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地震や台風が起きたとき、出勤の判断はどのように下すべき?

自然災害の多い日本では、たびたび地震や台風が発生します。そして近年、被災時における出勤の判断が問題になっていることは、皆さんもご存知の通りです。

実際のところ、従業員の安全を最優先にすべきであるものの、事業継続の観点からいえば「完全な事業停止」が長引くのは望ましくありません。事業の停止により取引先・顧客が損害を被り、信用毀損という形で取り返しのつかない事態に陥る懸念もあるからです。

災害が発生したとき、企業は従業員に対してどのような指示を行うべきなのか。今回は、事例をもとに通勤時の災害への対応をご紹介します。

朝のラッシュ時に地震!出社か帰宅かは企業が判断


2018年6月、最大震度6弱を記録した大阪府北部地震は、通勤ラッシュが起こる午前8時前後に発生しました。

近年、大阪府で同程度の地震が発生した事例はなかったにもかかわらず、電車で通勤中だった人の約6割はそのまま勤務先に向かっていたことが判明しました。中には数時間かけて職場へたどりついた従業員もいたようです。

地震当日、企業が下した指示も内容が分かれるものでした。

【出社を求めたケース】
大阪市内の旅行会社では、「顧客対応の部署は原則出社」とのルールに従い、安否が確認できた従業員には出勤を求めました。しかし、交通機関の乱れもあって出社できたのは社員の半分ほど。出社を求めた理由は、当日予定していたツアー旅行の決行の可否や情報収集が必要だから、というものでしたが実際には顧客からの問い合わせは少なかったとのことです。
【帰宅を促したケース】
田辺三菱製薬(大阪市中央区)は、平成23年の東日本大震災をきっかけに「大規模災害事業継続マネジメント規則」という防災マニュアルを策定していました。大阪北部震災の発生後はマニュアルに従い、社員の安否を確認した後、自宅待機を指示。地震発生時にすでに出社していた社員に対しては、交通機関が復旧次第、帰宅するよう指示しました。
【従業員の判断に委ねたケース】
パナソニック(大阪府門真市)は、地震発生直後に、社員に対して電話やメールで「安全に十分注意をして、出社の可否を判断するように」と通知。出勤困難な社員には、必要に応じて在宅勤務への切り替えや、有給取得を促したとされます。帰宅困難が予想される社員に対しては早退を促し、非常食や毛布を準備して社内での宿泊も可能にするといった対応をとりました。

参考:出社か帰宅か割れた判断 大阪北部地震、通勤時襲う
地震後6割が職場へ 無理な出勤が「混乱招く」 関大教授調査
出勤・帰宅困難者に迅速対応 在阪企業、東日本大震災教訓に
「出社困難」その時出社すべき?帰宅する?

台風時も出勤・帰宅の判断が分かれSNSで話題に

2019年10月12日、日本へ上陸した台風19号は、東日本に記録的な豪雨をもたらしました。同年11月時点の情報によれば死者は93人、9万棟近くの住宅に大きな被害が及んでいることから、その脅威が読み取れます。

このときも前述した大阪府北部地震と同じように、出勤を求める企業とそうでない企業に分かれました。このうち出勤を求めた企業は、SNSで「#台風なのに出社させた企業」というタグが付けられて公開されることとなり、企業イメージを損ねる結果となっています。

参考:
超大型台風なのに出勤するのはなぜ?日本の働き方は異常でブラック過ぎる

災害時における出勤の判断はどうやって決めればいいの?

通勤時間帯に災害が生じた場合の出社判断は、基本的に勤務中の被災を想定している従来のBCPの盲点だったと言えます。

大阪府北部地震や令和元年台風第19号の発生にあたり、出勤を求めた企業は決して少ないとはいえず、結果として交通機関の麻痺に伴い多くの帰宅困難者を生むことになりました。必要性の乏しい出社は従業員にとっても負担となります。出社を命じる判断基準としては、次のような要素を検討しましょう。

【社員に出社を命じる判断基準】
1.どうしてもその日のうちに社員をオフィスに出社させて対応させるべき業務があるのか
2.取引先などとの交渉により、翌日以降に納期等を延期できる余地はないか
3.交通機関の麻痺により、出社した社員が「帰宅困難者」になる恐れはないか
4.対策本部要員の人数や役割分担に無駄・無理はないか

基準を決めるにあたっては、企業の中で優先的に復旧するべき業務の精査、非常時の対応について取引先との交渉などをあらかじめ済ませておくことで、従業員を自宅待機させる決断もしやすくなるとされます。

基準は作るだけでなく、社員に周知させておくことが必要となります。ただし、被災状況を個別的・具体的に想定し、それぞれについて対応策を細かく設定しすぎるのは現実的ではありません。ルールが複雑すぎると社員も覚えられず、結局、余計な混乱を招く恐れがあるからです。ここでは、企業が策定している基準の具体例を示します。

