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JMAT(日本医師会災害医療チーム)とは?災害時の役割やDMATとの違いを解説します

被災規模が大きい場合、エリア一帯の医療機関がダメージを負い、医療機能を低減させるケースは多々あります。こうした状況下では、被災地を支援するための医療チームを、いち早く外部から派遣することが欠かせません。

今回は、被災地の医療機能を回復させる役割を持つ、JMAT(日本医師会災害医療チーム)についてご説明します。

JMAT(日本医師会災害医療チーム)とは

JMAT(日本医師会災害医療チーム)は、日本医師会が編成し、被災地に派遣される医療チーム。主に、避難所や救護所において、医療や健康管理の側面から活動支援を行うことを目的としています。

東日本大震災を始め、地球史上最大(令和元年時点)と呼ばれた「台風19号」による被災時にも、JMATが派遣されました。

JMATはどのような役割を与えられているの?

JMATは、医療のプロフェッショナルチームとして、以下のような役割が与えられています。

JMATに与えられている役割の一例
被災地における医療・健康管理の支援
感染症対策を始めとする公衆衛生対策
派遣先エリアにおける医療ニーズの把握
医療支援が不足しているエリアの把握・巡回診療
医療関係者間の連絡会の設置支援
患者移送・被災地医療機関への引き継ぎ

出所:日本医師会「平成30年7月豪雨災害 JMAT派遣」より抜粋・改編

被災地の避難所や救護所、その周辺エリアに対する素早い状況把握と、医療面に関する全般的な支援がJMATのミッションです。

JMATとDMAT(災害派遣医療チーム)の違いは何?

DMAT(災害派遣医療チーム)は、災害発生から48時間以内に現場対応をする、専門的なトレーニングを受けた医療チーム。厚生労働省が組織したDMAT、および都道府県が発足したDMATが存在しており、それぞれ被災時の速やかな災害支援を目的として派遣されます。

DMATとしてチームに所属する人員は、常に派遣医療チームとして活動しているわけでなく、普段は医師や看護師として働いている医療従事者です。ただし、DMATの指定医療機関に勤務し、チーム構成員の候補として抜擢されなければ、DMATの養成研修は受けられません。

JMATとDMATは異なるタイミングで派遣されることとなっており、DMATが発災直後に派遣される一方、JMATはDMATのあとを引き継ぐ形で現地活動を行います。

JMATの活動内容について

JMATはDMATを継いで医療活動を行い、被災地医療の回復に努めます。つぎの画像のうち「JMATの活動」を示す水色部分を参照することで、各医療チームの関係性がイメージできるはずです。


出所:日本医師会「JMAT要綱

こうした状況下での活動を担うJMATは、被災エリアの医療機関が復旧し、通常通りの医療活動が再開されるようになった段階で撤収します。

なお、JMATの初出動となった東日本大震災の際は、地震以外の被害も大きかったことから、JMATを引き継ぐ形で「JMATⅡ」が動員されました。

日医総研が公表する資料によれば、JMATⅡはつぎのような分野での活躍が報告されています。

東日本大震災におけるJMATⅡの活動
現地医師の負担を軽減させるための診療支援
ストレスレベルが高い患者のメンタルケア
孤独死防止のため仮設住宅・避難所を巡回
廃業した小児科医院に代わり乳幼児・学校検診

出所:日医総研「JMAT以降の被災地への継続的な医療支援のあり方に関する研究

負傷者の処置、患者移送などの直接的な医療活動を求められるJMATと比較して、現場ではメンタルケアが必要とされるケースが多かったようです。

これは、東日本大震災が類を見ない大きな災害となり、地震だけでなく津波被害を引き起こしたこと。および、原子力発電所の事故が、被災地の住民を不安にさせていたことに起因すると考えられています。

JMATの過去の派遣事例

「東日本大震災におけるJMAT活動について」によれば、東日本大震災が発生から4ヶ月ほど経過した平成23年7月の段階で、JMATは約1,400チームの派遣が確認されています。

出所:厚生労働省「東日本大震災におけるJMAT活動について

JMATは初出動であったものの、多数の医療従事者が現地に赴いたことで、医療機能の回復に大きく貢献。発災後1ヶ月が経過したころには、一部地域以外の活動を縮小できるほどに状況が改善しました。

JMATのチーム構成員

東日本大震災で多大な実績を残したJMATは、以下のような医療従事者をもとに編成されます。

JMATのチームに抜擢される人員の一例
医師看護職員
事務職員薬剤師
理学療法士作業療法士
臨床検査技師救急救命士
介護・福祉関係者栄養士

発災から4ヶ月の段階で、医師2,200名超を始めとする計6,000人以上の医療従事者が、チームを編成して現地での医療活動に尽力しました。

JMAT派遣の条件

JMATは効果的に活動支援を行うため、計画的な派遣体制を整えています。

大前提として、混乱を招き統制が取れない状況を避けるため、被災地の医師会が把握しないままJMATが派遣されることはありません。そのため、JMATの派遣は「被災地の都道府県医師会の要請」を受けてから発動することを原則としています。

また、支援要請をするエリアが単一であった場合、その都道府県医師会が属している医師会ブロック、または近接する医師会ブロックからJMATが派遣されます。さらに、先発チームと後継チームに分担することで、時系列的な空白の回避。

コーディネイト機能を損ねないよう、徹底して派遣の条件が定められています。

これからのJMATに求められるものとは

日本医師会は、JMATの課題として以下のような項目を挙げています。

今後、JMATが解決を迫られる課題の一例
医師会と行政間の連携
医薬品の取扱いなど法的問題の整理・周知
状況変化による情報の劣化、相違が生じる問題
避難所の統廃合、避難者の移動に伴う対応
DMATや日赤等他チームとの連携・役割分担・引継ぎ
他の職種(栄養士、介護、福祉など)との情報共有・協働

出所:厚生労働省「東日本大震災におけるJMAT活動について」を抜粋・改編

上記は、JMATが初めて東日本大震災を経験した際、課題として挙げられたものです。出動の機会が少ないだけに、細かい部分の整備が行き届いておらず、現場ではトラブルも発生していたことが報告されています。

JMATを引き継いだJMATⅡのケースでも、移動距離や費用負担などの経済的課題が生じたことが確認されており、いずれの医療チームも活躍の裏側で多々問題を抱えているようです。

参考:
厚生労働省「東日本大震災におけるJMAT活動について」
日本医師会「JMAT要綱」
公務員総研「災害派遣医療チーム「DMAT」「DPAT」とは?誕生の経緯と活動内容」
日医総研「JMAT以降の被災地への継続的な医療支援のあり方に関する研究」
防災テック「JMAT(日本医師会災害医療チーム)とは?日本医師会による災害派遣」

まとめ

被害の多い日本では、JMATのような「外部から適時派遣される医療チーム」の存在が欠かせません。初出動となった東日本大震災の事例を振り返っても、JMATの存在は間違いなく被災地の復興に寄与したと判断できます。

今後は、東日本大震災で洗い出された課題を克服し、さらにJMATが活躍することに期待が集まります。