

【トラブル事例③】開発情報が漏れてライバルに先を越される前に!営業秘密の権利を守ろう


「自社製品の特許を取得したから大丈夫!」とは言えないかも。情報漏えい対策として「営業秘密」の規約を作成しましょう。

A社は製造している改良機種について、きちんと特許を取得していました。そんな中、ある従業員がA社を退職し、ライバルのB会社に入社しましたが、その前に個人のUSBメモリに改良機種の再改良検討資料を移していました。それを利用し、改良機種をバージョンアップした商品が後日、B社から売り出されました。

これは、開発情報などの秘密情報管理を怠っていたことが原因です。A社では、社内の秘密情報を「営業秘密」として管理し、不用意に社外に持ち出しできない仕組みを整えておくべきでした。

ポイントは、社内規則に営業秘密管理の規定を作成すること。さらに、従業員に教育を徹底して秘密情報を管理することが大切です。

営業秘密管理規定の作成方法については、経済産業省が詳しく説明しているので、参照してみてはいかがでしょうか。

●営業秘密(経済産業省)
秘密情報の漏えいを未然に防ぐための権利が「営業秘密」です。研究開発情報や製品テストデータ、製造プロセスなどがあたります。また、顧客リストやクレーム情報などの顧客情報、市場分析情報、仕入れ値、製品価格などの価格情報、そして接客マニュアルも営業秘密に含まれます。

【トラブル事例④】レストランの名称の無断使用は商標権&著作権侵害!?

新しくお店を開くとき、店名を決めたり、ホームページなどを開設することもあるはず。そのときに気をつけたいのが商標権と著作権です。

レストランAは、開業にあたり、高級レストランをイメージさせる店名をつけました。また店を紹介するホームページも開きましたが、その際、たまたま見たレストランのホームページのイラストなどの画像をコピーして用いることに。ところがまもなく、レストランBから「自社の経営するレストランの店名と同じで、商標権を侵害しているので使用を禁止する」旨の警告書が届きました。さらにレストランCから、「ホームページが自社の著作権を侵害しているので、画像の使用を禁止する」旨の警告書も届きました。そのためレストランAは、店名やホームページの大幅な変更を余儀なくされ、次第に客足が遠のいてしまいました。

商標権の調査をせずにレストランなどの名称を無断使用すると、悪気はなくても商標権の侵害に該当。また他人の著作物を無断でコピーして利用することは著作権の侵害にあたります。その結果、そのまま事業を続けることが難しくなると同時に、賠償金を支払う必要が生じることもあるでしょう。うっかり他社の知的財産権を侵害しないよう、あらかじめ調査が必要です。

●商標権(特許庁)
商標とは、事業者が取り扱う商品やサービスを他社のものと区別するために使用するマークのことです。私たちは、商品やサービスにお金を支払うとき、企業のマークやロゴ、商品・サービスのネーミングである「商標」を目印に選んでいます。

企業のマークや名前、サービスのネーミングには、信用を積み重ねることにより「信頼がおける」「安心して買える」と、ブランドイメージを高める役割を担っています。そんな商標を簡単に真似されないよう、商標を財産として守るために「商標権」という知的財産権が存在します。

【知らないと損する】6つの知的財産権

先ほどご紹介した以外にも、6つの知的財産権が存在します。それぞれの概要についてわかりやすぐご説明します。

●実用新案権(特許庁)
「実用新案権」とは、本質的には特許権と同じもの。保護の対象が少し異なり、「物品の形状や構造、組み合わせに係る考案」とされています。たとえば「特許発明をより使いやすくするために工夫を加えた」「既存のものと特許発明を組み合わせたら使いやすくなった」といったアイデアを具体化したものが実用新案となります。

特許と違い、新規性を確立する必要はありません。より良くなるアイデアだと認められれば実用新案権として保護されます。

●育成者権(農林水産省)
野生のままでは食べにくい野菜を、食べやすくするために必要な行程が農作物の品種改良。その品種改良の結果、生まれた農作物の権利を守るのが「育成者権」です。

●回路配置利用権(SOFTIC)
現在の生活は、コンピューターやオーディオ機器、スマートフォンなど、ほとんどの身の回りのものは電子部品(半導体集積回路)が関わっています。電子部品の配線パターンや、配置パターンを保護するために「回路配置利用権」という知的財産権が存在します。

●商号(法務省)
商号とは、会社の名前のこと。株式会社、合同会社、合資会社、合名会社などの会社の種類を明示しなければなりません。会社法により定められています。

●商品等表示(経済産業省)
「商品等表示」とは、不正競争防止法により定義されており、”人の業務に係る指名、商号、商標、表彰、商品の容器もしくは包装その他の商品または営業を表示するもの”(条文より)と規定されています。

具体的に「商品等表示」に含まれるものは以下の通りです。

・氏名…愛称や略称、芸名、グループ名
・商号
・看板や特徴的な店舗表示
・商品自体の形態

●地理的表示(農林水産省)
全国には、たとえば「○○牛」や「■■りんご」、「△△みかん」など、その地域に根付いた伝統的な生産方法や、気候、風土、土壌が育んだ名産や名物、特産品がたくさんあります。それぞれの特性に結びつく産品の名称(地理的表示)を、知的財産として登録したものが「地理的表示保護制度」です。

それらの地域ブランドを守るために、平成27年6月1日より地理的表示保護制度はスタートしました。GIマークがその印です。

知的財産権を守るには、社員教育が大切

前章で説明した知的財産権は、侵害してしまうと訴訟に発展することがあります。「まあバレなきゃ大丈夫だろう」と油断していると、訴訟となり対応に時間や費用がかかる上、負けたらそれまでの開発が水の泡になり、すべてが無駄になってしまう……なんてこともあり得ます。そうなったら、これまで築き上げてきた企業の社会的信用が、あっという間に崩れ落ちてしまうでしょう。

そんな知的財産権のコンプライアンス違反を防ぐために、まずは、秘密情報の漏えいを防ぐ「営業秘密」の管理をしているか、確認してみましょう。営業秘密管理規約ができていないと、技術や製造ノウハウが流失してしまったとき、法律で守ることができません。秘密管理規約を作成し、製品開発部門や営業部門など、関係各所を巻き込み、全社的に知的財産に関する教育を行うことが大切です。

知的財産を深く知るには専門的な知識も必要なため、外部の弁理士や弁護士などに講師を依頼して研修を定期的に開催したり、外部の研修の案内をするなど、専門家を活用して社員教育を進めることもひとつの方法でしょう。

また、知的財産の制度は国ごとに異なります。海外展開を予定していたり、すでに海外展開している企業であれば、その国ごとに知的財産状況の調査や商標権、特許権、意匠権の登録が必要になります。知的財産について知識がないと、海外進出そのものが失敗する大きな要因となる可能性もあるので、注意が必要です。

まとめ

「経営において大事な知的財産は、一歩間違えると落とし穴にもなる」という認識が、必ずしもすべての企業に浸透しているとはいえません。その重要性をある程度理解していたとしても、他の仕事で手一杯で後回しになっていたり、どう手をつけたら良いかわからない企業も多いのではないでしょうか。

しかし、知的財産は、失敗すると企業の命取りになります。逆に企業の強みを知的財産として保護・活用することで、成長をさらに後押しできるかもしれません。基礎知識を持ち、リスクへのアンテナが働くよう、従業員の教育にも力を注ぎましょう。

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