■「原則帰宅」
製薬会社のMSD(株)は、災害時社員行動基準を明記したうえで、災害発生時には「原則として帰宅、その後は自宅待機」と規定しています。

■社員の区分による明確な基準作り
食品販売や冷凍倉庫事業を手掛けるヨコレイ(株)は、勤務時間外の災害発生について、管理職以上、一般男性社員、一般女性社員に区分したうえで、前2者については出社を、一般女性社員については指示があるまで自宅待機と明記しています。

また、東京海上日動コンサルティングも、行動基準の一例として、就業時間内・外に分けたうえで、一般従業員、対策本部要員、業務継続要員に区分し、それぞれ出社義務の有無を示しています。

社員を無理に出社させない企業の雰囲気づくりが重要とする声もあります。職場の被害が長期化する場合などに備え、業種によっては自宅で仕事ができる体制を整えることも有効でしょう。在宅勤務は、働き方改革の一環として広がりつつありますが、防災面でも効果的なリスク管理につながります。武田薬品工業は、その見本といえるでしょう。

■「働く場所は問わない」従業員個人の判断尊重
武田薬品工業(株)は、大阪北部地震において「安全な場所で待機して下さい」と全社員に呼びかけ、安否確認を進めたうえで、在宅勤務とするか、その時にいた場所の最寄りの営業所での勤務とするかを社員1人1人の判断に委ねました。

広報担当者は「この数年で働き方改革が進み、社員の間では、在宅勤務やフレックス勤務制度を使って、自分の働き方は自分で組み立てるという意識が広がっていた。それが今回のような災害時にも生かされたのではないか」と説明したといわれます。

■台風はフェーズごとに行動基準を設定
地震は、大きな揺れのあとに余震が懸念される一方、台風は移動ルートが可視化されており対策を立てやすいといえます。

たとえば、出勤時は明らかに台風の影響がないものの、帰宅時間帯に風雨が強くなりはじめる予想であれば、早期終業という選択で被害を抑えられます。また、台風は基本的に一方通行であるため、台風が去ったあとに暴風・豪雨がないことを確認し、時間を遅らせて出勤させることも現実的でしょう。

なお、こうした行動基準は、あくまで可能な限り明確化させた状態で実施しましょう。

仮に「そのときの状況で判断する」という曖昧な基準で運用すれば、出退勤の判断が遅くなり結果的に被害の最小化が図れません。くわえて出勤する従業員とそうでない従業員が生まれ、不満を買う恐れもあるのです。

そのため、台風の接近から通過までをフェーズごとに分類し、各段階に応じて判断を下せるような体制作りを推奨します。

安否確認サービスでスムーズな指示出しを

事前に、出社/帰宅の基準を決めておいたとしても、イレギュラーな事態は発生します。その際は、どう行動すべきか従業員に具体的な指示を出す必要があります。

災害時の連絡手段として、電話やメールでのやりとりは確実ではありません。東日本大震災時、地震発生から約30分後に電話回線の混乱状態はピークを迎えていました。

同様の懸念は、もちろん台風による大災害時にも発生します。こうした状況下では、安否確認サービスで事前にメールの内容や宛先を用意し、災害時に一斉送信するシステムの方が効率的といえるでしょう。

その他、安否確認システムには次のようなメリットもあります。

【安否確認システムのメリット】
・自動送信機能がある為、夜間や休日の災害にも対応でき、防災担当者の負担が大幅に軽減される。
・メールに設問フォームを付けることができ、回答があると自動的に集計を行う。

これらの利点をも含め、安否確認システムの導入を積極的に検討したいものです。

NTTリゾナント株式会社の調査(2017年8月)によれば、企業規模小(従業員1-99名)の50%以上が電話を安否確認方法として採用し、そのうち半分以上の企業は電話がつながらない時の対応を決めていませんでした。今回の大阪北部地震で生じた出勤難民や帰宅困難者も、企業と従業員との間で連絡がつかないことが大きな原因だったといえるでしょう。

企業は、平時から、出社と帰宅の明確な判断基準を従業員に周知させると共に、災害時には安否確認システムなど確実な手段で、従業員と連絡をとりあえる体制を整えておく責任があることを再認識しましょう。

参考:トヨクモ 安否確認サービス2 最大の特徴

【企業の防災意識と取り組みに関する調査】企業規模ごとに異なる安否確認手段社員数1,000人以上の企業の74%が安否確認システムを導入

まとめ

通勤時に発生した大阪北部地震、東日本に記録的な豪雨をもたらした令和元年台風第19号は、災害時の行動ルールを企業・部署ごとに前もって定めて従業員に周知させる必要性が、改めて問われる結果となりました。

地震や台風をはじめとする自然災害は、いつ発生するか分かりません。日頃から自社の従業員に非常時の対応を共有し、判断に迷わない体制を作ることが重要です。

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