防災・BCP・リスクマネジメントが分かるメディア

もしも隣国からミサイルが発射されたら…緊急事態に備えるJアラート後の対策方法を考える

相次ぐ北朝鮮のミサイル発射をきっかけとして、注目を集めるようになったJアラート。

その被害は予測できないため、これまでの経験や知識を活かせる自然災害対策とは異なる不安をかきたてられます。NTTレゾナントが今年7月に行った調査によれば、「実際にJアラートの通知が来たときの対策は未定」と回答した大規模企業*は38%にものぼります。

*大規模企業の定義は、従業員数1000人以上。有効回答数は550

文字どおり未曾有の緊急事態に対する不気味さもあり、つい対策を後回しにしがちですが、社員の生命や安全にも関わるだけに、防災担当者として手をこまねいているわけにはいきません。ここでは、有事に備えたルール作りや対策について、企業が従業員に周知すべき内容もあわせてご紹介します。

Jアラートってなに?


Jアラートは、人工衛星と市町村の防災無線を利用して緊急情報を伝える「全国瞬時警報システム」の通称。地震・津波など緊急を要する自然災害や、ミサイル攻撃・大規模テロなど、すぐに対処しなくてはならない事態が発生したとき、国から住民に速やかに情報を伝達。住民に早期の避難や予防措置を促し、被害を軽減することを目的としたシステムです。

2017年に入ってからは、8月29日と9月15日の2回、北朝鮮によるミサイル発射を原因として発動されました。

Jアラートを通じてミサイルに関する情報が伝わるルートは2通りあります。1つは全国の自治体経由です。各市区町村の庁舎などにある受信機に情報が届くと、防災行政無線が自動的に起動。特別のサイレンに続き、メッセージが流れます。

もう1つは個人の携帯電話向けに伝わるルートです。消防庁は携帯電話の大手事業者と提携しており、Jアラートのメッセージを「緊急速報メール」や「エリアメール」で配信します。

そして、Jアラートで伝えられる情報は、地震情報や津波情報などの自然災害のアナウンスも含め、全部で24種類あります(2017年9月現在)。

■地震情報(緊急地震速報、東海地震予知情報など6種類)
■津波情報(大津波警報など3種類)
■火山情報(噴火警報など3種類)
■気象情報(気象警報や記録的短時間大雨情報など7種類)
■有事関連情報(弾道ミサイル情報や大規模テロ情報など5種類)

Jアラートについて、より詳しく知りたい方は、内閣官房国民保護ポータルサイトを参考にしてみてください。このサイトでは、内閣官房が、国民が採るべき行動要領を示しています。これらは業務上、業務外を問わず、万が一の際に自分の身を守る対応要綱なので、十分に周知することが重要です。

Jアラートによる情報伝達について
武力攻撃やテロなどから身を守るために ~避難にあたっての留意点など~
これらは、できれば社内掲示板や社内報で案内して社員に読んでもらい、各人が基本対応を理解しておくことが重要です。
なおJアラートのサイレン音は下記サイトで試聴することが可能です。

Jアラートが鳴ったら何をするべきか?


NTTレゾナント*によると、「企業の防災意識と取り組みに関する調査」を実施した結果、Jアラートについて、各企業規模で「対応すべきと思う」との回答は80%を超えました。しかし、実際にJアラートの通知が来たときの対策が「まったく決まっていない」という回答は、企業規模小(社員数1-99人)で51%、企業規模大(社員数1000人以上)でも38%にのぼっています。

*NTTグループの企業であり、ポータルサイト「goo」や映像配信サービス「BROBA」
などを運営している企業

Jアラートが発信されてから何をするか考えていては「時すでに遅し」という事態に。いつどのようなタイミングでアラートが鳴るかは当然誰にもわかりません。被害を最小限に抑えるためには事前の準備が重要で、業務中、通勤中、外出中など、様々なシチュエーションに備えて対策を検討する必要があります。ここでは、従業員が社内にいるとき、社外にいるときのシチュエーション別の対策を解説しましょう。

【社内にいるとき】できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動する!
業務中にアラートが発動された場合は、業務をいったん中止し、安全な場所へ避難します。会社としては会社施設内で安全な場所を確認し、これらを周知しておくことがポイントとなります。内閣官房の国民保護ポータルサイトの「弾道ミサイル落下時の行動について」では、「できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動する」よう求めています。これは、近くにミサイルが落ちた場合、爆発にできるだけ身をさらさないようにするためです。爆弾の中身に加え破壊された物が爆風で飛び散れば、物陰にいるかどうかで生死が分かれることさえありえます。地下に部屋がある場合は、地下への移動も有効です。

担当者がやるべきこと
窓がある部屋の場合は、ガラス飛散防止フィルムを張ってガラスを補強するなどの対応が考えられるでしょう。ガラス飛散防止フィルムは、テロ対策として知られますが、台風や地震など災害に備えるうえでも有効なので、防災の観点から貼っておくことをおすすめします。

