近年、感染症の流行や自然災害、サイバーテロなど、企業を取り巻くリスクが多様化しています。そのような状況下で、BCP(事業継続計画)の重要性が改めて注目されています。
BCPへの取り組みの有無は企業の信頼度に直結する要素のひとつです。企業がBCPに取り組んでいることを証明できる認定制度はあるのでしょうか。本記事では、関連制度である「事業継続力強化計画認定制度」の概要、取得方法、メリットを解説します。
監修者:堀越 昌和(ほりこし まさかず)
福山平成大学 経営学部 教授
東北大学大学院経済学研究科博士課程後期修了 博士(経営学)。中小企業金融公庫(現.日本政策金融公庫)などを経て現職。
関西大学経済・政治研究所委嘱研究員ほか兼務。専門は、中小企業のリスクマネジメント。主に、BCPや事業承継、経営者の健康問題に関する調査研究に取り組んでいる。
著書に『中小企業の事業承継―規模の制約とその克服に向けた課題-』(文眞堂)などがある。
目次
BCPの認定企業になる方法
近年、BCPの重要性が増しており、会社に対する信用度の指標になりつつあります。そのような状況の中で、BCPへの取り組みを証明できる制度があれば、認定を取得したいと考える企業もあるでしょう。
本章では、BCPの基本情報や認定制度について紹介します。
改めて理解したいBCPとは
BCPとは、「Business Continuity Plan」の頭文字をとった言葉で、日本語では「事業継続計画」を意味します。事業継続計画とは、緊急時に取るべき行動や優先すべき事項をあらかじめ取り決めた計画のことです。
自然災害発生や感染症流行などの緊急時にサービスの提供が滞ると、取引先にも影響が生じます。そのため、緊急時に備えて企業活動を継続・早期復旧するための計画=BCPを用意する必要があります。
BCPマニュアルを使えば、1時間で効果的な事業継続計画を作成できます。企業の信頼性向上と迅速な事業復旧に役立つこのマニュアルを活用し、適切なBCPを作成しましょう。
BCPにおける認定制度は存在しない
2024年1月現在では、国によるBCPの認定制度は存在しません。
ただし、BCPの簡易版といわれる「事業継続力強化計画」には、「持続継続力強化計画認定制度」という認定制度があります。中小企業強靱化法によって定められたもので、経済産業大臣に申請することで認定を受けることができます。
事業継続力強化計画認定制度に認定されると、税制優遇・金融支援・補助金などの支援を受けることができるなど多くのメリットがあります。
事業継続力強化計画認定制度とは
事業継続力強化計画認定制度とは、中小企業が策定する防災や減災の事前対策計画を、経済産業大臣によって「事業継続力強化計画」と認定する制度です。2019年7月16日より施行された、中小企業強靱化法によって制定されました。
事業継続力強化計画はBCPの簡易版ともいわれ、事業継続力の獲得と向上を目指すための計画です。BCPに取り組んでいることを認定制度によって証明したいときは、事業継続力強化計画認定制度の申請を目指すと良いでしょう。
認定制度の対象企業
認定制度の対象となるための条件は以下の通りです。
- 防災・減災に取り組む中小企業や小規模事業者
- 製造業その他 資本金3億円以下もしくは従業員数300人以下
- 卸売業 資本金1億円以下もしくは従業員数100人以下
- 小売業 資本金5,000万円以下もしくは従業員数50人以下
- サービス業 資本金5,000万円以下もしくは従業員数100人以下
- ゴム製品製造業 資本金3億円以下もしくは従業員数900人以下
- ソフトウェア・情報処理サービス業 資本金3億円以下もしくは従業員数300人以下
- 旅館業 資本金5,000万円以下もしくは従業員数200人以下
BCPと事業継続力強化計画の違い
BCPと事業継続力強化計画は、どちらも緊急時に企業を守るためのものです。では、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。ここからは、3つの項目に分けてBCPと事業継続力強化計画を比べてみます。
チェック項目の違い
BCPと事業継続力強化計画の違いとして、チェック項目が挙げられます。
BCPと事業継続力強化計画は、目指すものは大きく変わりません。両者に共通する目標は、緊急時における事業活動への影響や被害の抑制、事業中断の防止・早期復旧の実現です。
ただし、事業継続力強化計画は、計画策定(作成)よりも事業を復旧できる能力の強化が重視されます。そのため、BCPに比べてシンプルで実効性が高いといえます。BCPは事業継続力強化計画をさらに深く検討したものだといえるでしょう。
このように計画を策定する際に注目するポイントに違いがあります。
優遇措置の有無
事業継続力強化計画には認定制度が存在します。これは中小企業強靭化法によって定められたものです。
前述の通り、経済産業大臣に申請して認定を受ければ、税制優遇や金融支援の対象となります。また、認定企業は中小企業庁のホームページで公表され、名刺にロゴマークを使用したPRを行えます。
一方で、BCPには決められたフォーマットや認定制度はなく、受けられる支援・優遇措置はありません。
策定の難易度
事業継続力強化計画のほうが策定のハードルは低く、国に提出する申請書もA4用紙5枚程度で済みます。
対して、BCPは防災に加えて中核事業の選定や代替案の検討など、準備する項目が多いことが特徴です。事業継続力強化計画であれば策定のハードルが低く、取り組みやすいといえます。
事業継続力強化計画認定制度のメリット
事業継続力強化計画について国から認定を受ければ、さまざまな優遇が受けられます。ここからは、事業継続力強化計画認定制度のメリットについて紹介します。
金融機関から支援が得られる
事業継続力強化計画の認定企業になると、金融支援が受けられます。低金利で融資を受けられるほか、防災に関する設備を購入したときに特別償却の適用を受けることが可能です。
また、損害保険料が割引されるなどもメリットとして挙げられます。
そのほか、日本政策金融公庫による「スタンドバイ・クレジット」が受けられます。これは認定された企業の海外支店もしくは海外子会社が、日本政策金融公庫と提携した海外金融機関から融資を受けるときに、日本政策金融公庫の債務保証を受けられる制度です。
補助金審査による加点を受けられる
事業継続力強化計画の認定企業になれば、ものづくり補助金をはじめとした補助金の審査時に加点を受けられます。競争率の高い補助金の申請を目指している際に、有利に働くというメリットがあります。
また、災害時に備えて設備を導入する費用の一部を補助金で受け取ることも可能です。ただし、補助金は助成金や給付金とは異なり、要件を満たして申請すれば必ず採択されるものではありませんので注意しましょう。
税制の優遇が受けられる
事業継続力強化計画の認定企業になると、税制の優遇が受けられます。
租税特別措置法によって計画の認定を受けた企業は、認定日から1年間、計画に記載された対象の設備を取得して事業に用いる場合、特別償却20%の税制措置が受けられます(2023年4月1日以降に取得した資産は18%)。対象設備になる設備は100万円以上の機械装置、感染症対策のために取得する30万円以上の器具備品、60万円以上の建物附属設備などです。
社会的信用を得られる
中小企業は、原材料・部品の調達から販売までのサプライチェーンの中で役割を担っていることが多く、ひとつの企業が事業を継続できなくなると全体に影響が及びます。例えば、複数の部品から成る製品を組み立てる場合、ひとつの部品が供給されなければ完成しません。
そのため、自社を守るための取り組みをしている企業は信頼されやすくなります。緊急時に事業を継続できる能力があれば高く評価されるため、事業継続力強化計画やBCPに取り組んでおくと取引先からの評価が上がりやすいといえるでしょう。
災害被害の最小化
事業継続力強化計画やBCPに取り組んでいると、発生するリスクを認識でき、リスクへの対策が強固なものになります。対策をとっていれば、事業の復旧が速くなり、売上の減少を最小限に抑えられるでしょう。
事業継続力強化計画を適切に策定し、導き出した対策内容に取り組めば、緊急時に備えて現実的かつ迅速な事業継続の準備を進められます。
生産性の向上
中小企業は、さまざまな経営課題に取り組み、解決を図ることによって成長します。
事業継続力強化計画やBCPの策定に取り組む際に、導線や設備配置、社内レイアウトの見直しを対策の一貫として行います。適切な導線の確保や設備配置の見直しを行うことは生産性の向上に繋がります。
また、特定の従業員に対して依存度が高い企業であれば、マニュアル化や多能工化に取り組む必要があります。
このように事業継続における重要な項目に対する対策を行えば、平時の生産性を向上させられます。
認定制度の申請方法
事業継続力強化計画認定制度を利用する際は、審査が必要です。適用対象者の要件や手続きについて事前に確認しておきましょう。
最初に「単独型」「連携型」のどちらを提出するのかを決めて計画を策定します。計画ができれば、電子システムを利用するか、または経済産業局へ申請しましょう。
認定を受けると認定通知書が交付されます。申請から認定までは、45日程度の時間が必要です。
また、認定を受けた事業者は中小企業庁のホームページにて事業者名が公表されます。
事業継続力強化計画認定制度について知っておこう
BCPについて国が認定する制度はありませんが、災害への取り組みを証明したいときは、BCPの簡易版といわれる事業継続力強化計画の認定制度があります。認定を受けると、税制の優遇や金融支援を受けられるだけでなく、社会的信用を高めるといった多くのメリットがあります。認定を受け、緊急事態に備えた対策を強化しましょう。
監修者:堀越 昌和(ほりこし まさかず)
福山平成大学 経営学部 教授
東北大学大学院経済学研究科博士課程後期修了 博士(経営学)。中小企業金融公庫(現.日本政策金融公庫)などを経て現職。
関西大学経済・政治研究所委嘱研究員ほか兼務。専門は、中小企業のリスクマネジメント。主に、BCPや事業承継、経営者の健康問題に関する調査研究に取り組んでいる。
著書に『中小企業の事業承継―規模の制約とその克服に向けた課題-』(文眞堂)などがある。