ミサイルには化学物質が搭載されている可能性があるため、吸入してしまわないよう、エアコンや換気扇は止めましょう。もしも近くにミサイルが着弾したときは、化学物質を避けるため、風上へと避難することも大事です。

有事の際に社員を迅速に避難させるためには、定期的な避難訓練の実施が有効です。Jアラートが鳴った時点で、ミサイルが発射されてからすでに約4分が経過しています。発射から約7分程度で着弾すると言われているため、残り時間は約3分しかないのです。
また、輸送経路を絶たれる可能性があるため、備蓄も重要です。食料に限らず、医療品、資材なども避難訓練の際に点検準備しましょう。あわせて、消火器や消火設備の配置状況の確認も行いましょう。

【POINT】
・Jアラート発動時、「できるだけ窓から離れること」「窓のない部屋へ移動すること」「物陰に隠れること」「地下があるのなら、地下へ移動すること」
・窓ガラスにテロ対策用のガラス飛散防止フィルムを貼っておくこと
・ミサイルには化学物質が搭載されている可能性がある。吸引しないよう、エアコン、換気扇を止める。風上へ避難する。

【社外にいるとき】地下、もしくは頑丈なビルの中に避難しよう!

外にいた場合は、地下、もしくは頑丈なビルの中に避難しましょう。木造建物は破壊されやすいので、できる限りコンクリート建造物に避難してください。

衝撃から身を守ろうとビルの陰に隠れると、ミサイルが着弾した影響で、頭上から大量のガラスや看板が降り注ぐ危険性があります。実は、ミサイルが着弾すると、ビルのガラス片やコンクリート片は猛烈な爆風で「真横に」ガラスが飛ぶといわれています。この状況は、大震災で真下にガラス片が落下するとき*とは比べ物にならないほど危険。

*建物の高さの1.5倍の距離に飛散すると言われます

どうしても避難する建造物が見当たらない場合は、体勢を低くして、両手で目と耳を守りましょう。車に乗っていた場合は、ゆっくりと減速して車を道路の左側に止め、キーはさしたまま、ロックはせずに車から離れ、同様に地下やコンクリート建造物に避難します。

担当者がやるべきこと
出勤時や退社途中でのアラート発動を考え、社員に対して、通勤ルート上の安全な避難場所の目星をつけておくよう促しておきましょう。

ミサイルが発射されたときは、公共交通機関がすべてストップする可能性があります。当日は午前休にする、または全休にするなど、「ミサイルが発射された場合の対応に関するルール」をあらかじめ作り、そのルールを社内に徹底して周知しておくとよいでしょう。

交通機関に乱れが生じ、出勤が遅れることも想定されます。この場合も遅刻と扱わない措置が必要になるでしょう。その逆で、交通機関の停止による混雑を想定して、早退を可とすることも考えられます。特に保育園や小学校などでは、子供を早めに下校させる措置をとる場合もあるため、本人の希望を最優先させて帰宅可とするなど、柔軟に対応できる配慮を心掛けたいものです。

【POINT】
・外にいた場合は、地下、もしくは頑丈なコンクリート建造物の中に避難する
・車内にいた場合は、ゆっくりと減速して車を道路の左側に止めて、ロックはせずに車から離れ、避難する
・ミサイルが発射されたとき、出勤時間はどうするか、早退は可能なのか、ルールを制定して起きましょう

安否確認は本人から会社に一報を入れてもらう

営業などで外出している社員が多い企業などでは、本人の無事を把握する意味でも安否確認が重要です。ポイントは、「本人から会社に無事の一報を入れてもらう」というようにルールを作っておくこと。「会社から連絡する方法」は取りまとめが煩雑になるからです。

所属部門の上司に本人から連絡し、部門長がとりまとめて人事総務に報告、という流れを徹底しておくことが望まれます。地震など緊急事態全般に備えられるよう、緊急連絡網を記入したカードを全従業員に配布することが望まれます。(カードは財布や定期入れに収まる大きさにして常時携帯できるよう配慮しましょう。携帯電話への番号登録を勧める、など工夫も必要です)

安否確認システムの導入については、以下の記事を参考にしてみてください。

まとめ

大企業でもまだ対応が手薄になっているJアラート対策。何から手をつければよいかわからないという困惑と、得体の知れない被害に対する不安が、防災担当者を悩ませています。

しかし脅威に直面した場合、最も避けたいのは、恐怖により冷静な行動をとれなくなり、混乱が生じてパニックを引き起こすことです。それを防止するため、わかりやすく作られた緊急時対策用のマニュアルは重要な役割を果たし、従業員の拠り所として活躍します。「備えあれば憂いなし」。緊急事態を想定し、可能な対策を講じましょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です